終わったのか、ホリエモン
月曜日以降また奇妙な展開があるのかもしれないが、ホリエモン騒動のコマがまた一つ進んだようだし、どうも腑に落ちないことが多いので、そのあたりを、結果的に私もワッチしてきた手前書いておきたい。
前々回「釣り堀衛門? いえいえ算盤弾いて末世」(参照)でふざけたトーンでこう書いた。
もちろん、窮鼠猫を噛むの例えもある。ホワイトナイトだかなんだかわけのわからない迫撃砲がどかんと一発禿げ頭になる可能性もある。あると言えばある。でも、もうそれって、経済とかマーケットとかの次元ではない。
「禿げ頭」というのは失礼な話だが、このおりソフトバンク孫社長を少し思っていた。ホワイトナイトもありだし、ホワイトナイトならというなら、先日の野球の騒動を顧みても、面子的にそうかな、と。もっとも、予想したとおりだった、などとも思ってもいない。それに、今回の件は直接的にはSBIであってソフトバンクではないとされている。
いずれにせよ世間的にはというかネットの空気も、ホリエモンこれで終わったでしょう、負けたでしょうというのが感じられる。すでに総括しちゃったブログもあるし。確かに、ホリエモンがフジテレビを取得するかという点ではそういうことかなとは思うが、ニッポン放送については、たとえそれが資産価値としては空っぽでも、また多少難題はあるにしても、得ることはできただろう。その意味で、負けでもないし、AAで終了と大書する、ということでもないとも言える。ただ、ホリエモンもこの件で多額の金を動かしており、それがこの結果では、メリットが実質なし、だろう。それに、他事業から推測しても、ニッポン放送の経営の才覚もないだろう。
私としては、ちょっと話を戻して考える。SBIの登場は突然の感はあったのだが、そうなのだろうか。当ブログ「ホリエモン・オペラ、間奏曲」(参照)で類似の想定には少し触れておいた。
で、フジ側はどうするかというと、週刊文春(3・10)にも噂が飛んでいるように、「メディア初の共同持ち株式会社を作って上場し、他を未上場会社にする」という手に出てくるのだろうか。
週刊文春で触れていたこのシナリオがずばり現在のシナリオというのものでもないが、想定ケースとしては類似のものだろう。というか、SBIの今回の立ち回りのカネの出所がフジ関係だということはないのかとも疑問に思うが。
かいかぶるわけでもないが、ホリエモンとしても、企業買収を業態としているプロであり、こうした事態こそ想定の範囲内だったのではないか。つまり、SBIが出てきて、「え、その手があったのか、ガーン!」というほどナイーブな話とは素人の私にも到底思えない。なにより、この手法こそクラウン・ジュエル(参照)そのものであり、これをプロが想定していないとは考えにくい。
しかも、ライブドアとニッポン放送という枠組みでクラウン・ジュエルを見るうちはいいが、フジテレビにしてみるとニッポン放送をTOBまでした株主なわけで、日本の風土的には所詮ニッポン放送はフジテレビのものという先入観はあるのだろうけど、フジテレビの株主、特に外人とかにしてみると、フジテレビはなんちゅう経営やってんのじゃ、という異文化的に変な図でしかない。
この関連で言うなら、結果的に、フジのニッポン放送TOBとはなんだったのだろう? やってみなくても負けとわかっていたけど、やってみたら負けました、だったのだろうか。大東亜戦争っぽい感じもする。
わからないと言えば、ニッポン放送の新株発行予約の裁判沙汰も、メディアでは、当時の地裁の時点だが、口を揃えて、「結果はわからない」「地裁がどう出ても長期化する」という話ばかりだった。この件については素人考えにもあまりにも変なので極東ブログ「ホリエモン・オペラ、間奏曲」(参照)でこう指摘しておいた。
ただ個人の勝手なブログなので勝手に賭けに出ると、裁判所沙汰について言えば、ホリエモンの勝ちでしょう。
であれば、裁判所の判断は案外単純に出るだろう。
自分が予想を当てたと言いたいわけではない。この分野に知悉しているわけでもないのだから。ただ、この話は視点さえ定まれば素人にも、すっきりわかる。むしろ、わけのわからない煙幕が張られているな、ということが単純にわかった。
繰り返すが、新株発行予約の話など、最初からフジテレビ(ニッポン放送)側に勝ち目のない、ただの煙幕として想定されていたメディア陽動作戦であり、メディアは実にフジテレビ側に協力していた。こんなことが本当に起きていたのかというのはちょっと驚く。と同時に、煙幕というか情報陽動作戦はそれだけだったとも思えない。
SBI登場でホリエモン負けの空気が醸し出されたのは、構造的に見るかぎり、フジテレビはLBO対象になりうるという構図がオモテに出てきたことの対応でもあった。この構造はまさに構造なので、しかも、当初ニッポン放送がフジテレビの親会社的な位置にあるという構造とともに、今回のホリエモン騒動の構造的な基底となっていた。もちろん、素人の私などそんなことは事前に知らなかったのだが、知ってしまえば、それは現実の構造なので、情報陽動でどうとなるものでもない。見方が変わっても構造というのは変わらない。
SBIの登場で、この構造が変わったのか? ニッポン放送の位置については変わったと言えるかもしれないが、依然フジテレビがLBO体質である構造には大きな変化はない。
話が回りくどくなったが、要するにホリエモンが現状のフジテレビをLBOで入手するためのカネの工面ができない、よりしづらくなったということだけだろう。
これには二点ある。一つはSBIにニッポン放送が持つ議決権を握られたから、そこがゲタにならないということと、もう一つはLBOしづらく状況が転換したということだ。
この後者なのだが、情報の流れという点でいうなら、産経新聞をかかえたフジサンケイグループ憎しという頓珍漢な友軍である朝日新聞のLBOニュースが実に効いた。
この経緯は、率直に言ってある程度解っていても私も乗せられたクチだった。極東ブログ「釣り堀衛門? いえいえ算盤弾いて末世」(参照)はそのログでもある。情報との向き合い方において、自分の失点かなと思うのは、当のホリエモンの言葉に耳を傾けるのを待たなかったことだ。待ってみると、ホリエモンは否定したのである。なので、「モーソーモーソーとホリエモンは言う」(参照)を続けて書いたのだが、いずれにせよ、朝日新聞が流したLBOニュースは、素直に経緯を見るなら、ホリエモンからこの時点で出た話ではない。
このLBO話は誰が出したのか? すでに先のエントリでも触れた話なので再記しないのだが、この情報の出所が気になる。ただの朝日新聞の飛ばしとも思えないし、朝日新聞側にこの件での情報操作の意図があるとも思えないのは、頓珍漢な友軍爆走が他に多いことでもわかる。
今回の件では、どうも、不可解な情報陽動策が目立つ。陰謀論とまで言わないが、あまりに煙幕が多い。
しかも煙幕を取り払うと奇妙な絵が出てくることが多い。LBOニュースでも、その情報で誰がメリットを得るのか?と考えたのだが、同じ発想で今回のSBIの登場を見れば、結果的にソフトバンクグループによるフジテレビの支配という構図だけが見てくるのも奇怪だ。すでにそうした陰謀論みたいなものも見かけるがしかたないだろう。
単純な話、ホリエモンもカネを張って勝負に出て、それにフジ側も乗ってしまったのだから、ニッポン放送からお帰り願うとしても帰りの駄賃くらいは出さないとホリエモン側としてもお商売にはならない。もっとも、ホリエモン本人がなに考えているのか、最近クチが堅くなったみたいなのでよくわからないが。
そうしてホリエモン自身という要素を今回のSBI効果の結果の構図から抜いてしまえば、全体の絵は、また単純になる。LBOに弱い構造をもっていたフジテレビをソフトバンクがいきなり触手を伸ばしても、ホリエモン騒動以前なら、すんなりと事は進まなかっただろう。
私としては、そうした陰謀論みたいな話にはあまり関心はない。が、結果的に、フジテレビという旧メディアがソフトバンクというITメディアの産業と提携し、メディアの構造が変わる、それが重要だみたいな話も、それはそうであっても、まだまだ早すぎるように思う。
つまり、メディアの構造と状況にそんな変化はないでしょ、と。OECDが懸念しているように日本のデフレはまだ終わってないでしょ、というのに似ている。立ち枯れ状況がまだまだ続くのであり、それは退屈でもある。しかたない。
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コメント
finaventさん、おはようございます。
なんというか、やはりリーマンの影がちらついているような気がしてなりません。もし、ニッポン放送株買収が採算にあわず、ライブドアには保持できない財務状況なら、ライブドア自体がリーマンの傘下に入るといってよい状況だと私は理解しています。
実はいまライシュの「ワーク・オブ・ネーションズ」を読み直そうとしているのですが、日本の会社がLBOやさまざまな金融テクニックで買収されていく中で、ライシュの「我々とは誰なのか?(Who is US?)」という問いを今度は日本側がしなければならない状況にあると感じます。これから起るであろう外資の一連の買収案件が、ごく普通に日本で働いている我々にとってどういうインパクトを持つのか?巨大資本家などとはほど遠い我々にとって、巨大資本の傘下に日本の企業が組み入れられるのは、どういう意味をもつのか?このことにより、日本が坂をころげおちる速度が加速するのか?
今回の案件で、どちらの側にたっても日本の会社を買収するとは、権益でも、資産でもなく、人そのものだと感じている私はあまりにナイーブかもしれませんが、私個人としては自分自身がどのような状況になっても常に十分な付加価値を生み出せるようになっていなければならないと改めて感じています。個人にとって金融資産も、不動産も、株も、年金も長期にわたっては、なんの役にもたたないのだと最近実感しています。
(参照)「メモ置き場」さんの要約
http://www31.ocn.ne.jp/~memo/memo/the_work_of_nations.htm
投稿: ひでき | 2005.03.27 10:07
>SBIの今回の立ち回りのカネの出所がフジ関係だということはないのかとも疑問に思うが。
コンテンツ・メディア・ブロードバンド関連企業を投資対象とする
ベンチャーキャピタルファンドの共同出資による設立について
http://www.sbinvestment.co.jp/news/html/050324_a.html
2)基金規模 : 200億円(SBI及びSBIベンチャーズ:20億円、フジテレビ:160億円、ニッポン放送20億円)
はっきりフジですね。ええ。あからさまなくらい。(裏側かなにか、別な話?)
投稿: mori | 2005.03.27 20:47
そもそも、フジテレビの立会外取引を真似て、ライブドアも立会外取引をした。自分達の仕草は棚に上げて、新参のライブドアばっかり叩きのめすメディアも鼻持ちならない腐臭フンプン。
加えて、MSCB(価格修正条項付き転換社債型新株予約権付き社債)の発行もそうだ、フジテレビの後追いをしている。フジテレビ発行決定2005年1月、金額800億円、目的ニッポン放送株取得。ライブドア発行決定2005年2月、金額800億円、目的M&A資金(引用:日刊ゲンダイ2005年3月17日P6.)。
朝日テレビ買収を果敢に攻めた孫さんは、北尾氏の出現で敗退を余儀なくされた。ということは、北尾氏の勝利は孫さんの敗退が目的だった、と、見えてくる。
孫さんの二の舞を堀江さんにさせては、断じてならない!北尾氏は守旧派・反開放派から差し向けられた、規制改革絶対反対の刺客と映るがどうだろうか?
投稿: 麻川黙雷 | 2005.03.28 11:34
>SBIの今回の立ち回りのカネの出所がフジ関係だということはないのかとも疑問に思うが。
プレスリリース並べてみると面白い。
2/23時点でシナリオが見えていたんですかねぇ。
2/23
・ニッポン放送:大和証券SMBCに貸株(22万株)
http://www.jolf.co.jp/company/IR1242/PDF/052302kashikabu.pdf
・SBI:第三者割当による新株式発行決議(割当先:大和証券SMBC:70億)
http://www.sbinvestment.co.jp/news/html/050318_a.html
3/18
・SBI:第三者割当権利行使(割当先:大和証券SMBC:70億)
http://www.sbinvestment.co.jp/news/html/050318_a.html
3/24
・SBI/フジ/ニッポン放送:ベンチャーキャピタルファンドの共同出資による設立
SBI及びSBIベンチャーズ:20億円
フジテレビ:160億円
ニッポン放送:20億円
http://www.sbinvestment.co.jp/news/html/050324_a.html
・ニッポン放送:SBIに貸株(35万3704株)
3/25
・大和証券SMBC:フジ株売却
http://it.nikkei.co.jp/it/newssp/fuji_vs_livedoor.cfm?i=2005032901351ra
3万5588株×28万1000円=100億円
投稿: botu | 2005.03.30 22:32
ホリエモンは何のために800億もリーマンから借りたの? 金儲けのためでしょ?
違法じゃないからいい? そりゃいいけど、損したらどうするの?
既成権力に挑戦してるから応援したい?
応援するのはタダだから私も応援ならしてもいいけど
一服の清涼剤となるためにそんなに借金したの?
インターネットと放送のシナジー?
そんなの10年前からある嘘。そんな話信じるなんて
振り込め詐欺にあってるじいさんみたいだよ。
人の話を信じ過ぎ。
ホリエモンが一番困るのは、「どうそニッポン放送を経営してください」と云われること。そんなの一生の仕事だよ。無理無理。敵だらけの中に入っていってどうするつもりなの?今は手を引くための好条件をフジ側が出してくるのを待ってるだけ。そして「本当はニッポン放送を経営したかったのに」という顔で去っていく。
そういうシナリオでしょう。でないとバカ。
投稿: (anonymous) | 2005.04.08 01:05