ブログとニュースの情報経路についてのケース・スタディ
ブログ論的な話はあまり扱わないようにしたいと思うようになったのだが、今回は少しそれに関連するかと思う。話はある種、検証の過程でもあるので、多少読みづらいかもしれない。三例挙げてみる。最初におことわりしておくが非難・批判の意図はない。
一例。昨日エキサイトの「ブログニュース」(参照)で見かけた「知識の泉 Haru's トリビア」という人気の高いブログの”コンピューターに頼り過ぎた教育で学力低下に!!( ̄□||| ”(参照)というエントリで気になることがあった。冒頭を二段落分引用する。
算術、読み書きにもマイナス
コンピューターに頼り過ぎた教育は学力低下を招く!
(yahoo news 3/21)
学校の授業でコンピューターを使う機会が多ければ多いほど、算数や読み書きといった基本的な学力が低下する傾向にあるという新たな調査結果が報告され、コンピューターが学力向上に有効という以前の調査報告とはまったく逆の形となったことが伝えられた。
5年前に行われた別の調査では、自宅にコンピューターがある生徒は、コンピューターを持たない生徒よりも学力面で1学年進んでいるとの結果が報告され、コンピューターが学力向上に有効である点が強調されていた。
気になったのは内容についてではなく、どっかで読んだという感じだった。記憶を辿って調べた。これは先月20日ころ、ブログ「雅楽多blog」の”コンピューター教育は学力低下をまねく?”(参照)などでよくクリップされていた記事と同じだ。
この時点で各種ブログなどでよくクリップされたのは、JAPAN JOURNALというサイトの”3/21 算術、読み書きにもマイナス――コンピューターに頼り過ぎた教育は学力低下を招く!”(参照)という記事である。こちらも冒頭を二段落分引用する。
3/21 算術、読み書きにもマイナス――コンピューターに頼り過ぎた教育は学力低下を招く!
学校の授業でコンピューターを使う機会が多ければ多いほど、算数や読み書きといった基本的な学力が低下する傾向にあるという新たな調査結果が報告され、コンピューターが学力向上に有効という以前の調査報告とはまったく逆の形となったことが伝えられた。
5年前に行われた別の調査では、自宅にコンピューターがある生徒は、コンピューターを持たない生徒よりも学力面で1学年進んでいるとの結果が報告され、コンピューターが学力向上に有効である点が強調されていた。
ご覧のとおり、「知識の泉 Haru's トリビア」とまったく同じである。時間的な経緯で考えると、JAPAN JOURNALから転載されたものかとも思うが、こちらのサイトには次の注意書きがある。
(C)1999- 2004 JAPAN JOURNALS LTD. All rights reserved
*本ホームページ中の記事を無断で複写複製(コピー、ペースト)することを厳禁します。
無断で複写複製は厳禁されているので「知識の泉 Haru's トリビア」が無断でJAPAN JOURNALから転載したものではないのだろう。この2つのオリジナルとなるニュースの出所があり、そこから両者が許可を受けて掲載したのだろうか。「知識の泉 Haru's トリビア」の該当エントリを見ると、(yahoo news 3/21)とあるので、Yahoo!にオリジナルのニュースがあり、そこから両者が提供を受けたのかもしれない。Yahoo!を少し調べてみたが、その点はわからなかった。
この2つの同一記事の内容について、情報の出所という点でわからないことがある。全文引用するわけにもいかないので、先の記事のはリンク先を読んでいただきたいのだが、記事の主眼は、学力調査であるのに、その調査を実施した主体についての情報が含まれていない点だ。誰がその調査をしたのかという話がない。
情報ソースを明示しないニュース記事の信頼性は乏しい。当ブログでも先日、エープリルフールの余興で嘘記事を書いたが、嘘というのは情報の出所でバレるものだから、そこをぼかすのに工夫した。
この記事には、英文なりのオリジナルがあるのではないかとも思ったが、英米圏のジャーナリズムにおいて、どこの調査機関か明示しない調査結果のニュース記事を書くとは考えにくい。JAPAN JOURNALのオリジナル記事だろうか。
関連した疑問も浮かぶ。JAPAN JOURNALにはUK Todayともあるので英国のニュースのようにも見える点だ。次のように英国を示唆する話も含まれている。
この調査結果にもかかわらず、英国政府は学校の各教科でコンピューターを使用した授業実施を推進。先週発表された今年度の国家予算案でも、学校へのコンピューター設備導入費として、これまでの25億ポンド(約5,000億円)に加え、さらに15億ポンド(約3,000億円)を投入することが伝えられた。
英国政府への批判記事のようにも読めるのだが、それを日本のJAPAN JOURNALがオリジナルで書いのだろうか。
類似の記事を英文で探してみた。これはすぐに見つかる。ガーディアン"Pupils 'do worse with computers' "(参照)もその一つだ。
Academics will today argue that the growing use of computers in secondary school classrooms and for homework could be leading to worsening performance in literacy, science and maths.An international study of about 100,000 15-year-olds in 32 different developed and developing countries suggests that the drive to equip an increasing number of schoolchildren in the UK with computers may be misplaced.
In a report to be given at the conference of the Royal Economic Society in Nottingham this week, Thomas Fuchs and Ludger Woessmann of Munich University say the research shows diminished performance in students with computers.
ガーディアンの記事には調査主体とその調査の指導者名が明記されている。締めくくりも興味深い。
Last week the chancellor, Gordon Brown, announced an extra £50m for information technology in schools - including moves to let pupils take computers home on "low cost" leases.
このガーディアンの記事では、Royal Economic Societyの調査をネタにしてゴードン・ブラウン財務相(参照)を皮肉ったものだ。この調査をもとに英国政府を批判しているとまでのトーンは感じられない。
例を変える。
ブログ界で注目のマトと言っていいだろうと思うが、ブログ「ブログ時評」の”BSEはメディアリテラシー力を問う [ブログ時評15] ”(参照)で、情報の経路という点で次の部分が気になった。
安全を担保できるのは全頭検査ではなくて、危険部位除去の徹底なのだ。輸入再開へ向けて検査を緩和するのか、政府から諮問を受ける、注目の食品安全委員会。その下にあるプリオン専門調査会を昨年8月から傍聴しているという「BSE&食と感染症 つぶやきブログ」は諮問内容から肉骨粉の混入防止策などが除外され「危険部位が除去された(ことが前提の)肉の検証」になりそうとのニュースに、眉をひそめている。
同ブログは、3月15日付「NYタイムズ紙が社説で『飼料管理、きっぱり改善すべき・必要なら全頭検査も』と主張」とのニュースも伝えている。社説の原文は台湾のサイトに転載された「The beef merry-go-round」で読める。ニューヨーク・タイムズまで全頭検査を言い出したのかと誤解しない方がよい。
気になったのは後段の書き方だ。ちょっとわかりづらいかもしれないが、特に気になるのはここだ。
「NYタイムズ紙が社説で『飼料管理、きっぱり改善すべき・必要なら全頭検査も』と主張」とのニュース
ここでニュースというのは、「全頭検査が必要とニューヨーク・タイムズが主張した」ということがニュースなのか、「ニューヨーク・タイムズの主張の要約が日本の新聞に掲載された」というニュースなのか。どちらなのだろうか。前者なら、ニューヨーク・タイムズのオリジナルの主張が対象となり、後者なら日本の新聞での要約が対象となる。つまり、オリジナルな記事が対象なのか、要約された二次的な記事が対象なのか。
前者だろうか。というのも、ブログ時評ではニューヨーク・タイムズ社説の原文をリンクで参照させようとしているからだ。
が、ここでさらに二つ疑問がある。
一つは、ニューヨーク・タイムズのオリジナル記事が対象であれば、このリンクはなぜ台湾のサイトなのか。もう一つは、ブログ時評では「ニューヨーク・タイムズまで全頭検査を言い出したのかと誤解しない方がよい」とあるが、この示唆は誰にむけたものなのか。ニューヨーク・タイムズのオリジナル記事をそう誤解しないほうがいいと示唆しているのか。なお、私がオリジナルを読んだ印象ではそのような示唆の重要性は少ないと思った。
ブログ時評で扱っている対象は、ニューヨーク・タイムズのオリジナルの社説なのか、あるいは日本の新聞に掲載された要約記事についての判断なのかが、この文章からはわからない。前者は一次ソースだが、後者は二次ソースなのでその区別は重要だろう。
ニューヨーク・タイムズ社説のオリジナルへのリンクがない点については、記者の団藤氏はコメント欄でこう補足している。
ニューヨーク・タイムズは登録しないと読めないことは多くの方が知っていることです。台湾サイトの転載自体は誉められたことではありませんが、読者がクリックすれば読めるサイトがあるのならと紹介したまでで、迷惑とか言う問題ではありませんよ。
これは日本のジャーナリズムの慣例なのかもしれない。だが、私には、情報の確実性という点で、台湾サイトに転載された文章が、ニューヨーク・タイムズ社説のオリジナルと同一であるとの保証はどこでなされていたのかが気になる。
最後の例題。これでこのエントリは終わりにしたい。
対象はブログではない。昨日の産経新聞記事”「反日」中国に不利益 米紙、社説で警鐘 要因は教育、経済関係損なう”(参照)だ。冒頭段落だけ引用する。
日本が国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指していることをめぐり、中国の複数のインターネットサイトが反対の署名活動や日本製品の不買運動を呼びかけているが、米紙ウォールストリート・ジャーナルは「魔人ジニーが中国のつぼから飛び出した」と題する先月三十一日付社説で、中国共産党の反日教育に要因があると指摘し、繰り返される不毛な対日批判は「中国自身の利益にもならない」と警鐘を鳴らした。主な内容は次の通り。(杉浦美香)
ここで「次の通り」と書かれているのだが、この「次」というのは、どこまでが「次」なのだろうかが、気になった。この新聞記事の終わりまでを指しているのだろうか。そう読めるようにも思う。
この記事の大半がウォールストリート・ジャーナル社説の要約だというのなら、これはウォールストリート・ジャーナルの意見を不確実に転載しただけに見える。
先のニューヨーク・タイムズ社説の扱いと同様に、これらを扱う日本の新聞の記事は二次的なソースにしかならないので、これらをさらにブログなどで扱う場合はオリジナルを意識するという注意が必要になるだろう。
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コメント
私が「極東ブログ」を好きな理由の一つが、ブログのニュースソースとして「(参照)」が付いていることです。
単にブログ主さんの情報源としてだけでなく、知らなかったサイトが沢山あって個人的にとても勉強になってます。
投稿: むぎ | 2005.04.05 23:47
はじめまして。
同じようなことを考えていたので、コメントしてみました。
MLB.JPを、たまに見るのですが、いつも、
ニュースの省略&つけたしが素晴らしいなあと感心してます。
MLBとオフィシャルに関係あるサイトだと思うのですが、MLB、あれでよく怒らないなと。
原文の人の名前まで載せてるのに、内容違うのってどうなのでしょうね。
投稿: 小女子 | 2005.04.09 20:31