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2005.04.27

アルメニア人虐殺から90年

 日本ではそれほど関心が寄せられなかったが、この24日、第一次世界大戦中、当時のオスマン・トルコ帝国領土内として起きたとされるアルメニア人虐殺事件から九〇周年の催しが世界各地で開催された。
 日本語で読める関連記事としては朝日新聞”アルメニア人虐殺から90年 パリなどで追悼の催し”(参照)があるがあまり詳しくない。アルメニアの首都エレバンでの追悼集会の模様は、英語だがCNN”Armenians mark Ottoman killings anniversary”(参照)も参照されるといいだろう。ハリウッドでの催しはAP”Armenian Americans march in Hollywood remembering mass killings”(参照)などが伝えている。

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アララトの聖母
 ハリウッドといえば映画だが、カナダ映画「アララトの聖母」を通して、初めてアルメニア人虐殺の史実を知ったという人も少なくはないだろう。と言いつつ、私もまだこの映画は見ていない。映画の題にもあるアララトは、旧約聖書でノアの箱船が洪水後に到達したアララト山を指している。アルメニアは古代からキリスト教と縁の深い土地柄でもあった。
 アルメニア人虐殺について、先の朝日新聞の記事では、次のように簡単にしか触れていない。もっとも、この点が現代的な問題ではある。

 アルメニア政府は、迫害による死者を150万人とし、トルコ政府に対して虐殺の認知と謝罪を求めている。だが、トルコ側は死者はずっと少なく、しかも通常の戦争の犠牲者だとして虐殺の事実を認めずにきた。

 Wikipediaには詳しい説明が「アルメニア人虐殺問題」(参照)の項目にある。

 19世紀末と20世紀初頭の二度にわたり、オスマン帝国領内でアルメニア人に対する大規模な迫害が起こったことが知られている。これを「トルコ国家」によるアルメニア人の組織的虐殺であるとみなす人々は、この一連の事件をアルメニア人虐殺と呼んで非難している。
 二度の迫害のうち、一度目はアブデュルハミト2世専制期の1894年から1896年にかけて行われた迫害・襲撃、二度目のそれは第一次世界大戦中の1915年から1916年にかけて統一と進歩委員会(通称は統一派、いわゆる青年トルコ党)政権によって行われたアルメニア人の強制移住を指す。二度目の迫害では数百万人単位の犠牲者が出たと言われ、「アルメニア人虐殺」といえば狭く二度目のそれを言うことも多い。

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人間喜劇
 この強制移住の結果アルメニア人は世界に散らばることにもなった。「人間喜劇」の作者ウイリアム・サローヤン(William Saroyan:1908-1981)はその作品に暗示されるように米国二世だが、背景にはトルコの迫害の歴史があったようだ。他に私が親しんだアルメニア人というと、神秘家ゲオルギー・イワノヴィッチ・グルジェフ(Georges Ivanovitch Gurdjieff:1877?-1949)がいる。彼の出生には不明な点が多いが、その作品と思想からは明確にアルメニア文化が読みとれる。そういえば、私事だが、北部ギリシアの旅で数日ともにした同年代の米人もアルメニア人の子孫だと言っていたことを懐かしく思い出す。
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注目すべき
人々との出会い
 今回の国際的な催事に際しては、米国ブッシュ大統領もアルメニア人の主張をサポートするような異例とも言える声明を出していた。なぜかこの点だけ日本経済新聞”米大統領が有志同盟びいき?アルメニアの肩持つ発言”(参照)が伝えている。

 ブッシュ米大統領は24日、第1次世界大戦中のオスマン・トルコによるアルメニア人殺害事件から90周年を記念し声明を発表、同事件を「大量殺人」と表現した。「大量虐殺」だとするアルメニアと「戦争中の行為」とするトルコは隣国ながらいまだに外交関係がない。トルコ側の反発を招く可能性がある。

 記事ではさらに、今回のイラク戦争でトルコが米軍の基地使用を認めなかったことが背景だろうと推測しているのだが、湾岸戦争のおりのトルコに対する米国の恩義を考えるとあまり妥当だとも思われない。
 アルメニア人虐殺問題の関連で、トルコに対する対応が複雑なのはEU、つまりフランスも同じだ。昨年のEU会議で将来的にトルコをEU加盟とする道筋をつけたものの、フランスは、アルメニア人虐殺への謝罪要求、つまり、おフランス的な追加注文も出していた。
 現代トルコとしては、こうした歴史問題は、なにかと対応しづらいものでもあるだろう。日本も類似の問題を抱えていると言えないでもないので、こうした歴史問題にどう取り組むべきか考えさせられることがあるのでは……とも思うのだが。

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「歴史」カテゴリの記事

コメント

目配りのきいた話題と視点のいい論評に、いつも学んでいます。
アルメニア人たちは、この日を決して忘れまいとしているのでしょう。6年前のこの日、ニューヨークのタイムズ・スクエアを通りかかったとき、真ん中の空き地に折りたたみ椅子を並べ、多くの人が参加して、追悼式典が行われているのを見ました。そのために交通遮断もされていました。多民族都市NYでは、公式の許可をもらって、こんな場所で式典をし、多くの人にアピールすることが許されているようです。

投稿: アク | 2005.04.27 10:31

トルコのダーク面としてはクルド人迫害と比較してどういうもんなんでしょうか
映画「少女ヘジャル」みたかったんですが

投稿: TTJ | 2005.04.28 15:25

TTJさん、こんにちは。直接の回答ではないのですが、以下の、過去エントリなどもご参考にしてください。

極東ブログ: 幻想のクルディスタン、クルド人
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2004/01/post_67.html

投稿: finalvent | 2005.04.28 15:38

ギリシャがEU議長国だったとき、おととしあたりですが、ギリシャはトルコを会議に招待し、EU加入を賛成する姿勢をとりました。それまでEUの一か国でもトルコ加入に反対するのであればと入れないという姿勢でした。ギリシャの反対のせいにしていました。
フランスのジスカールデスタン元大統領が言っています。
「EUにトルコが入ったら、トルコがEUになるのではなく、我々EUがトルコになるのだ!」
現在ギリシャとトルコの首相は極めてよい関係にありますが、どういうわけかこのように友好関係を築こうしているときでももトルコ軍隊がギリシャの領海侵犯しています。エーゲ海の島の住民たちを恐怖を感じています。そういう報道はトルコではしないのです。フランスだけはいつもギリシャに肩を持ち「図々しい行為」と言ってくれたりします。ドイツはダメ!いい人たちですが、たくさんのトルコ人が国籍を取っているからです。

投稿: lemonodasos | 2005.05.01 04:22

lemonodasosさん、こんにちは。

ご指摘のとおりギリシアとトルコ(加えてキュプロス)は今後EU関連で重要になっていくと思います。

ところで、ブログ拝見しました。アテネにお住まいなのでしょうか。写真など懐かしく思いました。

極東ブログ: アテネの思い出
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2004/08/post_8.html

投稿: finalvent | 2005.05.01 13:01

私はギリシャに住んでいます。アテネの思い出を読ませていただきました。

投稿: lemonodasos | 2005.05.02 08:25

「極東ブログ」を楽しんでいる者です。
僕はアルメニアに滞在していた事があるのですが、
僕の場合はブログで語れるような才能が無くて、
もっぱら現地放浪が主体です。
体験したアルメニアの様子を下記HPにまとめています。

http://www.geocities.jp/putniki/

投稿: Samovar | 2005.05.07 06:35

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» ささやかなアルメニア人の心の痛むの記念日 [日刊ギリシャ 檸檬の森]
4月24日はアルメニア人の虐殺追悼の日   ギリシャの首都アテネのシンダグマ広場を歩いていたら、アルメニア人がテントを張って、アルメニアの地図とトルコ人から受けた大虐殺の内容のパンフレットを配っていました。テントの中には虐殺の様子を撮った写真が展示されていました。  1915年4月24日から始まったアルメニア人虐殺はトルコに住んでいた少数民族を震撼させました。虐殺のその数は150万人です。なんという数でしょうか?!そのときから90年がたちました。  1920年の小アジアのトルコと現在呼ばれ... [続きを読む]

受信: 2005.05.01 04:03

» トルコEU加盟とアルメニア問題 [ラテンなニュース]
先週末、1915年のトルコによるアルメニア人虐殺が90周年を迎えたのにあたり、フランス各紙はこの事件に関する記事をこぞって掲載した。この問題の概要を23日付けのリベラシオン紙の記事ほかに基づきまとめると以下の通り。 この事件に関しては、トルコ側の主張とアルメニア側の主張が大きくへだたっている。すなわちトルコ側は、当時トルコを侵略しつつあったロシアとアルメニア人との連携がそもそもの原因であるとするとともに犠牲者数を30-50万人としているのに対し、アルメニア側は150万人が殺害されたジェノサイドに... [続きを読む]

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