エルサレム旧市街での土地問題
日本国内ではあまり報道されていないのではないかと思うが、今月の初めからエルサレム旧市街で奇怪な事件が進行している。メジャー所の最近の報道としては、BBC”Autumn of a Patriarch”(参照)を読んでいただくほうがいいかもれない。また、話の発端での様相は、インディペンデント”The man who sold Jerusalem”(参照・転載サイト)がわかりやすい。
話の発端を単純にまとめると、エルサレム旧市街ヤッフォ門(参照)近くのパレスチナ人居住区で、ギリシア正教教会が所有している土地が、イスラエルに居住していないユダヤ人投資家に売却されたということだ(正確には長期リースのようでもある)。
これが問題になるのは、イスラエル和平が居住区ベースによってなされるため、この売却が成立すれば、この地域においてイスラエル側が有利になるためだ。さらに背景としては、イスラエル人入植者がパレスチナの土地買収を進めている実態がある。
パレスチナ側としては面白くない事態なのだが、因縁の土地とはいえ、ただの買収劇ではないと問題発端から見られていた。購入したユダヤ人投資家が誰であるかはっきりしていないようだが、それでも、この背後には、イスラエル政府が事実上後押しをしている入植者団体があるらしい。
日本人の感覚からすると、いくらパレスチナ人居住区とはいえ、ギリシア正教教会が所有している土地に対して、どのようにパレスチナに関連するのか疑問に思えるだろう。で、その件なのだが、これは単純に、この正教会はこの地域のパレスチナ人正教徒によって維持されていることに関連する。パレスチナ人全てがイスラム教信者というわけではない。余談めくが、イスラエル入植以前はこの地域の人々は区分されることなく総括してアラブ人と呼ばれていた。
今回の問題のもう一端は、このギリシア正教会がどのような判断でこの行動をしたかということなのだが、どうやらここを管轄するイレネオス一世総主教が勝手に行ったらしい。
ギリシア正教はローマン・カトリックのように集中した中央を持つ組織ではないが、それでも、イレネオス一世総主教にこの権限があったのかも疑問視され、エルサレム総主教庁に所属する聖職者らは会議決定としてイリネオス総主教に退任を要求した。
このあたりの煩瑣な状況が冒頭のBBCニュースにつながる。国内のブログをサーチしたら、ブログ「日刊ギリシャ 檸檬の森」”エルサレムのギリシャ正教総主教退任劇はカオスから笑い話へ”(参照)に詳しい話があった。
今後の動向がどうなるのかよくわからないが、民族・宗教・所有権・施政権といった複雑な問題が絡み合い、日本人から見ると複雑過ぎる問題にも見える。しかし、その歴史を交えた複雑さこそがこうした問題の本質に関わっているのだろうから、単純に割り切れないというのはしかたないことであるのだろう。
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コメント
私の聖書理解はほとんど犬養道子著「聖書を旅する」(の特に第1巻~3巻)に依っているのですが、第3巻(1996年刊)の附章「イスラム教徒との相互出会いの一ポイント コーランと聖書」の最後に
「ちなみに、現在イスラエル国在のパレスチナ人の中には、数万人の、使徒承伝の教会のメンバーがいること、イエス生誕の町ベツレヘムは古来のパレスチナ人クリスチャンの町であること、その町でのクリスマスのミサはアラブ語でおこなわれ司式の司教がアラブ・パレスチナ人であることを付記しておく」
とあります。
今回のエントリを読んでそれを思い出し、キリスト教や他の宗教の信者数や割合はどのくらいなのかとか、クリスチャンの中での各宗派の信者数や割合はどうなっているのか気になったので調べてみたら、こんな記事を見つけました。
http://www.myrtos.co.jp/index.html?url=http://www.myrtos.co.jp/pub/mp_month/backnumber/000559.html
この中ではカトリック信者の数しか述べられていませんが、
「イスラエルに住むパレスチナ人キリスト教徒一三万五千人、さらにヨルダン川西岸の三万五千人を加えたうち、半数以上がカトリック教徒」
とあります。
さらに
「法王(注:ヨハネ・パウロ2世のこと)訪問の性格を政治的なものに変えようとしている中心的存在は、聖地の『本山』として不相応な地位をほしいままにしているエルサレムのローマ・カトリック教会である。現在、その総大司教の職に就いているのがパレスチナ人聖職者である」
とあり、「おいおい、ひょっとしてあんた(ローマ・カトリックの総大司教)も似たようなもんなのか?」という気分に。
この記事は「2000年を迎えるにあたってのヨハネ・パウロ2世のイスラエル訪問」に関するものですが、この背景を「イスラエルの2000年問題」として取り上げた、こんな人のこんなお話も・・・
http://tanakanews.com/991105palestin.htm
また、「欧米のキリスト教徒はパレスチナ人(アラブ人)キリスト教徒を見捨てている」と糾弾するこんな話や・・・。
http://church.ne.jp/futenma/koryuu.html
(この中には「1948年には、聖地に住むパレスチナ人の20パーセントがキリスト教徒でした。今日、イスラエルの占領とそれにともなう暴力、貧困、差別のために、その数は1.8パーセントにまで減ってしまいました」とある←2002年5月2日現在?)
ちなみにベツレヘム(とその郊外の村)では「14万人のうち約35パーセントがキリスト教徒である」、「一番多いのはギリシャ正教だろうけれど」とのこと
http://baitassalam.fc2web.com/archive/20021227.html
単純に資料として見られる情報が少なくて既に私は混乱気味です。
投稿: 西方の人 | 2005.05.27 05:29