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2005.03.22

米国牛肉輸入再開問題は米国の国内問題

 米国牛肉輸入再開問題だが、私の基本的な立場は、いいんじゃないのOK、OK牧場といったものだった。この問題はかなりテクニカルな領域が入り組んでいるのだが、市民にとって重要なのは、そうしたテクニカルな知識、あるいは知識の保有者を権威化せずに、市民社会の脅威という側面でフラットに扱うべきだ。つまり、通常のリスクとして扱え、そしてそのリスクの管理は妥当な科学的な議論が必要だ、つまり欧米の標準でよい、とするものだった。基本的にこの考えは変わらないのだが、問題は、政治である。そうした科学的な基準に政治が介入することは大変に好ましくない。その様相が少し見えつつあり、結果、私も、米国牛肉の早期再開はやめとけに傾きつつある。
 うかつだったのだが、BSE汚染国となっているカナダから米国への牛肉の輸出は禁止されているとばかり思っていたのだが、これには抜け穴があった。牛肉加工品はスルーだったのだ。まいったな、しかし、ある程度現状維持ならしかたないかと思ったら、カナダ側ではこの抜け穴を大々的に利用してやんの。なんてこった。
 話はニューヨークタイムズ"The Merry-Go-Round of Beef"(参照・要登録)にあった。


Canada can't send cows across the border, but it is allowed to ship packaged meat. So Canadians have been building new slaughterhouses and selling low-priced boxed beef to American markets.

 つまり、その抜け穴を通すために加工工場まで作っているのだ。ちょっとそれはないでしょという感じがするし、米国民としてもそれじゃなんのための禁輸なのかということになる。そして、ニューヨークタイムズの話では、こうした状態で日本に牛肉輸入再開を迫るのはどうよ、という展開にもなる。そりゃ、そうだ。
 なのだが、ここには書かれてないが、そして以前にも当ブログでちょっと触れたのだが、加工品として抜け穴があるとしても、現状米国ではカナダからの牛肉は輸入されないために、そして、日本など海外に牛肉を輸出しないことで、米国内で牛肉の供給量が安定しているということがある。つまり、カナダから牛肉が入らないで、日本に牛肉が出て行くのは本音のところで米国では困る。そのあたりは、日本政府も知っていて適当に米国の足下を見ているし、米国政府側でもそんなことは知っているので、政府間ではさしてこのことは問題ではない。
 気になるのは、牛肉というのは、いろいろな部位があり、単一に牛肉として扱われるものでもない。日本で米国牛肉というと、どうしても吉野屋が連想されるのだが、正確な情報を忘れたが吉野屋が使っている牛肉の部位は、米国では消費されないもので、ちょっと悪い言い方をすればクズに近いところが米国業者にしてみると日本に売れてカネになるうまみというのがある。そのあたりの米国の食肉業界の本音と実際の日米間の牛肉の部位の扱い気になるのなるのだが、あまりこの点はニュースで取り上げられていないように思う。ついでだが、これもこれまでにも触れてきたのだが、日本が長期的に米国牛の輸入を禁止すると決まれば、オーストラリアでの生産体制が決まる。政治的には、近く落とし所があるということで、オーストラリアなどは動けない。
 日本として気になるのは、日本が米国の牛肉輸入を再開した場合、先のカナダから米国に入った加工肉がずるっと日本に流れるという経路があるのかだが、そこがよくわからない。そういう経路が推測されるなら、この問題は単に米国の国内問題に過ぎない。
 ニューヨークタイムズの記事でもう一点気になったのは、ミニマル・リスクという概念だ。

The agriculture department can cling, if it likes, to the notion of unproven "minimal risk."


It's hard to fathom what would happen to the beef business in this country if a single case of the human version of mad cow disease were discovered and attributed to eating Canadian or American beef. "Minimal risk," based on little more than a set of assumptions, should be an unacceptable gamble for every cattle rancher and every politician.

 この「最小限のリスク」というのは、悪い考えではないのだが、問題はそれがどんな基準に則っているのかということだ。ニューヨークタイムズ暗にこれって米国のローカルルールちゃうん?という雰囲気を漂わせているのだが、そこが私には今一つわからない。
 この問題の経緯は、Sasayama's Weblog"アメリカは、カナダ生体牛輸入問題を解決してから、日本に圧力をかけるべし"(参照)に詳しい。
 どうこの問題を受け取っていいのか難しいのだが、私としては、米国上院がこのミニマルリスクを認めて、カナダから米国への輸入が再開されるなら、日本側としては、米国牛肉輸入反対という立場は難しいだろうと思われる。つまり、これも基本的には米国の国内問題だろう。
cover
もう牛を食べて
も安心か
 話が少しそれるのだが、ニューヨークタイムズの記事でも、米国で全頭検査があってもよいというようなトーンが見られた。もちろん、そういう強い主張ではない。このあたりの話は、日本側の対応が米国に奇妙なフィードバックになっているのではないだろうか。
 最後に、この話をするととばっちりを受けるだろうなとは思うが、少し触れておく。この問題でなにかと推薦されることの多い「もう牛を食べても安心か」だが、著者福岡伸一青山学院大教授はSPA(3・22)で次の発言をしている。

 そもそもなぜ全頭検査が必要か、という点についてですが、日本で発生した15例の狂牛病は、実はひとつも英国産の肉骨粉を食べさせた例がない。つまり国内においては、感染源も感染ルートも、本当のところは何ひとつわかっていない状態なんです。これを見極めるために全頭検査を維持しているのであって、安心のためだけにやっているわけではないことを認識してほしい。

 つまり、全頭検査は牛肉の安全性とは直接関係の薄い問題である。むしろ、安全性のためになにをすべきかという議論に向けるべきなのではないか、そしてそれは日本のローカルルールというわけにもいかないだろう。あるいは、そのローカルルールこそが世界の標準であるというなら、対米的な問題でなく、世界標準への提言でなくてはならないはずだ。が、印象に過ぎないのかもしれないが、日本の米国牛肉輸入問題は対米という枠組みだけに閉じているように見える。

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コメント

>正確な情報を忘れたが吉野屋が使っている牛肉の部位は、米国では消費されないもので、ちょっと悪い言い方をすればクズに近いところが

吉野屋のはバラ肉でしょ?
アメ公はバラ肉食べないの?

投稿: まつや@すきや | 2005.03.22 12:26

抜け穴といえば、既に米国産牛肉がメキシコ経由で相当流入してるんじゃないか、という話ですね。
http://newsnakibun.com/news/n041112.html

全頭検査についても、検査技術が精力的に技術開発されてるため、以前はわからなかった症例が引っかかるようになったり、コストも安くなったり、検査の手間も省力化されつつあったりで、拒絶する理由も次第に崩されつつあるようです。

それに米国でも日本向け専業のところは全頭検査してもイイと言ってたのに、それをやらせないのは、むしろ輸出品は検査して国民はグレーかよ、という米国内の反応を気にしたんじゃ。

牛肉問題はもう完全に米国内部でぐちゃぐちゃになってしまって収拾つかない気がします。

米国じゃ金持ちはファーストフードやジャンクフードは貧民が食うもんだ、と言って手を出さないと言いますけど、日本もそうなるのかな。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.03.22 12:41

shortplateはともバラですね。ステーキ用のshortloin, sirloin, tenderloinではない、くらいの意味でしょうか。

投稿: Sundaland | 2005.03.22 12:49

牛脂喜んで喰うのは日本だけ。

投稿: Cyberbob:-) | 2005.03.22 13:11

あの、ここでこんなことを申し上げるのもなんですが、finalvent氏が毎日何を頂いているのか、興味のあるところであり、それは極東ブログやあちらを見ている方々の共通した興味であることは想像に難くないことであり、お友達になってタイミングを見計らって聞き出すより、ここで書いてオープンで始めてもらった方が手っ取り早いと思ったことはナイショであり、いやー、これでまた、ブログ増えますね、finalvent氏も大変ですなという文章によるプレッシャーが氏に影響を及ぼすのかを見てみたいということもあり、かく言う私は今からうな垂れながら仏料理を食べに行くのである。

投稿: | 2005.03.22 13:12

このまま輸入再開して、消費が以前同様になるとは思えんのですが。

投稿: ミミガー | 2005.03.22 14:36

http://www.shiga-med.ac.jp/~hqanimal/zoonosis/zoonosis160.html の「4.全頭検査見直しの議論」に、30カ月というのは政治的判断で、科学者ならもっときびしい提案をしていただろうという旨の英国の専門家の言葉があります。
同じサイトの http://www.shiga-med.ac.jp/~hqanimal/zoonosis/zoonosis154.html と http://www.shiga-med.ac.jp/~hqanimal/zoonosis/zoonosis154add.html では、プルシナー博士の米議会での発言が読めます。

投稿: T | 2005.03.22 14:39

アメリカ牛肉業界の暴露本風な「イヤー・オブ・ザ・ミート」には、成長促進の為に多用したホルモン剤のせいで、牛肉を食べた子供らが異常に早く性的成熟してしまうと書かれていました。
多くの日本産爆乳娘をもたらしたのもアメリカ産牛肉であるとしたら・・・輸入再開派が増えるやもしれませんね。

投稿: piyo | 2005.03.22 17:23

たしか、屠殺・分解した牛(欧州の肉屋で見る半身でぶら下がってるやつ)の骨部分を、解体工場で一種のホースで圧縮空気かなんか放出してくず肉を取るんだったと思います。これの部分がひき肉(ハンバーガー)や牛丼に行くんだろう。狂牛病の原因と(あくまで)想定されるのは内臓・脊椎・脳・神経系で、それを排除した筋肉部分は安全としても、以上の方法では脊椎部などが混入する危険性がある。---以上は狂牛病のメッカ(だった)欧州で以前得た情報です(記憶ですが)。
アスベストやエイズの際、政治対応が遅れて失敗してますから『疑わしきは隔離』というのが欧州での基本態度のようです。

投稿: ねこ仏少年 | 2005.03.22 20:58

こんばんは。

牛肉のニュースや話題が出るたびにいつも思うのですが、牛肉を食べなくても大丈夫!です。

もともと赤いお肉が苦手だったので、普段から牛肉は食べないのですが、生活には何の支障もありません。狂牛病の疑いのありそうな牛肉をわざわざ輸入して食するなんて自殺行為に近いのではないかなあ、と。

肉自体を食べない人っていうのもいますが、その方がいいかも知れないと最近思っています。今まで継続して食べていた人が突然肉の摂取を止めると、栄養学的、化学的にみてどんな影響があるのかよく分かりませんが、豆腐とかビタミン(?)を沢山とれば肉を摂るのと同じではないのでしょうか。。。

家畜が何食べさせられているのかなんて私たちには見えないし、お肉って、信用できませんよ~!!

投稿: むぎ | 2005.03.22 21:35

米国の牛肉に不安が付きまとうのは当然として、日本国内はどうでしょうか。思うに、日本はまぁ安全で米国のは駄目という一線の引き方が、米国側が反発している要因の一つではないでしょうか。これが日米は駄目で豪州は良いとか、あるいは牛肉自体を禁止するとかならまだ筋が通っているように思います。BSEの危険という負のイメージを米国側に極力転嫁しようという国内での思惑は無いのでしょうか。不思議と安全保障問題でも昔から日本はこの傾向があるのですが。(自分だけ身奇麗でいよう、というやつですね。実際は直接間接色々あるのですが)
その意味で外交問題ではなく、日本の国内問題と米国の国内問題という印象があります。特殊例にも関わらず農業問題一般の揉め方と似ているのが苦笑を誘います。

投稿: カワセミ | 2005.03.22 23:17

吉野家が使うのはあばら骨の周囲にくっついているクズ肉です。
つまりバラ肉でさえない。
鶏の骨付き唐揚げ食べて、その関節部分に残った肉があるでしょ。
それをスクレーバーとかでこそげ落としたのがあの牛丼の元。
骨の近くの部位にはBSEのリスクの高い肉が多いそうですね。

投稿: みこねん | 2005.03.22 23:29

>カワセミ氏

>思うに、日本はまぁ安全で米国のは駄目という一線の引き方が、

日本では国産は全頭検査してるから、米国から輸入する分も全頭検査しなきゃ受け入れない、と言ったら、そんなウザイことできるかゴルァ!というのがアメリカの言い分です。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.03.23 00:56

肉喰って死ねるなら本望だ!
と私の友人(0.13㌧)が申しておりました。

私も同意見です。

投稿: (anonymous) | 2005.03.23 17:22

>日本では国産は全頭検査してるから、

・・・・という論理立てを問題視してるんですよね。それを考慮して読み返していただければ。

全頭検査してなくてもオーストラリアの安全性は日本より高いですね。要は、科学的な知見に基づくと主張をするなら、内外差別無く、各国による差別も無く、首尾一貫しろということです。あれだけ騒ぎになった欧州で全頭検査をやってない背景をきちんと理解すればこんな騒ぎにならんでしょう。その意味でも互いの国内問題と言えましょう。

投稿: カワセミ | 2005.03.23 21:30

危険という概念は実に厄介ですね。だけどここにトレイサビリティー(traceability)という概念を持ち込むと随分ハンドリングしやすくなるのですが....。

投稿: ははは | 2005.03.24 08:10

ヒンズー教に改宗して、牛食うのやめよう。
大黒天、大自在天=シバ、帝釈天=インドラ、梵天=ブラフマ、聖天=ガネーシャ、弁財天=サラスバティ、吉祥天=ラクシュミ。

投稿: えの | 2005.03.24 11:25

 ラッパーの50円玉です。ドラッグストアで真面目にレジ打って
ます。さいきん「マトリックス」を何度も観てます。覚えました。
鉄砲のタマはよけられると思います。もう当たりません。ところで
新曲です。いっしょに歌ってくださいM(_ _)M。

 聞こえたのさテレビから 狂牛病で 科学者からヒトコトあると
 
 オレは思った「さすが科学者、とうとう特効薬が完成したのか、イェー」
 
 もう誰も死ななくていい 人類はまたひとつ難病克服した
 
 わけじゃないみたいなんだな どうも ベイビー
 
 治療薬も感染源もわからねぇのに 牛肉食えってことらしい
 
 作れよ統計 見せろよランキング
 
 いちばん感染牛すくない国 基準にするのが科学
 
 肉のセールスは科学者の仕事じゃないだろ 新薬の名前を教えてくれよ
 
 
 
 新聞に書いてあるのさ BSE 政治家から提案あると
 
 オレは思った「さすが政治家、ついに感染源をつきとめたんだ、イェー」
 
 もう正しい飼い方 牛は病気知らず 人類の技術 また一歩前進した
 
 わけじゃないみたいなんだな もー エブリバディ
 
 客を殺してでも、金儲けしたい商売人がいるらしい
 
 作れよ統計 見せろよランキング
 
 いちばんBSE患者が少ない国 そこから学ぶの科学

 あんたの政府は、感染症で何人殺してるんだ 国の名前を教えてくれよ

投稿: 50円玉 | 2005.04.09 22:05

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巷では牛肉輸入再開を巡ってどうあるべきかという話題が飛びかっていますが、 勉強不足な僕はそうした議論に全くついていけてません。 そういえば、アメリカ... [続きを読む]

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