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2005.01.29

ミューズリ(Muesli)

 先日のエントリに書いた「[書評]スイス探訪(国松孝次)」(参照)だが、この本の話のなかに、スイス人が発明したものの一つとしてミューズリがあった。そうだ、ミューズリだ、と思って、私は、またミューズリを朝食に食べ始めた。もう一か月以上食べている。長くは続かないのだが学生時代からの習慣で、ときおりミューズリを食べる。沖縄で暮らしていたころも、インターネットでチョコ屋に「アララ」というブランドのミューズリがあるのを知って、取り寄せて一時期食べていた。こうしたことはそう長くは続かない。気まぐれでもあるのだが、また始めたというわけだ。

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ミューズリ
 ミューズリとは…と思って手元のリーダーズの辞書をひいたら、ムースリ、と載っている。それはないでしょ。でも、スイス料理とちゃんと書いてある。

_n. ムースリ 《穀粉・乾果・ナッツ・蜂蜜などに牛乳を加えるスイス料理; 朝食に多い》.
[Swiss G]

 ネットのgoo辞書もひいてみた(参照)。

mues・li
_n. ミューズリ ((シリアルの一種)).
muesli belt 〔米俗〕 〔戯言〕 ミューズリー地帯 ((muesliを好むことに象徴される,中流・革新・環境保護派・女権擁護派等の人々が住む一帯)).

 こんなの好んで食べているなんて元リベラルの地が出ましたか…という洒落ではないが、私もこうした米国流の生活習慣の影響がある。
 で結局、ミューズリというのはなにかというと、とりあえずはシリアルの一種みたいなもので、実際日本だとそういうふうに広まっている、というか米人でもそうなのだが、ちょっと違う。ミューズリは、要するに押し麦だよ、ということなのだが、とネットをさまよっていたら、いい解説があった。allabout"ミューズリーの朝食"(参照)である。

最も身近なコーンフレークやオートミール、グラノーラやミューズリーもシリアルの中の1種類と言えそうですね。個々の違いはおおよそ以下のとおりです。
(1)コーンフレーク
挽き割りとうもろこしを蒸し、ローラーで丸ごとつぶして乾燥させたもの。
(2)オートミール
外皮を取り除いたオーツ麦を蒸してから圧縮し、乾燥させたもの。
(3)ミューズリー
主にオートミールをベースに複数の穀物をブレンドし、ドライフルーツ、ナッツ等を混ぜたもの。
(4)グラノーラ
ミューズリーに植物性油脂やはちみつ、糖類、シロップなどを添加してオーブンで焼いたもの。

 そういうことだ。リンク先には写真もあるのでわかりやすい。ただ、このガイドさんの食べ方は、現代欧米の主流ではあるけど、私はお薦めしない。健康がとかの理由ではなく、リッチに食べては押し麦のあの貧しい味わいが減るからだ。もっとも、長時間に水に浸しておくというのはオリジナルの食べ方でもある。高齢者にはいいだろう。
 このミューズリを作ったのは、マクシミリアン・ビルヒャー・ベナー(Maximilian Bircher-Benner:1867-1939)(参照)でスイスの医師だ。米国などでの通称はマックス・ビルヒャーでよさそうだ。彼はミューズリを治療食として作った。ちょっとネットを見たら、スイスインフォのサイトに詳しい邦文の話がある(参照)。

マックス・ビルヒャーがチューリヒで医者になった頃、医学は対症療法が主で、病気の症状が出てから、症状を軽くしたり、症状を取り払うことにあるという考え方が一般的だった。ビルヒャーは、日常の食事が健康に大きく関わると考え病気の予防には栄養の摂取が重要だと目をつけた。1904年にはチューリヒにサナトリウムを開設し、食事療法を実践する。現代にも通用する健康に対する考え方だが、当時は受け入れられなかったという。

 ミューズリは米国ではシリアルの扱いになっている…といえば、ケロッグが連想される。ケロッグを作ったケロッグ博士もまたビルヒャー博士の同時代の人だった。この二人は比較にはかかせないこともあり、説明でもこう触れている。

米国では1906年、ケロッグ兄弟がコーンフレークを発明。こちらは早速製品化され、今では売上90億ドルを誇る有名食品である。一方、ミューズリーは商品登録もなされず、ビルヒャーは「お金儲けは考えていなかった」とチューリヒ州立大学の医学史のエバーハルト・ヴォルフ氏。「唯一商品登録された彼の考案品は、りんごを擦り卸す金具の板だろう」と、ビジネスにはほとんど無縁に生涯を終えた。卸し金は日本の大根卸しとは違って、目が粗く、りんごは細切れのようになる。

 つまり、ミューズリのほうはオープンソースだったわけだ。ちなみに、この卸し金だが沖縄だとどの家庭にもある。「しりしり」に欠かせないのだ。「しりしり」がなんであるかについてはここで話すと長くなるので割愛するが。
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ケロッグ博士
 ケロッグ兄弟の兄、ケロッグ博士がどんな人だったかは、新潮文庫の「ケロッグ博士」を読めばわかるし、映画にもなった。本の釣りをひいておく。つまり、こういうことだ。

1907年、一組の夫婦がコーンフレークで有名なあのケロッグ博士経営の療養所を訪れた。博士の健康法を信奉する妻が、胃痛と不眠に悩む夫を連れてきたのだ。オオバコの種子とヒジキの食事、菌の排出のための一日5回の浣腸、電気風呂やら泥風呂、振動ベルトに電気毛布、そして厳格な禁欲生活…。過酷な科学的治療に夫は疲れ果てる―いまアメリカで最も笑える作家が贈る抱腹絶倒本。

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ケロッグ博士
 おもしろおかしく書いてあるが、これがけっこう実話だったりする。まったく、アメリカ人の健康強迫症は、そういうわけで今に始まったことでもない。この手の米国の変な博士はウイルヘルム・ライヒとかぎらず五万といる。
 というか、ビルヒャー博士とケロッグ博士の違いが、もしかすると欧州と米国の文化の違いでもあるのかもしれない。
 ところで、ミューズリって健康にいいのか? よいと言われている。最近の米国では一段落ついたもののローカーブ(低澱粉)や旧石器ダイエット(Paleolithic Diet)またはゾーン・ダイエット(Zone Diet)などが騒ぎだったので、ミューズリにはあまり新味な話題はない。ちなみに、ケロッグのシリアルのGI(グリセミック指数)は商品によってはまばらだが、主流のものはけっこう高い。これに対して、ミューズリは、ビルヒャー博士のオリジナルに近いものは低いようだ。たぶん、ダイエットにも向くだろうと思う。ミューズリ・ダイエット…流行らないよね。
 私といえば、先にちょっと触れたように押し麦(参照)だよね、これ、という感じで食べている。なんか貧しいものを噛み噛みして食うのがいいのだ。ああ、人間ってこういう貧しいものを食って生きる生き物だよねと思う。ま、全然違うのだけど、ちょっとくらいそう思う。

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コメント

わたし、3年くらい朝食にミューズリを食べていましたが、ふと思い立って食べるのやめたら、2か月ほどで15キロやせました。カロリーはたっぷりあるのかもしれませんね。

投稿: fanannan | 2005.01.29 08:59

finalventさんも元リベラルですか・・・・・・
この2chに洗脳された熱湯浴プロド例の典型である筑摩屋もでございます。
わたしもミューズリーは好きですよ。ていうか現役で左翼世捨て人をやってる実兄がこの食べ物を紹介してくれたんですが。

投稿: 筑摩屋 松坊堂 | 2005.01.29 23:36

ミューズリーって昔は馬の餌で、「なるほど英国人は馬になったらしい」って夏目漱石が友人に宛てた手紙で留学時の憂さ晴らしにからかってませんでした?うろ覚えですが。

投稿: えり | 2005.02.01 09:31

ミューズリは昔スイスのアルプ(夏の間、放牧のために山の斜面などに作られた小屋)で食べられていたものだそうです。
ケロッグ博士は相当潔癖のようですが、ケロッグのシリアル類はどれもGI高めってのが皮肉ですよね。

投稿: れいな | 2005.02.11 14:18

私もミューズリ好きです。
同じく、なんとなく人間らしさを感じてみたりしつつ噛み続けてます。
ゲストハウスでもベーコンや卵を頼まずに、生の果物の小さい角切りをたくさん加え、オレンジジュースを入れたミューズリをひたすら食べます。
治療食だとは知りませんでした。これから余計に、人間ってこういうものをたべるもんなんだなどと思いつつ食べてしまいそう。

投稿: saac | 2005.05.10 23:04

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