くじらバーガーの伝言ゲーム
くじらバーガーが国際的な話題になりそうな気配がある。予想したとおりだなと思った。
欧米のニュースをブラウジングしているうちにそう思ったのだった。私はこのところRSSの環境を少し変え、はてなブックマークと連動させているうちに、ニュースに目を通す量が増えたので、くじらバーガーといった話についても以前より見渡せるようになった。なんだろと思ってこの報道について眺めているうちに、ちょっと気になることがあった。はっきりとした追跡というわけではないが、情報の流れ方とその影響について、僅かながらも示唆になればいいと思うので、簡単に記録しておきたい。
現状の問題の気配を端的に示すには、共同”「くじらバーガー」を非難 英国の動物保護団体”(参照)がわかりやすいだろう。事実としては、24日、ロンドンに拠点を置くWSPA(世界動物保護協会)が、北海道函館市のファストフードチェーン「ラッキーピエロ」がミンククジラの肉をベースにした「くじらバーガー」を発売したことに対して、「腹立たしい悪趣味な宣伝行為にすぎない」と強く非難する声明を出したということ。WSPAがそう言い出すのはどうという話でもないのだが、この先が興味深い。
声明は、国際捕鯨委員会(IWC)総会で日本の調査捕鯨拡大計画への反対決議が可決されたのと同じ週にこのバーガーが売り出された点を指摘。「(日本が主張する)調査捕鯨は、鯨肉が結果的に食材として消費されており、その内実は商業捕鯨にすぎない」と批判した。
つまり、野蛮な日本人はやっぱり鯨を食べたいために捕鯨をやっているのだ、という政治主張にしたいというわけだ。ありがちといえばありがちの曲解でもあるが、そのこと自体は毎度おきまりの陳腐な議論にしかならない。
私が問題にしたいのは、どうして、WSPAがこのささやかなローカル・ニュースに着目したのかという点だ。
時系列で見る。国内の「くじらバーガー」報道で簡単に確認できるのは、20日付け共同”くじらバーガーを発売へ 北海道のファストフードチェーン店”(参照)がある。ここでは表面的には好意的なトーンで結んである。
函館はかつての捕鯨基地。王社長は「最近はホエールウオッチングでクジラを見る機会が多いが、鯨食文化も大切にしたい」と話している。
同記事について、間違っているとも報道姿勢がいけないというのでもないが、次の指摘にはちょっと複雑な印象を持つ。
調査捕鯨で捕ったミンククジラの肉を使用。高温で竜田揚げにし、軟らかく仕上げた。肉を納入する共同船舶(東京)によると、捕獲を禁止されていない小型クジラを使ったハンバーガーはあるが、ミンククジラの肉では初めてという。
記者の心理はどうだったのだろうか。
次いで、21日付けだが、当地北海道新聞”ミンククジラ肉のハンバーガー 全国初、函館で23日発売開始”(参照)がある。こちらの記事にもミンククジラの肉についての言及はあるものの試食会の取材が濃く出ている。
同じく21日付で、朝日新聞の地方の話題として”鯨食復活応援「くじらバーガー」/函館”(参照)が出るが、ミンククジラの肉についての言及はない。むしろ私には重要な情報だと思えるのだが、「10店舗で1日限定20個」ということが明記されている。同記事では、このくじらバーガーが利用者の応募によるものであり、しかも、「ジンギスカンバーガー」に次いだものであることも明記されている。よい記事だと思う。むしろ、先行した共同の視点に生活感がないことが対比される。
さて、こうしたニュースをWSPAはどうやって入手したのだろうか。共同のベタ的な記事からと考えてもいいだろう。そして、その記事がソースだとすると、当然、現地の生活感覚や具体的な状況については抜け落ちたのもしかたがない。
しかし、どうやら、国際ニュースの流れを見ていると、欧米では、英文毎日新聞の次の記事が着目されていたようだ。22日付"Hokkaido chain to sell whale burgers"(参照)である。
HAKODATE, Hokkaido -- Lucky Pierrot, a hamburger restaurant chain active mostly in Hokkaido, will begin selling whale burgers on Thursday.Whale and lamb burgers were the two most popular choices of fillings in a contest held by the Silk Road Group, which owns Lucky Pierrot.
毎日新聞の和文の元記事はどれだろうか。ざっと見ると写真も同一であることから22日付”雑記帳:羊と鯨のバーガー新発売 函館”(参照)かなとも思うのだが、英文と比べるとわかるように単純な翻訳ではない。
この英文毎日記事はすぐに欧米に注目され、主要ニュースとして私のRSSにひっかかってきた。そして、それを追うように各種のニュースが出た。"Whale burger"でGoogle Newsを検索し、このニュースについての最古の状況をみるとそのあたりが如実にわかる(参照)。ご覧のとおり、一番下の最古のものが英文毎日であり、そこから伝搬していく状態がわかる。
Whale burger on menu at Japanese fast food chain
Reuters.uk, UK -Jun 23, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger ...
Want fries with that whale burger?
CNN -Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling program, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger. ...
Whaleburger on menu at Japanese fast food chain
Stuff.co.nz, New Zealand -Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts - whale burger ...
Whale burger on menu at Japanese fast food chain
Ninemsn, Australia -Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger ...
Whale burger on the menu at fast food chain
SABC News, South Africa -Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling programme, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts - whale burger ...
Want fries with that
CNN International -Jun 22, 2005
... Japan under fire for plans to expand its whaling program, a fast food chain is offering a new product aimed at using up stocks from past hunts -- whale burger. ...
Hokkaido chain to sell whale burgers
Mainichi Daily News, Japan -Jun 21, 2005
... choice. The idea for the whale burger was put forward by Toshihiro Okawa, 37, an employee of a whale meat sales company in Tokyo. ...
UPIなどは、具体的にニュースソースを毎日新聞と明記している(参照)。
Asia-Pacific News
Whale burgers go on sale in Japan
Jun 22, 2005, 11:19 GMTHOKKAIDO, Japan (UPI) -- Japan`s hamburger restaurant chain Lucky Pierrot, active mostly in Hokkaido, will begin selling whale burgers Thursday, the Mainichi Shimbun reported Wednesday.
こんなニュースを英文で流すなよと言いたいわけではない。が、現実的に流れた結果は端的に言えばジャパンバッシングの類と言っていいだろう。以下のショットはThe Age(参照)で、写真はロイターのものだが、これを見て日本人への悪意を感じない日本人はどのくらいいるだろうか。
写真のキャプション:A Japanese woman tucks into a whale burger. |
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コメント
どっかのアニメでこういう行為を「環境テロ」と呼んでいたのを思い出しました。
いやぁ、性質の悪いテロリスト集団ですね
投稿: kurogane | 2005.06.25 13:45
最初に共同の記事を書いた記者さんは、自分の書いた記事が確率1/2で世界に注目されるのじゃないかと、誘導気味にワクワクしながら書いた?
文脈はそうも取れますよね。
やや誤解に基づく日本バッシングの結果より、世界の注目を集める記事の発信の業界内会社内の個人的な栄誉?を優先させるのが、デファクトスタンダードな有り様なんじゃないですか?
投稿: トリル | 2005.06.25 15:29
このチェーン店の社長(王一郎)は、華僑であり、
最近の中国共産党の「日本の捕鯨」への批判姿勢の強化と裏の結びつきがあるのでは、と勘ぐってしまいます。
投稿: 通りすがり | 2005.06.25 23:24
クジラカルトにタゲられそうになってるぞ、と
....備え有れば憂い無し
投稿: i | 2005.06.26 01:53
あ、写真映ってるのって日本人だったんですか。華僑の調達したサクラじゃなかったんですかそうですか。知りませんでした。
投稿: うんこ | 2005.06.26 09:16
>The Age(参照)で、写真はロイターのものだが
The Ageは、日本で言えば、「アサヒ」で、
一時期は、知識人の読むべきものだったけど
最近は、あまりにイデオロギーが左に寄りすぎで、部数が減少している。よって、信用に
値しない。
といっても、右寄りの新聞も鯨に
関しては、冷静でないのが、痛いところだけど、それ以外では、現実的で、まだまし。
オーストラリアにいると、日本の読売、アサヒ
毎日、産経の全国紙体制がうらやましく思える。さすがに、シドニーやメルボルンがある
州では、左と右の新聞が均衡しているけど、
あとの州は、どっちかに偏っていて、バランスが悪い。
投稿: 在豪 | 2005.06.26 18:46
今日の英サンデータイムズには「くじら給食」が載ってました。しかもタイトルから既にprovocativeなんだなこれが。
Japanese schools put protected giants on menu
By ANNA COCK, in Wakayama, Japan
26jun05
http://www.sundaytimes.news.com.au/common/story_page/0,7034,15733373%255E950,00.html
投稿: tn | 2005.06.26 22:18