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2005.03.21

原油高騰の背後にある石油枯渇の与太話

 年明け以降、なんとなく気になっていた石油枯渇論だが、率直に言うと、これって壮大な電波というか与太話ではないかという印象をもっているので、どう触れていいのかためらっていた。それでも、このところの原油価格の動きを見ていると、それが与太話であれ、なんらかの影響をもっていそうだなという感じも受ける。すでに各所で触れられている話題でもあるし、当方も詳しく知らない領域でもあるのだが、ごく簡単に触れておきたい。
 このところNHKの科学解説を見ていると、またかよと「ハバート曲線」が出てくる。与太話にしても船頭は科学者らしいのが環境問題なんかと同じで萎えるものがあるのだが、いずれにせよ、それなりに科学的な文脈の話だとも言える。
 ハバート曲線は、採掘年を横軸、産出量を縦軸とした正規分布グラフのような釣り鐘状をしている。しだいに産出量が増え、ピークを迎え、産出量が減少する。発案したハバート(M. King Hubbert)はシェル石油採掘のエンジニアで、1956年に油田の寿命としてこの理論を著した。これが所謂「ハバート曲線」。この理論では、アメリカの石油産出が1970年頃にピークになり、それから衰退するということで、それと直接関係もないのだが、日本の石油パニックと合わせて有名にもなった。ハバートの理論は個別の油田についてと、ごく限定されたもので、地球規模で当てはまるものでもないが、今こうして振り返ると米国の国政の長期計画に影響があったのかなとも思う。

cover
Hubbert's Peak
The Impending
World Oil Shortage
 その後、この理論を地球規模に適用する試みがなされ、石油地質学者キャンベル(Colin J. Campbell)などは2004年を地球規模での原油のピークとした。具体的な曲線は、"エネルギーの未来、食料、自然環境"(参照)にもある。つまり、ピーク以降は原油は減少するというのである。
 与太話風にわかりやすいのは、中国がばかすか原油を必要としているのに現状の石油は減産に向かうとなれば、原油は高騰するでしょう、と。こうした話は米国や日本ではあまり報道されていないと稲川淳二、もとい金子勝がラジオでほざいていたが、うそうそ、"The Impending World Oil Shortage"はペーパバックで売られている。
 現状からの推測とすれば、ハバート曲線的な予想が当てはまらないものでもないし、英国インデペンデント"Business Analysis: What will the rest of the world do if Saudi oil runs out early?"(参照・有料)でも、標題からもわかるようにサウジがらみで面白い話が掲載されていた。

Mr Simmons, the chairman and chief executive of a Texan energy investment bank, is calling for a new global standard of transparency for all serious oil and gas producers.


He warns that Saudi oil production may be close to peaking, pointing to the increasing use of high-pressurised water to maintain production in some fields.

"At some point in time the 'water sweep' will end and the high reservoir pressure will drop. This is simply the ageing process of any oilfield," he says, pointing to the North Sea as an example.


 つまりサウジの油田開発は古いし、限定されている。すでに高水圧で汲み出すというのはよぼよぼ状態じゃないか、と。
 シモンズは投資会社員なので吹いている部分はあるのだろうが、このあたりの指摘は油田を限定していることもあり、そう与太話とも言えない。ついでに、シモンズが言っているわけではないが、昨今の原油高でうはうは(C 巨泉)なのはサウジなので、今後原油を掘り出すためのカネをプールしているかもなとも思う、というのは与太話。
cover
世界を動かす石油戦略
 とはいえ、日本人必読「世界を動かす石油戦略」にあるように、地球にどのくらい石油が埋蔵されているのかはわからないし、石油の量というのは、ビジネス的に見るなら採掘投資との相関になる。つまり、現状の体勢から石油が枯渇するぞぉというのはかなりハズしているわけで、実際のところ、原油高も80ドルあたりで投資ビジネスへの転換となるらしい。日本は、がばがば石油に税金のゲタを履かせているのでそのくらい上がっても中期的には屁でもない。ので、米国と欧州と、さらに中国のチキンレースが見ものということになる。
 面白いのは中国で、原油のニーズがふくれあがっているといっても、近未来的にはどかんと経済が凹み、ニーズも短期的に凹む可能性が高い。欧州ではすでに、環境問題という煙幕で石油から距離を置こうとしているし、日本もこっそりその尻馬に乗っている。結論的に言えば、ハーバート曲線がどうのこうのというより、このあたりのチキンレースの動向を見るほうがいいだろう。幸いにして日本の経済の総体は縮退するので、原油減耐性がメリットになるかもしれない。
 蛇足的な話ではあるが、イラク戦争がなければ、欧州の石油はサウジ離れを起こして、短期的にサウジ抜きのOPECというか産油国を優位に持ち込めたのかもしれない。そのあたりの話になると、もろに陰謀論となり、私の専門でもないのだが、そんな印象も受けるには受ける。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

石油は燃料だけじゃなくて、工業素材にもなりますからねぇ。つまりプラスチックの原料。

定量的に見てないのでその辺折込済みの議論なのかどうか判りませんが、燃してる分だけで考えてはいけないのかも。

いずれにしてもリサイクル資源(燃料)にシフトするのが一番よろしかろうとは思いますが。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.03.21 13:35

石油に関して、下記の本にて化石燃料ではないと
いう話の検証が行われています。

トンデモ科学の見破り方(Nine crazy ideas in science)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4794212828/
例えばどんなに深い場所からでもメタンガス
(天然ガスの主成分)が見つかったりして、
生物起源では説明できない等。

石油資源は有限という話にすると都合の良い人
たちがたくさん居るということからも、石油は
生物起源で有限であるという話は、眉に唾して
見た方が良いのかも。

投稿: XYZ | 2005.03.21 14:47

ご紹介の本は全く読んだことがないのですが、個人的な思い込みを申し上げますと、
石油という資源は、生産コストが自然環境に大いに影響を受け、かつ、生産調整が容易です。
生産コストが極端に低いサウジの石油が枯渇しない限り、長期に高値が維持される保障はなく、油田開発投資のリスクは大きく、確認埋蔵量は減少していかざるを得ません。
長期的に高価格が維持することが見込めれば、開発も促進されると思われます。(何回も裏切られていますけど)

そういえば、かつて、ロシア(旧ソ連)が石油の純輸入国になるって予測されてましたよね。西側の技術導入で可採埋蔵量が増加したってことでしょうね。

投稿: 粘着電脳研究家 | 2005.03.21 15:22

ハバート曲線とは、毎年新規発見された埋蔵量の年次変化を表す曲線です。産出量が釣り鐘型になるのは、常識的な話ですが、新規発見埋蔵量の推移で予測を立てるというのが、ハバートの着目点でした。人口推移で言えば、出生率の変化から人口予測をするようなものです。石油に関して発見埋蔵量がピークを打ったかどうか。ピークを打ったことが知れわたれば、そこから価格が上がり始めるという理論です。その確認はともかくとして、チープ・オイルの時代は終わった、というのはほぼ間違いないでしょう。

投稿: アク | 2005.03.21 23:37

おぼろ気な記憶なのですが何年か前までは、石油の後を継ぐ資源として「天然ガス」という選択肢が話題に上ることも多かったような。(主に燃料としての用途においてということなんでしょうが。)最近すっかり聞きませんね。
ちょうど当時資源の少ないバングラデシュに天然ガスが豊富に存在することが発覚。海外の援助を得ながら国を挙げて天然ガス利用を実用化(採掘・精製・輸送)していこうという動きがありました。(実際、技術的には/理論上は実用化可能、またはそれに近い段階にあったのではなかったか?引火した時の爆発など石油より危険性が高いから云々という話はあったにせよ。)
その後「天然ガス」という選択肢をとんと目にしなくなって「ものすごく大雑把に言えば要するに需要がないってことなのかな?」と思うようになりました。
その辺からも「石油は○年以内に枯渇する」という話に「オオカミがきたぞー!」的な匂いを感じるようになった今日この頃です。

それともどのみち「化石燃料」なので、「石油資源と同じで有限(かもしれない/にちがいない)」「天然ガス使用=排出される二酸化炭素量増加」ということであまり、抜本的な解決方法と思われていないのが原因か。
(後者に関しては「化石燃料の中では最も環境に与える負荷が少ない」と言われているみたいですが。
参考:http://www.tng-gas.co.jp/html/04/0102.html)

投稿: 西方の人 | 2005.03.22 02:18

たしか秋田の油田から、石油を生成するバクテリアだか細菌だかが見つかってます。

生物起源というのはこのことかと思ったりして(藁

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.03.22 09:30

石油生産についての解説がありましたので、貼っておきますね。
http://www.japt.org/

石油は、生物起源説が主流のようです。必ずしも無機起源説を否定するものでもないようですが。
石油の鉱床は、石油が生成された岩石から水との比重の違いで移動して、多孔質の岩石中に集積したものです。起源を知ってもさしたる意味はないとまでは言えませんが、石油鉱床の発見、開発のために、より重視されるのは、集積された地質構造(トラップ)と言えそうです。

1950 年代に唱えられた説って、それ以降の石油工学および、コンピューターシミュレーション能力の進歩を考えると、どれほどの意味があるんでしょうね。

投稿: 粘着電脳研究家 | 2005.03.22 20:07

天然ガスはそもそも石油と同時産出することも多いですし、ごく一般的な燃料として大量に使われていると思いますが。

中長期的にはやはり代替エネルギーで決着するのでしょう。エネルギー問題は所詮コストに見合うかどうかだけの話で、大局的に判断すれば、枯渇しかかって高騰すれば需要が減るだけでは。もちろん短期的には大混乱でしょうけども。
そして本当に代替不可能な資源って、恐らく水くらいではないかと思うのですが。

投稿: カワセミ | 2005.03.22 23:23

>カワセミ氏

>そして本当に代替不可能な資源って、恐らく水くらいではないかと思うのですが。

我が家は福岡市ですが、福岡は水事情が良くないので逆浸透圧膜による海水淡水化プラントがまもなく(4月から)稼動する予定だったところに地震喰らってましたけど、まぁ大丈夫だった見たいです。
http://www.city.fukuoka.jp/suidou/030000/030102/

しかし他所より高い水道料金が益々高くならないか戦々恐々です。福岡市は上げないとは言ってますが。

そういえば、屋久島からタンカーの往路を利用して水を輸出してたこともあったような。

結局、水資源は量ではなく、コストの問題ですね。

投稿: ■□ Neon □■ | 2005.03.23 00:49

>ごく一般的な燃料として大量に使われていると思いますが。

自分で参考URLにしたリンク先(東北電力)を後でさらに読んでみると「もしかして結構実用化進んでいるのかも?」ととれる箇所がいくつかありました。
なるほど。私の知らない間にすっかり一般的なものになっていたのですね、天然ガス。ちょっと浦島太郎のような気分です。

投稿: 西方の人 | 2005.03.23 06:52

天然ガスは石油と同時に採掘されるけれど、使い道が無く捨ててた(つまり燃やしてた)ケースも多いんですよ。

それをパイプラインなどで需要国に運んで使いましょうというのが大まかな流れで、化石燃料の中では環境負荷が小さいというのはどっちかって言うと派生的な話のような気がします。もちろん、京都議定書スキームの中ではCO2削減は重要ですが。

ただし、天然ガスは不純物が少なくてクリーンっていうのには日本の特殊事情もあって、それはタンカーで運ぶ段階で液化(LNG)して精製されるからなんですね 。液化されずにパイプラインで直接やってくる天然ガスのクリーンさについては少し割り引いて考える必要があります。

投稿: yuno | 2005.03.23 23:50

>結局、水資源は量ではなく、コストの問題ですね。

おっしゃる通りですね。他の一次資源と比較しても、コスト要求が非常に厳しいというところで特殊とも言えますね。

そしてエネルギー問題もそのやや緩やかなものと理解しているのですけれども、どんなもんですかね。原料としての議論でも要は代替物との生成エネルギー見合いと。

投稿: カワセミ | 2005.03.24 01:31

時間的な話は別として、石油が枯渇するか否かと言えば、間違いなく「枯渇する」。これは誰にも否定できない。なぜなら地球全体での含有量を100%とすれば、地球外から補充しない限り使えば減る。子供でも分かる話。
使った石油が何らかの循環で100%石油に戻るならば話は違うが、そうでない限りいつか「石油は枯渇する」。頭の悪そうなグラフとか統計結果なんかを持ち出すまでもなく、「石油は枯渇する」。
「しないなんて言ってない」と言うのは詭弁に過ぎない。「枯渇は至近の問題ではない」と謳うこと自体が危険思想だ。免罪符が欲しいだけではないか。

投稿: 頭悪そう | 2005.07.14 13:52

時間的な話を別とできる超越者ならともかく、われわれ有限の存在にとっては「いつ枯渇するか?」は重要な問題だと思いますよ。有限者にとっては、時間もまた大切な資源。

投稿: 自由の敵 | 2005.07.14 16:14

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