親日家ブリュノ・ゴルニッシュ(Bruno Gollnisch)発言の波紋
本題に入る前にちょっと脇道。
週に一日はニュースだのブログだのから離れていようと思うが、さすがにホリエモン関連の裁判騒ぎは耳に入るし、当方としても、5日の時点で極東ブログ「ホリエモン・オペラ、間奏曲」(参照)で、「ただ個人の勝手なブログなので勝手に賭けに出ると、裁判所沙汰について言えば、ホリエモンの勝ちでしょう」と言った手前、ちょっと気にはなった。結果はご覧の通り。
本題のほうは、といって、これもタッチーな話題なのでそれほど突っ込む気もないのだが、親日家に応えるのも日本人の人情ってもんじゃないかと思うので、簡単に触れておく。
話は、フランスの国民戦線(FN)を支える重要人物ブリュノ・ゴルニッシュ(Bruno Gollnisch)が、教官を務めていた、リヨンにあるジャン・ムーラン大学から五年間の停職処分を受けたのだが、その理由は、ホロコーストに疑念を表明したことだった。
ここが実にタッチーな話なので、事の次第を知る基本ニュース自体はAPではあるが、あえてユダヤ系のJeerusalem Post"French professor suspended for doubting Holocaust"(参照)から引用しよう。
A French university said Friday it decided to suspend a professor for five years after he made remarks that cast doubt on the Holocaust.Bruno Gollnisch, who is also a top official in the far-right National Front party of Jean-Marie Le Pen, questioned whether the Nazis used gas chambers in the Holocaust and suggested that the number of Jews killed during World War II might have been exaggerated.
記事にはFNの前にfar-rightという形容があることにも注意していただきたい。問題発言はこのニュースからは、ゴルニッシュが、ホロコーストのガス室を疑問視したことと、虐殺されたユダヤ人数が誇張されているのではないかと示唆した、と読める。
さらに、今回の決定は、前年の出来事から続く話にも関連していた。
His comments, made at a news conference in October, sparked uproar among Jewish and anti-racism groups.
ということで、昨年のこのニュースなのだが、朝日新聞などでも報道されていた。ネットでは、"ホロコースト自由議論求めた仏の日本研究者が大学停職処分の朝日新聞報道に決定的重要欠落部分"(参照)というページに関連情報が残っているが、このページについては当方は言及しない。
ブログ(日記)では、はてなダイアリーfenestraeさんの"世に「なかった主義」の..."(参照)が興味深い。教官職を吹っ飛ばされるに至る問題発言は次のものらしい。
今やまともな歴史家でニュールンベルク裁判の結論を全面的に認めるものはいない。強制収容所があったことを私は疑問に付すものではないが、死者の数について歴史家が議論できてもいいはずだ。ガス室の存在についていえば、どういう判断をするかはそれぞれの歴史家の自由だ。il n'y a plus un historien serieux qui adhere integralement aux conclusions du proces de Nuremberg. Je ne remets pas en cause l'existence des camps de concentration mais, sur le nombre de morts, les historiens pourraient en discuter. Quant a l'existence des chambres a gaz, il appartient aux historiens de se determiner.
これに触れたコメントはかなり的確である。
とにかく「歴史修正主義 revisionnisme」、「なかった主義 negationnisme」 に対するフランスやドイツなどの常識とはこういうものだ。もし上のゴルニッシュ氏の発言を一読して「なるほどもっとも」と思う常識があるとしたら、その常識は今のフランスのものではない。こうした発言でも、公人としては極めて危険なものである。現にゴルニッシュ氏に対してはリヨン大学が停職措置を求めて教育省に報告書の提出を予定しており、法務大臣も訴追の意図を表明している。ただしあきらかにぎりぎりの挑発を狙ってなされたこの戦略的な発言がこの先どう法的に決着がつくかは定かではない。
私自身は「挑発を狙って」については否定もしなければ同意しない。また、fenestraeさんがこの話から南京事件に言及していく文脈についても当方は基本的に触れないのだが、一点、気になることがある。
この事件が事実かどうかのかまびすしい議論の向こうに、日本人の中にたまたま2人だけ残虐な行動をした者がいたということの事実の確定にとどまらないもっと大きい問題として、当時の日本人が心性において大虐殺者だったというイメージが控えている。
もしかすると、通州事件とその国内への影響についてご存じではないのかもしれないとは思う。つまり、その問題を議論するには、もう少し広範囲なレンジで日本の当時のメディアの状況を検証する必要があるかもしれない。が、それは非常に困難な作業を伴うだろう。
話をゴルニッシュに戻す。現状はどうか。国内は当然だが英米圏ではやはりこの問題には極力触れまいとしているか、あるいはルペンの流れでおさえようとする印象は受ける。FN支持も少なからぬフランス国内でだが、この話題はメインのジャーナリズムでは避けられている印象もある。11日付けのフランス語のロイター"Gollnisch fait appel de son exclusion pour cinq ans de Lyon III"(参照)あたりがニュースとしては妥当なところだろうか。当方フランス語は読めないのでさっさと自動翻訳の手を借りる(参照)。現状、ゴルニッシュはこの対応を不服としている。
LYON (Reuters) - Bruno Gollnisch appeals to the national Council of the higher education and the search (Cneser) for his exclusion for five years of the university Jean-Mill Lyon III, where it taught."I make call of this illegal decision in front of Cneser, but without too much illusion, announced number 2 of the FN at the time of a press conference.
この件ついて、れいのフリーペーパー20minutes"Bruno Gollnisch de juges en juges"(参照)が意外とクリアに述べているようにも思えた(参照)。
話は余談めくが、ゴルニッシュの奥さんは日本人で二人には三人の子供がある。日本語も堪能であり、日本などアジアの政治についても専門分野だ。親日家でもあるらしい。FNと聞くと人種差別主義者かのような印象を持つ人もいるだろうが、あまりに短絡なイメージに過ぎないようだ。
"ゴルニッシュさんと王党派と南北朝"(参照)というページの記事によると、ゴルニッシュは京都大学の卒業でもあるらしい。いろいろ逸話が面白いが、歴史好きの私には次の話などが興味深い。
ゴルさんが言うには、「王党派は国民戦線に少しいるが、力はない。又、歴史は後戻りしない」と言う。「それに、かつぐべきブルボン王朝が分裂していて、南北朝と同じなんですよ」という。さすが京大出の人は違うと思った。「南北朝」なんて、今や日本人だって知らないよ。このことは「創」(6月号)に詳しく書いたけど…。ゴルさんによると、フランス革命でギロチンで殺された王様の〈嫡流〉はスペインに亡命した。そこでスペイン人になった。外国人になった王はフランス王になれないんだそうな。南朝は外国人になってしまって、ダメなんだ。でも、ブルボン王朝の〈傍流〉はフランスにいる。まァ、北朝ですわな。でも、「三種の神器」はない。(フランスにもあるのかな?)。まァ、王党派もこの人をかつぐしかない。そんなわけで、フランス版「南北朝」なんですな。
EU憲法を巡るフランスの動向には今後も目が離せない状態だが、いずれにせよ、FNのこうした動向を含めて複眼的にワッチしていく必要はあるだろう。
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コメント
南北朝の話は面白いですね。フランスにもそんなことが最近あったのか...
そういえば、明治以降の公認の歴史では一応、南朝を正当の王朝にして、同時期の現在の皇室の先祖は北朝にしているんだけど、江戸時代までは、北朝を正当な王朝にして、後醍醐天皇以降の南朝の天皇は、ただの親王として記していたはず。
長幼の序や皇族の名前の付け方(北朝は~仁、南朝は~良が多い)から考えて、北朝のほうが本流なのかな?とも思うが、三種の神器の経緯から考えると、あの時代は南朝のほうが正当だったのかもと思う。(足利王朝伝説や大室伝説は無しでW)
そういえば今、皇位継承問題が持ち上がっているけど、戦後に臣籍降下された旧宮家(伏見家、竹田家、東久邇家、久邇家、朝香家、賀陽家など、その他多数)というのは男系では、南北朝が統一して間もない時期に現在の皇室本流と分かれた系統なんですよね。ずいぶん、遠い傍流ですね。
もっと近いところだと、江戸時代に東山天皇や後陽成天皇の皇子や皇孫が摂家へ養子に行って、その男系の子孫が色んな家で続いているらしいですが...(高千穂家、華園家、徳大寺家、住友家、室町家、醍醐家、南部家、佐野家、四条家、近衛家など、その他多数)
投稿: (anonymous) | 2005.03.12 14:32
フランス王家の傍流って「オルレアン家」のことでしょうか。
興味あります。
投稿: 銀ぎつね | 2005.03.12 17:23
修正論者の主張を、中学生でも理解できるレベルで解説しているサイトがあります。結構有名なところですが、知らない方はご一読を。
http://maa999999.hp.infoseek.co.jp/ruri/sohiasenseinogyakutensaiban2_mokuji.html
投稿: 某K | 2005.03.13 09:13
このエントリには釣られないよ、という心算だったんですが、まあ一応いくつか押さえておくべきと思うので、簡単に書きます。
-ゴルニッシュ自体は、バカな人間じゃないでしょう。ただ、どっかで歯車がずれてしまった人間だと見える。最近の発言を見ても、嘘を嘘と知りつつ、かき回す/アジテイトするために言ってる風である。まあ、これは親分のル・ペンのやり方でもありますが。ル・ペンの娘との間の後継者争いも関係しているかもしれない。彼についてはこれ以上のことは知りません。
-殺害されたユダヤ・レジスタンス・ホモセクシャル・共産主義者・ジターン・精神および身体障害者の数についての判断には、いくつかのヴァリエーションがありますが、ナチスによるジェノサイドは本当にあったわけで、その歴史自体を否定する人間は、少なくともフランス自体にはあまりいないでしょう。まわりの何人かが、家族のうちの誰と誰がどこそこの収容所で、、、という話を(聞けば)してくれるわけです。
-ところが、FNの人々はこれを話題取りに持ち出す。タブーを出してきてキャッチワードに使っちゃう。血の気の多い単細胞には効く。FNが使ってる用心棒グループ、スキンヘッド連中はこれでしょう。通りがかりのマグレブ(アラブ語)系の青年をセーヌ川に突き落として殺したのは、ジャンヌダルク祭FNデモ帰りのこの連中です。
-ル・ペンのやり方は、ときどきホロコーストをかき混ぜて爆弾宣言をし、世間の話題となる。結果としてTVに出られる。うちわの政治ミーティングでは、ユダヤ・マグレブ・ブラックアフリカ移民のせいでフランスは落ちぶれた。このままでは亡国である。犯罪率が高いのも彼らのせいである、とかぶつ。支持者の大部分は、表に出るとアラブや黒人に狙われる(と信じている)小金持ちの年寄りが多い。でも文章になる部分ではそんなに過激なことは言ってない。他の政治家が口にできないデリケートな事柄も口にするので受ける場合もあるね。(東京知事をやってる某氏のほうがよっぽど過激に人種差別してて、それでも政治家が続けられるてのは私には理解できません)
-ル・ペン自身はアルジェリア戦争で戦争犯罪に近いことをしていたらしいです。
投稿: ねこ仏少年 | 2005.03.13 12:15
すんません、おまけです。
極東さんはもう自動翻訳して読んでるかも、ですが。
ウィキペディア仏版です。
http://fr.wikipedia.org/wiki/Bruno_Gollnisch
投稿: ねこ仏少年 | 2005.03.13 12:47
こんにちは。
「人権」のもとに極左活動家擁護に立ち上がるかの国の知識層は、この件に反応しているので
しょうか?(してないでしょうね・・・)
ズンデル氏のエントリに続き、ざわつく思いで
読ませていただきました。
投稿: serena | 2005.03.14 03:31
>ねこ仏少年
言論の自由を解さない馬鹿サヨクって言うのは何でみんなあんたみたいなんでしょうな。
ズンデルが引きこもりのおっさんだからとか
ゴルニッシュが右翼政党の関係者だとか
そんなことは、言論の自由を規制する理由にならないんですが。
投稿: eternalwind | 2005.03.17 01:57
ゴルニッシュは右翼政党の関係者ではなく、極右です。
投稿: ねこ仏少年 | 2005.03.25 18:51
>ねこ仏少年
その人の立場に関係なく、自由に発言できることを、言論の自由っていうんだよ。
極右ってレッテル貼ることに何の意味がある?
投稿: eternalwind | 2005.03.29 10:37
>極右ってレッテル貼ることに何の意味がある?
FNの存在理由は“極右”という場所取りに尽きるでしょう。ド・ヴィリエなどの王権復興主義者も保守内にいるんですが、FNとの違いは彼らは自分たちを極右とは見なしていない。FNは安売りスキャンダル専門週刊誌と同じで、hate発言を意識的に行って裁判沙汰にもちこみ、話題になるのが目的です。(欧州では言論が越えられないレッド・ラインが決められています)
また、付け加えればFNの存在理由は“王政支持”でも“ナチス擁護”でもなく、単なる自己保存だと思えます。
投稿: ねこ仏少年 | 2005.03.29 21:40
「百人斬りの報道」を否定的に捉えるなら、「南京大虐殺三十万人説のプロパガンダ」も否定的に捉えるべきですし、「反戦」を訴えるなら、英米仏中ロの戦争も非難すべきと考えます。
投稿: 大豆 | 2009.02.22 19:51