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2005.03.06

「反国家分裂法案」を引っ込められなかった中国

 中国全国人民代表大会(全人代)が始まった。「全人代」というとなんだかいかにも中国という感じだが、英語ではcongressである。ちなみに「主席」はpresidentである。共和制の国という点では中国というのは米国と同じようなものかとふと思う。
 今回の全人代の話題は「反国家分裂法案」である。もちろん、中国内政的には経済が重要課題なのだろうが、国際的には、台湾への武力行使の法的根拠となる、人々の自治と平和と民主主義に畏怖を与える、この恐るべき悪法から目をそらすわけにいかない。
 中国だってそれがどんな意味を持つのかわからないほど馬鹿ではないし、米国なども明確に「ふざけんな」のメッセージを出していた。日本はヘタレである。せいぜい週刊文春に異例の陳水扁・呉淑珍のインタビューを載せて日本国民の台湾へのエールをそれとなく出すくらい。
 なのになぜこの糞法が出てきたのかというと、それが中国だし、中国人というものなのだ。歴史の面子に呪縛されて続けているのだ。中国四千年の歴史など噴飯ものの虚構に過ぎないのに、そうした言葉に呪縛され続ける国だ。そしていざとなれば、その言葉に殉じてしまうから手に負えない。ま、日本人だって奇妙な気概というか空気に推されれば国家愛に殉じてしまうものだし、大抵の国だの民族だの大まかに言えば同様。いずれにせよ重要なのは、中国というこの閉鎖された変な権力システムを外部は賢く制御しなければいけないのだが、その賢さだけではことがすまないよというのが英米的な発想なのだろう。結論めいたことを言うようだが、米国は、中国が米国に届く核搭載の原潜の保有を絶対に許さない、と決めている。とすれば、中国はあーだし、米国はこーだから、最悪のシナリオは避けられないし、日本もきちんと織り込まれてしまう。
 それにしても中国というのは愚かな国だなと、これは罵倒していうのではない。もっと国際的な空気を読めと言いたいだけだ。今朝の毎日新聞社説様ですら嘆いている(参照)。


平和な対話と交流を続けて、まず雰囲気を良くすることが重要だ。武器を突きつけて台湾の人心をつかめるはずはない。中国は台湾人の気持ちが眼中にない、としか思えない。

 そして、さらにこう言う。

台湾海峡の軍事バランスは着々と中国側に傾いている。台湾は08年にも中国が優勢に立つと見る。これに対して米国は日本円で2兆円に上る武器を台湾に供与する。台湾への武力威嚇は、軍備相互拡大のサイクルを加速させるだろう。中台双方にとって、平和的対話が最善にして唯一の道である。

 しかし、先に触れたようにそう行かないシナリオがあるわけだ。
 さて、一部中国政治家の日本代理店みたいな朝日新聞社説はなにを言っているのかというと、この問題をスルーで決め込むまでの厚顔でもなかった(参照)。

 今年の大会のもうひとつの焦点は「反国家分裂法」の採択だ。内容はまだ公表されていないが、台湾の独立は認めないという強い意思を示すための法律で、台湾を牽制(けんせい)する狙いである。
 だが、昨年末の台湾立法院選挙では急進的な独立志向にブレーキがかかり、今年の旧正月に中台双方からの直行便が飛んだばかりだ。中台対話の再開への道をふさぎかねない動きは心配だ。
 台湾問題は原則問題だということは分かる。だが、中国自身の多難な経済、社会を思えば、台湾海峡を緊張させることが利益となるはずはない。

 ちょっと読むと、中国に苦言を述べているように見える。違うのだ。これが実は中国の本音である。そのあたりは、VOA"Taiwan High on China Legislative Agenda "(参照)にあるKenneth Lieberthalの解説がわかりやすい。

Kenneth Lieberthal, a China scholar at the University of Michigan, says the anti-secession law reflects the concern of Chinese leaders. "They wanted to find something that made their threats to prevent Taiwan independence by force if necessary credible, without actually having to use force to demonstrate that," he said.

Mr. Lieberthal says Beijing decided to introduce the anti-secession law before Taiwan's legislative elections last December, which, as it turned out, gave the anti-independence camp more seats.

Mr. Lieberthal says Chinese leaders were pleased with the result, but thought it was too late to back off from the anti-secession law. "The Chinese are now saying this law will be very moderate in its language. But what's moderate in Beijing and what's considered moderate in Taiwan don't necessarily coincide, so they risk a substantial reaction that will raise tensions for some period of time."


 つまり、今回の反国家分裂法は昨年12月の台湾立法院選挙で民進党を恐れての対策だったのだが、これがハズレ。しかし、台湾が緩和したことを受け取るまでに結局時間が足りなかった。こんな馬鹿げた反国家分裂法を出せば逆に台湾を硬直化されることもわかっていたが、中国は小回りが効かなかったのである。
 それを念頭に朝日新聞の社説を読むとよくわかるのではないか。ついでだが、朝日新聞社説と人民網日本版"反国家分裂法制定は中華民族の根本利益に寄与"(参照)を比べて読むと笑える。

台湾島内には、この法律が両岸関係を損なうかもしれないと考える人がいる。この法律を見ずに両岸関係を損なうなどとどうして言えるのだろうか。何の根拠があるのか。逆に、この法律は両岸関係の発展を促し、両岸の平和統一を進め、国家主権と領土保全を守り、「台湾独立」分裂勢力による国家分裂に反対、抑制し、台湾海峡地域の平和と安定を守る法律である。中華民族の根本的利益にかなうものである。

 もってまわった中国的表現だが、これは武力行使はしねーです、ということだ。日本は米国に配慮してはいる。そのあたりを米国国務省側は受け止めているのか、れいの2プラス2をこっそり書き換えてやがる。共同"米「台湾懸念」を削除 中国に配慮、戦略目標で"(参照)を引用する。

日米両政府が2月19日の安全保障協議委員会(2プラス2)で合意した「共通戦略目標」で、台湾について当初案では「(日米)相互の安全保障上の懸念」と明記していたが、米国務省の強い意向で「懸念」の表現が削除されるなど大幅に書き換えられたことが5日、分かった。複数の米政府関係者が明らかにした。

 もちろん、国防総省はむっとしているようだ。ラムちゃんご機嫌ななめだっちゃ。
 それにしても今回の悪法を中国がきちんと引っ込めなかったことは将来に禍根を残す。というか、ただ小回りが効かなかったというより、江沢民派みたいな勢力がまだ強いのではないだろうか。時事のべた記事で、またですかそれの話だが"「抗日戦争」で民族精神育成を=中国"(参照)が、きもい。

4日の華僑向け通信社、中国新聞社電によると、中国教育省は小中学校の教育について、今年、「抗日戦争、反ファシスト戦争60周年」を迎えるのを機に、これらを重点に道徳教育を強化し、各地で「民族精神育成、発揚月間」の活動を進めるよう全国に指示した。

 勝手にしろである。所詮、中国内部の権力闘争なのだ。が、そうした文革みたいな変なヒステリーにあの国が陥ることがあることも歴史はあまりに淡々と教えてくれるのでぞっとするのだが。

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コメント

国内でヒステリーに陥っているだけならまだ問題は少ないんでしょうけど、台湾を含む国外にそれを及ぼさないという自制心を、あの国がどこまで維持できるかが問題でしょうね。
今はまだ自制心が効いてるようだけど、この先どこまで期待できるのやら。

投稿: Baatarism | 2005.03.06 11:37

>今はまだ自制心が効いてるようだけど、この先どこまで期待できるのやら。

中国・人民軍の力がさらに増してますから。

台湾有事はあるでしょう。

農民の暴動は年間1万回ぐらいあるらしい。
それを力づくで鎮圧してるのが軍隊。
自分たちが中国を守ってる、中国そのもの、となってますよ。

胡錦涛にも、米国にも、誰にも止められないです。

投稿: 台湾有事は、ある | 2005.03.06 15:22

>そのあたりを米国国務省側は受け止めているのか、れいの2プラス2をこっそり書き換えてやがる。

まぁ、あれはハッキリ表に出てきたことに意味があるわけで、少なくともアメリカの一部にどういう意見があって、日本もそれに同意する状況であるとアピールできただけで十分では。

既に目的は達成したから引っ込めただけとも思えるし、それが駆け引きってもんでしょう。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.03.06 15:33

"懸念”を削って、結局どうしたのですか?

投稿: え? | 2005.03.06 17:41

>「台湾有事は、ある」さん

暴動が年に一万回って「王朝末期」じゃないんですか。
陳勝・呉広とか黄巣とか朱元璋とか李自成が出て来そう。

投稿: 銀ぎつね | 2005.03.07 00:59

「これがハズレ」と書いてありますが、そのあたりの文章の意味が良くわかりません。英語本文の引用と、少しかみ合っていないように見えます。本文によると、反国家分裂法を持ち出したことは、反独立派の議席を増やすことに直接貢献したと読めます(...pleased with the result.)。つまりこの脅しは短期的には成功だった、しかし中国は掲げた法を引っ込めることが出来ず、結果台湾の懸念を高めてしまった、と彼は言っているように読めるのですが、どうでしょう?

投稿: tazuma | 2005.03.07 03:01

>>ラムちゃんご機嫌ななめだっちゃ。
あの空手の達人が虎縞セパレーツの様を想像して御飯を吹きました。

投稿: ライスさん | 2005.03.07 14:42

ほんとに困りますよね。

出した旗を引っ込められなくなっている中国、この先どうするつもりでしょう。

台湾有事はないと思ってます。(襲っていくより、仲良くビジネスしている方が徳だし。国際的にも認められたい中国が国際社会のど真ん中でそんな事するとは考えられません)

ところで、江沢民さん辞めましたね。国家軍事主席。よかったですね。

投稿: むぎ | 2005.03.09 01:02

すみません。漢字を間違えました。

徳→得

投稿: むぎ | 2005.03.09 01:09

まあ一党独裁では仕方がないですね。

投稿: ジョナサン | 2005.03.16 04:10

こんにちは。
ここ数年の中国の【反日】を煽るばかりの態度と、それに見事に乗せられてしまっている(ように素人からは見える)中国には正直うんざりしています。中国の機嫌?ばかり気にして、親日の台湾に対して堂々と政治的友好を進められない政府にもうんざりしている者です。ここにお集まりの皆さんのように、深い洞察も知識も無い私ですが、一般的日本人として、恐らく国民の多くが抱いている「反中(中国離れ)、親台」の意思を示す場はないのか、探しています。そこかに、そのような場がありましたら、ご紹介頂けませんでしょうか。

投稿: こんにちは | 2005.04.09 16:39

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