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2005.05.29

NPTの終わり?

 世界は今日フランスを注視しているだろう。たぶん予想通りの結果になるのだ。しかし、その話題は明日以降に回すとして、気が重いが、今回が初めてということでもないものの、合意文書など具体的な成果のないまま四週間の会期を終えた核拡散防止条約(NPT)再検討会議について少し触れておこう。
 率直に言って私は考えがまとまらない。どうすべきなのかがよくわからないからだ。そして、そうなってしまう最大の要因は、私がそれほど単純に米国を責めないからだ。ちょっとヤケな言い方をすれば、米国の核の傘の下にある日本という現実を考えれば、そうなるだろうとは思う。
 自分の頭の上を見ずに反米の旗を振るなら話は簡単だ。NPT会議の失敗は米国が核軍縮を推進しないからだと言えばいい。旧連合国である米露英仏中の五か国だけに核保有を認めるのということ自体が不平等だとか言ってみるのもオツかもしれない。まあ、日本の進歩派の思考はそんなところで止まっているのではないだろうか。
 いや、それよりも今回のNPT会議の報道で、なにかが日本のなかで思考停止になっているのではないかという印象を受けたのは、私の見落としかもしれないのだが、兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約が問題になったという報道はあったものの、それを日本が推進し根回ししてきたことへの言及が見られなかったことだ。カットオフ条約については、従来米国と中国の対立によって交渉入りすら空転していた。しかし、今回米国はこの交渉に入ることも認めていたのである。とすれば、そこで問題となったは中国じゃないのか。そうしたことがよく見えなかった。
 いや、そんなことはもうどうでもいいのかもしれない。すでに、インドとパキスタンはNPTの加盟もなく核保有が事実上世界に認められているのだ。今回のNPT会議では、中国とロシアは、それぞれインドとパキスタンを擁護していた。表面的にはインドとパキスタンはすでにきちんとそれなりに現在の世界のシステムに織り込まれているかにすら見える。そういう現実自体がなによりNPTの終わりを示していると言っていいだろう。
 加えて、今回のNPTでは事実上核を保有しているイスラエルをエジプトなどがやり玉にあげたが、米国としてもそのあたりの問題をまじめに議論する気などなかったのだろう。
 ということは、イランと北朝鮮の核問題というのも、もうNPTという枠組みで考えなくてもいいじゃないかという結果的な暗黙の合意ができたということでもあるのかもしれない。
 米国の知識人たちの考えは、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどを代表例とすれば、両紙とも、NPTの失敗は、米国の指導力不足ということにしていたが、そういう問題だったのだろうか。
 少し話がずれる。先週の日本版ニューズウィーク(2005.5.25)の国際版編集長ザカリアのコラム”核の放棄か、体制崩壊か”では、リードに「北朝鮮問題を解決するカギは米中の協調にあるがブッシュ政権の矛盾する政策がその障害になっている」として、北朝鮮問題について、核の放棄か体制崩壊かの択一を明確にせよとしていた。率直に言って、近年のザカリアのボケはここまで極まったかという印象をもった。彼はこう主張する。


 醜悪な独裁政権を支持する中国の政策はまちがっているし、金政権の非道徳性を非難するブッシュの主張は正しい。金政権は崩壊する運命にあり、アメリカが核計画についてどれだけ議論しても、その定めは変わらない。
 それでもブッシュ政権は、もっと建設的な外交を展開する必要がある。さもないと、世界は恐るべき事態を避けられなくなる。

 北朝鮮の体制崩壊を推進せよという主張なのだろうか。そして、それができなければ訪れる恐るべき事態とはなにか、と問うているのか。もちろん、こうした文脈で書かれればそれがなんであるかは想像は付くし、ザカリア同様そこを明示的に書きたくもない。
 だが、体制崩壊の選択はない。これはすでに明確にされている。では、核の放棄はどうなのか。
 うがった見方をすれば、インド、パキスタン同様、北朝鮮が核保有を宣言しても、翌日はそれはそういう世界が訪れるだけかもしれない。あるいは、現実的に見るなら、北朝鮮の危ういゲームは自らのドジで頓挫するだろうからほっとけということかもしれない。
 しかし、危険なディスプレイのゲームは続き、私たちはそれに麻痺していく。麻痺というのは、核を廃絶する希望をせせら笑うようになるのだ。
 少なくともNPTの枠組みはなくなってしまったのではないか。と、同時に、日本がこれまで推進してきた、世界の非核化への道が大きく挫折したということなのではないか。

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コメント

なにかよほどのことが起こらない限り目覚めないのか、それとも一時的なものなのか分かりませんが、politicsの危険な(いや、あほらしい)ゲームは別にして、縮小、廃絶への対話は続くと考えています。世界は、政治家だけの世の中ではありませんしね。(^_^)

投稿: むぎ | 2005.05.29 18:26

そもそも核拡散の防止は、核兵器製造技術が特殊技術だったからこそ可能だったわけで、民生技術が高度化して後進国にも手が届くようになるともはやそれを押し止めるのは無理では。

有効な抑止手段がなくなれば、あとは当事者の善意に縋るだけ、ということになり、一度世界は破滅しないと学習しないでしょう。

そのとき、日本はもう一度経験したからパス、ったって聞く様な周辺国家じゃない。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.05.29 19:34

そうね~。EUには、いくらお金にこまっても武器は売ってもらいたくない。武器の使い道は国家間のおどしだけじゃないし、ね。

投稿: むぎ | 2005.05.29 22:03

まあ北、イランが核保有すれば、日本も強大な核兵器所持国になるのでしょう。それと同時にもてる先進、先端技術を駆使して核弾道弾の無力化にも邁進するのでしょう。金、もったいな!

投稿: 平和主義者 | 2005.05.29 23:31

 コメントをの内容を見ると、みんな何がいいたいのか分かっていないようだな。
 読者のレベルに合わせて、「将来テロリストが核を手に入れ、核テロが行われるようになる。」とか「体制崩壊の選択はない。核を持った北朝鮮に、アメリカは攻撃することはできないからだ。」やらをしっかり書いておくべきでは?
 ただ、私は後者の意見に賛成できないね。パキスタンに続いて北も核を保有したら、それこそ核不拡散の体制が崩れることになる。NYでやられるよりましだよ。

投稿: | 2005.05.30 01:16

私は日本は核武装しないと思います。核兵器によるMADって、精密誘導兵器の登場でその効果はかなり崩れてると思う。核対核で見る限り抑止効果はあるかもしれないけど、通常兵器まで入れて考えとき、そちらにも抑止効果あるのか、と。

更にアメリカがやりたがってる小型戦術核はアメリカが技術独占するので当面非対称だし。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.05.30 01:29

テロならむしろ核兵器ではなくて核汚染物質で十分なのでは。
むしろ通常兵器による十分な軍備を整られない弱小国の一発逆転の戦略兵器ではないかと>これからの核兵器。

実際、パキスタンとか北朝鮮見れば。

投稿: | 2005.05.30 01:36

>名無しさん(名前がなかったので)、
>NYでやられるよりましだよ
の部分もう少しご説明いただけるとありがたいのですが。

投稿: むぎ | 2005.05.30 01:41

私はNeonさんの意見に賛成ですね。
核兵器問題は原子力開発問題とも絡み、
技術の発展と流出によって、
大国においてはともかく、
世界的に見れば縮小とは反対の方向に
長期的スパンで進んでいます。

>むぎさん

>NYでやられるよりましだよ

核不拡散が完全に崩壊すれば、
北朝鮮は外貨獲得の為に核技術を
全世界にばら撒くでしょう。
究極的にはNY(等主要大都市)で
核テロが起き、世界はとてつもなく
危険になるので、アメリカはその
リスクファクターを排除するという
意味ではないかと私は推察します。

私個人の推測では中国の親北姿勢を
転換させることが極めて困難なので、
アメリカが北に攻撃することは
現実的でないと判断します。
ただアメリカがそのリスクをどのように
判断するかは分かりません。

投稿: kagami | 2005.05.30 08:40

>kagamiさん、
コメントありがとうございます。
>全世界にばら撒くでしょう
というのは、主に後進国に基盤を持ち活動するテロ、武装グループに安価でモノや技術が(核関連)が流れるであろうということですね。
結果、(おそらく、この方は)どこかの大都市がたやすくテロのターゲットになると考えていらっしゃるのですね。。

私は、アメリカが正論で中国を変えることは、今も今後もありえないだろうと思っています。今回の北への交渉でも、中国からさんざん「(北の態度の硬化は)お前のせいだ」と言われたばかりですが、これは言い換えると、米・中ともに道を模索中であると受け取りました。私も、アメリカが北を攻撃することは現実的ではないと思いますし、きれそうなカードはあるというか、冷戦当時は中国そのものがカードであったわけですが、まだ八方ふさがりになった状態ではないと思っています。

再度、コメントいただけてうれしいです。ありがとうございました。(^^)

投稿: むぎ | 2005.05.30 09:26

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» NPT(核不拡散条約)運用検討会議と米国の責任 [HiroT-Blueの日常と非日常]
先週、核不拡散条約(NPT)運用検討会議が、最終文書を採択できずに失敗しました。多くの新聞がこのことを取り上げ、核不拡散体制の信頼性が大きく揺らいだと報じました。   たしかにそのとおりなのかもしれませんが、他方で、「会議は、所詮会議だ」といえなくもありません。会議が失敗したからといって、世界が破滅に追い込まれるわけではない。核不拡散体制も、即座に崩壊するとは全く考えられない。もちろん、この会議�... [続きを読む]

受信: 2005.06.01 14:56

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