花びら餅
三が日は正月の内なのでそんな趣向の雑談。昨日近所の和菓子屋が開いたので初釜用にと花びら餅(花弁餅・葩餅)を買った。おりしも客があり、話のタネにとも思い、煎茶に添えて出す。初釜用にはまた買ってこなくてはな。
東京に戻って三度目の正月。なにが嬉しいかといって花びら餅のような和菓子が食べられることだ。長く暮らした沖縄にも、ちんすこうくらいしか知られていないが琉球菓子とでも呼べるよいものがある。が、やはりそこはナイチャーということなのか、私は和菓子が恋しい。
花びら餅は、花びらに見立てた薄円形の餅(求肥が多い)に、白味噌餡とほの紅く染めた餡にさらに蜜漬けの牛蒡を挟み二つ折りにしたものだ。牛蒡は半円をはみ出る。紅が透くところが美しい。
宮中の焼き餅が起源であるかのように言われている。そのせいか御焼餅(おやきかちん)とも呼ばれるようだ。明治以前の花びら餅については、エッセイストにしてお師匠さんとなった森下典子は有吉佐和子の「和宮様御留」に寄せてこう書いている(参照)。
それは杉板の上にたくさん重ねられ、恭しく運ばれてきた。白い搗き立ての餅を薄く丸く引き伸ばしたものと、菱形の紅色の餅が、同じ数だけ並べてあり、その横に、白味噌の餡と、甘く煮た牛蒡が横に置いてあったという。
お付きの女官が、白い餅の上に、菱形の餅を一枚重ね、牛蒡と味噌餡ものせて二つに折り、フキに「おあがり」と、手渡してくれる。
目に浮かぶようだ。関西は今でも丸餅だが、餅(ぺい)というのは丸いものである。中国茶好きなら餅茶を想像すればいいし、ウチナーンチュならコンペンのペンが餅(ペイ)が語源であると言われば納得するかもしれない。現代中国でも同じだ。
明治以前の宮中で花びら餅に使う紅色の餅が菱形であるのは、雛祭りの菱餅と同じものであろう。牛蒡については、正月ついての易の関係だったはずと思ったが、詳細を忘れたので書棚の吉野裕子の著作をめくったがわからない。「カミナリさまはなぜヘソをねらうのか」だったと思ったのだが。さて、「午」「牛」「土気」いずれだったか。新年は木気。新春の若水は木気の親の水気。愚考するにわからない。こんなことではいけないなと神に諭されるがごときである。
いずれにせよ明治以前の宮中では花びら餅とはこのようなものであったようだ。基本は正月神事である。
これが明治になり、裏千家が宮中の許可を得たのか、初釜で使うようになり、そのおりに菓子職人が茶席用に甘味を加え今日のものにしたのだろう。それにしても、花びら餅は職人の技とセンスが問われるような菓子である。大抵の和菓子屋ではこの季節に店頭に置くのだが、まず見た目で私が納得できるものは少ない。次に食するに、餅の食感、味噌餡の塩加減、牛蒡の香りに満足できるものはほとんどない。と、なんだか偉そうだが、それでもよい菓子を作る和菓子職人はいる。
![]() 日日是好日 「お茶」が教えてくれた 15のしあわせ |
どうでもいいことだが、私の茶は我流である。利休の言うように、ただ立てて飲むばかり。だが、どうしたものか裏千家の味を好む。碗は朝鮮茶碗を好む。青磁、伊羅保、粉引を使うが、雨漏りの妙のある粉引が気に入っている。
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コメント
最近カロリーと虫歯の関係でソフトドリンクではなく
茶やコーヒーを飲むようになりました。
今はそうした低次元な志から茶を飲み始める人も多いんじゃないですかね。
世界のどの国でも、
冷たい飲物を飲む時はそうでもないのに、
温かい飲物を飲む時には何故かマナーが産まれます。
茶もコーヒーも紅茶もそうです、不思議な事です。
投稿: (anonymous) | 2005.01.03 14:24
あけましておめでとうございます。
花びら餅をやすやすと手に入れて食べている人がいるのかと思うと憎らしい気持ちになりました(^.^;;。ああお正月だと思った瞬間から食べたいと思ってましたがこればっかりは日本じゃないとダメ、咄嗟に在外邦人として慣れ親しんだ諦めモードに移行しておりましたがこのエントリーを読んだら、なにかやもたてもたまらず、駆け出したいような感じになりました。あの微妙さを一体どうやったら手に入れられるんでしょう…。
憎々しいことを書いておきながらなんですが、新しい年もまたどうぞよろしくお願いいたします。ご健筆を祈念してやみません。
投稿: Soreda | 2005.01.03 15:28
ちょっと待て。
青磁はともかく、
>伊羅保、粉引
それってひょっとしてオリジナルですか?
投稿: F.Nakajima | 2005.01.03 21:44
F.Nakajimaさん、こんにちは。いえいえ、オリジナルではありません。一度くらいそういうのを使ってみたいですが手が震えるでしょう。
投稿: finalvent | 2005.01.04 09:16
花びら餅の牛蒡は、季節の転換呪物としての具象化でしょう。
季冬十二月は丑月で、亥・子・丑の水気の終わりであるとともに、土気の土用(湿土)でもあるところから、牛蒡はまさに土用の丑月、旧十二月の造型であろうと思われます。寒気を送り出すものとしての。
投稿: Leilan | 2005.01.04 18:39
「年魚(あゆ)にみたてた牛蒡に・・・」
と亀屋良長さんのパンフレットに書いてありました。
ああ、おいしい。
投稿: notti | 2005.01.07 19:19