フリーターについて
先日極東ブログ「ニートについて」(参照)というのを書いて、さて、フリーターは?と気になった。この機に書いてみたい。
毎度ながら語義から。定義はすぐに見つかった。内閣府「平成15年版 国民生活白書」 ”第2章 デフレ下で厳しさを増す若年雇用 第3節 フリーターの意識と実態”(参照)にある。
なお、本章では、フリーターを、15~34歳の若年(ただし、学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意志のある無職の人と定義している(注13)(第2-3-1図)。その際、「学生」、「主婦」を除いて分析を行うのは、学業や育児などの傍ら、自ら選んでパート・アルバイト、派遣労働等に就く場合が多い「学生のアルバイト」や「主婦のパート」の議論と区別するためである。
厳密な定義ではなくて暫定的なものらしい。引用にある注13はこうだ。
(注13)働く意志はあっても正社員としての職を得ていない若年を広く分析の対象としている。すなわち、厚生労働省が「労働経済の分析」(平成12年版)で定義したフリーター(パート、アルバイトとして就労している人、またはパート、アルバイトを希望している無職の人)のみならず、いわばその予備軍も含めた広い範囲の人を対象としている。例えば、派遣労働者、嘱託、正社員への就業を希望する失業者なども含まれる。なお、厚生労働省の定義によればフリーターの数は2000年で193万人となる。
さらに以下の説明もある。内閣府がどう考えているのか知る意味でこれも引用する。
しかし、デフレ下で長期的に経済が低迷する中で、雇用環境は厳しくなり、近年では、正社員を希望していてもやむを得ずパート・アルバイトなどになる人が多い。
こうした現実を重視して、ここでは働く意志はあるが正社員として就業していない人を広くフリーターとしてとらえ、分析を行うこととした。
ようするに就労可能で正社員じゃなければ全部フリーターということだ。
個人的には、バイトだろうが仕事をして生活をしているならうだうだ言われるスジはねーよと、も思うが、内閣府も、無意味にうだうだ言っているわけでもないのだろう。同じ仕事をしていても、正社員とフリーターで賃金や福利の面で格差があるならいかんよと、とれないこともない。そうであるなら、会社の制度を変えるべく(同一労働に対する正社員とフリーターの差を無くす)、行政的な対応をすればいいのではないか。
が、内閣府の言い分は、そうでもなさげでもある。問題をフリーターの側に回しているようだ。”フリーターの職業能力”(参照)ではこうある。
実際にフリーターの職業能力はどの程度あるのだろうか。職業能力として具体的に比較が容易なパソコンの能力についてみると、フリーターは、正社員に比べ全体的に作業可能な人の割合が低くなっている。こうした傾向は、フリーターを高卒と大卒に分けてみても同様にみられる。パート・アルバイトとして働いていても、正社員であれば身につけられる職業能力を得る機会が乏しいことを示している(第2-3-7図)(付表2-3-3)。パート・アルバイトから正社員への転職が難しいのは、職業能力が低いことも一因であると考えられる。
好意的に見るなら、フリーターの人たちは正社員にならないと職業能力は身に付かないよ、と内閣府は言いたいらしい。露悪的に言うと、能力がないからフリーターなんだよとも取れないことはない。制度的な問題から逃げている印象はある。
内閣府ではないが、就労に関わる厚労省も同じ路線上で、こんなことも考えているらしい。12日付け日本経済新聞”若者自立塾など活用・フリーター20万人を常用雇用へ”(参照)が興味深い。
厚生労働省は11日、2005年度の若年向け雇用対策について、合宿型で就職能力を高める「若者自立塾」などを活用し約20万人のフリーターを常用雇用に転換する数値目標をまとめた。雇用の安定しないフリーターや職探しもしない無業の若者の増加が深刻なため、明確な目標を定めて政策の実効性を高める。
これには正社員のほうが職業能力が高いという前提がある。常識的に日本の現状を考えると、それは、概ね、正しい、と言えるだろうし、正社員となることでそうした職業能力を高めることができるだろう。正社員になれるチャンスがあれば若い人は活かしたほうがいい。
同時に常識的に言って、職業能力が高い=正社員、というだけでもない。というのも、現状、企業では正社員を減らし、その分の労働力をフリーターに切り替えて、その差分で企業益にしているからだ。切り替え可能な能力があるということだ。
こうした正社員をフリーターに置き換えていく傾向はこのままでは今後も変わらないだろう。結局、行政的に無理矢理数合わせでフリーターを正社員にできるかということになりそうだが、政府や産業界はできると考えているのだろうか。そこがよくわからない。
私は、今後の日本は、会社と職能向上の場を切り離し、さらに労働者を保護するという点から会社下の組織じゃない職能的な組合育成のような方向に向けるべきではないかと思う。職能別労働組合とか言わなくてもいいから、職能ごとにパートタイム労働者を支援するNPOができて、それによって、そういう労働者でも普通に(多分に貧乏だろうが)暮らせるよ、という社会を目指すべきなんじゃないか。しかし、それも空論かもしれない。
この問題について極東ブログ「OECD対日経済審査報告と毎日新聞社説でちと考えた」(参照)で触れたOECD対日経済審査報告の"Economic Survey of Japan 2005: Improving the functioning of the labour market"(参照)をこの機に読み返すと、明確な単純な提言が盛り込まれていた。
Reducing employment protection for regular workers could reverse this trend by preventing the adjustment of the workforce from falling disproportionately on young people.
OECDの報告書ではフリーターという言葉をいじるのではなく、"non-regular employment"(正社員ではない雇用)としているのだが、あえてフリーターという言葉で意訳すると、「若年層のフリーター増加という日本労働状況の不均衡・不公正を改善するには、手厚すぎる正社員の社会保障を低減すればよいだろう」となるだろう。
なんだ、そういうことか、と思うのだが、日本の現状では、ある一定の社会的な層に組み込まれた人間だとそんなことはおくびにも出せない空気がある。
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コメント
マイドオセワになっております。
その昔、正社員ではなくパートなどに従業員を切り替え、雇用の門戸を広げてゆくのが良しとされる時代がありましたね。それが流行のような時代が。今はその逆でしょうか。思えばゆとり教育もそう、ゆとりが徳とされた時代がありましたが、ゆきすぎてエラいコトになっちゃた。どうも匙加減が上手くないようですな。アタシも、正社員とフリーターやパート間で実質的な能力格差があるとは思えません。パートやバイトでも、出来るヒトは「スチャラカ社員」以上に切れ者です。問題はぬるま湯につかっちゃってる正社員のような気がしないでもないのですが。パートやバイトで人件費圧縮して、その分を正社員の賃金に割り当てちゃってる会社も多いのに、ナンダカなぁと思ってしまうワケですよ。
投稿: Nagarazoku | 2005.04.14 10:38
つまり政府や産業界に言わせると私のようなフリーランスもフリーターと言う訳ですね。
ただ正直なところ、finalventさんが最後に書かれたようなシステムの修正をすりためには、一度IMFの管理下になるくらいの大規模なクラッシュでも起きないと駄目な気がします。
投稿: エフ | 2005.04.14 10:44
表の方でもこんにちわ。
私もエフさんと同じフリーランス。しかも専門職。他の人はできません。
やぁ、予想通り。
やっぱり私もニートにクラスチェンジですよ。
真面目に納税もしているしNHKだって、国民年金も昨日から払い始めたのに。
俺の時間は俺の物。俺の稼ぎも俺の物。
よって、二度とサラリーマン(正社員)になるつもりはありません。あー、ムカツクー、思い出せば出すほどムカツクー。
そして、同時にサラリーマンという存在が嫌い。スミマセン、これに関しては冷静ではいられないです。
投稿: きんげいと | 2005.04.14 13:29
私もフリーランスで、学生でもあります。私もフリーターなのかな。で、会社に勤める、正社員になるなんてもう永遠にないから、ニートともよばれるのかしらん。
投稿: むぎ | 2005.04.14 17:07
いつも勉強させて頂いております。私もフリーターについて記事を書きましたので、拙文をTBさせて頂きました。
投稿: まさくに | 2005.04.14 18:02
結局、正社員とフリーターで福利厚生負担にに差があるから、企業がフリーターに雇用を切り替えてるだけでしょう。
企業の人件費削減策にすぎないんだから、フリーターにも福利厚生負担を義務づければ、すぐ解決でしょう。
もっとも財界や労働組合には絶対にできない解決法だろうけどね。
投稿: Baatarism | 2005.04.14 20:03
>企業の人件費削減策にすぎないんだから、フリーターにも福利厚生負担を義務づければ、すぐ解決でしょう。
そうしたら、企業が正社員だけでなくフリーターの採用にも消極的になって失業が増えるのでは?
フリーターへの福利厚生の企業負担を正社員並みに増やすのではなく、
むしろ正社員の福利厚生の企業負担をフリーター並に減らすことで、
フリーターとの企業負担の差をなくして
社会保険は雇用形態に関係なく、
個人負担にして一元化してしまうのがいいと思います。
投稿: (anonymous) | 2005.04.17 15:16
いくつか歴史的経緯・法律的問題・国際比較の観点を見落としたコメントがあるように見受けられます。
1、現在、日本の正社員に対する年金支給額・保険等の福利厚生を国際比較した場合、日本がダントツのトップです。但し、それと同時にパートタイマーに対する福利厚生・年金は少なくともOECDの中で日本は最低です。
(その代わり正社員に対する労働時間は先進国中トップですし、それにサービス残業を考慮した場合、現在の為替レートを考慮しても時間給ではおそらくG7の中で最低のはずです)
2、雇用している正社員に対してなぜ企業は福利厚生の企業負担を担っているのか?
a,税金上の優遇処置があるため。
b,ほとんどの人が見落としていますが歴史上の経緯からみると企業年金とは実は「賃金の後払い」なのです。つまり、
本当は雇用者に支払うべき賃金を一定割合プールする。→(ゼロ金利時代が続いているためほとんどの日本人は忘れているが実は)そのプールしている金を運用することにより金利がつく。→その分だけ企業は実際の支払い額を減額できる。
(それに実はその上がりの一部を企業は「特別利益」として一定割合自分の勘定に入れることができました。この上がりがバブル崩壊までは結構な金額だったのです)
で、解決策ですが、過去finalventさんは否定されていましたが、オランダ方式がすぐれていると私は思えます。
つまり正社員とパートタイマーの全ての格差をなくし。「同一労働同一時間給」とし、福利厚生費の格差も同一水準とする(実際に正社員に対する賃金水準、及び福利厚生水準をオランダは下げました)。その代わり企業も正社員に対する過剰労働を更正する。
別にIMFの介入がなくとも10年という時間をかければ労働システムの変革は可能だと私は思います。
投稿: F.Nakajima | 2005.04.17 20:33
はじめまして。先日NHKの格差社会に関する討論番組を見て、フリーターの定義とはなんぞや?と落ち着かない気持ちになりました。そのときに書いた記事をTBさせてください。過去記事なのでこちらのリンクがはれなくて申し訳ありません。
投稿: ビアンカ | 2005.04.18 19:07
一度、フリーターで過ごすと、それがマイナス点になるのが痛すぎる
プラスとは言わない
マイナスだけは勘弁してって感じ
投稿: ともーん | 2006.08.01 21:42