カナダと米国の処方箋薬事情
あまり関心をひかない外信ネタでもあるのだろうけど、カナダと米国の処方箋薬事情について簡単にふれておきたい。現在少なからぬ米国民がカナダから処方先薬を購入している。理由は単純で米国内より安いからだ。しかし、二九日付けロイター”Canada to control bulk sales of drugs to U.S.”(参照)でも報じたが、ようやくカナダ側で国家を越えての処方箋薬購入の規制に乗り出すようだ。いろいろな含みがあって簡単にまとめるのは難しいのだが、まず事実確認あたりから。
Canadian Health Minister Ujjal Dosanjh speaks to the media following a cabinet meeting at the Foreign Affairs building in Ottawa June 29, 2005. Dosanjh announced the federal government will draw up legislation giving it the right to ban the bulk sale of prescription drugs and other medicines to the United States when necessary to ensure sufficient supplies in Canada.
ABCのUjjal Dosanjhの写真のキャプションからの引用だが、彼はインド系移民だろうか。それはさておき、規制の法律はまだ成立していないもののその方向に向かうことになる。理由は、カナダ国民への処方箋薬が不足することのないようにするためである、とのこと。
ご存じのとおり、カナダは米国とは違って、処方箋薬は無料(だったと記憶)。日本も事実上無料と言っていいだろう。つまり、カナダや日本は、高い税金と薬剤業界の手厚い保護というコストで国民の健康を維持している側面がある。このあたりの国家のありかたというのが基本的に私の関心事でもあり、薬剤の問題はこの側面をうまく炙り出す。
米国はその逆で、いわゆる個人責任というのか、社会保障は薄い。米国の医療保険の状況については、「極東ブログ: 米国の話だが保障の薄い医療保険は無意味」(参照)でもふれたとおり。なので、米国では特に退職した高齢者にとって処方箋薬を含めた健康管理はかなり家計上の大きな負担にもなっている。
米国民の国外処方箋薬購入に拍車を掛けているのは、英語圏からばかすかスパムをいただく人ならわかっているように、インターネットの活用がある。だが、国境に近い地域では買い付けツアーなどもあるようだ。この傾向はもう一面で米国に接しているメキシコでも見られるようだ。
ロイター記事はカナダ発ではあるがカナダの視点に立っているというものでもない。その点、カナダ紙The Star”Canada to ban bulk drug exports 'when necessary'”(参照)を見ると標題からもわかるように、カナダ側の薬剤業界の利害から話を起こしている。
WINNIPEG - Canada's Internet pharmacy industry breathed a sigh of relief today as the federal health minister chose monitoring and consultation over the immediate crackdown many have feared for months.
当面の問題ではないというわけだ。
類似の様相は米国側にもあって、処方箋薬を必要とする米国高齢者にすぐ影響するわけでもない。ニューヨーク・タイムズ”Canada Is Drafting Regulations to Curb Bulk Drug Exports to U.S.”(参照)を引用する。
It is unlikely that the two million uninsured and underinsured Americans who depend on cheaper Canadian drugs to treat chronic conditions like diabetes and high cholesterol will be immediately affected.
つまり、現在カナダの処方箋薬に依存している米国民も問題なし、と。
ただ、処方箋薬の市場の国際的なシフトはあるのかという話はこれに続く。
It is possible, however, that tighter regulations in Canada may give other foreign online suppliers in places like Israel and Britain a new competitive edge and encourage Canadian companies to warehouse more of their inventories in other countries.
新しい購入先としてイスラエルと英国があがっている。ある程度の内情を知っている人ならなるほどなということろだ。
米国政府の本音としては、一方では自国製薬会社の利益を守りたいだろからカナダで規制されるのは好感という面があるだろうし、二期目のブッシュ政権で高齢者の締めあげがきつくなるのでこうした抜け穴はゆるくしておきたいたいというのもあるだろう。全体的な傾向からすれば、処方箋薬の国際購入は米国側の規制は難しいだろう。
以上の動向が今後日本にどう影響するかだが、直接的な影響はないのだろう。処方箋薬といっても日本の場合ジェネリックに移行すればまだ削減はできる。よりシャープな処方箋薬がイスラエルなどから直接日本の市場に攻勢がかかるということもないだろうし。
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