オーストラリア・ハワード首相には三倍返しが適当かと
すでに旧聞となるのだが、先月22日、オーストラリアのハワード首相の決断で、イラク南部サマワの日本陸上自衛隊を支援するためにオーストラリア軍450人が増派されることになった。これまで自衛隊を守っていたオランダ軍がこの3月に撤収するため、その穴を埋める形になる。
気になっていた疑問が私には三つある。一つは、この問題が日本国内ではそれほどには話題となっていなかったことだ。もちろん、報道されていないわけではないのだが、報道はベタ記事並に薄く、また、自衛隊派遣の時のような反対運動もなかった。なぜなのだろう。まるで日本社会は関心をもってないかのような印象がある。
もう一つは一点目の疑問にも関係するのだが、オーストラリア国民の七割の反対を押し切り、選挙公約を破棄しても断行した、今回のハワード首相の決断の前夜にはどれほどの危機が内在していたのか? 危機はなかったのか。
三点目は、こういう言い方もいやらしいのだが、これによって得るハワード首相の見返りはなにか? それがないわけもない。
順に論述といった手間もないので雑記になるのだが、まず、一点目の日本側の無関心だが、これがよくわからない。自衛隊派遣の時に騒いだ一派は沈黙しているに等しい。これによって自衛隊や豪軍に被害が出るという”好機”を待っているのだろうか、と考えるのも穿ちすぎだろう。一庶民の感覚としては、やはり他人事なのだろう。ちなみに、豪軍増派は五月。オランダ撤退は三月。四月は残酷極まる月だとならないといいのだが、そこに空隙はないのだろうか。オランダ軍の総勢は1350人。それがすべて自衛隊防御に当たっていたわけではないし、防御のインテリジェンスの部分は英国の機関が当たっていたふうでもある。今後は英軍が150人、豪軍が450人と総勢で600人。自衛隊の総勢に近いのだが、その配分と現地の意味合いがよくわからない。イラクの治安については、大筋では改善に向かっているし、この間でも、それほど南部に大きな変化はなかった。とはいえ、守っているのはイラクの治安ではなく、パイプラインなのだろうが。治安の変化より期待されるのは、実は、イラク治安機関要員で約5500人に登る。かなりの数だ。が、当然、そこにイラク風の政治が発生することになるのでそれが返って危険になる可能性のほうが強いのではないか。
二点目の今回のハワード首相の決断の前夜の危機なのだが、この情報が今ひとつ錯綜している。NHKのオーストラリア支局だったかの話では、かなりの危機的な状況が伺われた。日本語で読めるニュースとしては22日の読売新聞系"豪軍が450人増派へ、サマワで英軍の一部と交代"(参照)がある。
ハワード首相によると、増派について数週間前からダウナー豪外相らが英政府と協議を続けてきた。また、18日に小泉首相がハワード首相に電話をかけた際、小泉首相から直接要請が行われた。21日にはブレア英首相からもハワード首相に電話があり、最終的に増派を決断したという。
NHKの話でも同じような感じではあった。ちょっと歪めて言うのだが、必死だったのは、ブレだ。その背後で小泉がマッツ青だったかがよくわからない。この平成のスーダラ首相はメディアの見えないところで必死だったのか?違うんじゃないか。ブレアの必・死・だ・な、は、自国内での政争があるのだろう。ゴードン・ブラウンとの戦いか。ただ、それでも、ハワード首相が頷くあたりにはもっと深いコモン・ウエルスというか大英帝国があるのか…陰謀論ではないが、なんかもう一枚ありそうには思う。なんだろ。女王様が噛んでいるのか。いずれにせよ、ブッシュの影はそれほど濃くはなさそうだ。
三点目のハワード首相の見返りだが…二点目の憶測にも関係するが、これが案外わからない。今週のニューズウィーク日本語版(3・9)に"自衛隊を守る豪州の打算 突然「警護役」を引き受けたハワード首相の思惑"という記事があり、英豪人のライターのものだが、これがなんかまじめくさったわりにぼわーんとした記事だ。案外この記事がほのめかすように、ハワード首相には世界の動向に対する豪州のあり方について強い長期ヴィジョンがあるのかもしれない。というか案外それが解の可能性はある。この人は案外、チャーチルみたいな(なわけもないが)英国の政治家の風でもあるのかもしれない。もうちょっと補足すると、北朝鮮と中国の問題に明確な意識をもっているのは、案外、ハワード首相だけということもありうる。
日本国内的には、それって、FTAでしょ、キマリっしょ、という空気ではある。もちろん、豪側の読みを受けた形にはなっている。ベタ記事に近いが毎日新聞記事"豪野党党首:陸自の安全確保のためのイラク追加派遣を批判"(参照)を引く。
オーストラリア政府がイラク南部サマワで活動する陸上自衛隊の安全確保のため部隊のイラク追加派遣を決めたことについて、豪野党グリーンズのブラウン党首は23日、「イラク問題ではなく、日本との自由貿易協定(FTA)締結につなげるのが狙いだ」とハワード首相を批判した。
常識的に考えてそれがないというのが無理でもある。ハワード首相は4月21日のオーストラリア・デーに合わせて愛知万博を見に来ましたってな感じでFTAのプッシュにやってくることになっている。タイミング的にはうまい。というか、日本側もお土産を用意しないといけない。おいくら?
CNN日本語版の記事"豪、自衛隊支援にイラク・サマワへ兵450人増派"(参照)によるとこうだ。
サマワに派遣する兵の規模は、軍幹部と協議の上で決めた。450人増派にかかる費用は年間2億5000万~3億5000万豪ドル(約210億~300億円)に上る見込み。
もちろん、これで済む話でもないのだが、不謹慎なのでやめておく。日本としてはこの数倍返しをしないといけないので、日本政府側がなにどうするのかホワイト・デーのように今頃悩んでいるのはないか。
ということで当方妙案があるのだが。米国との牛肉問題だが、なにが問題かって、最終的には米国牛肉を輸入するという落とし所がまずいのだ。ここは、ずどーんと、あと10年は米国牛肉は買わない。代わりに豪州牛肉を買うとすればいいのだ。そうすれば安心して豪州側も生産体制を整えることができる…と、これ洒落ですと書いておかないと誤解する人がいるかも。
| 固定リンク
「書評」カテゴリの記事
- [書評] ポリアモリー 恋愛革命(デボラ・アナポール)(2018.04.02)
- [書評] フランス人 この奇妙な人たち(ポリー・プラット)(2018.03.29)
- [書評] ストーリー式記憶法(山口真由)(2018.03.26)
- [書評] ポリアモリー 複数の愛を生きる(深海菊絵)(2018.03.28)
- [書評] 回避性愛着障害(岡田尊司)(2018.03.27)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
そうは言っても、オージービーフでは、
USの和牛仕様の肉には敵わないのですよ。
以前に比べれば、マシになりましたが品質と値段のギャップがあまりにもありすぎるのが現状ですので、レストラン業界的には一刻も早くアメリカ産牛肉の輸入再開を!と言いたいのです。
本題と関係ないレスですみません。
投稿: コックさん | 2005.03.04 01:10
日豪接近は中国への対抗策としていい方法かもしれませんね。
さらに進めて、日米豪の太平洋同盟というのも良いかも。
あと、ロケット発射場をオーストラリアに作るのも面白そうですね。
投稿: Baatarism | 2005.03.04 11:07
豪は90年代後半辺りで国防政策を大転換してます。
90年代までは日豪防衛協力なんて冗談でしょ、という雰囲気だったのが、中国の太平洋進出と
いう現実に気づいて前世紀終わるあたりから日本との防衛協力を提案し始めてますね。
投稿: ■□ Neon □■ | 2005.03.04 19:47
FTAの事は、もちろん政治家の頭をよぎらない事はないでしょう。しかしながらそれを主因とするのは難しい解釈でしょうね。民主主義国の兵士の安全に関する政治的コストは、日本ほど出なくても世界的にやたら高いですから。
あくまで安全保障問題が主要な議題と考えるべきでしょう。普通に考えれば、対米関係で苦労が多いので将来も見据えて日本との連携を強化、でしょうか。
カナダもそうですが、やや地理的に孤立している民主主義国は対米関係での立場が苦しいですね。
投稿: カワセミ | 2005.03.08 21:34
>一つは、この問題が日本国内ではそれほどには話題となっていなかったことだ。もちろん、報道されていないわけではないのだが、報道はベタ記事並に薄く、また、自衛隊派遣の時のような反対運動もなかった。なぜなのだろう。まるで日本社会は関心をもってないかのような印象がある。
自衛隊反対運動は、究極的には反米運動だから。
オーストラリア相手に言っても、反米運動家には
張りがないんでしょう。
投稿: 名無し | 2005.03.12 08:58
ハワード来日の時の演説です。
ttp://www.australia.or.jp/tsudou/johnhoward_speech.html
ちゃんとした同盟国の演説ですね。中韓とは全く違います。リップサービスもあるでしょうが。
投稿: 山科 | 2005.03.12 11:13
>ハワード来日の時の演説
www.australia.or.jp/tsudou/johnhoward_speech.html
>質問
改革を達成するにあたり、最大の課題は何でしたか?首相はどのように克服されましたか?日本に対し何か一言お願いします。
「外圧」ですか?(w
で、答え
>首相
改革のプロセスにどう取り組むかについて、他国に対して何か述べるつもりはありません。そうするのには大変慎重であるべきことを、長い間に十分学びましたので、初めにこれについてはお断りしたいと思います。これは他のどの国にとっても、喜ばれるような忠告にはなりません。
(中略)
>これがオーストラリア文化における私自身の経験です。これが他国にふさわしいものかは全くわかりませんし、ふさわしいかどうかを述べようとも思いません。
「外圧」にならず(w
投稿: 名無し | 2005.03.28 15:14
歴史的には(←中・韓国語において、「私の個人的な意見としては」の意)、豪の外交政策は結構機会主義的です:http://ww1.m78.com/honbun-2/japans%20participation%20to%20ww1.html
↑の例は日本が割を食ったケースですが、他にもインドネシア辺りは言いたいことを抱えているでしょう。基本的に、大国の陰に隠れた小国の外交をやらかす癖があるんじゃないでしょうか。その辺に豪の適当な利害を見たのかもしれません。
ただ、東南アジアにおけるイスラムテロの危険性について、豪は直接被害を受ける立場ですから、その辺にもう少し大局的な観点が隠れているのかも知れませんけれど。
投稿: 名無し | 2005.04.19 10:46