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2005.05.21

量的緩和政策は続行しますとも

 今朝は大手紙の社説がこぞって、量的緩和政策をテーマとしていた。ということは、経済プロパーな話題というより、お茶の間の話題というふうに理解できるだろう。朝日新聞などはできるだけお茶の間的な解説にすべくその苦慮が伺われて面白いには面白いのだが、無駄な誤解を招いているようにも感じられた。「そのうえで、日銀は量的緩和の経済効果について、もっとわかりやすく整理し、説明してもらいたい」(参照)とするのはユーモアのつもりかもしれない。いずれにせよ、お茶の間の話題というレベルで当ブログも触れることにする。
 話の発端は、二〇日の金融政策決定会合で、日本銀行の量的緩和政策の目標である日銀当座預金残高について、一時的に下限の三〇兆円を下回っても容認することにした、ということだ。議論の争点は、量的緩和政策を継続するのか、それともここらで止めろということか、ということ。毎日新聞を除いて、量的緩和政策を継続せよという主張であった。
 しかし、実際のところ、福井俊彦日銀総裁が記者会見で強調したように(参照)、量的緩和の骨格はそのまま維持され、日銀が金融引き締めに転換したとの見方を否定しているので、どう議論してもそれほど現時点での重要性はない。私などから見ると、なにがそれほど問題なのかという印象は受ける。
 読売新聞社説”量的緩和政策 デフレ完全脱却まで粘り強く”(参照)では、「世界の金融関係者は、日本銀行がどう出るのか、注視していたのではないか」と切り出しているが、私の見落としかもしれないが、世界の金融関係者が必ず読むであろうフィナンシャル・タイムズでこのニュースが注視されているふうはなかった。
 それも当然かな、という感じもするのは、極東ブログ「OECD対日経済審査報告と毎日新聞社説でちと考えた」(参照)で今年のOECD対日経済審査報告に触れたが、ここでは、2003年10月の日銀政策委員会で公表された量的緩和政策の解除の条件、つまり、インフレ率がわずかでもゼロ以上になれば解除の可能性が検討されるということに、OECDは懸念を表明している。しかも、日本の量的緩和策については、仮に消費者物価がプラスに転換しても拙速に解除しないように強調されていた。そんなことをすれば、日本経済がデフレに押し戻されかねない、とOECDは言うのである。というあたりで、日本経済の金融政策面での国際的な視点が変化するとも思えない。なので、今回の件は、この分野の日本特有のファス(fuss)のように思えるし、そのファスにはそれなりの国内事情というものがあるのだろう。
 今回の件の背景的な要因としては、先日発表された今年1~3月の実質成長率年率5.3%というのを、景気の中だるみから離脱と見る見方があるだろう。国内需要も増加しつつはあるのかもしれない。が、総じて見れば、日本経済は以前デフレのままであり、十八日日経社説”素直に喜べない5.3%の高成長”(参照)の指摘は的確だ。


第一に、消費の回復(年率4.7%増)は暖冬や台風災害で不振だった昨年10―12月期の反動増という色彩が強い。最近の小売業販売額をみると、2月が前年同月比2.7%減、3月が同0.6%増など、決して強いというほどではない。


さらに、総合的な物価指標であるGDPデフレーターが前年同期比で1.2%下落と、下落幅が昨年10―12月期の同0.4%より拡大したのは気掛かり。原油など素材価格は上昇しても全体にデフレ傾向から脱却していないことが読み取れる。

 少し古いがフィナンシャル・タイムズが四月二十六日に”Japanese economy stuck in deflation”(参照)と題する、日本のデフレについて扱った記事があった。私などには国内の経済記事よりわかりやすかった。というか、次の指摘に苦笑というか、笑った。それ以外なにができる?

Jesper Koll, economist at Merril Lynch, said Japan’s economy continued to limp along, but had not yet achieved “self sustaining, demand-driven growth.”

Under the leadership of Junichiro Koizumi, who began his fifth year as prime minister on Tuesday, Japan had at last started to grow in nominal terms, adding Y5,500bn or 1.1 per cent of gross domestic product since 2002. That compared with a nominal decline of Y23,000bn from 1997 to 2002, but was hardly spectacular, he said.

Mr Koll quipped that there had been three factors behind Japan’s growth, namely “exports, exports and exports.” Since 2002, domestic consumption had contributed just one-tenth of GDP growth, he calculated.


 メリル・リンチのエコノミスト、コリー氏によれば、日本の経済成長の第一要因は、輸出である。第二要因は、輸出である。第三要因は、輸出である…。
 結局、いまだに「ウォルフレン教授のやさしい日本経済」で指摘されている、日本の新重商主義的なありかたに変化はないと対外的には見られている。
 そして、日本経済が輸出に依存しているということは、中国に依存していることであり、とすれば中国が国際経済にどんな問題を抱えているかという波及を日本経済も受ける…はずだが、そのあたりがよくわからないといえば、よくわからない。

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コメント

馬鹿なエコノミストはどこの国にもいますから。純輸出のGDPに占める割合なんて10%あるかないか。社会科の授業で日本の主要産業は第三次産業(サービス産業)だと教えられるようになってから何十年経ちましたっけ。サービスは貿易できませんからね。

投稿: manstein | 2005.05.21 10:58

日銀はゼロ金利解除の前科があるので、ちょっとでも量的緩和継続を疑われる発言があると、市場は「やっぱり日銀は量的緩和を止めたいんだ」と受け取ってしまうんでしょうね。日銀自らインフレーターゲットか物価水準ターゲットを設定しないと、この手の疑いは消えないでしょう。
福井総裁には前総裁の因果が巡って来てるのでしょう。w

投稿: Baatarism | 2005.05.21 11:44

>manstein

馬鹿なエコノミストはたしかにいっぱいいますが、今回の場合は別にへんなことは言ってませんよ。日本の場合は、貯蓄率が高いので、常に内需不足に苦しめられますから、輸出依存が不可避なのですよ。

投稿: eternawind | 2005.05.21 14:53

>mansteinさま
>eternawindさま

http://www.nikkei.co.jp/keiki/kataru/20050106c7816000_06.html

外需と景気の関係についてはこの論文をお勧めします。ご一読を。

なお、量的緩和については、
http://www.nikkei.co.jp/keiki/kataru/
の中のレポートが素人にもわかりやすく書かれていると思います。しかし、

投稿: F.Nakajima | 2005.05.21 20:31

>eternawind
あなたの文脈でいう内需不足とは、貯蓄超過を言い替えただけですから、貯蓄率が高いから内需不足だという言い方は単なるトートロジーで、何の因果関係も説明できていません。またその貯蓄超過分が貿易黒字になっているわけですが、経済がそれに依存しているわけでもありません。前にも書いた通り、GDPに占める純輸出の割合は10%ほどです。ちなみに、貯蓄超過を減らすには金利を下げればいいだけですから、別に不可避でもなんでもありません。

投稿: manstein | 2005.05.22 13:48

>manstein
金利を下げるだけ?金利は歴史上例を見ないといわれるほど下がってますが?通常の利下げだけでは対応できないだから量的緩和なんでしょ。バカの一つ覚えのように
>前にも書いた通り、GDPに占める純輸出の
>割合は10%ほどです。
を繰り返してるようですが、じゃあ貿易黒字が
0になった場合、その分の内需をどうやって創出するんですか?マクロの基礎から勉強しなおしたほうがいいと思われます。

投稿: eternalwind | 2005.05.22 14:43

>eternawind
名目金利と実質金利の区別ができていませんね。貯蓄超過(I/Sバランス)の話をする場合、金利といえば実質金利のことです。歴史上類を見ないといわれるほど下がっているのは名目金利であって、実質金利ではありません。むしろ最近まで、実質金利はアメリカのほうが低い状態にありました。名目金利を下げるのは、実質金利を下げるためです。実質金利=名目金利ー期待インフレ率ですから、名目金利が0近傍になると、それ以上実質金利を下げるには、期待インフレ率を上げる必要があります。量的緩和はそのための手段です。

それから「貿易黒字が0になった場合、その分の内需をどうやって創出するか」という話は、日本が貿易に依存しているか否かというこれまでの議論とはまったく関係がありませんね。「貿易黒字が0になった場合」という仮定に意味があるのかも疑問ですし、それが「GDPに占める純輸出の割合が10%しかない」という私の指摘に対する反論になっているとも思えません。

投稿: manstein | 2005.05.22 15:42

どもです。最後のFTの記事ですが、日本経済の成長要因について、ここで引用されているエコノミスト氏が言っているのが今までの日本経済の成長全般に対してであれば、manstein氏の言うとおり端的に大間違いですね。現在の日本経済は巨大であり、ネットの輸出が占める割合は米国同様大きくありません。

一方で、そのコメントが今回(というか前回というか)の景気回復に対するものであれば正しいでしょう。輸出と設備投資だけしか伸びていなくて内需はほぼ全滅でしたから。

背景の文脈がわからないのでどちらかはよくわからないんですが、僕は後者じゃないかと思うんですよね。そうじゃないとこの引用文の中だけですら辻褄があわなくなるので。つまり民需が弱く輸出だけの景気回復だからびっこをひいてるのだ、と。あ、民需が少ないのが日本の「構造問題」と考えるのであれば話は別ですけど(笑)。

最後に余談ですが、上にも書いたとおり日本経済において輸出はネットで10%程度であり、中国はその中で更に何割かを占めるに過ぎません。もちろん中国がどうにかなった際のインパクトは非常に大きなものとなり得るでしょうが、かといってその影響を過大視するのは木を見て森を見ずとなるでしょうね。ではでは。

投稿: svnseeds | 2005.05.22 18:15

>名目金利と実質金利の区別ができていませ
>んね。貯蓄超過(I/Sバランス)の話をする場
>合、金利といえば実質金利のことです
トンデモ論説ご苦労さん。貯蓄率に影響を与えるのは実質金利ですが、だからといって、「金利」といえば、有無を言わさず実質金利のことを言ってると理解しろなどトンデモ珍説です。クルーグマンのリフレ論文でもなんの断りもなく「金利」とだけ言ってる場合、あきらかに名目金利のことをいってますし(藁
まして、あなたの
「貯蓄超過を減らすには金利を下げればいいだけですから、別に不可避でもなんでもありません。」を「名目金利はゼロに近くてもデフレ下では実質金利は高いままだから、期待インフレ率を上げましょう。」と読み替えることは、あなた以外には不可能です。

投稿: eternalwind | 2005.05.22 19:31

>svnseeds(まともなコメントがでたので馬鹿は無視しますよ)
おっと失礼。引用文を読まずに、finalventさんのコメントだけで前者の意味として捉えてしまいました。たしかに、このエコノミストの人がいっているのは、最近の経済成長のことですね。なので、このエントリ結論としては「それ以外なにができる?」とか「中国に依存しているから仲良くしないと」ではなく、「自律的な経済成長のためにも量的緩和が必要」になろうかと思います。(まじめに量的緩和をすれば輸出も増えますが)

投稿: manstein | 2005.05.22 19:38

>manstein

痛いねえ。エコノミスト批判してたんじゃなかったの?(藁。こんどはエントリの結論が悪いってことになるんだ。泥縄式に取り繕っているうちに自分が最初なにいってたかわからなくなるのは、厨房の特徴ですが。ま、こっちも消えますか。

投稿: eternalwind | 2005.05.22 21:09

他人のブログでコメントを残す動機が、本当にエコノミスト批判だと思ってるのかな。それも書き出しから挑発的な文章で、テーマは量的緩和。もろにうんこ絡みなわけですよ。w

投稿: manstein | 2005.05.22 22:05

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