イラク総選挙はとりあえず成功した
イラク選挙の投票が終わった。テロはあった。死者は出た。しかし、投票を覆す事件にはならなかった。私は率直にテロって意外にヘタレだなと思った。もちろん、それを弾圧した膨大な軍事力を知らないわけではない。ファルージャは廃墟となった。
今朝の主要新聞各紙社説は投票について触れていない。間に合わなかったのかもしれないが、毎日新聞社説"サマワの自衛隊 より重くなった政治の責任"(参照)にはこの日についてこう触れている。
イラクで30日、移行国民議会選挙が行われた。反米勢力などが選挙妨害のための武装闘争を活発化させてきただけに、選挙後のイラク情勢が大きく流動化する可能性も少なくない。
こんな話を選挙についての論評に先行させてしまう政治センスについていけないものを感じる。他、その後の国内ニュースなどを見ると、イラク国民を称える欧米の論調と落差がはげしい。NHKにいたっては早々に今回の選挙は成功だとはいえないと解説員に言わせている。だが、その理由たるやスンニ派が参加していないことと今後の動向を見る必要があるというもので、それって別に昨日の投票の意義とは関係ない。解説員が解説を放棄しているように思える。少なくともこの選挙で目立ったテロが発生しなかったこと、多くのイラク国民が命を賭けて投票に行ったことに言及すべきだろう。
どちらかといえばブッシュ寄りではないサロン・コムの、APニュース"They voted"(参照)ではこういう話を伝えている。これもヤラセと言うのだろうか。
At one polling place in Baghdad, soldiers and voters joined hands in a dance, and in Baqouba, voters jumped and clapped to celebrate the historic day. At another, an Iraqi policeman in a black ski mask tucked his assault rifle under one arm and took the hand of an elderly blind woman, guiding her to the polls.
【試訳】
バグダッドのある投票所では、兵士と投票者が手をつないでダンスをしていた。バコバでは投票者は、この歴史的な日を祝うために、躍り上がり喝采していた。別所では、黒いスキーマスクをしたイラク警官がライフル銃を小脇にかかえ、盲目の老婆を投票場に連れて行った。
私は単純にこうした話に感動する。それは一部のできごとではないかということかもしれない。シーア派の人々は投票せよという宗教令が出されたていたからとも言われる。でも、私はまず単純に感動する。私はこの勇気ある行為をもってイラクの人々を称えたいと思う。イラクの国民がイラクの国家のために命をかけて投票したことはたしかだし、APが"They voted"と短くタイトルをつけた理由もわかる。
BBCでは経時的に投票の詳細を"Reporters' log: Iraqi elections "(参照)で触れている。
Paul Wood : Baghdad : 1808 GMT
There was almost a party atmosphere in the streets around the BBC bureau in Baghdad, with Iraqis we met delighted at being able to cast a democratic vote.And in the holy city of Najaf, an 80-year-old woman declared: "I've been forced to vote under Saddam. Today I freely choose my candidate."
These were Shia voters. In Sunni towns the electoral commission admitted that some polling stations hadn't even opened.
Still, there was a trickle of voters even in Falluja, an act of courage given the insurgents' threat to behead anyone casting a ballot.
With the Shia and Kurdish turnout clearly high the crucial question now is how many Sunnis have been prepared to defy the gunmen and vote.
こうした話を読むと、スンニトライアングルでの投票は難しいと見られていたし、確かにそうではあった。でも、バグダッドでも投票はあり、ファルージャですら投票者がいたのだなと感慨深い。
今回の投票が、今後のイラクと米国の関係にどういう意味を持つかについては、難しく議論したいなら、国務長官であったキッシンジャーとシュルツが25日付けのワシントンポスト掲載した寄稿"Results, Not Timetables, Matter in Iraq"(参照)が重要だろう。いわゆる出口戦略論である。
The debate on Iraq is taking a new turn. The Iraqi elections scheduled for Jan. 30, only recently viewed as a culmination, are described as inaugurating a civil war. The timing and the voting arrangements have become controversial. All this is a way of foreshadowing a demand for an exit strategy, by which many critics mean some sort of explicit time limit on the U.S. effort.We reject this counsel. The implications of the term "exit strategy" must be clearly understood; there can be no fudging of consequences. The essential prerequisite for an acceptable exit strategy is a sustainable outcome, not an arbitrary time limit. For the outcome in Iraq will shape the next decade of American foreign policy.
というわけで、難しい議論が進むのだが、シーア派の人々による政権に民主主義が根付くまでまたクルドという難問をこじらせないためアメリカの関与が必要だと、彼らは説く。
言うまでもなく、イラクから米軍が撤退すればすべて解決と説くような議論とは正反対の位置にある。
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