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2005.02.20

2プラス2で何が起きていたのか

 まったく予想していない展開でもなかったのだが、日米安全保障協議委員会(2プラス2)を取り巻く動向にちょっとふいを突かれた感はある。私の読みが外している可能性も高いのだが、国内報道が中国への利害関係から総へたれ状況になりそうなので、簡単にまとめておきたい。なお共同文書"Joint Statement of the U.S.-Japan Security Consultative Committee"そのものはすでに公開されているが(参照)、外交文書なので読みづらい。
 話題に入る前に、国内報道の見取り図を書いておきたい。あまり単純に言うのもなんだが、国内の報道はこんな配置に見える。朝日新聞は中国内の特定派の代理店化している。すらっと読んでいるとムっとくるのだが、逆に割り切ってしまえば、中国の手の内が見えるインフォとなってありがたい。日本経済新聞は中国にへつらっているせいか曖昧な報道しかしていない。が、逆に事実関係の大筋だけはくっきりしている。読売新聞は端からこの手のインテリジェンスはない。使えない。産経新聞は最近の傾向としては古森御大などが出てくるのはなぜか遅れるきらいがある。古森御大以外にもよい記者がいるのだが、その動向は鈍い。本社側の揺れがあるのかもしれない。主に地方紙に配信している共同は、情報の分析能力がないのか単に英語力の不足なのか朝日新聞のようにイデオロギー的な変更なのか、あらぬ方向に爆走している(昔からそうだが)。最近の奇怪な例は、"中国の主張正当と米専門家 沖ノ鳥島問題で米紙"(参照)の誤報だ。反MSM"マス・メディアが報じないアメリカ"(参照)に訳があるので読み比べてみると、共同の爆走ぐあいがわかる。
 話に入る。意外に使えるのが毎日新聞の外信だ。"日米安保協議:共通戦略目標は朝鮮半島と台湾海峡の安定"(参照)が詳しい。共同文書でもそうだし国内報道でも朝鮮半島が重視される。確かに、その側面はある。この点については、すでに金正日後が射程に入っている。が、問題は、中国である。


 共同発表文に盛り込まれる「朝鮮半島の平和的統一」への支持は、北朝鮮の金正日(キムジョンイル)体制の崩壊を視野に入れたとみられ、北朝鮮への影響力が大きい中国に対しても「責任ある建設的役割」を期待する内容になる。

 軍隊の再編成と自衛隊、特に沖縄問題の動向は別に稿を起こしたい。ただ、グリンピースの爆走が気がかりではある。
 問題の目は、表向き中台関係にある。つまり、日米の軍事文書に明確に台湾海峡への警戒感が盛り込まれた。

日米両政府の共同発表文書に台湾海峡への警戒感が盛り込まれるのは初めて。米国としては、日米共同対処をちらつかせて中国をけん制するとともに、台湾側にも自制を求める思惑がある。

 毎日新聞の外信もしかたがないのかもしれないが、この問題の台風の目については、ワシントンポストとAPを引くだけになっている。余談めくが、こうした点では、すでにブログと新聞社の外信は同じ土俵にいる。

 「2プラス2」協議を翌日に控えた18日付の米紙ワシントン・ポストは「日本が米国の台湾政策に参加」との記事を1面に掲載。「日本は中国との争いを回避する傾向にあったが、北朝鮮の脅威と中国の台頭への懸念が刺激となって約60年間の平和主義を転換しようとしている」と報じた。さらにAP通信は「日米は安保条約改定を議論し、中台の緊張を初めてアジアの発火点と確認する」とまで報道。米国務省のバウチャー報道官は「改定などしない」と即座に否定したが、米国での中台問題への関心の高さを示す動きだった。

 何が台風の目かというと、このワシントンポストの報道であり、これは要するに、日米安保が事実上終わったということを意味している。もちろん、表向きは、それを否定しているし、日本国内のへたれ報道の多くは勧進帳に決め込んでいる。
 当のワシントンポストの記事は"Japan to Join U.S. Policy on Taiwan"(参照)である。これを詳しく解説すべきなのだが、大筋では変わらないので先に進める。
 ワシントンポストに遅れてニューヨークタイムズでも重要な関連の記事が出た。"Japan Said to Support U.S. on Security of Taiwan"(参照)である。ある意味で、こちらの記事のほうがワシントンポストより重要かもしれない。標題を見ればわかるが、意訳すれば「日本は、台湾防衛において米国軍を支援すると明言した」ということだ。意訳しすぎのきらいはあるかもしれないが、そういう内容であり、ようするに従来の日米安保の終わりを実質意味する新しい軍事同盟の発足でもある。
 より大衆的なCNNは、ある意味、より明快に、対中国の側面を強調している。記事としては"U.S., Japan to address China's growing military"(参照)が参考になる。米国はかねてより中国の軍拡に警告を出していたが、今回のポイントは日本にある。類似報道はGoogleをひけば英文で山ほど出てくるのだが、日本国内の報道はあまりないように見受けられる。この点については冒頭に触れた報道の見取り図の関係だろう。いずれにせよ、問題の核は台湾海峡の緊張ということでもあるのだが、それはあくまで中国にへたれて問題の軸足を台湾に置いているからであって、問題の本質は中国の軍拡にある。
 問題の全貌については、VOA"US Rules Out Expanding Mutual Security Treaty With Japan"(参照)がわかりやすい。大本営VOAだからなのか、標題は、ご覧のとおり、「日米安保の拡張・変更を米国側は否定した」ということになっている。が、当然、そこが問われているからなのだ。記事を読むとその機微がわかりやすく描かれている。
 まず、報道上のエポックである先のワシントンポストの記事のインパクトである。

Bush administration officials say the United States and Japan share concerns about the security of Taiwan, but that Washington and Tokyo will not be expanding the scope of their mutual security treaty. The comments came on the eve of the annual gathering of the U.S. Secretaries of State and Defense and their Japanese counterparts, the so-called "two-plus-two" meeting. It is normally a low-profile affair. But Saturday's meeting at the State Department is drawing heavy attention after a Washington Post report that the two countries will declare for the first time in a joint statement that Taiwan is a "mutual security concern."

 "mutual security concern"は軍事同盟の目的と理解していいだろう。そして、これは安保の変更(終了)でしょうと話の筋をつける。

Such an assertion would be a policy departure for Japan, which has been circumspect on the issue in the interest of preserving relations with China. The newspaper said the pending statement was the most significant alteration of the U.S.-Japanese security alliance since 1996.

 そして、外交マターでもあり、表向きは、安保問題の変更はないとしている。もっとも、バウチャー米国務省報道官がワシントンポストの記事内容を否定していない点も重要ではある。そこを延長した形で、次の発言が出てくる。

Mr. Boucher said the U.S. view of China's behavior is not entirely "rosy" and that it has frequently expressed concern about among other things its export of missile technology and Chinese military activity in the Taiwan Straits area.

 さて、ここからもう少し私の読みを踏み込んでみる。
 なぜ、米国は2プラス2とはいえ、あるいは2プラス2にこの問題を抜け出せないように日本を巻き込んだのか? 私は、まじで、中国の暴走が懸念されるからだろうと思う。
 来月三月開催予定の中国の第十期全国人民代表大会(全人代)の第十三次会議では、台湾独立を武力的に阻止することを正当化する「反国家分裂法(反分裂国家法)」が可決する可能性がある。この話は先に極東ブログ「春節限定、中台直行便」(参照)で少し触れたが、春節話題以外、二月に入ってからは国内ではあまり報道を見かけないが、わずかに中国情報"台湾:「反分裂国家法」阻止、各国で反対意見表明"(参照)に記事がある。ここでは、台湾内部の問題に主眼が置かれているが、ある意味、それこそが中国の目論見であるのだが、要は、そうした外交的な圧力の政策なのか、まじで軍事力が行使されるのか、という点だ。私は、基本的には前者とは見ていた。
 が、米国は、これをまじで中国が軍を動かして台湾攻勢をかける懸念を読み取ったのだろう。それが、今回の事態の一連の背景だろう。
 日本国内の知識人は反米派が多いせいか、また、私としても、台湾海峡の緊張は米国の軍産業の利益だろうと斜に構えているが、それでも歯止めが必要だ。マジで戦争になっては困る。しかも、中国という国は、先の中国原子力潜水艦による日本領海侵犯事件の動向を見ても、軍は常識では考えられないような変な行動をする。というか、中国という国は、内部の政争のメンツに血がのぼると外側に世界があることが見えなくなる。蘆溝橋事件のとき、蒋介石は日本軍との和解を狙っていたが、共産党の工作の結果、メンツの自縄自縛になってしまい、事態収拾の糸口を見失った。もっとも、戦前の日本軍も同様だが。
 まとめると、全人代で成立予定の反国家分裂法をできるだけ骨抜きにするというのが、米国が、今回、日本を巻き込んでの強面をしたということの意味ではないか。もちろん、ここで強面にしておかないと、中国は米本土を狙う原潜開発に爆走してしまう危険性もある。この点については、極東ブログ「中国は弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)を完成していた」(参照)を参照してほしい。
 さて、さらにもう一歩踏み込んで考えてみたい。この先は陰謀論に近いので、冗談と聞かれてもいい。
 私は、今回の米国強面の裏には胡錦濤と米国の摺り合わせがあったのではないかと思う。中国原子力潜水艦による日本領海侵犯事件(参照)でもそうだが、どうも胡錦濤のコントロールが軍に浸透していない。
 なにが中国内部の抗争になっているのか。人民解放軍の若手のエリートというかテクノクラートはSARS騒動を見てもわかるが基本的に胡錦濤的に合理的な行動をする。人民解放軍が一枚板だとは思えないが、軍事を動かすから軍部という筋でもないかもしれない。中国のこうした騒動の定石は、まず名目の権力者を屠ることだから、胡錦濤を屠ることがメリットになる集団と反国家分裂法の影響を見ていけば、抗争の筋は見えるのではないだろうか。江沢民派みたいなものではないかなとも思う。また、日本のスポークスマンである朝日新聞がこの構図のどこにポジションしているかが興味深い。はっきりとはわからないが、朝日新聞のアナウンスがある派を代表しているだろう。
 最後に余談めくが、こうした孤立した中国権力者が米国に擦りつくというのは、実は、毛沢東や鄧小平と実に伝統的な陳腐な政策でもある。そう、毛沢東も鄧小平も親米派でありそれで権力を巻き返した。そしてその代償にいつも台湾を支払ってきたのである。

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コメント

なにげに最後の一文が衝撃的というか。そんなこと明言したのfinalventさんくらいではないでしょうか。

投稿: Sundaland | 2005.02.20 11:04

台湾の独立宣言しても日本と米国が守ってくれるという甘い(が現実を見透かした)考え、中国の台湾独立が見えてきたときは確実に攻撃するという絶対の方針(中国の近年の軍事力整備は圧倒的に対台湾戦を意識したもの)、この二つのせめぎ合いの駆け引きの中で、どちらかが計算ミスをしたときに起こる武力衝突こそ、日米にとっての悪夢です。中国の軍事力の変質(台湾への集中)も大きな懸念材料ですが、日米が最も恐れているのは間違いなく台湾の独立に向けた動きの加速です。防衛大綱も2+2もこの大きな構図から考えるべきと思います。

投稿: やじゅん | 2005.02.20 12:36

アメリカから見ると、1930年代の日本と2000年代の中国は、どこか似た感じの国に見えるんじゃないでしょうか。
どっちも政府を通じて外交で問題を解決しようとしても、肝心の政府が軍を押さえられるか怪しいため、アメリカの想定外の動きをしかねない危険性があるという点で。

投稿: Baatarism | 2005.02.20 17:48

こんにちは。
米国の対中懸念はよく分かりますし、「曖昧政策」の賞味期限が切れつつある中で、釘をさしておく必要を感じた、というのもそうかなと思います。
ただし、北朝鮮問題を中国にOutsourceしている最中に動いた理由がチョイわかりませんね。

投稿: かんべえ | 2005.02.20 18:07

素人なので外しているかも知れませんが、最近のアメリカの中台問題への姿勢の微妙な変化(があるように見える)は、朝鮮半島の情勢の(見えない)変化にともなうカウンターバランスである可能性はないのでしょうか。

投稿: kh0705 | 2005.02.20 19:31

>ただし、北朝鮮問題を中国にOutsourceしている最中に動いた理由がチョイわかりませんね。

北朝鮮問題でもあまり変な動き(アメリカが望んでいる6カ国協議参加への説得以外の動き)をするなと、中国に釘を刺したというのは考えられないでしょうか?

投稿: Baatarism | 2005.02.20 20:24

> いつも台湾を支払ってきた
支払うべき台湾を持たない日本の指導者が何をアメリカに差し出してきたかを思うと泣きたくなるわけですが。

投稿: 通りすがり | 2005.02.20 20:39

ここ暫くの中国指導部が非常に新米的であるという話は時々聞きますが、ひとつには先の大戦で米国の援助で日本と戦ったこと、さらには中国指導部の多くの連中は自分の子女を米国に留学させてきたため、その連中が成長した現在では非常に多くの親米派がいること、と聞いております。
ですから、当面の間は基本的には米中間で戦争がおきるとは思っていないのですが、計算違いとかメンツでの暴走はやはり怖いですねぇ。

投稿: 鳳天 | 2005.02.20 22:18

この件に関しては18日の時点で、西村幸祐さんがすでに書いていますが、
http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=401628&log=20050218
彼の予想通り、さっそく朝日の社説が東シナ海のガス田についてとんでもないことになっています。
西村さんが後追いを書いていないので、その後、詳しく情報が出てからどう判断するのか分かりませんが、基本的にfinalventさんと同じではないのですか?

投稿: 俊 | 2005.02.21 02:14

「反日メディア」「支那柵封体制」………

投稿: (anonymous) | 2005.02.21 04:10

>そしてその代償にいつも台湾を支払ってきたのである

しばらく前のブログの話題にも出ていたWendell Minnickの「The year to fear for Taiwan: 2006」も怖かったですけど、中国が台湾をこけ脅かしている間はアメリカってお金儲けできますね。武器が売れて。。。周辺国も騒ぐし、効果満点。

もてあそばれてる台湾がかわいそうです。

投稿: むぎ | 2005.02.22 03:51

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