中国政府は国際世論を受けてチベット僧の死刑を軽減した
26日付のVOA"China Commutes Tibetan Monk's Death Sentence(中国政府はチベット僧への死刑を軽減する)"(参照)を読んだとき、少し複雑な気持ちがした。話は死刑が宣告されていたチベット僧が終身刑に軽減されたということだが、端的に言えば、冤罪である。この事態を事実上伝えない日本のメディアの大半は論外だが、世界はこの問題に注視してきた。幸い、国内ブログではこの話題を扱うところが少ないわけでもない。
昨日この話題をエントリにするか実は奇妙にためらう感じがあった。チベット問題はどうしようもないという思いと、今回の減刑は世界の声がそれなりに中国に届いたということではないか、お前は声を上げなかったではないか、という悔恨があったからだ。それと、ニュースの波及を一日観察したいという思いも多少あった。
ニュースについては、VOAよりも、この問題を経時的に扱っているブログ「北朝鮮・チベット・中国人権ウォッチ」の昨日のエントリ"テンジン・デレク・リンポチェの終身刑減刑が正式に決定!"(参照)にある新華社報道の訳文「チベット僧侶の死刑判決は終身刑に減刑された」が読みやすいだろう。
成都・1月26日(新華網)-中国南西部の四川省高級人民法院はテロリストによる爆撃に関与したチベット人僧侶の2年間の執行猶予付き判決を終身刑に減刑した。
この日に下された法廷の裁断によると、テンジン・デレク・リンポチェとして知られる阿安扎西(A'an Zha)は政治的権利を終身的に剥奪された。
この裁断は、彼は死刑執行日を迎えるまでの過去2年間の間に再び故意に法の基準に違反することはなかったため、法廷は阿安扎西に対する死刑判決を終身刑に減刑したのだとした。
問題の全容については、邦文では"TSNJ緊急行動:チベット人僧侶テンジン・デレク・リンポチェの死刑執行中止をもとめる緊急行動にご協力ください。"(参照)が詳しい。英文では"Trials of a Tibetan Monk:The Case of Tenzin Delek"(参照)にかなり詳細な情報が掲載されている。「はてな」でも「チベット人僧侶死刑執行問題」(参照)がキーワードにはなっている。2ちゃんねるにも専用のスレッド"【チベット】緊急アピール【弾圧】 "(参照)がある。これらは、ネットをベースにした新しい、国際的に開かれた市民活動の萌芽のようでもある。
「はてな」は簡素に伝えている。なお、事態が多少進展したので書き換えたほうがいいだろう(非難ではないよ)。追記(2005.1.29)新情報が追加されました。
チベット人僧侶死刑執行問題
2002年12月2日、中国政府がチベットでテンジン・デレク・リンポチェに死刑判決を下した。東チベットで起きた爆破事件に関与した容疑である。
この事件を冤罪であるとして、亡命チベット人コミュニティやアムネスティなどが抗議している。
2004年12月2日現在執行猶予期間は切れ、いつ死刑が執行されるかわからない状況である。
2ちゃんねるの先スレには、同じく先のTSNJから、この問題提起が引用されている。
テンジン・デレク・リンポチェがこの爆破事件に関与したという証拠は全くなく、 裁判は弁護士の立会いも許可されず明らかに不公正なものでした。 現在、刑の執行を憂慮する世界中の政府・NGOが、 テンジン・デレク・リンポチェの死刑判決を取り下げ、釈放するよう、中国に要求しています。
この問題を世界がどれだけ注視してきたかは、Google Newsの"Tenzin Deleg"検索例(参照)でもわかるだろう。英文のニュースとしてはBBC"Tibetan monk 'broken' by China "(参照)がわかりやすい。また同ページからは関連するBBCのニュースのリンクなどもある。公共放送というのはこういう情報を提供するものだと思う。
話を少し一般論に移す。チベットの問題は難しい。日本のメディアの大半がこの問題に沈黙しているのも、日本の国益についてそれなりの意識があってのことからだろう。単純に対中カードとして人権問題を取り上げて済むというわけにもいかないし、いわゆる人権団体も結果的であれ、それなりに政治的な権力のバランスの中にある。また、ひどい言い方だが、チベット問題は解決するには遅すぎたようにも思う。今後のビジョンは簡単には描けそうにはない。
この話題で、私はダライ・ラマを思いだし、昨今のAppleのiPod話題につられて、Think different"(参照)を掲げていたのは何年前だっただろうかと思い出していた。あの広告にもダライ・ラマがいた(参照)。
While some see them as the crazy ones,
we see genius.
Because the people who are crazy enough to think
they can change the world, are the ones who do.
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コメント
このニュース知りませんでした。私もアムネスティの呼びかけに応じて当局に手紙を送ったひとりですが、この僧侶が死刑にならなくてよかったです。ただ、健康状態が気になりますね。。。
投稿: むぎ | 2005.01.29 02:45
初めまして。
この度、本記事に対してTBを送信させていただきました。
問題がなければ採用のほど、宜しくお願い致します。
先ずはご報告まで。
投稿: CNNデスク | 2005.02.01 03:23
はじめまして、TBさせていただきました。
チベット問題よりも語られない東トルキスタンのこともご存知でしょう。
先月17日にウイグル人女性実業家がライス国務長官の訪中に先立って解放されました。
その容疑と言うのが国内の新聞記事をアメリカに送って「国家安全保障を危険にさらした。」と言うものでした。
アメリカは国連人権委員会での対中国非難を提案しませんでした。中国の人質外交の勝利と言えます。
投稿: kok | 2005.04.01 14:01