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2005.06.19

先週実施されたイタリアの国民投票

 また先週のニュースから。一二、一三日の二日間、イタリアで人工授精と体外受精の自由化の是非を問う国民投票が実施されたものの、投票率は約26%と少なく、投票自体が無効になった。
 日本国内でこの報道がなかったわけではないけど、それほど注目されなかったように見える。「どうせこういう結果になるでしょ」と見越したものだったからかというと、違うのかもしれない。十日付け毎日新聞”人工授精:イタリアで自由化の国民投票 賛否両論で物議”(参照)では、結語を「カトリック教会対リベラル派の構図となった投票の行方に、注目は集まるばかりだ。」として奇妙に浮いた熱気を感じさせて微笑ましかった。確かに、26%の投票率については、実際にはイタリア国民が関心がないというより、カトリックが今回の国民投票を実質的に阻止させたという意味もあり、それも「投票の行方」ではあった。
 今回の国民投票の背景は、昨年二月成立の生殖補助法へのリベラル派の反発がある。同法では、人工授精と体外受精を不妊夫婦にのみに認め、精子・卵子の第三者提供、代理母、ヒト胚凍結保存実験研究などを禁じた。
 リベラル派はなんとか国民投票実施にまでは漕ぎ着けたものの、ボスキャラ、新教皇ベネディクト十六世はこの動向に批判的な立場を明らかにし、カトリックとしては実質的にこの国民投票のボイコットを勧めたとされている。
 欧米のメディアでの受け止め方としては、やはり、カトリックの勝利でしょうとしている。ある意味でプレーンな報道であるAPも”Vatican Gets Victory in Italian Referendum ”(参照)としてカトリック勝利を強調していた。
 リベラル派といえば米国での受け止めかたはどうかというと、ニューヨーク・タイムズ”Italian Vote to Ease Fertility Law Fails for Want of Voters ”(参照)もさらっとした印象を受けた。が、読んでいて、私が共感したのは、むしろ、国民投票というありかたへのコメントだった。


But even amid the polarization, there were voices on both sides that said problems in the law could possibly be worked out in Parliament, rather than in an emotional referendum and expensive advertising campaign.

 個人的な印象でもあるのだが、極東ブログを続けながら、国民投票(referendum)とか拒否権(veto)とか、以前より重要なものに思えてきている。ある意味で、referendumというのはvetoで国家の最終的な依拠ではないだろうか。沖縄で暮らしているときにちょうど県民投票があり私も一票を投じたのだが、あれは海外ではreferendumとして報道されていた。それが事実上本土側で無視されたのだが、本来ならその無視はそのまま沖縄の独立につながるものかもしれないとも当時は思った。少し話が逸れてきたが、referendumとvetoは国家サイズにも関連するのかもしれない。もう一点、余談だが、ドイツではreferendumそのものが禁止されているという意味で、事実上これが禁止されている日本と同じくキャストレーションでもあったのだろう。いずれにせよ、イタリアでの今回の国民投票はなにか国家の適正サイズとマターの点での錯誤は感じられる。
 偶然だろうが、イタリアの生殖補助法に対する国民投票後が一段落した十六日日本国内では着床前診断(受精卵診断)による出産が報道された。ベタ記事ともいえないが、ブログなどネットを見回してみるとそれほど関心を呼んでいるふうではない。私もブログを書く側におり、ミュージック・バトンといったブログコミュニティの末端にもいるせいか、ブログ界の情報に流れされがちだが、そこではある種の情報のレーティングは奇妙なほど軽い。
 このニュースの一例には共同”着床前診断で3人が出産 流産予防目的は初 ”(参照)がある。「流産予防目的は初」という表現に微妙な含みがあるが、記事ではあまり展開されていない。

 受精卵診断は命の選別につながるとの批判があることから、日本産科婦人科学会は重度の筋ジストロフィーの診断が目的で学会が承認した場合を除き、認めていない。大谷院長は承認を得ないまま実施しており、論議を呼びそうだ。

 論議がどこで呼ばれているのか気になるところでもある。
 着床前診断については同記事には簡単な解説がある。

受精卵診断(着床前診断) 体外受精卵が4-8個に分裂した段階で1-2個の細胞を取り出し、染色体や遺伝子の異常を調べる。異常がない受精卵を体内に戻し、妊娠、出産につなげる狙い。遺伝病の回避から男女産み分けまで幅広い応用が可能。日本産科婦人科学会は実施に厳しい制限を設けており、承認を得たのは慶応大の1件のみで、名古屋市立大学が学会に申請を予定している。

 公式には日本では一例先例があるということでもあるのだろう。私の記憶では海外では千例を越えているはずだ。
 この先に減胎手術の問題も関連しているのだが、うまく考えがまとまらない。まとまる見込みもないかもしれないが。

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コメント

>「流産予防目的は初」という表現に微妙な含みが
「初期流産の原因は、受精卵の染色体異常が60~70%を占め、臓器が育たなかったなど、赤ちゃん側の原因がほとんどです」(「たまひよ妊娠大百科」より)
要するに目的が「流産予防」か「命の選別」か明確には分けられない(少なくともそういうゾーンがありうる)ということになるのでしょうね。
finalventさんがわざわざ「微妙な含み」と表現されていることにこんなこと言うのは野暮ですが。

投稿: 西方の人 | 2005.06.19 23:55

いつも拝見させていただいておりますが、書き込みは初めてです。人工授精の危険性について一言述べさせてください。
Knudson(1971)の網膜芽細胞腫ツーヒット説と同じく、小児白血病もツーヒットによる確率的分布形態を示します。つまり、相同遺伝子の片方が胚細胞時にヒットを受けて欠損し、体細胞時にもう片方の相同遺伝子の同じ部分がヒットを受けて細胞分化あるいは細胞周期機能が喪失することにより、細胞の異常増殖(すなわちがん)が発生します。胚細胞時にファーストヒットを受けた個体は、必然的かつ確率的に小児白血病になります。ツーヒットをもたらす要因は、原爆被爆者の例から勘案して、γ線であると考えられます。γ線は地球上どこでも同じようなレベルで存在していると考えられていますが、実はコンクリート構造物などから有意なレベルのγ線が放出されています。環境γ線(Environmental gamma-ray)は都市化と共に増加しているんです。人工授精が行われている場所では、おそらくγ線の遮蔽は行われていないと思います。このため受精卵は無防備の状態でγ線を浴びているわけで、おそらくこの遺伝子は体内受精のそれに比べて何倍もの傷を負っていると思います。あまりに傷が多いものは成長過程でアポトーシス機能(自己死)が働く(流産)ものと考えられますが、出産に至った場合でもその個体は将来的により多くのリスクを抱えていると思われます。日本では、1960年代の近代化に伴って、小児白血病が増加しています。同じくアメリカでは40年代、イギリスでは20年代から小児白血病が増加しています。上述した2種類以外のがんも、ツーヒットで発生している可能性が高いと考えています。放射線被爆に関して今一番問題になっている低放射線被爆についても、このツーヒット確率論で説明がつくと思います。以上のように、現状では、人工授精は大変危険なものであると言えます。長くなって申し訳ありませんでした。 Environmental gamma-ray = Natural gamma-ray + Strictly controlled gamma-ray + Uncontrollable gamma-ray

投稿: Otgoo | 2005.06.20 16:14

Otgooさん、こんにちは。貴重なコメントありがとうございます。率直なところ、このご指摘をどう受け止めるかはこの分野の資料なりに私が当たって判断するしかないのですが、それ以前にこうしたご意見を伺えるのは貴重に思いました。

投稿: finalvent | 2005.06.20 17:21

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ぐりちゃんが教えてくれた話ですが、イタリアで最近こんなことがあった。↓ 人工授精:イタリアで自由化の国民投票 賛否両論で物議 http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050610k0000e030028000c.html 【ローマ海保真人】イタリアで12、13の両日、人工授精と体外受精の自由化の是非 を問う国民投票が行われる。カトリック教国のイタリアでは、人工授精は認められてい るものの制限が厳しく、リベラル派が緩和を求めていた。だが、ロ... [続きを読む]

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