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2005.05.13

斎藤昭彦さん拘束の背景

 斎藤昭彦さんがイラクで武装勢力に拘束されたとするニュースに関連して、私は専門ではないが、簡単にPMC(Private Military Company)について触れておきたい。なお、冒頭から余談めくが、斎藤昭彦さんについてだが、英文のAPニュースなどと比べると、事実認識のレベルは同じでも英米系の報道の陰翳は国内とは違うものだなと思う。国内報道では日本人としての大衆心情を結果的に反映することがニュース・バリューになるのだろう。その線上には朝日新聞”「家族持ちたい」と除隊、拘束の斎藤さん 驚く元同僚”(参照)といった不確かな物語もニュースのように紛れ込む。
 イラク戦争と関連したPMCについては、毎日新聞記事”イラク邦人拘束:戦後担う民間軍人 復興に、治安に”(参照)や溜池通信vol.233”イラク戦争の再評価~PMCを中心に”(参照PDF)が読みやすい。極東ブログではこれまで幾つかのエントリにばらばらと書き散らしてきた(参照)。
 いつもなら簡単に基本部分だけまとめるのだが、今日は気になる点だけさらっとメモするに留めたい。
 イラク戦争では、この勢力が一万人から一万五千人程度と見られている。単純に割合で見ると、十人に一人となるが、彼らは高度なプロフェッショナルであり、米軍の内部の指揮にまで関与している。つまり、頭数を揃えたというものではない。
 仮に単独勢力と見れば、米国に次ぎ、しかも、英国(九千人弱)をしのぐ。これだけでもこの戦争が特徴付けられるとも言える。実際のところ、米国もこの勢力に依存しているとすら言え、昨日のイラク向けの関連予算七百六〇億ドルの三分の一がこれに充てられている。
 という点で、すでに、これはある種、通常のコモディティ化しているとも言えるし、マーケットも充分に機能しているようだ。これらを支えている背景は、皮肉にも冷戦後の各国の武力ニーズの縮小であったようだ。つまり、視点を変えれば、大量雇用が新規マーケットにシフトしただけと言えないこともない。
 イラク戦争ではこの勢力は当然ながら米国防総省下におかれるのだが、雇用面では英国が多いらしい。なぜ英国かというのは規制が緩やかというのもあるが、コモンウェルスの広がり、つまりこうした点で数世紀に渡るグローバル化のノウハウがあるからなのだろう。
 今回の斎藤さん関連の報道で、あまり指摘されていないように思えるのだが、戦時国際法的にはこれらの勢力は戦闘員とは見なされない。よって、それらが享受すべき権利も存在しない。死者が出た場合でもカウントされない。なので、その数は大きいだろうと吹く人もいるようだが、ざっと見た感じでは、それ以外と比較して極めて少ないようでもある。やはり、プロフェッショナルということなのだろう。
 朝日新聞社説など日本国内では、あらためてイラクの治安の悪さがこれによって明らかになったみたいに吹かれるが、実際は、暫定政府の要請で斎藤さんらが事実上の丸腰にされていることの要因のほうが大きいだろう。今回の襲撃は計画的であり、直接的な力配分からみてもことが発生してしまえば対応は事実上不可能だっただろう。
 あと、いくつか気になることもある。例えば、現在進行中の米国勢力の活動や、イラク内の複雑な抗争だ。が、それはそれとして、メモ書きすると、なんとなく日本ではこうした勢力を悪のようにみなしがちだが、不確かな情報ではあるが、自衛隊を事実上守ってきたのもこの勢力だし、イラクの最低限のライフラインを守ってきたのも彼らのようだ。しかも、実質的に解体されたスンニ派の組織を友好的に再組織していたのも彼らであったようだ。実態は、そう単純に割り切れるものでもない。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

一方で、テロする側も高額な報奨金目当て、つまり攻守双方が傭兵化しちゃってるという話も出てました。そういうのは日本の「大手」マスコミは書きたがらない。

小川和久の「ニュースを疑え!」という本、ブックオフで見つけて(しかも¥105均)読んでますが、日本のマスコミって記事は書きとばしても記録は残さないのだとか。

これじゃぁ、自己批判できるわけない。個人ブログで以前の意見表明と矛盾した記述をいくらでも晒すような記者が後を断たないのも当然だなぁ、と。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.05.13 11:36

何かが原因でケンカするのに、自分の手で相手を殴らないのと同じ。

戦闘要員のアウトソースって、スゴクきな臭いナニかが後ろにあるなって思っちゃいます。イギリスが窓口として多いのもね。


投稿: Nagarazoku | 2005.05.13 11:55

>実際は、暫定政府の要請で斎藤さんらが事実上の丸腰にされていることの要因のほうが大きいだろう

この部分、傭兵は携行する武器を制限されているのですか?
どの新聞記事だったか忘れてしまったのですが、生存した同僚が、ぐったりした斉藤さんの銃から銃弾を抜いて応戦したとかいうような部分を読んで、護身用の武器と銃弾を持っていなかったの?っていう感じを受けたのですが。

投稿: むぎ | 2005.05.13 19:07

むぎさん、こんにちは。イラク国民同等程度の銃器は保持できますが、今回の襲撃ではそうしたレベルの銃撃戦ではなかったようです。自分の本来の経験と能力を活かせなかった斎藤さんは無念だっただろうと思います。

参考
斎藤さん、致命傷の可能性=襲撃は計画的、ロケット砲使用-英警備会社
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050512-00000095-jij-int
> 同社はまた、武装勢力「アンサール・スンナ軍」による斎藤さんらへ
> の襲撃について、「手が込んだ上に非常に計画的であり、簡易爆発物や
> ロケット砲(RPG)、機関銃、小火器などを使用している」とし、
> 高度に武装していたことを明らかにした。

投稿: finalvent | 2005.05.14 12:35

>不確かな情報ではあるが、自衛隊を事実上守ってきたのもこの勢力だし、

この部分は何がソースですか?
自衛隊からそのような話が出たことはありません。
サマワに派遣された隊員何人かからも、そのような言及はありませんでした。
隠すようなやましいことなのですか?
それとも事実ではないですか?
どちらでしょうか?

投稿: vodka | 2005.05.14 13:25

vodkaさん、こんにちは。

この件については、主に以下の書籍の記憶で書いたものです。

「イラク生残記」勝谷誠彦
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062125188/fareasetblog-22/ref=nosim

また次の証言も記憶にありました。

サマワ自衛隊派兵における私の所感 (渡邉修孝氏)
警備会社にガードされる自衛隊
http://www5f.biglobe.ne.jp/~wattan428/page035.html

2005年4月25日 平成15年度決算審査 外務省分:
JICAコンサルタント登録基準の見直し、
在サマーワ外務省職員の警備費 (谷ひろゆき氏)
http://www.tani-hiroyuki.com/kessan050425.html

なお、「隠すようなやましいことなのですか?」等については、そのように考えたことがありませんでした。

投稿: finalvent | 2005.05.14 13:31

私は、仕事柄ほぼ毎週自衛隊と連絡しあっています。
自衛隊は公務員ですから、その行為について正当な理由無く隠しだててはいけません。
外国の民間企業である傭兵に国軍である自衛隊が守られていると言うのは、かなり異常な状態ではないかと思います。
しかし、そのようなことは今までどの自衛官からも聞いたことがありませんでしたので、真偽を疑った次第です。
あとはご指摘の書籍を根拠に、直接隊員たちに聞いて見ます。有難うございました。

投稿: vodka | 2005.05.14 15:20

 イギリスの警備会社は世界中の官民問わず
警護計画を立てたり,実際の警備についたりを
商売にしています.東京の外資会社などの
警備を請け負っている会社は,同時にイラクの
復興工事の警備を請け負い,米国軍の食堂の
警備,輸送の警備なども行っています.
イラク戦争中から復興工事の入札,工事の
準備を行う米国も?ですが,イギリスも??

投稿: s | 2005.05.14 16:30

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[http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2005/05/post_9fb7.html:title=極東ブログ]から。 >> 今回の斎藤さん関連の報道で、あまり指摘されていないように思えるのだが、戦時国際法的にはこれらの勢力は戦闘員とは見なされない。よって、それらが享受すべき権利も存在しない。死者が出た場合でもカウントされない。 << ああ、やっぱり。戦時国際法の絡みはちょっと気になっていたんだ。 正規戦闘員じゃないから... [続きを読む]

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