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2005.01.30

対中武器禁輸解除の動向について

 日本時間の午後からイラク選挙が始まる。最初から限界の多いことがわかっている選挙だが、私としてはなにより大きなテロが発生しないように祈る気持ちだ。選挙については蓋が開いてから触れるとして、今日は簡単にEUの対中武器禁輸について少し書いておきたい。
 1989年の天安門事件をきっかけにEUは表向き対中武器禁輸に踏み切り、この措置が現状まで続いているのだが、中国とフランス(シラク)はこの措置は冷戦の時代のものだとして、EUからの武器禁輸解除を求めている。昨年12月のEU・中国首脳会議では即時解除は見送りとされたが、フランス中心にEUとしてもこの禁輸を解除したいという意向が強く、近く解除される見通しでもある。
 鍵を握るのは英国だ。従来は対中武器禁輸に慎重な態度を取っていたが、風向きが変わってきた。13日の毎日新聞"対中武器禁輸:今年7月までに解除の見通し 英外相示す"(参照)では状況をこう伝えている。


【ロンドン小松浩】ストロー英外相は12日の議会で、欧州連合(EU)の対中国武器禁輸措置について、英国がEU議長国(各国半年輪番制)になる今年7月までに解除されるだろうとの見通しを明らかにした。


ストロー外相は、中国の人権状況に懸念が残ることを認めながらも、中国はジンバブエやミャンマーといった国とは異なるとして禁輸解除に理解を表明。EUが武器輸出に関する行動基準を強化することで、中国への野放図な武器輸出は起こらないと強調した。

 このあと、英国ストロー外相は、21日に北京に向かい李肇星外相との会談で、武器禁輸の解除に英国が基本的に賛同するとの考えを伝えている。
 こうしたEUや英国の動向に対して反対している筆頭が米国であり、その子分でもある日本だ(正確にいえばEUですべて合意が取れているわけではないが)。26日の毎日新聞"米国務長官:「現、新」長官と重複会談 英独外相"(参照)では、この24日と25日に、英国ストロー外相とドイツのフィッシャー外相が米国務省とホワイトハウスを訪問した際、ライス次期国務長官就任と外相会談を持った。

またストロー英外相は24日、欧州連合(EU)が検討している中国向けの武器禁輸解除についてライス補佐官に説明した。
 ホワイトハウスは大統領補佐官の会談内容を公表していないが、バウチャー国務省報道官は25日、対中武器禁輸が89年の天安門事件に対する制裁として米欧が発動したものであることを背景に、中国の人権状況が改善されていない現時点での解除は「誤ったシグナル」を送ることになり反対だと明言した。

 米国側からのそれほど強い意志の表示ではないものの、ライスには明確な意識がありそうだ。
 日本側では、中川昭一経済産業相が欧州歴訪中の13日、ゲマール仏経済財務産業相と会談で、EUの対中武器禁輸を解除に日本からの反対の意志を伝えた。14日の日経新聞"経産相、仏の対中武器禁輸解除論に苦言"(参照)ではこう伝えている。

経産相は「潜水艦の領海侵犯の問題とか(調査船の)排他的経済水域航行の問題などで、日本に限らず東アジアは中国の軍事的プレゼンスをひしひしと感じ始めている」と説明。「武器禁輸解除の問題はEUやフランスにとっては単なるビジネスの問題かもしれないが、東アジアの平和的発展には大きな影響を与える」と理解を求めた。これに対してゲマール氏は「事情はよくわからないが、話は聞かせてもらった」と応じるにとどまった。

 中川も言うところはちゃんと言うじゃないか、これじゃ中国シンパにはたしかに目障りだな…という感じだし、当の日本ではこのニュースは別件で事実上もみ消されたようになっていた。
 対中武器禁輸については、バウチャー国務省報道官が「誤ったシグナル」とうまく言い当てているように、実際上は単にシグナルでしかない。だから、反対する米国もイスラエルに武器輸出をしているじゃないかという愚論はさておくとして、実態が問題になる。この点については、22日の毎日新聞"EU武器輸出:中国に567億円分 禁輸措置抜け道多く"(参照)が詳しい。

【ブリュッセル福原直樹】欧州連合(EU)が過去3年間、世界各国に輸出した通常兵器と関連機器などの詳細が22日、各国の申告を元にした内部統計から分かった。武器禁輸の対象国・中国に03年、規制対象の電子機器など約4.2億ユーロ(約567億円)が認可されていたほか、米がテロ支援国家に指定したイランに約8.2億ユーロ、シリアには最高で年約1400万ユーロが認められていた。EUの武器輸出は各国の判断に任されているうえ、禁輸の監視体制も整わないなど、不透明さが批判されており、EUは監視体制の強化策を検討している。

 つまり、実態は対中武器禁輸はシンボリックな問題でしかない。実際上は、議論の繰り返しのようだが、中国を巡るEUと米国の対立であり、それに必然的に巻き込まれた日本と英国の問題でもある。日本国内では、ブッシュ政権は2期目になってイラク戦争でこじれた国際関係改善を重視とか抜かしているのんきな見解が目立つが、対中武器禁輸問題には日本はのんきに構えすぎているきらいはある。
 英国は以上見てきたように対中武器禁輸解除の意向なのだが、22日のフィナンシャル・タイムズ"Weapons for China"(参照)は意外に慎重な見解を出していた。

However, it is clumsy and irresponsible of the Europeans to consider ending the embargo without taking US concerns on board, especially when the re-elected President George W. Bush is holding out an olive branch to them and visiting Europe next month.

 フィナンシャル・タイムズ、大人、だな、である。ブッシュが折れた姿勢を示すならそれにEUも応えなさいと。実質的には英国が応えろということでもあるのだが。
 で、どうせよと?

Pressed by China to end the embargo and by the US to keep it, the EU dismisses the embargo as outdated but insists its proposed new regime would not lead to greatly increased arms sales. One does not have to be American to find this argument unconvincing. The best solution is for the EU and the US to agree what sanctions they want to keep on China and then to apply them as firmly as possible.

 結局のところ、対中武器禁輸は実際的ではないとするものの、EUの現状の武器販売をなし崩し的に認めるのはやめて、米国と協調した制限を設けるべきでしょう、と。おお、大人じゃん。
 日本にそういう人はいるのかなと思う。わかんないなと思う、ので、私もこのフィナンシャル・タイムズに、取りあえず、同意。現実は現実だし。本来なら、平和を世界にもたらすべき使命が明記された憲法を持つ国民なのだから、もっと積極的にこうした問題に関わるべきなんだろうけど、そういう動向って、なんも見えないじゃないですか。

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コメント

欧州の武器屋共が中国へ「高額兵器の輸出」をやりたがってる件で、
昨年中から元外相のポン子ちゃんがフランスの「中国の人権問題ゆるすまじ」と
いう立場の仏議員達と接触持っていたみたいっすよ。

この件に関し「日本が子分」はあたらないと見るべきでしょうな。

投稿: ペパロニ | 2005.01.30 22:53

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