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2005.01.16

対流圏オゾン

 先月6日の話だが海洋研究開発機構が"過去約30年間に我が国上空の対流圏オゾンが広域で著しく増加"(参照)という発表を行った。この研究に関わった秋元肇プログラムディレクターの話を昨年ラジオで聞いて、なんとなく気になっていたので、この話をネタに少し書く。
 話は該当の発表を読むほうが早いかもしれないのだが、この話は少し難しい。


独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)・地球環境フロンティア研究センター大気組成変動予測プログラムの秋元肇プログラムディレクターとマニッシュ・ナジャ研究員は、長期にわたるオゾンゾンデデータの解析から、1970年から2002年の約30年間に我が国上空の対流圏オゾン(注1)が広域にわたって著しく増加していることを明らかにした。この原因として、東アジアの大陸起源の窒素酸化物放出量の上昇が、光化学反応が活発な春から夏に風下側の我が国のオゾンを著しく増加させてきたことが示唆された。

 問題の対流圏オゾンだが、テキスト中にある注釈参照ではこうだ。

対流圏(地表)のオゾン:対流圏では、自動車や工場等から排出される二酸化窒素(NO2)が、太陽光により酸素原子と酸素分子に分解され、オゾンが形成される。光化学スモッグの主な原因で、人間の健康や農作物・森林などにとっても有害な大気汚染物質。IPCC第3次報告書では二酸化炭素、メタンに次ぐ第3の最も重要な温室効果ガスであるとされている。

 それでも少し分かりづらいかもしれない。というのは、ここで話題となっている対流圏オゾンは、よく環境問題で取り上げられるオゾンホールなど成層圏のオゾンとは違う。対流圏・地表というのは地上から10kmくらいまでの上空を指す。
 対流圏オゾンは、二酸化炭素、メタンに次ぐ第三の重要な温室効果ガスとされているが、ちなみに、温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)には、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、対流圏オゾン(O3)、フロン(CFC:クロロフルオロカーボン、HCFC:ハイドロクロロフルオロカーボン、HFC:ハイドロフルオロカーボン)がある。農業・酪農はエコ的なイメージあるが、実際にはメタンや亜酸化窒素をけっこう吐き出す元凶でもあるので、困ったことだ。
 対流圏オゾン、つまり、私たちが日常接するオゾンガスは、こうした温室効果以外にそれ自体が有害でもある。先の注釈にもあるように光化学スモッグの原因になる。
 こうした環境問題が認識されると、脊髄反射のように稚拙なエコ運動みたいなのが連想されるのだが、では、どうやって対流圏オゾンを減らしたらいいのか、とかね。私たちはどう取り組むべきか…というのが、すでにトラップなのである。
 状況はこうなのだ。

我が国ではほぼ横ばいないし減少しているが、中国における放出量は増加し続けている(図3)。これらのことから中国や韓国など大陸起源の窒素酸化物放出量の上昇が、光化学反応が活発な夏季に風下側の我が国のオゾンを著しく増加させてきたことが推定される。この研究結果から、我が国の光化学オキシダント問題の解決のためには、東アジア全域における対策が必要であることが示唆される。

 単純に言って日本の問題ではないのである。今回の研究は全世界レベルで行われているので地球視野で見るなら東アジア全域の問題ではあるのだが、実際にこの環境問題で苦しむ日本の側から見ると、中国や韓国など大陸起源の窒素酸化物放出量でもある。日本国内で見るなら窒素酸化物や炭化水素の排出量は横這いか減っている傾向にある。国内努力の問題ではないな。まいったな、ということだ。
 こうしたスジで考えればどういう対処があるべきかは明白なので、エコ命のみなさんには活動の方向をとちくるわないでとお願いしたい。
 話が重たいので関連したトリビア的な余談で締めたいのだが、これも先月21日のロイター・ヘルスのニュース"Smelling Citrus Oils Prevents Asthma in Rats"(参照)が面白かった。柑橘系のエッセンシャル・オイルがネズミの喘息を予防するというのだ。ずばりネタじゃん、という感じだが、読んでいくと、これが私たちが触れるオゾンに関係しているというのだ。

Study author Dr. Ehud Keinan explained that the citrus ingredient is called limonene, and it likely protects against asthma by "burning" inhaled ozone, which can increase inflammation in the lungs.

 つまり、オゾンが間接的に喘息の引き金となるのだが、そのオゾンを柑橘系のエッセンシャル・オイルの香りがオゾンを防ぐのだそうだ。
 ほんとかねという感じだ。実験は人間じゃなくてネズミでしょ?とも言えるが、他生物から見れば人間とネズミは近い動物でもあるので、そうかもしれない。ま、こちらは、あまりマジにとらないでねの愉快な話だ。

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コメント

宿題のレポートに使わせてもらいました。

まとまってて、見やすかったです。

投稿: 結 | 2005.08.13 00:54

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