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2005.05.08

ラプサンスーチョンという紅茶の話

 このところ、きつい話の比率が多かったのか、アドセンス広告も配信されなくなった。広告自体はそれほどでもないが、なんか世間様からはずれているふうでもあるので、連休も最後だし、じゃ、紅茶の話その2でも。ちなみにその1は「紅茶の話」(参照)なんだけど、別に毎日新聞社説の少子化テーマみたいにシリーズ化するつもりはない。しかも、紅茶といっても、話は、ラプサンスーチョンだ。
 ラプサンスーチョンは紅茶好きな人ならとりあえず知っていると思う。ひたすら煙の匂いのする変な紅茶だ。正露丸の匂いと言ってもいい。なんでこんなもの飲むの?とびっくりするほどの紅茶。日本で売っているかなとネットを見たら、楽天などでもないわけでもない。リストを眺めてどのあたりがお薦めかとも思ったのだが、それ以前に、この紅茶、ダメな人は完璧にダメなので、関心ある人は、20gぐらいちょこっと買うほうがいい。紅茶専門店に行って、「ちょっと試してみたいので20gぐらいください」がいいだろう。
 ラプサンスーチョンは手元の「現代紅茶用語辞典」によるとこう説明されている。


ラプサンスーチョン Lapsang Souchong
 中国福建省崇安で生産された正山小種[セイザンショウシュ]紅茶。形状外観は粗いが、カップ水色[スイショク]は紅色で、こく味があり、松の煙香が強い特殊な紅茶。1840年のアヘン戦争の直後、中国社会は混乱し、崇安県の銘茶「武夷[ブイ]山の岩茶」の生産が激減したため、「にせ岩茶」が出回った。やがてイギリス市場で充分に発酵させた紅茶の需要が集中したため、揉捻[ジュウネン]、発酵、乾燥を終えたあとで、さらに茶葉を竹製の篩のなかに入れ、そのまま木の桟[サン]にツルして、その下で松柏の木を燃やして燻煙し、熱で再乾燥(中国独自の熱発酵)させた小種紅茶が、武夷岩茶の変形として誕生した。これがラプサンスーチョンである。1970年代には中国からのラプサンスーチョン輸出はピークを迎えたが、その後インド、セイロンの紅茶(イギリス帝国紅茶)の追い上げいあって、ついに破れ去った。

 と書き写しながら、ちょっとこの説明は違うのではないかと思うこともある。竹製の篩いで再乾燥するのは昔タイプの頂凍烏龍茶でも岩茶でも行うので、燻煙は当時はその副産物的なものではないか。陳年頂凍烏龍茶でも薫香が付く。が、大筋ではこの説明でいいだろう。ここからもわかるが、武夷山岩茶、つまり、日本でよく中国茶の分類で岩茶として中国茶商に乗せられて珍重されているのは、紅茶と同じ起源で、その意味では、中国茶と紅茶の違いというものはない、というか一種のカテゴリーエラーっぽい。ちなみに、武夷は紅茶好きな知っていると思うがボヘアである。
cover
茶の世界史
 このあたりの茶の歴史の話は名著「茶の世界史―緑茶の文化と紅茶の社会」に詳しい。これは茶の歴史というより、中国近代化の歴史書としてもとても面白い内容を含んでいるので歴史好きは一読されたし、というかすでに読んでいるだろう。惜しむらくは筆者は茶自体には専門家ではないわけで、茶好きには隔靴掻痒の感もあるにはある。たとえば、ペコー(白毫)やコングー(工夫)、ヤングヘイソン(Young Hyson)などが、どのように西洋世界に定着していったかなどの説明があれば、「僕は日本茶のソムリエ―お茶で世界をつなぐ夢」の冒頭にあるようなChun Mee(珍眉)への誤解みたいなのもとけただろう。いずれにせよ、岩茶やラプサンスーチョン(正山小種の広東語的な英名)の歴史については同書にはない。
 と、まいどの文体になりそうだが、ものはためしラプサンスーチョンを飲んでみるのも面白いと思う。私はこのところ、なんとなく、寝る前に薄く淹れて飲むことが多い。タバコ(パイプタバコ)を吸わなくなって久しいが、この燻煙香は、パイプタバコの飛鳥の趣にもちょっと似ている。瞑目すると、鼻腔から脳に静かに野性的な、中年男の心の慰みのような香りが遠く呼びかけてくるふうでもある。英米人ではこれにもミルクを入れてしまう人もいる。
 紅茶としては、ラプサンスーチョンの変形というか、セイロン茶などのブレンドでロシアンキャラバンがある。これは自分でブレンドしてもよそうなものだが、私は他人のブレンドで飲む。セイロン紅茶の味わいの上にラプサンスーチョンの薫香が重なる。ラプサンスーチョンと比べてどっちが日本人に向くかといえば、ロシアンキャラバンのほうだろう。名前の由来は知らない。ロシア人がサモワールでこんな紅茶を淹れるとも思えない。
 

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「雑記」カテゴリの記事

コメント

アイラ産モルトウイスキーのピート由来の香りに近いのでしょうか。一度試してみたいと思います

投稿: nabeso | 2005.05.08 11:03

こんにちは。数カ月間イギリスに滞在していた際に、食べ物屋の紅茶のメニューが「アッサム、ダージリン、ラプサンスーション…」という感じで、すごくポピュラーだったのを覚えています。そのときまで聞いたことなかったのですが、飲みはじめたら、クセになってしまいました。なるほど、タバコにも近い感じがあります。それにしても変なお茶ですよね…。ちなみに個人的にはキーマンが好きです。

投稿: rucci | 2005.05.08 12:15

こちらには久々にこんにちは。ラプサンスーチョンもいつの間にやら随分有名になりましたね。
>ミルクを入れてしまう
さう、何となく入れて仕舞ひたくなる「ことも」あります。アイリッシュウイスキーのプルーフの高いのを牛乳で割る感じに近いのです。因みに数年前に悪戯心で入った梅田ヒルトン内ウェッジウッドティールームでは当り前のやうに人肌程の牛乳がジャー一杯付いて来ました。次第次第に茶が濃くなるので結局全部頂きましたが。
暑い折に此れの熱いのを其儘、ズイッと飲んで涼むのも乙なものかト。尤も一番の気に入りは昔ながらの舌の奥がキュッとすぼむ「セイロン」なんですけれどもね。
佞人之話翦々、是亦失礼。

投稿: wachthai | 2005.05.08 15:29

はい,ラプサンスーチョン,買いました.大学時代,デパートでフォートナム&メイソンのを.
……後悔_| ̄|○

否,飲めなくもないですよ.でも勧めた友人からは例外なく悪評.わたしも敢えて飲みたいなあと思う訳でもなくちゃダンスの肥やしに.……

投稿: ネオ筑摩屋松坊堂 | 2005.05.08 22:04

 はじめまして。
 まあ、飲みにくいですけど(母曰く、正露丸のお茶)癖になりますよね、アレ。
 私の場合、F&Mのアールグレイが結構好きだったんで、ある程度耐性付いた状態で飲んだからどうと言う事もなかったのですけど……。

>nabesoさま
 正山小種の強い薫香は、本来輸出用だとかで、最近は薫香の薄いタイプの正山小種も手に入ります。まずはそちらから試されるか、F&Mのアールグレイで耐性をつけるといいですよ。はじめっからF&Mのきつい奴とかに手を出すとまず間違いなく失敗します。
 いぶりがっことかが好きで好きでたまらない人なら耐性があるかもしれませんけど……。
 なんつっても、正露丸のお茶(笑)ですからね。

投稿: 十八 | 2005.05.09 10:14

日本茶でいうと一保堂の「いり番茶」のような感じ? 飲んでみたいです。

投稿: sui | 2005.05.09 12:57

>瞑目すると、鼻腔から脳に静かに野性的な、中年男の心の慰みのような香りが遠く呼びかけてくるふうでもある。

やられました。頂いてみようと思いました。ふふ。遠く呼びかけられてみよう。

投稿: 丹 | 2005.05.09 19:51

英国じゃスーパーでも普通に売ってるこの紅茶。渡英の折に、お試しで一服。

投稿: synonymous | 2006.03.15 17:29

ラプサンスーチョン好きです。記事を読んで、昔吸っていた煙草(ブラックルシアン)の香りに似ていると思いあたりました。今は禁煙してしまいましたが…

投稿: Bar鳥居 | 2014.07.04 23:44

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ラプサンスーチョンという紅茶があるそうです。(ラプサンスーチョンという紅茶の話)... [続きを読む]

受信: 2005.05.08 18:54

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友人に教えてもらって入った中国茶のお店にて。 メニューを開くと、いろんな種類のお茶がずらーっと載っていたのですが、その中でどこかで見覚えのある名前が目に止まり、 [続きを読む]

受信: 2006.06.07 22:43

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