EU(欧州連合)憲法お陀仏の引導を渡すのはフランスとなるか
標題にはちょっとばかりの悪意があるが、それほど釣りの意図はない。最初に明言しておくと、EU(欧州連合)憲法なんか潰れてしまえとも私は思っていない。環境問題のEUのありかたから、私もけっこう影響を受けてきているせいもある。
とはいえ、潰れる可能性は当面高まっている感じがする。話は少し古いが、18日付で発表されたフランスの世論調査(CSA)では、僅差ながら、EU憲法憲法成立への反対が51%となり、賛成49%を上回った。この二週間で賛成が14%もがくんと凹んだ。
この急激な変化にはわけがある。毎日新聞記事"欧州憲法:フランスで反対強まる 5月に国民投票、域内他国に影響も"(参照)は、その理由についてパリジャン紙をひいてこう伝えている。
同紙は、EU不信に加えてラファラン内閣に対する国民の批判が「制裁票」になっている可能性を指摘している。仏では2月のゲマール前経済相の不動産スキャンダルの表面化に続き、教育改革反対の高校生や、政府の経済・労働政策に抗議する官民の労働者がデモを展開、対政府圧力を強めている。
ということで、毎日新聞の外信では、ニュースなどでも伝え聞くフランスでの大規模なストライキの余波と見ているわけだ。が、なぜか「政府の経済・労働政策に抗議する」として、その内実に触れていない。これは公共部門での賃下げと法定労働時間35時間の見直しが含まれている。
同記事ではこれに続けて「サービスの自由化」を上げている。
また、EUのボルケスタイン前欧州委員(域内市場担当)が起草した「サービスの自由化」についての域内指令が仏国民の危機感をあおっている。旅行・ホテル業、建築・不動産業、レンタカーなどの分野で加盟各国企業に対してEU域内での自由営業を認めるもので、安価な労働力の域内移動が加速され、すでに失業率が10%に上っている仏国民は職を脅かされることになる。
これでも国内紙では毎日新聞の外信はよく伝えているほうなのだが、もしかするとシラク大統領来日に遠慮しているのではないか。
欧州憲法反対派はこの域内指令を反EUキャンペーンに利用しており、シラク大統領は15日、EUのバローゾ欧州委員会委員長との電話会談で「受け入れられない」と指令の再検討を要請した。
とややぼやけたトーンなのだが、この点は、19日付フィナンシャルタイムズの愉快な標題の記事"Falling out of love"(参照・有料)では、きちんとというか強いトーンで書かれている。
Mr Chirac's latest move to blow the directive out of the water was to ring up Jose Manuel Barroso, the Commission president, this week to tell him the services plan was "unacceptable", and then spread his demarche all over the French press. Hardly a tactic to endear Brussels to the French electorate, or himself to Mr Barroso, who said he was "amazed at the French debate".
EUの基本となるべき「サービスの自由化」をけっ飛ばしたのはシラクであり、バローゾ欧州委員長もこのおフランスな議論"the French debate"には、びっくらいこいた。ポルトガルは田舎だがや、ってか。
それにしても、法定労働時間35時間の見直しにしたって、もとはといえばフランスが吹いていたリスボン戦略じゃねーか。ったくよぉ。ちなみに、リスボン戦略というのは2010年にEUが世界でもっとも競争力のある世界となるというもの。笑うな。
バローゾにしてみれば、フランス人ってのは国民も国民、大統領も大統領である。それに、またかよでもあろう。と同時にこのあたり、バローゾを支持した英国の気持ちをフィナンシャルタイムズが代弁している。原文にはさらにジャン・モネ(Jean Monnet)を引いてもってまわった英国風の皮肉が込められていたりして、読みづらいったらありやしない。
いずれにせよ、この流れでEU憲法お陀仏の引導を渡すのはフランスとなるかなのだが、ま、そうなるんじゃないかというのは極東ブログの従来からの読みでもあるのだが、差し迫ったとはいえ、国民投票が実施される五月二九日までは間がある(フランス政府としてはこれでも間を取らないための日時設定だが)。今回の世論調査でも、棄権が53%もいるので、充分覆る可能性はある。
今週のニューズウィーク日本語版(3・30)"EUを救う民間の底力 腰が重い政府を尻目に民間レベルで高まる改革の波"では、旧来勢力のパリのストライキに反対する動向に着目している。
パロゾの改革を支えるのは、破綻寸前の福祉国家などあてにできないと考える若い起業家や活動家。
としているが、こうした勢力や、従来からの欧州統合派などが盛り返してなんとかフランスの国民投票を乗り切るという可能性もある、というか、ルペン潰しの時の図柄を思い出してもそうした可能性は考えられはする。
それにはさっさとシラクが引っ込むべきかもしれないし、そうすることで昔懐かしいおフランスな政治風景も変わるかもしれない。もちろん、フランスがこければイギリスがこける。
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コメント
私は、いやな事はいやだと意思表示したほうがいいと思います。
EU拡大構想には興味を持ってニュースとか記事とか見ていたのですが、最近どうでもいいなあと感じてしまいます。自国民の生活や保障のほうが「たてまえ」よりはるかに大事じゃないのかな~。。。
理由を書きはじめると、細かく失礼なことも沢山書きたくなるのでやめますけど、拡大EUって、一体誰のために重要なのかさっぱり分かりません。
投稿: むぎ | 2005.04.01 02:58
5月23日からフランス出張にかこつけてEU憲法国民投票の喧騒を見てきます。原則としてEUが行っている国民国家融解の実験は評価しているのですが、果たしてその内実はいかに? というところでしょうか。フランス市民や若者たちの実際のとろこどうなのよ、というのを知りたいものですね。といいますか、実際のところどうなんでしょうね
投稿: エンチヒ | 2005.05.09 02:06