最近のオーストラリア関連のちょっとした話題
日本国内では中国の対日デモの話題に隠れて日豪首脳会談はそれほど注目されなかった。会談の主眼は日豪FTAだが、その締結に向けた研究を二年程度かけて行うことで合意したとのことだが、悪しき先延ばし感が拭えない。日本の自衛隊を守る任務を受けてくれたオーストラリアに対して手厚く返礼すべきであると、先のエントリ「オーストラリア・ハワード首相には三倍返しが適当かと」(参照)で期待していたので私は残念に思う。
日豪関係はただこうした日本人の道徳観だけの問題ではない。中国の経済的なプレザンスが高まるなか、豪州と日本の連携はより重要になる。幸い官邸側にはその認識があるらしく、多少ではあるがその姿勢を明かにした。産経新聞”FTA研究 豪の中国シフト警戒 日本"うまみゼロ"”(参照)がうまく伝えている。
日豪間での自由貿易協定(FTA)を視野に入れた研究会の発足が二十日、首脳会談で合意された。農業分野の関税引き下げを警戒する農林水産省が猛反発し、通商担当者も「鉱工業品の関税はすでに実質的に撤廃されており、日本のメリットはゼロ」と断言する中での官邸主導の決断だ。その背景には、自衛隊のイラク派遣をめぐる日豪関係への配慮や、将来の資源外交をにらんで中国との関係を深めるオーストラリアを日本側に引き止めようする思惑もある。
まったく日本の敵は日本の中にありという感じだが、巨大国家は米国などでもそうしたものなのでだからこそ国策が重要になる。
ここで少し話の矛先を変える。ハワード首相や、イラク派兵反対の世論も強いオーストラリア国民はこの日豪首脳会談をどう受け止めたかというと、いや、それどころじゃないニュースがオーストラリアを覆っていた。
それは、九人のオーストラリアの若者が、国際的に非合法とされる芥子由来物質の運び屋としてインドネシアのバリ島デンパサール空港で捕らえられたことだ。インドネシアでは最も重い国家的な処分が予想される。ざっと見た限り日本ではこのニュースはあまり報道されていなかったようだが、ベリタ通信というサイトと連携したライブドアニュース(参照)で比較的詳しく読むことができる。比較的読みやすい記事はBBC"Nine Australians arrested in Bali"(参照)にもある。
日本語の記事に私の知る限り事実認識での問題点はないが、テーマをバリ島が問題拠点とするのは本質的ではないかもしれない。バリ島だと運搬者を観光客にまぎれやすいということだけだろう。他にも合成系がメルボルンで話題になったこともある(参照)。
とはいえ、バリ島に絡んだ同種の事件が目立つことも確かで、特に昨年十月に話題となった「オーストラリア人女性(27)」はいまだに英連邦では大きな話題になっている。国内で読みやすいニュースはないようなので、気になる人はBBC"Australia's Corby faces life"(参照)を参照されるといいだろう。こちらのケースではかなりの同情が集まったのだが、今回の九名については、もちろん十代の子どもも含まれているのでその点で同情される要素も大きいのだが、デンパサール空港での唖然とするような当時の映像なども公開されており、オーストラリアの受け止め方も異なってきているようだ。
今回のケースではオーストラリア当局も周到に動いたようだ。背後にはより大きな組織の存在が疑われている。
こうしたオーストラリアでの社会的な話題だが、直接的には日本にはまだまだ関係ないニュースだと言えるし、日本の場合は類似の分野でもより異なった問題がある。が、留意しておいてもいいことではあるだろう。
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コメント
>豪の中国シフト
ってことは、むしろ豪が中国リスク抱え込む、ということなんですよねぇ。
鉄鉱石なんか、一頃豪の港湾で出荷待ちで滞ってたのは、中国側の港湾の荷揚げ能力や国内輸送体制が貧弱で、受け入れできなかったからですし。
全体的に見れば日豪FTAは外交的メリットはあるかもしれないけど、産業政策的には日本にとってデメリットしかないのも事実。
やはり、9条の縛りで軍事的協力関係に動きにくいために、本来そっちで解決すべき問題が、経済方面にしわ寄せ来てる感じがします。
投稿: ■□ Neon □■ | 2005.04.23 09:51
オーストラリアの周辺国に、味方はいません。
こんな記事を見ると、どこかの国と似ていると
思いませんか?(w
http://www.abc.net.au/news/newsitems/200410/s1217805.htm
>While some countries look forward to tighter economic cooperation with Australia, others express concern about what they see as Mr Howard's interventionist foreign policy.
>Reaction was more cautious in Indonesia and Malaysia, where observers expressed hope Mr Howard might modify an interventionist foreign policy seen as too supportive of the United States.
>Indonesia, the world's largest Muslim-populated country, has had a sometimes tense relationship with its neighbour.
>After Malaysia took exception to the comments Downer specifically ruled out any such attacks on Indonesia, the Philippines, Malaysia or Singapore.
そんなオーストラリアでは、第一外国語の
科目で、日本語と北京語の次にインドネシア語が人気です。(w
日本の中国語、韓国語人気みたいだ
投稿: 在豪 | 2005.04.23 12:21
日本がオーストラリアと積極的に連携することができないのは東チモール問題があるからでは?東チモールの海底油田についてのオーストラリアの主張って、東シナ海のガス田についての中国の主張とまったく同じなんですよね。中国は試掘で寸止めしてるけど、オーストラリアは本格採掘に入っちゃってる。日本はインドネシアとの関係もあるし、オーストラリア軍のイラク派遣で何をバーターしたのかなと心配になるわけですが。
投稿: manstein | 2005.04.23 12:41
法体系や文化状況の異なる周辺国の犯罪組織に自国の不良や下層民やティーンエイジャーが利用されたり利用したりという関係や問題というのは難しいですよね。
そのオーストラリア人の運び屋はリスク管理と利得を秤に掛けて仕事を受けたのでしょうか?
まずはその辺の啓蒙活動とリスク判断できる環境整備が予防的に必要でしょうが、緊急性のある国家安全保障に関する事案についての動きなどは実効的なモノがあるのでしょうか?
投稿: トリル | 2005.04.23 18:07
オーストラリア人女性(27)のケースが同情的に扱われるのは、密輸しようとしていたのが「たかが」マリファナ(大麻)だからでしょうね。
あと、
> 国際的に非合法とされる芥子由来物質
なんて書き方でなく、はっきりヘロインと書いた方がいいと思います。
投稿: TO | 2005.04.24 04:02
オーストラリアで麻薬密輸と聞けばこの事件を思い出します。日本国政府は北朝鮮拉致もそうですがなぜ日本人を大切にしないのか謎です。こんな扱いしてると誰もこの国を命懸けて守ろうとは思わないと思う。
http://www.melbosaka.com/
投稿: (anonymous) | 2005.04.24 13:26
シャペル・コービーさんの事件はタイの英字紙でも報道されていました
この事件は英連邦だけでなく東南アジアでも(逆の意味で)関心を呼んでいるようです。
最初は「他国の司法への干渉」という言い方をしていたタイの大学生は、バイオテロ騒ぎ後は「プノンペンのタイ大使館を焼き討ちしたカンボジア人暴徒と同じ」と突き放した言い方に変わりました。
コービーさんの事件でオーストラリアが東南アジアで失ったものはずいぶんと大きいようです。
投稿: うらしま | 2005.06.05 16:09