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2005.05.06

An Englishman's home is his castle.

 どちらかと言うとブラックジョークみたいだが、創作童話「博士(はくし)が100にんいるむら」(参照)ほど不正確でもなく、でも日本人にしてみると洒落にもならない話。ネタ的にはちょっと古い。先月米時間で二六日、ブッシュといっても弟、ブッシュ・フロリダ州知事が、フロリダでは市民が正当防衛で銃を行使してもよいとする新法に署名した。ロイターでは"米フロリダ州の新法、危機回避義務のない正当防衛認める"(参照)と普通の外信扱いだったが、エキサイト・ニュースでは、同じくロイターではあるものの、色ものの(((世界びっくりニュース)))"身の危険を感じたら相手を射殺してもOK フロリダ州の新法案"(参照)にしていた。日本のエキサイトは洒落だと思っているのだろう。
 従来なら、服部君事件(参照)のように、州によっては、不法侵入者と見なされる場合には、銃行使が認められていた。が、今回の立法では、結果的に、公共の場でごく主観的に脅威を感じた人が行使してもよい(正当防衛)とするもので、日本人の感覚からすると、冗談でしょ?的な印象を持つが、しかし、洒落ではない。
 共同”市民の武器使用を大幅緩和 米フロリダ州、新法に波紋”(参照)では今回の件について、次のように伝えていた。


 新法は、自宅や勤務先だけでなく公共の場所での武器使用も認める内容。警察関係者からは「酒に酔った野球観戦帰りの群衆に脅威を感じた場合など、不必要な発砲まで認められる危険がある」との指摘が出ており、新法は波紋を広げそうだ。
 法の制定を呼び掛けていた全米ライフル協会(NRA)は「新法は自宅を安全な“城”にするものだ」と強調し、他州でも制定を求める意向。

 記事はこれで終わるので、後段の“城”の意味が取りづらいか、あるいは日本人にもそのくらいは常識でしょということか、ちょっとネットを見回したのだが日本語のサイトには解説が見あたらなかった。
 ので、老婆心で補足すると、まず、自宅の居住者を守るために不審な侵入者を殺害してもよいというのを"The Castle Doctrine"という。が、英辞郎にも用語としては掲載されていなかった。で、ここでなぜ"城"が出てくるかというと、高校英語で誰も学んだと思うが、英語の諺である"An Englishman's home is his castle."または"A man's home is his castle."、つまり、「自分の家は自分の城」という諺に由来している。
 英語のサイトを見ると、辞書の孫引きとして"Re: An Englishman's (a man's) home is his castle"(参照)があり、これが英国コモンロー(不文律原則)との関連で指摘されている。

A MAN'S HOME IS HIS CASTLE - "This saying is as old as the basic concepts of English common law.," From the "Morris Dictionary of Word and Phrase Origins" by William and Mary Morris (HarperCollins, New York, 1977, 1988).
 
"You are the boss in your own house and nobody can tell you what to do there. No one can enter your home without your permission. The proverb has been traced back 'Stage of Popish Toys' (1581). In 1644, English jurist Sir Edward Coke (1552-1634) was quoted as saying: 'For a man's house is his castle, et domus sua cuique tutissimum refugium' ('One's home is the safest refuge for all'). First attested in the United States in 'Will and Doom' (1692). In England, the word 'Englishman' often replaces man." From "Random House Dictionary of Popular Proverbs and Sayings" by Gregory Y. Titelman (Random House, New York, 1996).

 今回のフロリダ州でのこの立法支持者による興味深い解説" The “Castle Doctrine”The right to defend against attack"(参照)でもこの点が強調されていた。

The “castle doctrine” is enshrined as a sacred right in English common law. It holds that, if you’re wrongfully threatened or attacked in your home or on your premises, you have already retreated to the wall and can stand your ground and meet force with force.

 日本人の感覚からすると呆れるし、そんなにフロリダって危険なの?とか思いがちだ。はてなQでもこんな質問が立っていた(参照)。

「身の危険を感じたら相手を射殺してもOK フロリダ州の新法案 | Excite エキサイト : ニュース」http://www.excite.co.jp/News/odd/00081112929445.htmlというニュースを読みました。ビックリしました。フロリダってそんなに危険なのでしょうか? 日本にいるとこの法律の必要性が分かりません。マイケル・ムーアの「ボウリング・フォー・コロンバイン」とかは見ましたけど。フロリダでこのような法律が必要とされている事情について、アメリカに詳しくない人でも分かりやすい、詳しいページがありましたらお願いします。

 しかし、そういう話のスジでもなく、英米法の法学的にもそう簡単な問題でもなさそうだ。
 なお、先の支持者サイトに次のようにあるように、米国社会では、この法案をSenate Bill 436 (SB436) / House Bill 249 (HB249)として参照している。

Two companion bills (Senate Bill 436 and House Bill 249) would allow Floridians to use deadly force to resist attacks in their homes or vehicles. Proponents say current case law is fuzzy, especially in the hands of liberal judges, when someone breaks into your house or car.

 この法案が実施されるとフロリダはどうなるのか? エキサイトのニュースでは次のようなコメントで締めていた。

反対者は、この法律は人種差別的な殺人と議論の果ての殺人が増加する可能性が高まるとしている。民主党のアーブ・ソロスバーグ議員は「この法案で、銃の販売が促進され、フロリダ州はOK牧場になってしまうだろう」と嘆いた。

 実際にそうなるのだろうか。私は、率直なところ、こんな法律はまったく支持できないが、すでに立法してしまったのだから、結果を社会学的に慎重に見てはどうかと思う。なんとなくだが、私の印象では、典型的な事件発生よりも、警察のあり方も大きく変わるのではないかと思う。
 現状このフロリダの傾向はまだまだ主流にはなっていない。アリゾナ州の場合は、州議会レベルで、酒場に銃を持ち込んでもよいとする法案が成立したが、ジャネット・ナポリターノ(Janet Napolitano)知事(民主党・女性)の拒否権(Veto)によって廃案になった。話が少しそれがちだが、アリゾナ州の政治というのは、ある意味で非常に面白いもので、日本の政治にも参考になる点はあるかもしれない。ネットを見渡すと、やや古いが"女性躍進のアリゾナ州政府"(参照)が手際よくまとめていた。

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コメント

finavelntさん、こんにちわ、

笑われてしまいそうですが、米国の小学生の歴史教科書というのをふんふんいいながら読んでいます。

ISBN:4902928000

我々がほんとうに当たり前だと思っていることが、米国の移民の当時や建国の当時ではまったくあたりまえからほどとおい状態だったのだなと感じております。

ハンドガンに関する規定や、民兵=militia、圧力団体など、今回の条例制定にはいろいろな事情があったのではないかと愚考いたします。

投稿: ひでき | 2005.05.06 15:13

フロリダの治安という部分でとっさに思い出したのが、今から15年ぐらい前、アメリカに留学していたときのことです。
冬休みにディズニーワールドに行くことになったのですが(フロリダは暖かいので)、空港からホテルに向かうバスが高速の料金所で止まったとき、ピストルの絵が目に付きました。
こちらに銃口が向けられている絵で、「不審な動きをすると、いきなり撃つこともあるぞ」みたいなことが書かれていたと記憶しています。
ディズニーワールドの中は平和そのものでしたが、「これがアメリカなんだなぁ」とつくづく感じました。

投稿: つきっつ | 2005.05.06 16:41

アメリカで敷地内に侵入したら撃たれるかもしれない、という恐怖は、バトンルージュでの服部くん射殺事件で身にしみました。
が、その正当性がイギリスのコモンローに依るというのは、はじめて知りました。
慣習が先か、法が先かはわかりませんが、アメリカの風土から銃の個人使用を占め出すのは難しそうですね。
ただ、弟ブッシュ知事で法制化というのが、いかにも危なっかしいというか。ブッシュ家の単純に過ぎる物事の進め方は、いったいどんな要素に起因するのか、知りたいところです。

投稿: じゃがりこ | 2005.05.08 23:07

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受信: 2005.06.11 17:13

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