偽札騒ぎも変な話だった
偽札騒ぎも一段落したのだろうか。私は変なニュースだなと思ってこの騒ぎを傍観していた。明確にこれという意見があるわけでもないのだが、気になることをいくつか書いておきたい。
まず、昨今の偽札騒ぎなのだが、これがいつから話題になったのか、といえば誰でも、この年初を思うのではないか。いわく寺社で使われたと。そういうニュースをよく聞かされた。しかし、気になって調べてみたのだが、偽札のニュースはどうもそれ以前から各月満遍なく発生している。時系列に追ってみて、どこかに際立ったエポックがあるのだろうかと2002年くらいまでサーチしてみたが、特にない。うんざりしたほどだ。お笑いがてらだが、昨年の正月にもこんなことがあった。読売新聞(2004.1.3)"元旦に偽1万円札 石川の寺社で15枚"より。
初詣で客でにぎわう石川県内の寺と神社で一日、偽一万円札計十五枚が使われていたことが分かった。石川県警は、同一グループによる偽造通貨行使事件とみて捜査している。
繰り返すが、このニュースは一年前のものである。ついでにもう一つ、これも昨年のニュースだが読売新聞(2004.2.4)"偽札、使いに使ったり900万円分? 県内でも38万円発見"より。なお、記事中の県内とは静岡県のことである。
野迫被告は関東から九州の各地で偽千円札約七千枚と偽一万円札約二百枚を使ったとみられ、県内でも二〇〇二年十一月―二〇〇三年三月に、野迫被告が使ったとみられる偽千円札二百六十七枚、同一万円札十二枚が見つかっている。偽札は、野迫被告がパソコンとカラープリンターで作ったもの。肉眼で偽札と判別が可能な出来だといい、野迫被告は自動販売機やパチンコ店の両替機で使用していた。
パソコンによる偽札流通?は2002年からあった。これに関連したマニュアル本もあるらしいので、そのあたりが取り敢えずはエポックなのだろうか。
昨今の偽札騒ぎは、もちろん過去の同種のニュースに比べれば量的にも多いのかもしれないし、広がりがあるのかもしれない。だが、それにしても、ここで騒ぐというのは、そうした、問題量のスレショルド(閾)を越えたということか。つまり、量が質に転換したとなのだろうか。
この程度で陰謀論とか邪推と言われてもなんだかなと思うのだが、誰でもまず納得するだろうが、偽札騒ぎは新札の登場と軌を一にしている。ということは、これって新札の話題の一環でそそられて出てきただけのことではないのか。とすると、誰かが煽っているのか、新札が出るようになったので多くの人が紙幣に関心を持つようになってみて、あれま、これって偽札だわ、と気が付いたのか。いずれにせよ、今回の偽札騒ぎは、その程度のことではないのか。
パソコンで簡単に偽札ができるようになったし、マニュアル本もあったらしい、というのが取り敢えず近年の偽札史のエポックの一つなのだろうが、もう一つは、端的に言うけど、北朝鮮が関係している印象がある、と書くとヘンテコな攻撃を受けそうなので、ニュースで傍証しておく。読売新聞(2000.9.7)"北朝鮮船員使用の偽1万円札 「和D―73号」と同一 警察庁鑑定"より。
大阪府泉大津市の助松港で七月二十一日、停泊中の北朝鮮籍貨物船の乗組員が支払った家電製品の代金から見つかった偽一万円札三枚は、約二年前に大阪や福岡などで出回った偽一万円札「和D―73号」と同一であることが七日、警察庁科学警察研究所の鑑定でわかった。
国内ではあまり使われない写真製版のオフセット印刷で偽造されたとみられ、警察当局は海外の偽造団が関与しているとみている。
他にも類似の話はあるのだが、ここから妥当に推測できるのは、当局側は一連の系統の偽札についてはある程度まとまった情報を持っているのではないだろうかということ。この他、関連する情報も当局側はだいぶ持っているようだが、奇妙に出てこない。
今年の偽札騒ぎに戻るが、「それってお賽銭じゃないの?洒落でしょ?」という疑問がある。それがどの程度の割合を占めるのかニュースからははっきりわからないのだが、お賽銭なら洒落じゃないのか。もちろん、これはまじめくさった議論もできる。ネットを見たらNAVER"お賽銭に偽札をつかうのは違法なの?"(参照)にこんな問いがあった。
別に商取引が行われているわけでもなく
祈祷とか御札代とかではなく、純粋なお賽銭に偽札をつかうのは違法になるのでしょうか?
回答がいろいろ上がっているのだが、納得しますか。ポイントは「賽銭であっても、偽貨を直接流通に置くことに変わりなく行使に当たる」のかだろう。そうなのか。それほどマジに疑問に思うわけでもないが、沖縄でもそうだし中華圏全体には宗教儀礼に使うのだが、紙銭(カビジン)というものがある。偽札といえば偽札だが、さすがにそうした誤用のないほどのデザインではあるが…。この儀礼用の札は、本土の葬式でも最近では六紋銭を印刷した紙を使うのと同系だ。この話をすると長くなりそうなので控えるが、賽銭箱に紙銭を投げたら、違法なのだろうか?
もう一点。今回の偽札騒ぎは新札との関連でもあったのだろうが、そのせいか、日本の新札技術は素晴らしい的な話もうんざり聞かされた。ネットで読めるものでは、例えば"世界最強!新紙幣の偽造防止技術"(参照)がある。
今回の新紙幣には、前記のように急増している紙幣偽造に歯止めをかけるべく、世界最先端の偽造防止技術を駆使していることが特徴だ。
というのだが、ちょっと苦笑する。最先端はオーストラリアのポリマー幣(参照)ではないか。私の理解が違っているかもしれないが、登山地図などに使う材質と類似のものだろう。私が子供のころはお風呂でも読める本とかで話題になったものだ。
ポリマー幣が偽札を作りづらいという話は、シドニー在のブログを書かれている平野さんの"偽札対策はオーストラリアにおまかせ!?"(参照)に詳しい。
日本ではなぜポリマー幣を導入しないのだろうか? 意外と日本のパソコン技術だとそれでも偽札が作りやすいということなら面白いのだが、実際のところ、日本は日本の紙幣技術にこだわっているだけからではないか。あれは一種の和紙で、材料は伝統のコウゾ・ミツマタってやつだ。印刷技術も伝統のなんとか…みたいなお話。たしかに、日本の紙幣は他国の紙幣よりは長持ちしそうではあるが。
いくら日本の紙幣技術が優れていても、と、思うのだが、米国などの場合、日常生活で100ドルを持ち歩くことは少ないだろう。だが、日本人だとある程度のランクのビジネスマンだと、昔鈴木健二が言ったように歳の倍の万札を持ち歩かないとサマにならない。日本ではクレジットカードがまともに機能していないこともなのだが、結果として日本の場合はアンダグランド経済がでかすぎるからなのではないか。なんか、しょーもない印象だが、優秀と言われる日本の紙幣はアンダグランド経済との関連にあるような気がするのだが。
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コメント
> 量的にも多いのかもしれないし、広がりがあるのかもしれない。
> 新札の話題の一環でそそられて出てきただけのことではないのか。
> 今回の偽札騒ぎは、その程度のことではないのか。
中抜きでピックアップさせて頂いたが、失礼ながらこれ以外の部分を蛇足に感じた。
単に、新札登場にあわせて旧札偽札の処分を急いだ結果としての量と広がりではないのか。
陰謀論と言うよりも、深読みし過ぎだと思う。
> 賽銭箱に紙銭を投げたら、違法なのだろうか?
紙幣偽造そのものが違法である事は今更言うまでも無いと思う。
その紙銭が偽札と見なされるものであれば投げる前から違法だが、
偽札と見なされなければ違法ではあるまい。
賽銭箱に通貨以外のものを投じる事を禁ずる法が無いからだ。
神社側がそれを禁じているならば、業務妨害等で訴えられるかも知れない。
> 日本の紙幣技術にこだわっているだけ
これは同感だが、
> 日本ではクレジットカードがまともに機能していないこと
これは改善されつつあるように思う。
関東の一部に限れば、クレジットカード+小額決済用電子マネーカードで事足りる、かも。
> 日本の紙幣はアンダグランド経済との関連にあるような気がするのだが。
言いたくは無いが、根拠レスなので陰謀論にカテゴライズさせて頂きます。失礼ながら、
投稿: at | 2005.01.24 11:23
勝手な思いこみですが、今回の新札、デザインがダメダメでは。なんとも古くさく感じます。もひとつ勝手な憶測、今回話題になった偽札はできの悪いやつばかりのようですが、某国が組織的にやっているといわれるような「精巧」なやつ、どの程度流通してるのでしょうね。アングラマネーのロンダリングでFA?
投稿: Sundaland | 2005.01.24 12:05
日本のクオリティ・ペーパーである某新聞だけが韓国カジノの偽札騒ぎで本名を報道しませんでしたが、あの報道とこれがリンクするかが気になるところです。ということで、このレベルでは陰謀論とはとうてい思えませんが(おそらく、宇宙さんのところでトレーニングを積んでいるからでしょう)。
投稿: ペペロンチーノ | 2005.01.24 12:26
えーと、ポリマー製のお札、ベトナムでも採用され、新札で使われています。
しかし、これが意外と不便なんです。
くっつきやすいのでお金の勘定の際、紙より数えにくい。(オーストラリアは乾燥しているからいいのだろうけど、ベトナムは年中湿気ているからくっつきやすいんです)
火にめちゃめちゃ弱い。
タバコかなんかの火を押し当てられたためか、穴の開いたお札を時々見かけます。
タイで採用をやめたとのことですが、それは"使いづらい"からではないか?
などと邪推してしまいます。
(オーストラリアの人、ごめん。でも、使いづらいものは使いづらいんだ~!!!)
投稿: yamaji | 2005.01.24 12:42
初詣の賽銭で偽札を使う、というのはどうなんでしょうね。
なんとなく日本人らしくないというのか、五円玉と高額の偽札の違いというか。
差額以上の差があるように思うのですが。
投稿: Cyberbob:-) | 2005.01.24 13:18
次の紙幣はたぶんICタグ入り札になるでしょうね。
日本では自販機やATMの使用が多いから、偽札対策が効率的にできるようになるでしょう。
そうなると、次はお札用ICタグの横流しが問題になるのかもしれないけど。w
投稿: Baatarism | 2005.01.24 13:18
2002年頃から流通していたとすると偽札がうまく管理されていた印象を持ちます。月に一定量の流通に抑え騒ぎを大きくしないように。国もその規模なら容認していたという事でしょう。で新札の発行が年末に行われ、使う側はこのまま細々と偽札の利益をあげるより初詣の混乱を狙って一気に利益を上げた方がお得と判断したのでしょう。これ以後は使いづらくなるので外国まで使用範囲を広げたと。または偽札を管理する側そろそろヤバいと見て管理放棄し手下に自由にやらせ、てめぇら、稼げるだけ稼いでこいと号令をかけたとか。
新札技術は確かに旧態依然の方法論がまかり通っていると感じます。どんなに緻密な偽造防止をしてもパッと見た目の印象で見破れないものでなければ途中まで流通を許してしまいます。見る角度によって絵柄が変わるとか3D画像印刷とかいろいろ有るはずなのに。それでもいたちごっこかもしれませんが猶予期間はできるわけで。
投稿: hasenka | 2005.01.24 13:34
賽銭に偽札を使うのが違法かどうかはお好きな人たちで議論すればいいことです。問題は偽札が流通していることであり、どこで発覚したかではありません。背後に何らかの組織が存在している可能性があれば、これは到底洒落では済ませられない問題でしょう。北朝鮮は過去にドル紙幣偽造に関与したという噂もありますし、一国家が本気で他国の通貨を偽造すればそれはもはや経済テロです。いずれにせよ、この問題を軽視する感覚がよくわからないというのが正直な感想です。
陰謀論とは言いませんが、深読みが過ぎると思うことはあります。上のコメントにある、犯罪者グループが旧札偽札の処分を急いだ結果という見方は一理あると思いました。付け加えれば、当局から国民に対する注意喚起かもしれません。お前ら偽札が出回ってるから見付け次第通報しろよ、と。いずれにせよ、騒ぎにならないように国が偽札の流通を黙認するなど到底考えられません。
投稿: anonymous | 2005.01.24 20:12
「金融封鎖」の陰謀論で語るなら
旧札の流通を一気に終わらせるための仕掛けだったとか。
投稿: あすく | 2005.01.24 21:13
日本人は丁寧に扱うから綺麗な紙幣が多いってだけで、長持ち率では断然ドル紙幣の方が持つ気がします。
投稿: AC | 2005.01.25 06:05
某所で有名な作家の陰謀ブログです。
ツッコミどころがありそうですが。
偽札と覚醒剤 ~北朝鮮の「公共事業」~
http://www.akashic-record.com/y2005/nkbill.html
投稿: ペ | 2005.01.25 23:52