[書評]オレさま・ワタシさまってやつは(藤臣柊子・青柳和枝)
この本、一言で言えば、DV(ドメスティックバイオレンス)を内側から、女の側から見た本である。すさまじい。私のように男の側で見るなら、自慢でもなく私は吉本隆明みたいにDVとはとんと縁もなくマイバッグを下げてスーパーに行く男なのだが、が、それでもこの本に描かれているダメ男に、男というものの情けない本質がこれでもかと描かれていることを了解する。ああ、男というのはこういうもの。
![]() オレさま・ワタシ さまってやつは。 |
なんとなく最近の大衆書の方向は純愛っていうのか、そっちに向いているし、このブログを始めたころからいつかこの本について書こうと思ってたものの、空気を読めみたいになんとなく機を逸してきた。その内、どうやら絶版になったようだ。でも、おかげでアマゾンから古書で安く購入できる。それと、電子書籍のパピレスでもダウンロード販売をしている(参照)。たぶん、電子化に合わせて書籍を潰したのだろう。
DVだけに特化すると重くてどうしようもないこともあるのか、藤臣柊子のマンガが入っている。マンガの入り方は、一応この本のコンセプト、つまり、自己中心的な「オレさま・ワタシさま」ってこうだよね、という感じである。藤臣も鬱を抱え、離婚経験などもあり、もうちょっと深いところが描けるんじゃないかと初読で思ったが、ま、そういうものでもないだろう。話は、ようするに、青柳和枝の壮絶なDVの再婚生活の実録だ。
青柳和枝は1958年生まれというから私より一つ年下だが、書籍には生年がないので、私は自分より二三歳上かなと思っていた。高校生にもなる大きな娘がいるせいもあるのだが、考えてみたら、同じく一つ年下の日垣隆を思うまでもなく、私なんぞ大学生の娘がいてもおかしくない。というか、大学時代の恋愛でそのまま結婚していたら、あるいは社会に出たときのなんかの幸運でやけっぱちな結婚をしていたら…とあれこれ思う。私と限らず、私の周りでも同じようなものだ。30歳ちょっと過ぎた当たりで、一群はばたばたと離婚した。私は青春時代にひどい恋愛をしたし、人生もうお終いと思っていた(ま、今でも)ので、ある意味山本夏彦のように死びとのように世相を見ながらも、30代は若さもあるので云々、という次第だった。私の話などどうでもいいのだが、青柳が出会う男は、ある意味で、そんな私のような男だったなと思う。
彼女はこう物語を始める。
むかしむかし、あるところに、
結婚はもういいわというオンナと
結婚にたいしてくたびれてしまったオトコがいました。
ふたりはもともとの知り合いで、
たまに食事をする友だちでした。
半年ぶりに会って食事をしたとき、
オトコは勤務先が倒産し、無職でした。
オトコは、日本をベースに、
いろいろな国を放浪して生きていきたいと思っていました。
で、同じ仕事をしながら、「一時の感情でもりあがって結婚する歳じゃない」けど、暮らして見みようと思うようになる。
オトコの言葉に納得したオンナと子供は、
家族というかたちを取って、
いっしょに暮らすという選択をしました。
そして仕事も、生活も、何もかもいっしょの毎日が始まりました。
どこにもあるような、
ごく普通の、家族というかたちで。
しかし。
ひとつだけ違っていたのは、オトコはオレさまだったのです。
もちろん、「オトコの言葉に納得したオンナ」というのは欺瞞だろう。また、生活が破綻していく理由が「オトコはオレさまだった」からとして、どこにでもある家庭がうまく行くというわけでもない。もちろん、ここでアンナカレーニナを引用する趣味もない。
男の側からみると、これは、やっていけないという感じの共感もある。そのあたりが、DVというふうに総括していいのかわからない。家族幻想が問題なのだというようなインテリ様はさらに邪気退散でもある。
目次の引用というのもまぬけだが、なにかとこってりとトピックがある。
オレさまはお金がお好き
好み・センスも、オレさまが一番
記念日だってオレさま・ワタシさま
オレさまは食にこだわる
電話の回数がオレさま指数
オレさま攻撃は弱い者へ
内ヅラと外ヅラのギャップ
ひどいことをしたあとは、やさしいオレさま
オレさまスイッチの入り方
なにかとモノに八つ当たり
オレさま・ワタシさまの必殺だんまり作戦
殴るオレさま・暴れるワタシさま
実は依存体質のオレさま・ワタシさま
キレるオレさま・ワタシさま
オレさま・ワタシさまの最終手段
と、話はある種の痴話でもあるのだが、実は、なにげない伏線がはってあって、最後のエンディング(最終手段)に向かっていく。「電車男」とはまったく逆の、爽快感というのでも脱力感というのもないのだが、インパクトがある。でも、スポイラーはしないことにしよう。いくつかのクライマックスを引用するのもやめとこう。なんとなく、これって映画にしたら面白いかとも思うが、見る人は少ないだろう。
アマゾンの読者評をなにげなく見ていたら、こうあったのが印象的だった。
結局、ワタシもその後離婚しましたが、同じ悩みを抱えてるひとには、この本を渡して「あなた一人ががんばらなくていいんだよ」って言ってあげたい。どん底の頃のワタシを支えてくれた大事な一冊で、今も本棚に常駐しています。~
なるほどなと思う。私も、なぜか、今も本棚に常駐していますよ。(著者青柳和枝へ、あるいは同年代の女性へのエールの気持ちもあるし。)
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コメント
>自慢でもなく私は吉本隆明みたいに
吉本隆明はDVで有名な人なんだけど、遠まわしなカミングアウトでつか?
投稿: (anonymous) | 2005.02.13 10:11
確かに一瞬「?」と感じたけど、普通に考えれば「私は吉本隆明のようにDVに縁があるわけでもなく」という文意にしか読めないと思いますが
投稿: (anonymous) | 2005.02.13 13:34
ドッチにもとれないことも無いね
投稿: (anonymous) | 2005.02.13 23:25
直後に、こうあるわけで、、、
マイバッグを下げてスーパーに行く男なのだが
投稿: (anonymous) | 2005.02.14 00:16