« 繊維問題についてのメモ | トップページ | 斎藤昭彦さん拘束の背景 »

2005.05.12

米国のヒスパニック層

 ホットな話題がないわけでもないが、個人的にこのところ米国のヒスパニック層 (hispanic) の状況について気になっているので、そんな話を。
 ヒスパニックは、メキシコなど中南米系米国人マイノリティで、スペイン語を母国語としている。当然ながら混血も多い。このヒスパニックの人口が大きく米国を変容させるまでに増加しつつある。象徴的なできごとと言えると思うのだが、アフリカ系米国人の人口を抜いた。
 現状については、簡素にまとめたAussie English Greeneryのサイトにある”ヒスパニック・レポート(3)”(参照)の引用で代えたい。


2003年1月に発表された米国商務省統計局の調発表によると、ヒスパニックの人口が全米人口の13%の3,700万人に達し、黒人の12.7%を抜いて米国最大のマイノリティー集団に浮かびあがりました。つまり、過去10年間に60%もヒスパニック人口が膨れ上がったことになります。

 別の統計では3900万人とも聞く。大雑把に言えば、米国の総人口が三億人であるのに対して、ヒスパニック人口が四千万人ということだろう。全体の一割を越える程度だとも言えるのだが、総人口に注目すれば、オーストラリアの総人口が二千万人であるのに比べると、その倍の人口でもある。ヒスパニックを購買力で見ると、メキシコ一国分に匹敵する。米国の消費市場には内部にもう一つメキシコを抱えているという印象も受ける。余談めくが、ヒスパニックが多いのはテキサス州だが、現在でこそテキサス州と呼ばれているが、この地域は1836年にメキシコから独立してから、十年ほどはテキサス共和国(参照)として独立国だった経緯がある。
 米国のヒスパニックにはいろいろな特徴があるが、ほぼ同数のアフリカ系米国人の人口と比べても顕著なのは、言語の問題だろう。アフリカ系米国人と限らず米国の移民は二世になるとたいていは英語を母国語とするのだが、ヒスパニックはスペイン語が保持される傾向があるようだ。
 米国の公用語というのを考えたことはないが、こうした現状、スペイン語が事実上の公用語となりつつある。先にヒスパニックの購買力に触れたが、市場でもスペイン語の市場というのもが事実上確立されつつある。はっきりとした統計を見たことはないのだが、ヒスパニックの消費行動の大半はこのスペイン語の市場に閉じているようだ。実際の商品においても、ヒスパニック志向が見られる。象徴的な例としては、ハーシーズもスパイスシーなキャンデーをヒスパニック向けに昨年から販売している(参照)。
 一般的にマイノリティというと収入が低い層と見られるし、統計上もそれを裏付けてはいるが、一部ヒスパニックでは高額所得者は増えつつあり、年収十万ドル層でみるとその増加率は白人系の米人の二倍にもなるらしい。
cover
分断される
アメリカ
 こうした動向が今後どういうふうに米国を変えていくのか気になる。「文明の衝突」で日本でも有名になったハンチントンだが、ヒスパニック問題について触れた「分断されるアメリカ」では、米国の文化的なアイデンティは、各種の移民を受け入れながらも、ナショナル・アイデンティティとしては、アングロサクソン的、プロテスタント的な文化・価値観を保持すべきだとしている。そうなれるものかどうかわからないし、それがアメリカという国を分断する問題となるのかもわからない。
 近いところで、前回の大統領選の結果から見れば、ヒスパニック層については、それほど目立った兆候を示すわけでもなかった。というか、それまでヒスパニックは民主党支持が多いと思われていたフシもあったが、共和党票も多かった。日本では大した理由もなく頭が悪そうなイメージを投げかけられるブッシュ大統領だが、彼は、スペイン語をしゃべる初の米国大統領と言われており、ヒスパニックの支持層も厚い。
 いずれにせよ、人口動態は国家の内在的な動向を決める最大の要因だろうし、このまま推移していけば、いずれ、他国のほうが遅れて米国というもののイメージを変えていくことになるようにも思う。

|

« 繊維問題についてのメモ | トップページ | 斎藤昭彦さん拘束の背景 »

「歴史」カテゴリの記事

コメント

些末な事を書くようでアレですが、テキサス独立の西暦間違えていらっしゃる気が。

投稿: 路傍の石 | 2005.05.12 16:27

路傍の石 さん、こんにちは。ご指摘ありがとうございます。修正しました。(このコメントをもって修正ログの代わりとします。)

投稿: finalvent | 2005.05.12 16:45

人種論で微妙な問題ではあるが、マックス・ウェーバー的職業的倫理観というのは、ヒスパニック系にはあるのだろうか? アメリカ経済構造のラテンアメリカ化が進行しているというのが私見だが、ヒスパニック移民と関係はあるのだろうか? 「アメリカがアルゼンチン・タンゴを踊る日」が近い将来おとずれるのではないか、と最近考えている。

投稿: 平手 緑 | 2005.05.12 21:02

米国南部の北の端の州に在住していますが、「英語ができなくても(スペイン語ができれば)暮らしていけるかも」と実感しています。
(それでも、テキサスから引っ越して来た人が言うには「こっちに来て『白人』が多いのにびっくりした」。つまりそれほどテキサスにはメキシコ系の人が多いらしい。)
現在週2回、English as a Second Langugeのクラス(公費で運営され授業料は無料)に通っています。生徒の8、9割方は中米出身者、そのほとんどがメキシコ人です。
昨年だったか今年だったか、DVプログラムでメキシコからの申請者の受付を当年開始早々締め切ったことからもメキシコからの移民の多さが伺えます。
中米出身の生徒に限って言えば、あとはグアテマラ人がちらほら、という感じです。
週1日の休みや、仕事の昼休憩に暇を見つけてくる人が多く、生徒の入れ替わりが激しいので、あくまで見た感じの印象ですが。
たまに英語がほぼ全く話せない人が来ます。(字が読めない人もいます。)
(ここから先は単なる私の憶測ですが)(そしてこれはヒスパニック系に限りませんが)まれに不法滞在or不法就労している人もいるようです。ただ、クラスの先生や施設の職員と接した印象だと、基本的に「不法でも真面目にやっていれば別に個人としては構わない」という考えの上で、個々の立場で対応している様子。(低賃金・長時間労働でやっている移民がほとんどだから、ということらしい。ひょっとしたら「一般的なアメリカ人」が嫌がる仕事を肩代わりしてもらっているという感覚があるのか・・・?)
とは言え(特に職員は)知ってしまうと決められた手続きを踏まざるを得なくなるため、その辺の事情にはできるだけ突っ込まないようにしているように見えます。(なので私も本当に不法なのかどうか確認はしていません。)(憶測終わり。)

日頃、いわゆる「一般的なアメリカ人」と専ら接している夫に言わせると「ケンタッキーより北の州には大都市を除き(ヒスパニック系はおろか)アフリカ系アメリカ人もいない。白人ばっかりだ」、「そういう『アメリカ白人』(マイケル・ムーアが対象にしているような人たち)は英語以外の言語を話す気はないと思う」という意見ですが、ESLの先生の過去・現在の生徒に関する逸話を聞いているとスペイン語に興味を持っているアメリカ人は多く、インド系、中国系とバラエティに富むようですが、「アメリカ白人」も意外に多いようです。
(ちなみに教会がESLを初めとした語学のクラスを行なっていることも多く、私のESLの先生は自分の通う教会で週一回行なわれるスペイン語のクラスも受け持っています。)
(あと余談ついでに言えば、同じESLでもお金を払って行くようなクラスだと、生徒の大半が日本を含む東アジア系の人だった、特に韓国系が多かった、という話も聞きました。)

ESLのクラスで接するメキシコ系移民から推測するに、米国という国に対する帰属意識が薄い人が多いように見えます(メキシコの地元に家族を置いて出稼ぎ状態で暮らしている人もいる)が、彼らの購買動向とその転がり具合によってはどうなるかわかりませんね。
(現に既にスーパーで売られている商品のパッケージには必ずと言っていいほどスペイン語表記があるし、セルフレジにはスペイン語のメニューがあるし・・・等々で日常生活に不便はなさそう。)

以上、長文失礼しました。

投稿: 西方の人 | 2005.05.13 10:02

日本で働いているアメリカ人の中には、アメリカへの帰属意識を第一とすることにためらいを感じる人が少なくないように思われます。
彼らは自分の祖国である「州」については喜んで語りますが、帰属国家である「USA」について語るときは少しつらそうに見えます。(言葉もたどたどしい)

おそらくアメリカは広すぎて、彼ら自身もアメリカ全体を代表するイメージを持っていないのでしょう。そして、今までそのことに無自覚だったのが、ブッシュの出現によって思い知らされてしまったというところでしょうか?
加えて、日本に住んで働きたがるような方々ですから、もともと「外国かぶれ」のアメリカ人なのかもしれません。(笑)

いずれにしろ、アメリカ人が自国に対して今まで持っていたステレオタイプが、今や通じなくなっていることに、彼ら自身も気付いているようです。
私としては、アメリカなどもともとバラバラな国なんですから「いろんなアメリカがあって面白いだろう♪」と開き直って笑い飛ばしてほしいんですが、各校の英語教師をやってるアメリカ人を見ると案外傷ついているように見えます。

>日本では大した理由もなく頭が悪そうなイメージを投げかけられるブッシュ大統領だが、

ウェールズをアメリカの州だと思ってたんですから、十分理由になりますよ。(笑)

投稿: vodka | 2005.05.14 13:41

別にとくにブッシュを擁護したいとは思いませんけれど、ウェールズをアメリカの州だと思っていたという事実はないでしょう。ウェールズから来たというから、どこ州のウェールズから来たのか、と訊いただけです。モスクワから来たというから、どこ州のモスクワだ?と訊くのと一緒です。アメリカには、モスクワという町もウェールズという町もたくさんあります。
もちろん、相手がガイコクから来たということも知らずに会うのはどうかとは思いますけれど、今から誰に会うのかというブリーフィングをちゃんとできていないのは、大統領の知能の問題とは関係ないと思います。

投稿: 中道左派 | 2005.05.17 11:22

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 米国のヒスパニック層:

» シュワルツェネッガー知事の訪日 [やじゅんの世界ブログ/The World according to YAJUN]
ちょっと旬を過ぎた話題で恐縮ですが、先月のアーノルド・シュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事の訪日に関して、カリフォルニア州のウェブサイトに掲載されていた写真がインパクトがありましたので、そのまま掲載します(出典:カリフォルニア州公式ウェブサイト)。 このサイトの左下にあるバナーを見ると、同じように見える写真が、「California」が「JAPAN」に、カリフ�... [続きを読む]

受信: 2005.05.12 18:54

» スペイン [スペイン-ACCESS]
スペインスペインは、ヨーロッパ南西部、イベリア半島の大部分を占める国家|国。首都はマドリード。ポルトガル、イギリス領ジブラルタル、フランス、アンドラと接している。本土以外に、大西洋のカナリア諸島や、北アフリカにセウタとメリリャの2つの飛び地を領有してい... [続きを読む]

受信: 2005.05.15 04:24

» またまたSEATネタ [{ marble Beat* }]
先日の『SEAT Leon』のエントリーにコメントいただきました<mtblueさんありがとうございます(^^;色々書いたら長くなったので、新規エントリーにしちゃいます(w>後部ドアのノブの処理に「デ・シルバ」ソースがなみなみですね。Cピラーにノブを隠して2ドアに見せるのは、もう156... [続きを読む]

受信: 2005.05.20 01:44

« 繊維問題についてのメモ | トップページ | 斎藤昭彦さん拘束の背景 »