北朝鮮核化の新動向
29日時事通信で”北朝鮮の核ミサイル、米攻撃可能=国防総省局長が議会証言”(参照)というニュースが流れた。話は、米国時間で29日、国防情報予算の公聴会で米国防総省ジャコビー国防情報局長が、北朝鮮にはすでに核弾頭をミサイルに搭載する能力があると証言したということだが、該当の時事では、標題のように「米攻撃可能」というのが浮き立つ。
同種の報道は28日付けニューヨーク・タイムズ”U.S. Aide Sees Nuclear Arms Advance by North Korea”(参照)にあるが、少し控えめな表現になっている。
WASHINGTON, April 28 - The head of the Defense Intelligence Agency said Thursday that American intelligence agencies believed North Korea had mastered the technology for arming its missiles with nuclear warheads, an assessment that if correct, means the North could build weapons to threaten Japan and perhaps the western United States.
これに対して、AP"DIA: N. Korea Can Arm Missile With Nuke"(参照)では次のように、米国には届かないこと、また搭載作業が完了しているかついて、言明はなかったとしている。
WASHINGTON Apr 29, 2005 - The Defense Intelligence Agency chief says North Korea is able to arm a missile with a nuclear weapon, but hasn't said whether it has done so or if such a missile could reach the United States.
時事の該当記事はやや勇み足のようには思われる。
国内大手新聞社では、読売新聞”北、弾道ミサイルに核搭載可能と米国防幹部”(参照)と日本経済新聞”北朝鮮、ミサイルへの核搭載も可能・米大統領が見解”(参照)を見かけた。あまり重視されているふうではない。
欧米紙では、先週ウォール・ストリート・ジャーナルで報道された北朝鮮核実験準備のニュースと同様に重視されているようだ。話が少しこちらの問題に逸れるが、北朝鮮はすでに寧辺の原子炉の運転を停止しているが、これは、特に陰謀論というわけでもなく、使用済み核燃料の再処理から核爆弾用プルトニウム製造を意図していると言っていいだろう。29日付け朝日新聞社説”北朝鮮の核 「6者」に戻るしかない”(参照)も奇妙な文章だが要するにそれを認めているにもかかわらず、次のような奇妙なレトリックで外交駆け引きという話題への誘導を行っている。
北朝鮮は2月の外務省声明で核兵器の保有を言明した。衝撃的な表明ではあったが、米国などの反応は比較的静かなものだった。
北朝鮮がすでに1、2個の核を持っているかもしれないというのは織り込み済みだったし、脅されて動くのはうまくない。イラクや、同じく核疑惑が深刻になっているイランへの対応で手いっぱいだったという事情もあった。
それならもうひとつ、危機の目盛りを上げよう。今回の原子炉停止には、そんな狙いも透けて見える。
現状認識を除けば、この文章は変なレトリックだ。確かに北朝鮮の核兵器の保有の話は日米政府には衝撃的ではなかったが、今回の核爆弾用プルトニウム製造疑惑と核弾頭搭載ミサイルについては、米紙の報道の扱い見ても重視されている。もちろん、だからといって日本の社会がパニックを起こす必要もないのだが、朝日新聞が誘導したいような話のスジではない。
話を冒頭の時事報道におけるジャコビー国防情報局長の証言に戻す。
ヒラリー・クリントン上院議員が、北朝鮮はミサイルへの核搭載が可能かと質問したのに答えたもので、ジャコビー局長は「それを行う能力があると見ている」と証言。同時に、米国を直撃できる二段式の大陸間弾道ミサイルを展開する能力についても、「北朝鮮の能力の範囲内だ」と語った。
関連の話題は28日付ニューヨーク・タイムズ” Agency Says North Korea Able to Mount Warheads on Missiles ”(参照)などが詳しい。現状のままだと状況はかなり悪くなる。
But he appeared to be putting a final conclusion on a study the intelligence community has had under way for at least two years. In 2003, the United States warned South Korea and Japan that satellite imagery had identified an advanced nuclear testing site in a remote corner of North Korea where equipment had been set up to test conventional explosives that, when detonated, could compress a plutonium core and set off a compact nuclear explosion.
少しくどいがワシントン・ポスト”Intel: N. Korea May Have Nuke-Missile”(参照)もひいておく。余談だが、引用中のClintonは、Hillary Rodham Clintonのことである。今後はまさにそうなっていくのだろう。
U.S. intelligence believes a two-stage Taepo Dong 2 could hit Alaska, Hawaii and perhaps parts of the West Coast. North Korea also has shorter-range missiles which, some officials have said, may be able to carry a nuclear warhead as far as Japan.Clinton said Jacoby's testimony was "troubling beyond words."
以上の話が直接的な背景というわけではないのだが、米ブッシュ大統領は北朝鮮について国連安全保障理事の決議について言及してきている。CNN”北朝鮮核問題、安保理論議の選択肢に言及、米大統領”(参照)を引用する。
ブッシュ米大統領は28日夜、ホワイトハウスで記者会見し、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発問題で、日米中などの6者協議で「総意が得られれば」、経済制裁を議論する国連安全保障理事会に委ねる措置もある、と述べた。大統領自身が、安保理論議に触れたのは異例。北朝鮮が反発を強める可能性がある。
おそらく日本人の感覚としては、こうしたニュースに対して、「またブッシュが」といった印象を持つことだろう。イラク戦争の際と同様に「ブッシュがまたふかしているな気をつけようぜ」といった感じでもあるだろう。あるいはミサイル防衛との絡みも連想される。先の日経新聞の記事でもこうあった。
同証言を受けて会見したブッシュ大統領は「金正日(北朝鮮労働党総書記)が(核ミサイルを)発射できるなら、米国がそれを迎撃できることが望ましい」と述べ、ミサイル防衛構想を推進する姿勢を強調した。
しかし、欧米紙のニュースを追っていくと、ある意味でイラク戦争開戦の反省を踏まえたうえで今回このニュースを重視している印象も受ける。日本からそう見えないとすれば、こうしたニュースの累積がこれまで薄かったからではないか。例えばBBCが提供する北朝鮮核問題の経時的なまとめ”Timeline: North Korea nuclear crisis”(参照)を見れば、イラク開戦前の単発的な情報混乱とは異なる様相は見て取れるはずだ。
現実の問題として、日本ではこの北朝鮮核搭載ミサイル可能性の問題をどう受け止めていいのかは難しい。社会パニックになることは避けたいし、頓珍漢な予想みたいのはしたいわけではないのだが、このまま北朝鮮を追いつめていけば、核実験を行うしかなくなるだろう。そうなってから、日本の世論なりの立て直しが可能かというと、よくわからない。ある程度関心をもつ人が、現状では、できるだけ細かくニュースを追っていく必要はあるだろう。
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コメント
冷静に考えれば、「世界中が核兵器の拡散防止」に動いているからこそ、北朝鮮は核兵器の開発に取り組んでいるのであって、北朝鮮と言う国が「人道的で世界の平和に向けての活動」などすることは絶対に無いわけですよね。 「世界が嫌がる事」これに向けてひたすらまい進するしかない 寂しい生き物。 従って協定とか条約などはこの生き物には意味が無いし、それを取り上げて議論する事自体無意味。 この生き物を生かしておくのか?抹殺するのか? ですが、一昔前のように「抹殺」するわけにもいかず、結局どのような形で「生かしておくか」。 ただ、核兵器の開発にしても、彼等にとって重要な事は「開発している」「開発した」「米国を直撃出来る性能」という「情報そのもの」が一番肝要なのであって、それに対して「世界が一喜一憂」してくれる事が最大の目的。 北朝鮮という国の存在を世界に知らしめるには「核兵器の開発云々」しかないという悲惨なというか、お粗末と言うお話。 「花見の季節です」などと平和で楽しいお話等していないで、せっせと世界中で「大騒ぎ」してやる事がこの子供の国にとって大切なのですね。
投稿: jhonasan | 2005.04.30 10:35
アジアにミサイル防衛構想を推進させるのに格好の事実が発覚して、ミサイルを売る業者は、うはうはですね。イラク戦争で拡張した生産販売ラインも利用できますし、設備投資も無駄になりませんし。北朝鮮側からしたら、必死なんでしょうけど、結果的に誰かの手のひらの上で転がされてしまうのでしょう。哀れですね。
投稿: toorisugariAsan | 2005.04.30 12:36
ブッシュが安保理に言及したのは初めてでは?日本人としては、アメリカが真剣に取り組むのを期待するために、テポドン2の開発が
核兵器と平行して進むのを期待したいところですが・・・北朝鮮も期待に応えてくれる気がします
投稿: popper | 2005.04.30 20:02
ミサイルもお金がなければ作れません
http://www.geocities.jp/shinobu2005japan/01pachinko.html
投稿: しのぶ | 2005.09.09 01:14