お次はジンバブエとベラルーシかな
少し旧聞に属するが、米国時間で18日、ライス米大統領補佐官は国務長官への就任承認を審議する上院外交委員会の公聴会で、キューバ、ミャンマー、北朝鮮、イラン、ベラルーシ、ジンバブエの六か国を「圧政国家」と名指しした。記事的には毎日新聞"ライス米補佐官:北朝鮮など「圧政」と批判 米上院公聴会"(参照)が読みやすいだろう。
当然、前回の「悪の枢軸」の拡張版かとも思えるのだが、この三国は、イラク、イラン、北朝鮮だった。イラクは潰した。なので、残るはイランと北朝鮮かと考えても不自然ではないし、今回の「圧政国家」リストもこの二国はノミネートされている。上位ノミネートっていう感じだろうか。これに、キューバとミャンマーが続くのは、米国とか欧米の雰囲気からするとそれほど違和感はないのだが、ベラルーシとジンバブエと来ましたかというあたりで、率直なところ、私はちょっと意表を突かれた。と、いうのは当方がそれだけ世界認識が甘かったなということでもある。
ベラルーシと言われれば、地理的に見て、先日のウクライナ騒動の関連だろう。大統領選挙に関連したどたばたで日本では実際にはそれほど関心が持たれなかったし、西側メディアはこぞって元米人内儀を持つユーシェンコ支持に回ったが、東部域やロシアは西側の陰謀だと見ていた。実際、かなりの人員がポーランドから動員されていたようだが、あまり報道はされていない。このスジを過剰に読むと愉快な陰謀論ができるのだが、大筋で見ると米国政府側がそのまま西側勢力に荷担していたとも見づらい。いずれにせよ、ポーランドに隣接するベラルーシだからなにかきな臭い動きは今後もあるのだろうとは思う。
ライスの上院公聴会演説から二日後にブッシュの就任演説があり、民主主義を世界に広めることが世界の安全につながるとか毎度のしょうもないクリシェだったのだが、ライスとの関連で見れば、次の軍事攻勢はこの六カ国ですかととりあえず米メディアがワザトラの祭にしたのもそれほど違和感はない。そのあたりはブッシュ側もわかっていたのか早々にパパ・ブッシュまで出てきて釈明している…のだが、普通に考えてベラルーシへの軍事攻勢というのは考えづらい。ま、選挙切り崩しのようなことか。
そして残るは、ジンバブエということだが、これもわかりづらいといえばわかりづらい。私などの世代からするとジンバブエといえばローデシアである。つまり、コモンウェルスというやつだ。1980年独立したものの、ちょっとねの事態だったのは、Wikipediaとかを参照するといいだろう(参照)。
19世紀後半に南アフリカ会社に統治された後、第一次大戦後にイギリスの植民地に組み込まれ、イギリス領南ローデシアとなる。
1960年代から黒人による独立運動が行われていたが、民族自立までの道のりは険しく、1965年には、世界中の非難の中、植民地首相イアン・スミスによって白人中心のローデシア共和国が独立を宣言し、人種差別政策を推し進めた。これに対して黒人側も、スミス政権打倒と黒人国家の樹立を目指してゲリラ戦を展開するが、イギリスの調停により、100議席中、20議席を白人の固定枠とする事で合意。1980年の総選挙の結果、ジンバブエ共和国が成立し、ムガベが初代首相に就任。
その後の白人所有大農場問題については今日は触れないが、ライスがこの六か国にジンバブエをノミネートしたとき、私がとっさに思ったのは、フランスにとってのコート・ジボアール問題のようなものが、英国にとってのジンバブエ問題と言ってよさそうだから、英国側が米国になにか泣きつきをしているのか、ということだ。ご安心あれ、この着想から陰謀論を仕上げる気はない。当面はワッチしていくだけだ。
北朝鮮もそうだが、ジンバブエもけっこうお調子者の国家なのか、ライスのノミネーションに脊髄反射しているようでもある。翌日にイラクと共同宣言などを出している。ヨハネスブルク在毎日新聞白戸圭一記者による"ジンバブエ:イランとの関係強化 核開発も支持"(参照)が詳しい。
20日発足した2期目のブッシュ政権のライス新国務長官はジンバブエを「圧政の前線基地」と指弾、圧力を強める構えをみせた。ムガベ大統領はイランのほかにも中国からの技術導入などに積極的な姿勢をみせており、強まる米国の圧力を前に、米国に対抗する国々との関係強化を通じた体制存続に躍起となっている。
ここで「圧政の前線基地」としている用語が、国内で流布されつつある「圧政国家」だ。毎日新聞でも先のライスの記事を読めばわかるがこちらを使っている。が、原語では"outposts of tyranny"で、白戸記者の用語が原義に近い。が、英語の語感すると、「独裁政治会社の支店」みたいな感じもあり、ブッシュの世界観としてはスターウォーズ同様なんか宇宙の悪の本店みたいのがあって、それに支店の国家としてあるという感じなのだろうか。いずれにせよ悪の本体を意識させるこの発想には、ちょっとついてけねー、ではある。
具体的に重要な点は、白戸記者の記事にあるジンバブエと中国との関わりである。ちょっと古いが11月の時点で新華社で次のニュースが流れた(参照)。
呉邦国・全人代委員長、ジンバブエを公式訪問
【ハラーレ1日新華網】全国人民代表大会(全人代)委員長の呉邦国氏は1日午後、ジンバブエ共和国のハラーレに到着した。 同氏は「両国は国交が樹立してからの24年間、国際情勢の変化にかかわらず順調に発展し、政治上の信頼関係、経済貿易上の協力関係ともにますます強まっている」と語った。また、ジンバブエ政府および国民が国家独立を守り、経済発展に向かって努力していることを高く評価した。
なにもすべて裏で中国が絡んでいるというわけでもないし、本店は中国とまで言う気もないが、現在の世界の経済構造上、中国としてもこうした世界戦略に出ざるを得ない。ただ、それが中国の統制された国策なのかわからない点が困る。
ちょっと呆れるのだが、また中国は春暁ガス田群あたりをうろつきだしている。読売系"中国新鋭の駆逐艦、東シナ海ガス田付近で確認"(参照)はこう伝える。
巡航ミサイルを搭載した中国海軍のソブレメンヌイ級駆逐艦2隻が、東シナ海で中国が開発を進める「春暁ガス田群」付近の公海を航行しているのを、海上自衛隊のP3C哨戒機が22日夜、発見した。
中国海軍の最新鋭艦である同駆逐艦の航行が日本の監視海域で確認されたのは初めて。日中両国が天然ガス開発などをめぐり対立している海域であることから、防衛庁は「海洋資源の獲得に向けた中国の示威行動ではないか」(幹部)と分析している。
胡錦濤政権が是認しているのか、あるいは海軍が統制できていないのかと考えれば、後者と見るほうが妥当だろう。まったくもって中国というのはこういう国なのである。ということが頭に入ってれば、24日、自民党本部で行われたベーカー米大使講演(参照)も日中に友好を持ちかけたみたいな単純なスジでないことくらいはわかるはずだが。
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コメント
文中の<フランスにとってのコートダジュール>はコートジボアールでは?
投稿: あのにます | 2005.01.26 13:36
あのにますさん、こんにちは。ご指摘ありがとうございます。ミス訂正しました。
投稿: finalvent | 2005.01.26 13:51
そういえばポーランドは、イラクにかなりの規模で駐留軍を展開してますね。
あと首相のベルカは、ちょうど一週間前に日本に来て、小泉といろいろと話をしてまつ
投稿: uiui | 2005.01.26 16:45
私も何かの折に南ローデシア、とかいう単語が出てきます。さして年でもないんですが、そういう言い回しを好む書物は最近まで多かった気もします。
それはともかく、「圧政国家」ですが、これは70年代以降の米国外交に見られる、伝統的な現実主義外交と人権外交のミックスとして典型的に見られる言い回しというだけではないでしょうか。
現実問題として、その政権が崩壊しても後に続く展望が見えなければ意味がありません。今回の圧政国家は、国民の教育水準や政治意識に比して政府が劣悪な統治を行い、国民の支持を失っているということで共通します。米国内の政治力学としては、そういう国で無いと敵視するための前提条件そのものが成立しないでしょう。旧ユーゴもイラクもそうでしたが。そして世界を相手に演説する以上地域限定で話すわけにもいかず、結果こうなったのではないでしょうか。いずれの国も近隣国と比較すると政府の失政は明らかです。ジンバブエはアフリカだと南アに次ぐ水準の文明国、というイメージが私にはあるのですが、欧州筋一般からもそうではないでしょうか。キューバは場合によっては必要なかったかもしれませんが。
投稿: カワセミ | 2005.01.27 07:11
カワセミさん、こんにちは。たしかにそう深読みする必要はないのかなとも思いますね。ところで、コメントをこちらのエントリのほうに移動しました。事後ですがご了解ください。
投稿: finalvent | 2005.01.27 07:14
う、書く場所間違ってましたか。確認したつもりだったのですが。申し訳ありません。
圧政国家ですが、9.11以降の米国外交は、冷戦時代にしばしば行っていた独裁政権との談合を強く拒絶する方向にあるというのが国内ではあまり報道されないように思います。これは真珠湾以降に安全保障問題に敏感になった変化、ベトナム戦争と70年代の人権外交以降に自国兵士の犠牲と他国の人道問題に敏感になった変化と並ぶものと思うのですが。
米国人に言わせれば、「独裁政権との談合は日本とフランスのお家芸。我々も対抗上巻き込まれて迷惑している」らしいです。偏見入ってるのは間違いないのですが、完全に否定できないのが辛いところです。
投稿: カワセミ | 2005.01.27 22:10
ジンバブエは以前個人的に母国を逃げ出した白系ジンバブエ人女性に出会ったこともあり、かなり絶望的な状態にあるのは認識してますが、今回のライス発現に出てくるとこれはやはり“アレッ”と思ってしまいました。コンゴとかのほうがヤバイ気がしてたもんで。
まあまだ問題が出てきてないセネガル、あとやっと復興の兆しの見えてるモザンビーク、内戦から脱出直後のアンゴラ、他の国々も多かれ少なかれ危機状態にあるわけで、ウエストファリアあるいは第二次大戦後の植民地時の国境凍結自体を見なおさなあかんのとちゃうか、、などと傍から見てるわけです。
ところが国際的パワーバランス強化あるいは資源確保が目的でリアルポリティックする人たちは目的のためにはナンデモありですから、大変ですよね。中国はリアルポリティックのリアルが2乗ですからこれも大変です。
しかし米語でのティラニー/圧政国家ってのは米国にたてつく国って意味なんでしょうねえ。(フランスも入ったりするんでしょう、それでシラクも
あわててたりする)前仏外相のヴェドリンが“民主主義はインスタントコーヒーじゃない”と言ってますがこれは本当だ。実際問題として、世界中の国家の50パーセント以上は圧制国家と思っていいんじゃないか。極端に言えば、嘘並べて国民を騙して他国を攻撃占領したり、ガンタナモとかで国際法無視続ける国も民主主義上級国とは言いにくいと思います。
また、パレスチナ・イラクでの選挙が話題になってますが、中東圏での選挙ってこれが初めてじゃないか。他の地区では選挙はないし、石打ち死刑とかあるけど、米国のお友達なんで“圧制政府”には入らないんでしょう。
つけたしですが、“食料のためのオイル”疑惑について(ある意味インサイダーの)JMMの春さんが興味深い文章を書いてます。お読みになりましたか?
投稿: ねこ仏少年 | 2005.01.28 06:28
ねこ仏少年さん、こんにちは。、“食料のためのオイル”疑惑というのは知りません。ネットで読めるものでしたら、ご紹介ください。
投稿: finalvent | 2005.01.28 07:45
アフリカの紛争って、国境線の引き直しで解決できるのでしょうか?どう引いても部族紛争が収まらないように思うのですが。
国民国家という制度そのものが、この地域にはそぐわないような気がします。
とは言え、それに代わる制度をどうすればよいか、全く検討が付かないのですが。
投稿: Baatarism | 2005.01.28 13:03
finalventさんこんにちは、お元気ですか?
『オランダ・ハーグより』 春 具 第107回「オー人事、オー人事」というのが本当のタイトルなんですが、村上龍編集長のメールマガ配送のみでウェブには流通してないようです。コピペは避けたいので、御興味がありましたら
ttp://ryumurakami.jmm.co.jp/ で配信を受けるという手もありますが、はっきり言ってここ春さんの文章以外面白いもんはないです。
Baatarism さんこんちには。
国境引き直しよりは、南アメリカが考えているようなアフリカ共同体といった超国家レベルでの解決はありと思います。集団単位というのは同宗教・同言語内であってもいくらでも分割してしまう危険性がある。だったら分割ではなく統合で考えてみる。まあ、これは欧州統一のひとつのモティヴであるわけですよね。うまく行くかどうかは実験中なわけですが。
投稿: ねこ仏少年 | 2005.01.28 20:57
↑ アフリカ共同体構想は南アメリカではなく南アフリカです。すみません。
投稿: ねこ仏少年 | 2005.01.28 21:03
ねこ仏少年さん、ども。メール購読しました。村上龍はちょっとと思って敬遠していました(ま、今でもそうなんですが)。他の書き手のかたが面白そうですね。
投稿: finalvent | 2005.01.29 14:01
「あるソフト屋の日記」の遊楽庵です.
すみません。操作の不手際でトラックバック2発入れてしまいました。同内容なので、一つ消してください。
お手数かけてすみません。
投稿: 遊楽庵 | 2005.04.21 14:52