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2005.01.02

陳年茶のこと

 雑談。正月らしきことを仰々しくすることが好きではないが、それでも元旦は元旦か、と正月ボケを楽しむのだが、自室の棚の一箱に何が入っていたけと気になった。あれは二年前の引っ越しのときにも開梱してなかったか。
 開けてみた。奇妙なものがいろいろ入っていたのだが、驚いたのは沱茶が出てきたことだ。沱茶というのは饅頭型というかヌーブラ型に固めた中国茶だ。内側は窪みになっている。茶のツラを見るに、保存状態はよく、黴もない。
 これをどこで買ったものか記憶にない。香港、台湾、沖縄? そしてこれは何年物なのか? よくある雲南沱茶で、蚊取り線香入れのような円筒の箱に入っている。中華街とかでもよくみかけるもので、500円くらいで売っている安物だ。プーアル茶としては速成品の類で茶好きは見向きもしないだろう。貰い物だったのだろうか。まぁ、陳年茶はある程度飲み慣れたので、これも飲んでみたらわかるだろうと、削って、淹れてみる。二度ほど洗茶。待つこと四分ほど。
 飲む。癖がなく喉ごしがいい。この手の速成品にありがちな、尖った感じやえぐ味はなく、それでも十年以上は寝かした感じがする。陳年茶にありがちが茶酔いの感じもあり、甘露と形容したくなる陳年茶特有の不思議な甘みもある。悪くないよ、これ。こんなものでも寝せておくとそれなりの味になるもののか、と得をしたような気分になった。
 うかつだったのだが、箱をひっくり返したら日本の輸入元のラベルが貼ってあった。神戸で輸入されたもので、平成四年とある。平成四年? ところで今年は平成でいうと何年だっけ。平成一七年か。どうも平成以降元号はピンとこないのだが、それでもこの沱茶は十三年物というわけか。十三年前に買ったとも言えないにせよ、十年以上も前のものには違いない。なんだか記憶というものがいかに曖昧か嫌になる。
 プーアル(ポーレイ)茶など黒茶や陳年茶というのは、中国茶のなかでもそれなりにちょっと面倒な世界で、またいろいろウンチクも多いものだ。市場には速成品が多いため、そうではない物を目立たせるための修辞が多いのもしかたがないが、その手の話はさすがに中国人茶商の手の内に踊らされているようでウンザリしてくることが多い。と言いつつ、自分もそれに免れたものではなく、一時期はいろいろ集めたものだ。
 陳年茶はなるほど奥が深く、掘り出し物などの珍品もある。しかし、それなりに飲んでいけば、ワインと同じで、これに熱中していくのもある程度わかってくる、というか、わかってしまえば嵌ったも同然。大枚出して「これは外れか」というのも楽しみのうちとするしかない。私などこの分野にそれほど詳しいわけでもないし、大枚を叩く気力も現物もなしであるが、なんというか陳年茶というのは、茶の姿を見てわかるものではないのが蠱惑的だ。一目でダメだなとか偽物というか速成だなこりゃ、というのは慣れればわかる。わからないのは五十年物とかだ。いろいろな形状がある。枯葉かよというのが、おおっと驚くような茶であったりもする。
 数年前のことだが、台南の街を散歩していたら小さな茶商があり、茶筒も所狭しと並んでいるのでひやかしに入り、適当に注文していると、上段に偉そうなのがあった。五十年だか六十年ものらしい。茶商は大陸系とも見えない。台南人にありがちな呑気な気風だ。それほど熱心でもないが、あれは旨いよ、というようなことを言う。高額なので一両(30g程度)でも売るかと聞くと、売るというので買ってみた。ダメモトというやつだ。見るに、散茶だが縒ってあり、プーアル茶でもない。台北などでよく見る凍頂茶を年々火入れしたものに近い。そんなものかな。ところで帰宅して淹れてみて呆れた。今まで飲んだことのないタイプの茶だった。もちろん陳年茶であることはわかるし、十年といった気合いではないこともわかる。まいったな。もうちょっと買っておけばよかった。
 さて発掘された十三年ものの沱茶を飲み終え、なんとなく物足りないので、茶箱の秘蔵の陳年茶をあさるに檳榔香というのがある。以前飲んだときは、きつくて飲めなかったがあれから何年経つ?と思って淹れてみた。これも驚き、かなりまろやかになっているのだが、それよりもなるほど檳榔香という感じが以前よりもする。陳年茶にこの香りもありか。まったく呆れた世界だな。
 陳年茶とは、かく変なものだと思うが、元旦の夜に、酒も飲めない私がちびちと飲むにはよい。中国という国にはアンビバレンツな気持ちを持つことが多いが、老いていくことを称えるがごとき茶の世界というのは良いものだ。
 我が身が茶に大枚を叩ける運命にないのがわびしい。この境遇で同種の老の趣として残るは、鳥籠を持っての散歩くらいか。しかし、私など野に聞く鳥の声が美しく思える。畢竟、己は日本人か、かく新正月に思う。

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コメント

籠に戻る鳥は、青い雀でしたか・・・

投稿: のっち | 2005.01.03 00:25

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