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2005.06.13

グリーンスパンの難問(Greenspan's conundrum)

 グリーンスパンの難問(Greenspan's conundrum)。これも愉快なネタかな、というのもサンノゼ・マーキュリーを見たら”Home buyers enjoying `conundrum' -- while it lasts”(参照)とある。いや、すまん。意味合いが違う、とれいによって私が書くべき分野でもないところで洒落を書くのはよくないか。
 話は、上のサンノゼ・マーキュリーがけっこう面白いし、案外それがファイナル・アンサーかもねだが、ちょっと後回し。国内的には7日付けの日本経済新聞”FRB議長、米長期金利の低下に警戒感示す ”(参照)が簡素にまとめている。
 前提はいうまでもなく、昨年六月末から徐々に利上げを継続しているのに、いわゆる経済学の常識に反して、米長期金利が低下しているという難問(conundrum)だ。この表現はこの二月の議会証言で出てから注目されている。ちなみに、日本の報道ではなぜか「謎」と訳しているが、とするとmathematical conundrumは「数学の謎」かね。この事態をグリーンスパン彦左衛門は、前例がない事態として、警戒感を表明してる。
 この問題について、四つ仮説がその後、専門家から挙げられている。


  1. 経済の先行きに対する市場の不安
  2. 年金基金による債券運用の拡大
  3. 外国の中央銀行による米国債の大量購入
  4. 中国やインドの市場参加に伴うインフレ圧力の抑制


 ただ、いずれの仮説にも疑問が残り、国際化の進展で新たな現象が起きているかもしれないと強調した。議長は2月の議会証言で、長期金利の安定傾向を「謎」と表現して話題を呼んだ。過去数年間にわたるヘッジファンドの成長については「一時的に縮小する恐れがある」と語り、市場の波乱要因になりかねないとの懸念を表明した

 ライブドアニュース”増谷栄一の経済コラム:長期金利低下でもインフレ圧力増すか注視=米FRB議長”(参照)ではその反駁に焦点を当てていた。まとめてみる。

(1)経済の先行きに対する市場の不安
景気が上向いている国でも長期金利の低下を食い止めることは出来ていない。
(2)年金基金による債券運用の拡大
確かに英国やフランスでは50年国債を起債するなど長期債への投資需要が強いのは明らかだが、これだけでは完璧な説明をするには力不足である。
(3)外国の中央銀行による米国債の大量購入
外国の中央銀行による米国の長期債購入が長期金利の低下をもたらしているのは事実だが、米国債市場の大きさを考えると、それらの投資の増加は緩やかなものだ。また、最近のFRBの調査研究でも、外国の中銀による投資は、なぜ米国債以外の長期債の金利もかなり低下しているのかについて、うまく説明できない。
(4)中国やインドの市場参加に伴うインフレ圧力の抑制
過去10年間の経緯の説明にはなるが、ここ1年間で生じた長期金利の低下の説明にはならない。

 日本人的な感覚からすると、それらの複合的な要因でしょ、とか言いたくなる。
 フィナンシャルタイムズは”Still puzzled by the bond market”(参照)でこの問題を扱っていた。彼らの仮説は(1)に近いのだが、考えようによってはもうちょっと深刻な視点を掲げていた。八日付けなのでむしろこの視点をグリーンスパンが織り込んだのかもしれない。

In remarks earlier this week, the Fed chairman reiterated his view that it is very difficult to explain the fall in long-term yields since the Fed started raising interest rates a year ago. But he acknowledged that one "credible" theory is that the economy is in a worse shape than the Fed believes it is.


The bond market is probably signalling that there is a serious risk the current US soft patch will turn into a more serious slowdown, forcing the Fed to stop raising interest rates. Mr Greenspan thinks otherwise. So far the slowdown is mostly inventory-led and the drag from oil should ease.

 このあたりの文章のトーンに英国的なものも感じる。つまりコントローラブルな対象としての世界ではなく、ピュシスとでもいうべき世界が先行し、むしろその事態を聞くべきなのかもしれない。
 ちょっとネタっぽい話ではなくなるが、以下のフィナンシャルタイムズの結語は正しいのでないかと思う。

If Mr Greenspan is right, US corporate investment will recover, and the Fed will be able to continue raising rates. But global factors will limit Mr Greenspan's room for manoeuvre. As long as other countries set policies to achieve trade surpluses, obliging the US to maintain a giant current account deficit, the Fed will have to keep rates low enough to keep consumers spending or risk the US and the world falling into recession.

 つまり、"the US and the world falling into recession"ということだ。なんか金子勝にでもなったような気分だが。
 そんなわけで、今後も債券市場で低金利が続くと見れば、冒頭のサンノゼ・マーキュリーの記事のエンジョイ感につながるのだが…。
 というあたりでネタの文脈にシフトするが、同記事でグリーンスパンの意図をこう見ているのがちょっと面白い。

Seven months ago Mr Greenspan appeared confident he was right and the bond market was wrong. He warned that anyone not properly hedged against rising rates "must be desirous of losing money". In February he described bond prices as a "conundrum" adding that this might be a "short-term aberration". Now he seems a fraction less certain.

 もともと、グリーンスパンの意図としては、"conundrum"発言は、正しくヘッジしない臆病もんに彦左衛門の小言一時間ということでもあったのだろう。穿った見方だが、世界がもっとグリーンスパンとかとか級に賢くなればいいのだと。
 しかし、それがパラドックスの最大要因であるかもしれないというウルトラメタ議論がある。というか、オモスレー。これだ。日銀だよ。”米国の長期金利の「謎」を考える:金融政策との関連を中心に”(参照)。

(要旨)
 昨年半ば以降、米国を中心とする多くの国・地域で、それまでの金融緩和を徐々に修正する流れが続いているが、その中で米欧の長期金利は、歴史的な低水準で推移し、時期によってはむしろ低下していた。この現象については、米国連邦準備制度(以下FRB)のグリーンスパン議長が「謎(conundrum)」であると発言するなど、国際的に関心が高まった。
 本稿では、こうした長期金利の動きに影響を与えていると考えられる様々な要因のうち、とくに金融政策が何らかの影響を与えている可能性について、米国のケースを題材とした分析を紹介する。そこでは、近年、(1)FRB の金融政策運営に関する不確実性が低下しており、それが米国の長期金利を押し下げる方向で作用している可能性があること、また、(2)金融政策がより長期的なインフレ率や景気に関する期待形成に与える影響を強めており、その結果として長期金利の安定性を高めている可能性があることを指摘する。

 PDFのほうが過激なので引用する。

つまり、政策ショックに対する長期金利の感応度の低下は、市場が金融政策の効果を比較的大きく見積もっていること(金融政策の影響力の強まり)を意味していることになる。
 実際、近年の米国のデータをみると(図7)、長期金利のボラティリティは比較的落ち着いており、そのひとつの背景として金融政策の影響力の強まりという要因を指摘する論者もいる。

 あはは。
 経済学における「期待」というのは心理学的な期待ではないというのだけど、なんとく、やっぱし心理学なんじゃないのかなと思うのはネタにはまった証拠。

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コメント

チャーチストの視点では、この難問に「意味はない」。
03年6月頃まで債券バブルで価格上昇(金利低下)した余波が今回残ってただけ、と推測できる。
株式波動論から見ると、今の金利低下は、03年6月までの衝撃波(金利低下)の後の調整波(金利上昇)の一環。その調整波の中において、たまたま、ここ数ヶ月が金利低下していただけ。
また、05/6/3を谷として金利上昇に転じている。先週末6/10は金利急上昇して、みなさんロスカットしてました。

トレンドラインを引いてみると、先週6/3-6/10が金利低下の底(価格上昇の山)でした。
(私のHPに記載)

finalventさんが指摘された時が、金利低下終了のターニングポイントになったかも。

投稿: 平手 緑 | 2005.06.13 14:46

http://blog.goo.ne.jp/kitanotakeshi55

個人的に「実務やってる人は見方が違うな」と妙に納得してしまうブログです。

私はこの方の言われるGMの格下げによるFTQというのが一番納得できます。

投稿: F.Nakajima | 2005.06.13 23:19

昔話なんですけど、グリーンスパンの発言でirrational exuberanceというのがありました。株式市場の「根拠無き熱狂」について語ったものと報道されましたが、辞書を引いてみると、解りやすく訳しすぎ?と思いました(といって良い訳も思い付きませんが)。FRB議長はこんなしかつめらしい言い回しを使うのに、ある時の日銀総裁は資金供給について「ジャブジャブである」という表現を使ったりして、彼我の違いを感じましたねえ。

投稿: donald | 2005.06.13 23:51

セントルイス連銀のプール総裁が日銀レポートと同様の主旨の講演を行っていますよ。
http://www.stlouisfed.org/news/speeches/2005/6_14_05.html

投稿: 和尚 | 2005.06.15 13:24

BISの年報にも同様の指摘がありますね。

投稿: 和尚 | 2005.06.30 21:48

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