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2005.02.04

スーダン問題について

 昨日の朝日新聞社説"スーダン和平――PKOを論じ合う前に"(参照)を一読してかなりむかついたものの、早急の問題でもないので昨日のエントリとしては見送った。逆に今朝の話題である米一般教書演説の主眼である米国公的年金改革はかなり難しいテーマなので今朝のエントリにはできそうにない。しばしミューズリ(参照)を噛みしめながら思ったのだが、朝日新聞の社説はさておき、スーダン問題について自分の考えを書いてみたい。書くにあたって、ディテールは少し割り切ってできるだけこの問題のスジをどう自分が考えているかに絞りたいと思う。その分、批判はあると思う。イデオロギー的な反発も受けるだろうと思う。
 まず、スーダン問題は、現状二つの問題が絡み合っている。これを分けてほしい。
 一つは南北内戦問題で、これはある意味でスーダンだけに限らない。コート・ジボワール(参照)でもなどでも抱えているし、極東ブログ「世界子供白書2005を巡って」(参照)で触れたウガンダの問題もある。
 内戦は世界の他の地域にもみられるが、アフリカの内戦では、少年兵や少女レイプ、アラブ人と黒人の対立といったいくつかの特徴がある。スーダンについて言えば、現状のスーダン政府はかつてビン・ラディンをかくまっていたようにアラブ系であり、南部の反乱勢力はキリスト教である。ただし、宗教対立が原因というわけではない。
 なにが内乱の原因かといえば、宗教と重なり合うものの民族的な対立や経済利権の問題がある。特に、スーダンの場合は南部の石油の利権が大きな要因になっている。これに旧宗主国の支配構造や資源を狙う大国の思惑がある。
 スーダンの場合では、中国が石油利権をここで確保したいがためにかなり無理な態度もとっている。もっとも、「中国が」と言ったものの、その利権は必ずしも中国政府(つまり軍部)がとだけは言い切れない面があり、全体のバランスを崩せば多様な陰謀論も可能だ。なにせ石油利権が噛んでいるのでいろいろなお話はある。しかし、問題は私たち日本人と国際社会の人道的な問題なので実際上は陰謀論的な考察はあまり意味がない。同様に、単純に中国を敵視しても実際的ではない。
 もう一つの問題が、ダルフール危機だ。これは、スーダン西部の問題で、ここにも軍事力を持った反乱組織があるので対立の構造として、南北問題のように、スーダン政府対西部の反乱軍というふうに見られがちだ。たしかにそうした見方もなりたつ。が、その見方のためにダルフール危機が充分に認識されないことになった。「ああ、そっちも内乱ですか」ということに見られるからだ。
 しかし、ダルフール危機は内乱の派生の問題ではない、まず10万人を越える虐殺があり100万人を越える難民が発生した、その人道危機にどう国際社会が向き合うかという問題である。本当にここが問題なのだ。内乱の過程で殺されたのではないのだ。
 ある種の知的な枠組みとして、ダルフール危機の原因なり種別(問題のタイプ分け)は考えられる。その側面では、ダルフール危機は、ルワンダでの民族大虐殺問題(参照)と同様、民族浄化、大量虐殺、ジェノサイドである。
 国際社会は10年前にルワンダにおけるジェノサイドを阻止することができなかった。その反省をどう活かすかと国際的な意識が高まる、まさにその渦中でダルフール危機が発生した。
 早期から、ダルフール危機にはジェノサイドの特徴があることはわかった。だが、この知的な追及は実態がわからないために空回りを続けた。皮肉な言い方をすれば、ジェノサイドが進行していることを見たくがないための知的作業のようですらあった。
 もし、ルワンダ問題のような大虐殺であるとしたらどうしたらいいのか。それが世界に再発したときどう対処したらいいのか。国際社会は回答の方向性を持っていない。あるすれば、国連とアフリカ連合が重要になるのだが、これが機能しない。実際は機能できない。
 その意味で、ダルフール危機というのは、国連の問題でもある。そして、なぜ国連が機能できないのかというところで、どうしようもなくイラク問題や国連不正の問題が関わってきてしまう。極東ブログは親米で国連バッシングをしているかのように受け止める人もいるだろう。だが、このブログを続ける私の願いの根幹は、国連をどうやって使えるものするかということだ。
 しかし、この国連の問題は難しい。特に日本では、国連対米国という図式になる。現実世界を見るなら、米国の関与のない国連など機能しようもないのにだ。しかも、国連が不正に働くとき、つまり、国際社会が欺瞞のなかにあるとき、米国はそれを国益として受け止めるならその単独の軍事力をもってしか是正するしか選択肢はない。そう考えるしか道筋がない現実は、率直に言えば、泣きたい思いがする。
 ダルフール危機は、ジェノサイドなのか?
 私は、大筋では、スーダン政府による組織的なジェノサイドだと見ている。しかし、その認識は、ブログやネットでの立場とは少し違う。そう認識することが当面の問題の解決につながらないからだ。まず、人道危機をどう回避させるか、そのために、最低できることはなにか、現状をどう理解するか。
 だが、ジェノサイドと認識しているということを今日は少し書いておこうと思う。
 ダルフール危機は、南北問題が和解に至る寸前で表面化した。おそらく、スーダン政府が、南部と争いの過程で懲りて、問題が長期の内戦化する以前にダルフール地域を反乱ができないほどに抹殺しようともくろんでいたのだろう。そう言うことはある意味でタブーではあったが、ようやくその見解の支持が国際的には増えて来つつはある。というのも、単に証言だけではなく、ようやくスーダン政府自らの民衆虐殺が目撃されるようになってきたからだ。
 もちろん、実際の虐殺の多くに関与していたのは、ジャンジャウィードと呼ばれるアラブ民兵であり、これまでは彼らとスーダン政府との関係はかなり疑われてはいたものの、明確にはされてこなかった。実際のところスーダン政府側もジャンジャウィードを統制していたわけでもない。そこが難しいところだ。
 また、経時的に見るなら、ダルフール危機の勃発は、ダルフール側の反乱組織の武力攻撃に端を発している。先にけしかけたほうが悪いというなら、反乱側のほうが悪いと見なされがちだ。
 だが、その見解は待ってくれと私は思う。ダルフールで殺害され追われた民衆は、必ずしも西部の反乱軍とは一致していない。むしろ、反乱軍もダルフール民衆を迫害していた様子がある。こうしたことは先に触れたウガンダの状況からもわかる。造反有理というようなつまらない洒落で状況を見ることはできない。むしろ、大筋で見るなら、私は、こうした要素をスーダン政府が民族浄化の目晦ましとしてきたと考える。
 ダルフール危機が、もし内乱の構図なら、極東ブログ「[書評]戦争を知るための平和入門(高柳先男)」(参照)でも触れたように、残酷だが、人間の尊厳を考えるなら、内部で満足行くまで殺し合いをするしかないだろうと思う。
 しかし、ダルフールで迫害された民衆には反乱の意図はなく、また武器もない。つまり、絶対的な非対称性が成立している。これに対して、スーダン政府側には中国から石油利権の代償として供与された武器が利用されている。そして、その中国に武器を販売したくしてしかたがないEUがいる(参照)。
 話が錯綜してきたが、国連が機能できないのは、中国の存在も大きい。これも二面ある。一つは実際に利用しなくても拒否権(veto)の存在が大きいことと、もう一つは人民元切り上げをしないためにやがて来る切り上げを狙ったマネーが中国に流れ出して爆弾状態になっていることだ。人民元についてはそうでないと見る見方もある。フィナンシャルタイムズも、現状の中国の報告が正しければ対処可能だとしている。中国の報告書がどの程度正しいかについては極東ブログ「すごいぞ、中国国際ビジネス」(参照)が参考になるだろうが、この問題はとりあえず別の問題だ。
 ダルフール危機にどうしたらいいのか?
 簡単に書くはずが話が錯綜してしまった。
 どうしたらいいかについては、絶対的な非対称性の状況では、端的に軍事力を投入するしかない。しかし、国連は機能しない。国連にも機能したいと願う人はいる。日本にもそうした軍事支援を要請されているのだが、ここで注意してほしいのだが、日本に要請されているのは、ダルフール危機の問題ではなく、かつての南北内戦の後始末的な仕事だ。
 実際の問題として、ダルフールのような状況に丸腰の自衛隊が投入できるわけもない。そんなことは国連もわかっているから、こうなっている。
 では、どの軍事力なら使えるのか。
 私は、当初、実際のところ米軍でしかないじゃないかと思っていた。しかし、極東ブログ「欧州連合(EU)の軍隊が始動する」(参照)でネガティブに触れたが、使えるならEU軍でもいい。しかし、大筋でみるならアフリカ連合の軍事力が適切だろう。そしてその問題を正確に見る必要がある。
 なのに、朝日新聞社説"スーダン和平――PKOを論じ合う前に"がダメだったのは、この問題について、次のようなバックれを書いている。


 「我々の問題は我々の手で」と、アフリカ連合はすでに1700人の要員をスーダン西部に送った。だが、装備と資金の不足で十分な活動ができない。

 そんな要員ではなにもできなことは以前から指摘されていた。そして実際なにもできなかった。「装備と資金の不足で十分な活動ができない」のはわかっていたことだ。しかも、実動でなにもできなかったのは、スーダン政府の妨害があったからだ。こうした経緯は、偉そうに言いたいわけではないが、私が立ち上げた「スーダン・ダルフール危機情報wiki」(参照)でそのおりにふれてログしてきた。なお、このwikiは私だけが書いているわけではない。誰もが参加できる。
 私はこのエントリではちょっと感情的かもしれない。メディアではダルフールの死者は7万人と言われている。それは、殺戮された人で、難民として非業の死を遂げた人はその倍はいる。いつの日かあきらかになるだろうが、この無慈悲な事件で、私はすでに30万人の人が死んでいると思っている。間違いであってくれたら、どんなにかよいだろう。

過去の直接的な関連記事:


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コメント

>その中国にEUは武器を販売したくしてしかたがないEUがいる.

文章?

投稿: (anonymous) | 2005.02.04 10:47

そのミスは修正しました。これと限らずアップしてからちょこちょことバグ取りしてます。ご指摘がなければ単純なミスについてはログを残さないことがあります。次回以降、こうしたご指摘にレスがないことがあるかもしれませんが、ご了承ください。

投稿: finalvent | 2005.02.04 10:53

はい。わかりました。些細な事で返事ありがとうございます。

投稿: KEATON(上で書いた奴) | 2005.02.04 18:04

国際情勢にくらいので、これをよんだだけで書きました。国連が悪いからアメリカは人道介入できないといいたいのですか。ルワンダの時にはオルブライトはジェノサイド的状態だがジェノサイドではないといい続けたのではなかったか。今回、アメリカが国連とともに介入するとして誰が反対するのか。単にアメリカの国益に関係ないから介入したくないだけではないのか。そもそも中米で虐殺者の訓練、支援を行い続けたアメリカと人道と何か関係があるのだろうか。

投稿: kotikame | 2005.02.04 18:29

finalventさんとは違った形ですが、私はアフリカ全般についてかなり悲観的です。(ある意味、『帝国以降』にエマニュエル・トッドが書いた内容に近いか。)
スーダンに関しては、もともと水も食料も限られている地区に遊牧民と農作定住民がおり、資源をめぐって気候変動などがあるたびに紛争を長い間続けてきた。問題の原点にあるのは資源の絶対的不足と出産率が高すぎることだ。しかし、近年はこれに外国からの武器輸入、石油利権等がからんで虐殺が組織的に行われるようになった(ルワンダのミルプラトーラジオ的かと思う)と自分は考えています。

アフリカの現状は悲観的でも、これからのダルフール対処に関しては、かならずしも悲観的ではない。
津波に関しての《国際社会》の反応と同様ですが、新しい形での国際協調が出来てくる可能性がある。
それを頭から、国連は・アフリカ連合は無力だ、と言い切っては何も始まらないと思います。(米国が軍隊出して解決するのはディズニーワールド内だけだろうし。)

もう少し調べて《介入主義》については自分のブログに書くつもりです。
finalventさんの危惧はわかるけど、実際問題として同質の危惧を持ちつつ実際に動いてる人間もいるわけで、そんなに悲観しても始まらないと思います。

投稿: ねこ仏少年 | 2005.02.04 20:53

>国連が悪いからアメリカは人道介入できないといいたいのですか
 
 うーん。長い間、見過ごされてきてしまった原因は国連の意思決定システムの欠陥にあるのでないか、という指摘を長い間、本ブログでされていると解釈してたんですが。

>アメリカが国連とともに介入するとして誰が反対するのか。

 反対はしなくてもアメリカの力が入ってくるのを嫌がる国はいそうですが・・中国とか。それと、イラクに集中しているアメリカに介入する余力があるとも思えません。だからこそ、どこの軍隊でもいいからダルフールに行って欲しい、それで救われる人がたくさんいるのなら正義で人道的、ともかく結果オーライだと考えます。

投稿: KEATON | 2005.02.04 21:25

アナン国連事務総長が去年10月にイタリア法学者Antonio Casseseに依頼したダルフール現状調査結果では、この件は《ジェノサイド》としててはなく《ジェノサイドの意図》があるとして国際刑事裁判所(ICC)に持ち込むよう指摘している。

けれどこの解決案は、ICCを認めない米国政府に拒否される可能性が高いわけです。英国首相ブレアはICCに持っていきたいが、いつもの板ばさみで何も出来ないでいるわけですが、米国政府はどうもICC回避に関しては、中国のバックアップが期待できそうである。御存知のように、スーダンでの原油の半分以上は中国が採掘・精製しパイプラインも持っている。1995年以来Khartoumと友好関係にある中国はもちろん、武器供給者でもあるわけです。(安保理でスーダン政府弾劾採択に中国が拒否権を提出したのは去年の9月)

参照記事(仏語)
http://www.liberation.fr/page.php?Article=272748
ちなみにこの記事によると、米国に次ぐ石油消費国である中国国有石油が採掘するアフリカ油田はチャド、ナイジェリア、アンゴラ、ガボンにあるそうです。まあ、アメリカのコントロールを避けたいアフリカ諸国が他に資本を捜すのは理解できると思います。

投稿: ねこ仏少年 | 2005.02.04 22:49

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