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2004.12.11

サマンサ・スミス(Samantha Smith)ちゃんの手紙

 先日書いた経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)の読解力テストについてのエントリ「日本学生の読解力低下が問題ではなく文化差異が問題だ」(参照)で、2000年に出題された問題を例示した。あのエントリを書いた後で、奇妙に心にひっかることがあった。なにかなと思ったが、しばらくしてサマンサ・スミス(Samantha Smith)ちゃんの手紙のことだと思い至った。
 先のテストでは、インターネットから寄せられたという想定で二人の少女の手紙が掲載されていた。15歳の義務教育終了のアチーブメント・テストということから考えて、その同年の少女の手紙という想定だろう。私が大学生のころ非日本人と時を過ごすことが多かったのでそのときの経験から類推するのだが、欧米人の子供はこのくらいの年代でもあのようにポリティカルな意見を堂々と書く。
 不思議なくらいなのだが、欧米人の場合、小学生ですらポリティカルな自己主張をする。そのよい例というわけでもないのだが、興味深い例として、1983年当時10歳だったサマンサ・スミス(Samantha Smith)ちゃんの手紙がある。彼女は、当時ソ連(ロシア)の最高権力者だったアンドロポフ書記長に手紙を書いた。アンドロポフは当時、82年11月10日のブレジネフ書記長の急死に伴い、急遽書記長に就任したところだった。サマンサ・スミスちゃんの手紙にお祝いの言葉があるのはこうした背景からだ。


Dear Mr. Andropov,
My name is Samantha Smith. I am ten years old. Congratulations on your new job. I have been worrying about Russia and the United States getting into a nuclear war. Are you going to vote to have a war or not? If you aren't please tell me how you are going to help to not have a war. This question you do not have to answer, but I would like to know why you want to conquer the world or at least our country. God made the world for us to live together in peace and not to fight.
Sincerely,
Samantha Smith
【試訳】
アンドポフ様
わたしの名前はサマンサ・スミスです。わたしは10歳です。新しいお仕事につかれたとのこと、おめでとうございます。わたしはロシアとアメリカ合衆国が核戦争になるのではないかと心配してきました。あなたは戦争に賛成する気ですか、そうではないのですか。もしそうではないなら、戦争をしないために、あなたになにができるかを教えてください。この質問はあなたが答えなければいけないものではありません。でも、なぜあなたがこの世界や少なくともわたしたちの国を支配したいと望むのかについて、わたしは知りたいと思います。神様はこの世界を人々が平和に暮らすようにおつくりになったのであって、戦い合あうためにおつくりなったのではないのです。
こころから
サマンサ・スミス

 さすがに10歳の子供の英語は訳すまでもないのだが、洒落で試訳してみた。訳の出来は別としても、この原文のきついトーンはなんだろうと思う。"This question you do not have to answer"など、黙秘の権利はあります、みたいな印象を受ける。
 というか、このトーンと同じものをOECDのテストのヘルガとソフィアの手紙から感じないだろうか。文化差異というのはこうした感性の問題でもあるので、そんなことはないと言われるなら別の方法で私は書くべきかもしれないのだが、そんな必要あるかな?
 サマンサ・スミスちゃんの手紙はアンドロポフ書記長から返信があった。そしてそれはソ連の新聞であるプラウダに掲載された。その原文を読みたいかたは、WikipediaのSamantha Smithの項目を参照してほしい(参照)。なかなか誠意のある返信である。
 その後、サマンサ・スミスちゃんは、アンドロポフ書記長によってソ連に招かれ、一躍時の人となった。米国では、冷戦時代の子供の平和活動家というふうに扱われるようになり、マスコミでも活躍するようになった。が、そうしたメディアでの活動の際、飛行機事故で亡くなった。1985年13歳のことだった。
 繰り返すが、10歳の少女が政治的な手紙を堂々と書いて送りつけるというのは、アメリカではそれほど不思議なことではない。チャーリー・ブラウンの登場人物ライナスはカボチャ大王に手紙を書くほどだ。だが、それにしても、アンドロポフ書記長に届くというのはできすぎた話である。やらせとまではいかないにせよ、不自然なことだなとは思っていた。本当にあった話とはいえ、あまり親近感を覚える話ではなかった。
 ところが、私事だが奇妙なことがあった。私は数年前、サマンサ・スミスちゃんの同級生の女性とコミュニケーションを取る機会があった。というか、彼女との話の途中でそのことを知った。偶然とはいえ、そんなことがあるのもなのかと不思議に思った。当然、サマンサ・スミスちゃんがどういう少女だったのか訊いてみた。答えは、普通の女の子でしたよ、というくらいものだったが…。
 現代はインターネットの時代である。サマンサ・スミスちゃんの古い物語はどうなっているのだろう、とネットで調べてみて、少し驚いた。いや、先に示したWikipediaの項目の参照にもあるのだが、まず彼女を記念し、その名前をとった小学校"Samantha Smith Elementary School"が存在している(参照)。また、すでに彼女は歴史上の人物として学ぶべき学習教材にもなっているようだ(参照)。
 つまり、サマンサ・スミスちゃんはヘルガやソフィアのような少女を製造するひな型でもあるわけだ。そして、こうした精神を形作ることが、彼らの教育というものなのだ。
 私は溜息をつく。つくよなぁ?

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2004.12.10

少女コマンドーまゆみは16年前に言っていた

 まとまりのない話だが…。一昨日、日本政府は、北朝鮮側が「横田めぐみさんのもの」とする遺骨について、DNA鑑定した結果、別人だと発表した。率直に言うと私には多少意外感もあった。これが残念なことに横田さん本人のもので一連の幕引きの始まりというストーリーになるのかもしれないとも多少思っていたからだ。もっとも、そうしたストーリーはなんとはなしに流布されていたこともあって、訝しいとも思ってもいた。幕引きを願う一群の人々の情報操作があるのかもしれない。
 そして昨日毎日新聞系で政府関係者の話として"田口さんが金賢姫に日本語指導 地村さん証言"(参照)という記事が出た。


北朝鮮による拉致被害者の地村富貴恵さん(49)が、田口八重子さん(行方不明時22歳)は大韓航空機事件を実行した金賢姫(キムヒョンヒ)元死刑囚の教育係の「李恩恵(リウネ)」であることを示唆する証言をしていることが、政府関係者の話で分かった。

 もちろん、この話自体はある意味ですでに知られていたことだが、拉致被害者からの証言となると格段に真実性が増す。とはいえ、どういう「政府関係者」なのかも気にはなる。
 この証言の意味は同記事にもあるが、横田めぐみさんの安否に関係している。

 大韓航空機事件への関与を否定している北朝鮮側は、先月の日朝実務者協議でも、田口さんが横田めぐみさん(行方不明時13歳)と81年から84年まで一緒に生活していたと説明。金元死刑囚が「李恩恵」と同居して教育を受けたとされる期間と重なることから、家族会などは、横田さんの履歴を捏造(ねつぞう)して李恩恵を否定したと批判している。

 ある年代以上の人には当たり前の話かもしれないが、私なりに少しまとめてみたい。
 北朝鮮の言い分では、81-84年、田口さんと横田さんが一緒に暮らしていた。そして、金賢姫の言い分では、81年7月-82年3月まで金と李が同居していた。田口さんが李と同一人物でないなら、北朝鮮の言い分も成り立つ。
 だが、地村さんの証言によって、田口さんが李と同一人物であることがわかった。この証言は金の証言に矛盾しない。矛盾するのは北朝鮮の言い分だ。北朝鮮の言うような、81-84年、田口さんと横田さんが一緒に暮らしていた、ということはありえない。北朝鮮は嘘をついている。
 なぜ、そのような嘘を北朝鮮がつくかと、李恩恵=田口八重子を否定したいためであり、その理由は、北朝鮮が大韓航空機事件を起こしたということを否定したいためだ。そして、そのために、田口=李さんとペアにされた横田さんを出すわけにはいかないという、ということになったのだろう。なお、ネットの世代は若い人も多いので、もしかして大韓航空機事件を知らない人がいるかもしれない。その場合は、とりあえずWikipedeiaの同項目を参照されるといい(参照)。
 さて、しかし、と、ここで多少物思いにふけるのだが、すでに大韓航空機事件については、まさにその事件を起こした本人である金賢姫の証言が存在しており、その信憑性は高い。つまり、北朝鮮の大韓航空機事件の関与は疑いえない。なのになぜ、未だにそれを疑う人がいるのだろうか?
 先のWikipediaもつい両論併記のつもりだろうが次ような記載がある。

朝鮮民主主義人民共和国との関係を悪化させるべく韓国国家安全企画部(2004年現在の国家情報院)が仕組んだ謀略ではないかという声も一部にある。


金賢姫の自白には矛盾点が多く、また解放の後行方不明となっており、真相の究明が待たれる。

 Wikipedeaの記載を非難したいわけではない。が、私にしてみると、そういう次元じゃないよと思う。それでも、世論のなかにそういうトーンが含まれていることを知らないわけではない。単純に、大韓航空機事件を曖昧にする情報のあり方を奇妙に思う。
 過去を顧みる。大韓航空機事件から数ヶ月後の、1988年2月8日読売新聞"大韓機事件 金賢姫への日本側聴取内容の全文/韓国発表"に、李恩恵について次のような聴取内容がまとめられていた。

◆身の上話を語った恩恵◆
 〈8〉北朝鮮に拉致された経緯
 ○高等学校を卒業後、結婚したものの離婚し、東京で息子(当時三歳)と娘(同一歳)を養っていたとき、
 --海辺を散歩中に拉致され、船で北に連れて来られた。
 --日本には親戚多数が居住している。
 ○拉致当時、船酔いが激しく、何日間も食事がとれず、こん睡状態になった。
 --拉致直後は牡丹峰(モランボン)招待所に収容されたが、その際、子供と家がなつかしく泣きわめき、環境に適応するのに大変だったという。
 ○なかんずく、金正日誕生日(二月十六日)の夕食に日本人女性として特別に招待されて行ったことがあると言い、そこで自身の境遇のように拉致されてきた日本人夫婦にも会ったと話し、この事実は絶対にだれにもしゃべってはいけないと口止めしたことがある。
 ○酒に酔えば、子供に会いたい、家に帰りたいと言っては苦しがり、泣くことがよくあり、ぼんやりと座っては身の上苦労話を聞かせることもあった。
 ○「李恩恵」という名前は北朝鮮で金日成と金正日の恩恵をたくさん受けて生きているという意味から北朝鮮から与えられた名前だと説明し、日本の名前をたずねたら回答を避けて「統一されれば日本に帰る」と語った。

 この「拉致されてきた日本人夫婦」はすでに判明したと言っていいだろう。それにしても、これが1988年のことである。
 今読めばどうということもないのだが、この証言の重みはその後10年以上もほったらかしにされていたに等しい。と、私はぼんやりと自分の思考を取り巻く、情報の空気の重さというか臭いというか、それはなんだったのだろうかと思う。
 ここから話がずっこける。というかちょっと支離滅裂になる。
 1987年と言えば、17年前のことである。17年前と言えば、随分昔のようだが、47歳の私にしれみると30歳。まだ20代の気分でいたし、「スケ番刑事」の後続、「少女コマンドーいづみ IZUMI」とか熱中して見ていた。五十嵐いづみには役柄もだが奇妙な暗さもあって、ファンの私としては、今でいうところの萌え、だっただろうか。
 番組を解説している「allcinema ONLINE 映画データベース」の解説を借りるとこういう話だった。

身に覚えの無い殺人の汚名を着せられ、住み慣れた街を追われた少女、五条いづみ。彼女は最終兵器として生まれ変わる為、謎の組織で秘密プロジェクトに参加させられる。実験途中で脱走したいづみに対して謎の組織は抹殺指令を発動。“バイオフィードバック”という能力を得たいづみは、謎の組織の正体を暴き、奪われた青春を取り戻すため、激しい戦いの中に身を投じていく……。

 笑うっきゃない設定だが、さて、この番組が始まったのが1987年11月5日。第4回「おかしな2人、潜入」の放映が1987年11月26日。その3日後、大韓航空機爆破事件が起きる。犯人の金賢姫は日本人名「蜂谷真由美」を名乗っていた。「少女コマンドーまゆみ」である。おい、洒落にならねーよ、ということで、「少女コマンドーいづみ IZUMI」の打ち切りが早速に動き出した。
 それでもなんとか番組改編の3月まではひっぱり、2月18日の15回最終回を迎えた。スケ番刑事麻宮サキ編全25話、少女鉄仮面伝説伝説編全42話、風間唯=浅香唯編全42話に比べれば、尻つぼみ感ありありだった。ま、中だるみなしでよかったかも。
 ところで、世間的には「いづみ」と「まゆみ」の駄洒落みたいなオチが付くのだが、私は、1987年「少女コマンドーいづみ」のバイオフィードバックの設定に奇妙に心がひっかかっていた。というか、今も奇妙に心にひっかかったままだ。1980年代後半から1990年だにかけての世界の状況とバイオフィードバックの関係はただの物語の設定というより、なにかの象徴、あるいは暗示だったようにも思うのだが、…考えがまとまらない。

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2004.12.09

米国内では州ごとに経済自由度が異なる、で?

 先日ラジオ深夜便で米国内の州ごとの経済自由度(Economic Freedom Index)という話があり、ちょっと気になった。しょぼいネタかもしれないが…。
 経済自由度というと、国際間での比較は日本経済新聞などにも毎年掲載されて話題になる。例えば、"経済自由度ランキング、日本は36位・米シンクタンク"(参照)によると、今年は、日本は36位だった。


米シンクタンクのケイトー研究所は2004年版「世界の経済自由度ランキング」をまとめた。金融市場の開放度や貿易の自由度などを評価したもので、1位の香港に続き、シンガポール、米国や英国などが上位に並んだ。日本はイタリアなどと並ぶ36位で、前年(35位)からやや後退。主要国ではフランス(44位)に次ぐ低い評価になった。

 そう言われてもねみたいなランキングではある。フランスより上というのが妥当かなという感じだ。
 この経済自由度という概念が、米国だと各州にも適応できるというわけだ。考えてみると当たり前のことで、米国というのはUnited Statesというように、法制度の異なる国家(state)の連邦制になっている。法制度が違うということは税制やその他の経済規制も違う。私事めくが、10年くらい前だと米国のショップで注文するとき、マサチューセッツ州の場合は税率はどうなるとかいう面倒臭い手続きの注意書きを読まされたものだった。最近では比較的ネットで簡単にできるようになっとはいえ、米国内では州ごとにいろいろ経済的な規制が今でも違う。なるほど経済自由度ということが話題になりうるわけだ。
 米国州ごとの経済自由度についての資料は、パシフィック調査研究所(Pacific Research Institute)(参照)にある。調査の概要はPDFファイルで配布している(参照・PDF)。手短にわかりやすくまとっている。
cover
州ごとの経済自由度
 この概要を見ると、米国に多少なり関心のある人間は、なるほど、面白いといえば面白い。結論は、一目でわかるように、先日の大統領選挙のように州ごとに色分けされている。
 これを見ていると、なんというか、先日の大統領選挙に似ているなという印象も受ける。つまり、ブッシュ陣営の地域のほうが経済自由度が高いかのようだ。しかし、実際には、この差異というのは、単に都市部かそれ以外ということで、都市部の場合は行政に求められるところが多いのために財源確保に経済規制も多いという単純なことなのだろう。
 調査結果によると、最も経済自由度がないワーストはニューヨーク州。なんだか苦笑してしまいそうだ。お手あげかな?(自由の女神がもう一方の手もあげたら独立宣言書が落ちてしまう)。ワースト方面でこれに次ぐのがカリフォルニア州。がんばれシュワちゃん、共和党。先日も日本に来て楽しいセールをやっていた。
 ベストはというと、カンザス州。二位はコロラド州。そしてバージニア、アイダホ、ユタと続く。と、見ていきながら、で?、こんなリストになんの意味があるのか?という気持ちにもなるかもしれない。だが、調査概要には面白い模範想定問答もあった。ぶっちゃけた話、経済自由度が高まると手持ちの金(かね)が増えるのか?、と。

Q: If we enact policies in our state that yield more economic freedom, will we have higher personal income?
A: Yes. Based on the economic model, a 10-percent improvement in a state's economic freedom score yields, on average, about a half-percent increase in annual income per capita. If all states were as economically free as Kansas, the annual income for an average working American would rise 4.42 percent, or $1,161, putting an additional $87,541 into their pocket over a 40-year working life.

 答えは増えるというのだ。全州がカンザス州並になると収入は4.42%アップするらしい。年間で1161ドル(12万円くらい)の儲けになる。日本だと国民年金をシカトするとこれよりちょっと多い差分になる。米国の場合、この差額を安全な米国財務省証券で40年運用すると8万7541ドルの差になる。ドルは今後下がるだろうが生涯で800万円くらいの差となるのだろうか。多いと言えるのかたいしたことないと見るべきかよくわからないが。
 そういえば、ワーストで二位のカリフォルニア州では、現在不動産価格が高騰し同州から逃げる人も増えているという話を聞く。州間であまり経済的な規制の差が出れば、米国の場合直接的な人間の移動が起きるのかもしれない。
 企業という点でも、カンザス州など経済自由度の高い州のほうが有利になる。通信と輸送が高度化されればこうした地域での企業はメリットになるだろう。こいうのは、ある程度技術とコスト面が飽和した状態で質的な変化が起きることがある。
 調査をぼうっと読みながら、日本のことも思った。日本でも地方行政の独立性が高まれば、県ごとの経済自由度なんていうものもできるのかもしれない。いやいや、そんなはずはないか。
 ところで、この報告書の発表者を見ているとYing Huangという女性がいる。漢字だと「黄英」だろうか。こうプロフィールがある。

Ying Huang, born in the Peoples Republic of China, graduated in 2000 with a B.A. in international finance from Shanghai University of Finance and Economics. Before coming to the United States in 2002, she worked in the Shanghai office of an Australian consulting company. Huang received her M.A. in economics from Clemson University in December 2003. Her master's thesis developed the economic freedom indexes used in this report.

 ざっと見る限り、国籍は大陸中国なのではないだろうかと思う。M.A.(修士)論文がこの経済自由度であったとのこと。この調査の実質は彼女のM.A.論文なのではないか。
 こういう経済自由度を重視するという考えの中国人の人材が、遠くない将来大陸中国で活躍するようになるのだろうか。

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2004.12.08

日本学生の読解力低下が問題ではなく文化差異が問題だ

 昨日発表された経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)の結果、日本人の学生の読解力は41か国中14位(平均以下)ということで先進国の教育としては世界にお笑いを提供することになった。というわけで、保守系のオヤジというかそのあたりは日本の教育はなっとらーん合唱でもしそうな香ばしさなので、私なんぞは「けっ、くだらねー」とまず反応した。そんなものどうでもいいじゃん。時代によって子供に求められる能力は違う。尺度を変えて、一行メールの瞬間読解能力とかすれば日本は断然一位だよ、ってな具合に毒づいた。が、間違いだった。私のこのリアクションは間違いだったのだ。詳細を知って、日本の教育はすごい危機にあるぞと認識を改めた。懺悔。
 まず、話の枠組みなのだが、せっかくだから今朝の毎日新聞社説"OECD学力調査 土台の弱さ見据えた対応を"から拾う(参照)。ちなみに、毎日新聞社説は昨今自衛隊イラク派遣問題など政治面ではわけのわからない各種意見を乱発しているのだが、それ以外ではそれほどひどくもない。


 義務教育修了段階の15歳を対象とする経済協力開発機構(OECD)の2回目、03年の学習到達度調査(PISA)結果が7日、世界同時発表された。
 日本は参加41カ国・地域中、今回の中心分野である数学的活用力は6位(3年前の前回は1位)、読解力は14位(8位)、科学的活用力は2位(2位)。今回初実施の問題解決能力は4位だった。
 数学、科学、問題解決能力は、フィンランド、韓国などの上位国と有意差はなく、1位グループ。前回2位グループの読解力は低下し、OECD加盟国平均と同水準という。文部科学省は「我が国の学力は国際的に見て上位にあるが世界トップレベルとはいえない状況」との認識を示した。

 私が当初見落としていたのだが、この調査は、一種のアチーブメント・テストであり、その達成の対象は義務教育修了の状況なのだ。つまり、読解力の点において、先進国の義務教育としては日本はダメダメということが歴然になったということだ。
 毎日新聞社説などではこれをネタに教育問題とやらをいろいろ言うのだが、端的に言えば、くだらない。読売新聞社説"学力国際比較 なぜ『読解力』は低下したのか"(参照)にいたっては、あほか、である。

 この調査で学力が最上位だった国の教育のあり方にも目を向けたい。フィンランドでは、教師になるには大学院卒の「修士」資格が必要で社会的地位も高い。国を挙げて読書文化も推進している。

 義務教育で必要なのは院卒の免状じゃなくて、まともな大人の常識だよとツッコミを入れておく。
 いずれにせよ、こんな社説みたいのを読んで、くだらねーな、と思っていたのだが、昨晩の「あすを読む」でのこの問題の解説を、今朝になって紅茶を飲みながら聞いていて、はっとした。かいけつゾロリのブックラこいーたじゃないが、驚いたのだ。
 まず何に私が驚いたかというと、読解力のテスト方法だ。いや、方法はそれほどどってことはない。具体的にそのテストの内容だ。そういうことだったのか、と思った。
 今回の調査に使われたテストについては次回2006年も流用するのとのことで公開されていないが、前回のが公開されている。それは、二つの意見を読んで、自分の意見を書きなさいというものだ。ま、こりゃ、日本人学生が苦手とするところだな、とは思った。実際にそのマテリアルと採点基準を見た。これは毎日新聞"OECD学習到達度調査 読解力出題例 <前回00年の出題> "(参照)の出題(1)から(4)にPDF形式で公開されているのだが、この二つの意見というのはこうなのだ。あえて全文、引用する。読んで味噌。

落書きに関する問題


ヘルガの手紙
 学校の壁の落書きに頭に来ています。壁から落書きを消して塗り直すのは1今度が4度目だからです。創造力という点では見上げたものだけれど、社会に余分な損失を負担させないで、自分せ表現する方法を探すぺきです 。
 禁じられている場所に落書きするという、若い人たちの評価を落とすようなことを、なぜするのでしょう。プロの芸術家は、通りに絵をつるしたりなんかしないで、正式な場所に展示して、金銭的援助を求め、名声を獲得するのではないでしょうか。
 わたしの考えでは、建物やフェンス、公周のペンチは、それ自体がすでに芸術作品です。落書きでそうした建築物を台なしにするというのは、ほんとに悲しいことです。それだけではなくて、落書きという手段は、オゾン層を破壊します。そうした「芸術作品」は、そのたびに消されてしまうのに、この犯罪的な芸術家たちはなぜ落書きをして困らせるのか、本当に私は理解できません。
                    ヘルガ


ソフィアの手紙
 十人十色。人の好みなんてさまぎまです。世の中はコ ユニケーションと広告であふれています。企業のロゴ、お店の看板、道りに面し年大きくて目ぎわりなポスター。こうい うのは許されるでしょうか。そう、大抵は許されます。では、落書きは許されますか。許せるという人もいれば、許せないという人もいます。
 落書きのための代金はだれが払うのでしょう。だれが最後に広告の代金を払うのでしょう。その通り、消費者です。
 看板を立てた人は、あなたに許可を求めましたか。求めていません。それでは、落書きをする人は許可を求めなければいけませんか。これは単に、コミュニケーションの問題ではないでしょうか。あなた自身の名前も、非行少年グループの名前も、通りで見かける大きな製作物も、一種のコミュ ニケーションではないかしら。
 数年前に店で見かけた、しま模様やチェックの柄の洋服はどうでしょう。それにスキーウェアも。そうした洋服の模様や色は、花模様が措かれたコンクリートの壁をそっくりそのまま真似たものです。そうした模様や色は受け入れられ、高く評価されているのに、それと同じスタイルの落書きが不愉快とみなされているなんて、笑ってしまいます。
 芸術多難の時代です。
                    ソフィア

 いかがだろうか?
 私は、ちょっと文化的な目眩感を感じた。
 私は、どっちかというとかなり欧米的な高等教育を受けたし周りに非日本人の学友もそれなりにいた。で、あいつらは、そう、こんなふうに言うのだ。そう、こういうふうに自分の意見をがなりたてるのだ。
 私は当時を思い出す。私はこうしたとき、まず、日本人の心としては、「そんな議論は、くだらないな。第一そんな議論なんて虚しいし、無意味。壁の落書きなんて駄目に決まっているじゃないか。でも、今晩、君と一緒にやろうというなら覚悟して付き合ってもいいよ。」と思う。だが、そう言うことはできない。英語で言うという能力以前に、それは意見でもなんでもないからだ。
 難しくいうなら、私のリアクションは、ただの政治判断なのだ。日本人の心というのは、子供ですら、即座に空気を読みそして政治判断を下して身の置き所を考えるのである。イザヤ・ベンダサンが言うところの「ああ、政治天才よ! そしてわれら政治低能よ!」である。
 当時の私はそんな状況で心を切り替えることにした。彼らとタメを張るにはどのような論点が有効かと考え直す。この時点ではまだ日本人をやめてない。まず、両者の意見の利得をさっと計算する。ある状況ならソフィアの意見のほうが受けがいい。ああ、そうだよぉ♪、ニューヨークタイムズだのワシントンポストだのコラムなんて大人ですらこのレベルじゃんか。で、利得に合わせて論理と補強を考える。つまり、例証のサンプルを記憶でさっとかき集める。組み立てて、話す。その直前で日本人を止める。そこから先はチェスと同じだ。議論というゲーム。
 みなさん、それが、できますか? 日本人の子供にそうさせて読解力とやらを高めさせたいですか? これって、「ああ言えば、上祐」じゃないですか…。この問題、日本人の学生に白紙が目立ったというのだが、私は率直に言えば、これに白紙を出した日本人の学生に共感する。くだらねー、やってらんねー。ヘルガとソフィアの写真マダー、である。
 しかし、これができることが世界という場に求められているのは間違いないし、日本の義務教育を終えた子供たちは、たぶん、イザヤ・ベンダサンのいう政治天才性を保持しながら、読解力低能の状況となっているのだろう。
 どうしたらいい? 結論はついている。こうした読解力を高める以外に日本人が今後の世界を生きていく道なんかないよ、である。すぐわかる。政治天才だものな、日本人は。
 つまり、そういうことなのだ。つまり、この問題は、読解力の問題じゃないよ。オヤジたち息巻いて、夏目漱石だの森鷗外だの読めとかとち狂ったことを言わないでくれよな。もちろん、漱石も鷗外も人生後半で女と暮らすのはいかにしんどいものか、といういい教訓を教えてくれるという意味で実に文学的だが、先の読解力とは関係ねー。
 余談だが、「あすを読む」では、日本の大学生の学力低下についても嘆いていた。ふんなものどうでもいいとか思ったのだが、提示された国立大と私大の学力差に唖然とした。私大の五人に一人は中学生以下の読解力だというのだ。ああ、俺も私大だよな、ばーかで悪かったなとか言う問題とは違う。どういう問題なのか、これは、また別の問題なので、別の機会にでも。

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2004.12.07

1944年12月7日マグニチュード7.9の地震が発生した

 12月7日は何の日?みたいなのはブログのネタが切れたときの定番のようだが、1944年の今日12月7日マグニチュード7.9の地震が日本列島の太平洋岸側で発生した。現在では東南海地震と呼ばれている。死者は全国で1千223人に及んだ。
 「今日は何の日」というとき、Wikipediaがネタに使えることがある。日付がそのままキーワードになっているからだ。12月7日はこんな感じだ(参照)。


できごと
1787年 - デラウェア州がアメリカ合衆国憲法を批准した第1の州になる。
1941年 - 真珠湾攻撃(米国時間)
1954年 - 吉田内閣総辞職
1997年 - 介護保険法公布。
1999年 - 年金改正法成立。
2001年 - 文化芸術振興基本法施行。

 真珠湾攻撃(大詔奉戴日)が米国時間で掲載されているのはあまりよいジョークとはいえない。チョムスキーや古舘伊知郎の誕生日というのが記載されているのは面白いのか苦笑すべきことなのかよくわからない。いずれにせよ、Wikipediaのこの日の項目には東南海地震については記載されていない。
 「東南海地震」についてはWikipediaでは別途項目を立てている(参照)。

太平洋戦争の末期でもあり、大々的な報道が控えられたこと、記録自体が消滅・散逸していることなどから、被害の全体像がなかなかつかめない地震である。

 Wikipediaのこの項目は書き込み途中らしく十分な情報はない。
 地震災害東南海地震のページ(参照)に掲載されている「昭和19年12月2日東南海地震の震害と震度分布」(愛知県防災会議編)や手元の情報をまとめると、東南海地震はこの日、1944年12月7日午後1時36分に発生した。マグニチュード7.9。震源は尾鷲市沖南東海底(南海トラフ)。海溝型地震だった。津波による被害を含めて、全国で死者1千223人。負傷者2千864人。家屋全壊3万4946戸、家屋半壊6万993戸。海溝型地震なので被害が広範囲に及んでいるのが特徴的だ。
 多少なり地震に関心のある人なら、この戦争末期の東南海地震について知ってはいる。なにより、この震災の経験者はまだ存命なので当時の被害を今に伝えている。私もいくつか読んだが、その中に、当時東洋一と言われた石原産業四日市工場の煙突がこの地震によって崩壊した話もあった。
 地震発生当時は、Wikipediaにもあるように、日本は戦争中の報道管制のため、被害状況はほとんど報道されなかった。もちろん隠蔽するには被害は大きすぎたのでとりあえずベタ記事扱いにはなった。また、この地震は海溝型地震だったこともあり海外でも察知されていた。米国ではこの震災による被害をかなり正確に推定してようだ。
 東南海地震の被害のなかでも特に際立つのが、零戦などで航空機製造に男女学生が多数勤労動員にされていた名古屋地域の状況だ。彼らに多くの死者が出た。米軍はこの弱り目を狙ってさらに空襲を強化したようでもある。
 さらに名古屋地域では、翌年1月13日午前3時38分、三河湾中央部を震源とする直下型の三河地震が発生した。手元の資料ではマグニチュード6.8とある。深夜ということもあり死者2千306人と東南海地震の倍にもなった。
 Wikipediaの「三河地震」(参照)の項目では次のように伝えている。

震源が浅くマグニチュード7.2と非常に規模が大きかったにも関わらず、被害報告はごく僅かでしか残されていない。地震が発生した当時は戦時中で戦意を低下させないように報道管制がしかれ、国は一切三河地震のことを報道するなと圧力をかけたからである。

 戦時はこうした地震被害を隠蔽してしまうものなのだろうか。昨年12月26日イランのバムで発生した地震では死者約4万1千人、負傷者約2万650人。両親を亡くした子どもは約1800人、片親を亡くした子どもも約5000人とのこと。しかしイランと言えば、核開発疑惑だのというニュースのほうが先行して伝わってくる。
 それでもよく耳を傾ければ、各種の情報が伝わる時代になった。イラン地震救援プロジェクト(参照)などで支援者からの声を聴くこともできる。

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2004.12.06

平和のために折り紙爆弾投下

 これこそ正真正銘ベタ記事だと思った。昨日、タイ政府が国軍とイスラム系住民の衝突で治安悪化が進行している南部三県に一億羽近い折り紙の鶴を空から投下し、和解と平和を訴えた、という記事だ。プミポン・アドンヤデート(Bhumibol Adulyadej)国王(77)の誕生日に合わせのことだというのだが、そんなものに効果があるなら、世界から核兵器がなくなっているよと苦笑した。
 国内での記事には読売系"「タイに平和を」1億羽の折り鶴舞う…数拾えば特典も"(参照)などがある。BBCではもうちょっと大きく扱っていた。"Thais drop origami 'peace bombs'(タイ政府は折り紙による平和爆弾を投下した)"(参照)である。「平和爆弾」という言い回しが面白いのでこのエントリでも拝借した。
 もちろん平和の祈りであろうがゴミはゴミなんで無意味に撒き散らすのも芸はない。なので、この折り鶴はくじ引きのようになっていたり、何万羽か集めた人には特典もあるという話のようだ。折り鶴とかいうとどうしても日本人には引くものがあるが、気になってこの関連のニュースを各種読んでみるに意外にも日本への言及はなかった。英語も"origami"でどうやら通じているらしいこともわかった。
 もちろん、このニュースはただの洒落でしかない。ちょっと気の利いた洒落かもしれないとしても背景には気の利かない現実がある。この地域の治安悪化だ。
 先日ラオスで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議でも、当初は、ASEAN域の治安悪化がどのように問題になるのか、多少は、注目されていた。特に、10月末タイで国軍の治安部隊と衝突した際、イスラム系住民78人が国軍の搬送トラックの中で熱射病と窒息により死亡するという非人道的な事件が起きたばかりだった。今年に入ってからこの三県では国軍とイスラム系住人との衝突ですでに550人以上が死亡している。
 三県の所在については先のBBCのニュースに地図があるので参照するといいと思うが、マレーシアに隣接している。当然、イスラム系国家である、マレーシアのアブドラ首相とインドネシアのユドヨノ大統領はこの事態に懸念を抱き、ASEAN首脳会議前夜にタイのタクシン首相との間で三者会談が開かれたが、結論は出なかった。いや、この問題は扱わないという結論を出した。タクシン首相が押し切ったと見ていいだろう。タイってそんなに強くなってんのか今ひとつこのあたりの問題は私にはわからない。
 この問題の行方だが、私には十分な知識がないのでわからない。不謹慎な言い方になるのだろうと思うが、率直なところ、なぜマレーシアと融合しないのかすら疑問に思う。マレー人ではないからというのが答えなのだろうか。この地域は宗主国とのつながりもないので背景で分離独立の糸が引かれることもないだろう。余談だが独立運動など国際的には常にうさんくさいものである。
 タイにおけるイスラム系住民の状況について簡単にメモしておきたい。タイでは人口比ではイスラム系住民は4%弱、250万人ほど(と言われているし、資料もあるが実態はかなり違っていそうだ)。ソンクラー、ヤラー、ナラティワート、パッターニの南部四県に集中している。この地域の街にはマレー語の看板も目立ち、マレーシアとの二重国籍者も多いと言われている。昨年バンコクで米英豪大使館爆破を計画したとして、東南アジアのイスラム系テロ組織「ジェマア・イスラミア(JI)」の構成員が逮捕されたが、この組織が南部四県に拠点を置いているらしい。少なくとも、タイ政府はそう見ている。
 歴史的には、パッターニ県付近を中心に14世紀以降イスラム系のパタニ王国が存在していた(参照)。18世紀後半タイが近代化国家化への始動する際、支配下に入り、20世紀初頭に併合され、王国としては滅んだ。は日本と琉球王国との関係に多少似ているのかもしれない。

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2004.12.05

中国は弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)を完成していた

 率直に言うとあまり気乗りしない話題だし、読みのスジを大きく外しているようにも思う。だが重要な問題かもしれないという印象も強い。簡単に事実関係から書いてみる。
 話は標題通り「中国は弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)を完成していた」ということだが、これは米国防総省のリークであり、しかもリーク先がワシントンタイムズなので、端的な事実とは言い難い。こういう話が米国防総省から統一教会系資本のメディアであるワシントンタイムズに流れたということがプライマリーな事実になる。
 話は、中国海軍はこの七月末までに弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)を完成していたということで、これには弾道ミサイルが搭載可能だ。実現すれば、中国は米国本土に核弾頭を落とすことができるようになり、以前のソ連に近いパワーになる。とはいえ、こうした核の軍事力は、国連の元になる連合軍だったフランスやイギリスもすでに持っているものなので、その意味では中国が持っても特段におかしいというものでもない。中国もそのつもりでいるのだろう。だが米国がそれを許すだろうか。
 ニュースのソースとしてはまずガーディアンなどに掲載されたAP系"China Launches New Class of Nuclear Sub"(参照)を先に読むといいだろう。


WASHINGTON (AP) - China has launched the first submarine in a new class of nuclear subs designed to fire intercontinental ballistic missiles, U.S. defense officials said Friday.

 元になったワシントンタイムズの記事"China tests ballistic missile submarine"(参照)はさすがに詳しい。

The new 094-class submarine was launched in late July and when fully operational in the next year or two will be the first submarine to carry the underwater-launched version of China's new DF-31 missile, according to defense officials.

 現状ではこの情報はガセの可能性もある。
 私はこれはガセではないと思う。いくつかの話がこれに集約されてくるように思えるからだ。
 話は少し迂回するが、先日の極東ブログ「中国原子力潜水艦による日本領海侵犯事件について」(参照)で私はこう書いた。

台湾をからめた軍事的な脅威となるのは、SLBM搭載原潜だ。SLBM(Submarine-Launched Ballistic Missile:潜水艦発射弾道ミサイル)は、ICBM(InterContinental Ballistic Missile:大陸間弾道ミサイル)とならんで、毛沢東政権以来中国が悲願とするもので、これがあれば、米国を直接核攻撃に晒すことさえ可能になる。以前のソ連のような軍事大国となることができるわけだ。とはいえ、旧ソ連のような軍事大国に成りたいとしてもそれがまだ無理なことくらいは中国もわかっているはずだ。いずれにせよ、同じ原子力潜水艦といっても、漢級・原潜はそれほど脅威ではない。
 今回の事件が意図的なら、中国は台湾海峡を含めて不用意な緊張を日本をからめて高めたかったことになるが、中国がそんな利益にならないことをするとは思えない。先の軍事演習も早々に引き揚げている。

 この脅威がいよいよ実現になってきた。中国は旧ソ連のような軍事大国と成る野望を持っているとみてよさそうだ。
 今回の原潜開発の話には純粋に軍事的な考察を必要とする部分があり、その部分については私は十分な知識を持っていない。だが、国際政治に反映される部分については、いくつか思うことがある。なにより、先日の中国原子力潜水艦による日本領海侵犯事件との関連があるように思える。
 先日の中国原子力潜水艦による日本領海侵犯は、沖縄で長く暮らしていた私にしてみると、現地である程度噂に聞く話でもあり、そう珍しくもない。なので、なぜ防衛庁は今回に限ってフカシているのか、と思った。ミサイル防衛(MD)を名目に防衛庁の予算が削減されるのがむかついているのだろうとも推測がつくし、それ自体は国防を担う者として当然のアクションかもしれない。極東ブログ「ミサイル防衛という白痴同盟」(参照)で触れたように、このシステムは非科学的だという理由で実用にはならない。おまけにMDにご執心のラムズフェルドはまだブッシュ政権に居座ることが決定的になった。
 このあたりから読みが陰謀論のスジに迷い込んでいるのかもしれないのだが、防衛庁のフカシは、そうした内部からの動きというわけでもなかったようだ。これもネタ元はワシントンタイムズなのでへろへろになりそうだが、中国原子力潜水艦による日本領海侵犯は完全に米軍の監視下にあった。琉球新報"中国原潜の航路、米政府が地図に"(参照)ではこうまとめている。

中国海軍所属の原子力原潜が11月初旬、石垣島と多良間島の間の日本領海を侵犯した事件について、米保守系紙「ワシントン・タイムズ」は3日、同原潜が10月下旬に浙江省寧波(ニンポー)を出港してから米側が航行を把握しており、米情報当局が地図上に航路をおとした文書をまとめたと報じた。

 中国のとんまな原潜の動向は米軍からお見通しだったのだが、それを日本の防衛庁にチクったのはそれなりの意味があったのだろう。
 というあたりで、その意味というのが、今回の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)だったのではないだろうか?
 チクったのは反ラムズフェルド派なのか? どうも陰謀論に踏み込んだ印象もあるのだが、米軍側はこれらの情報を全て持っていて、一部が特定の観点から情報を操作しているのだろう。
 脇道にそれるのかもしれないが、ミサイル防衛をめぐる防衛庁と財務省の確執と今回の新原潜の関連で、ちょっと気になることがある。財務省のサイトにある"中国の軍事力と日本の ODA"(参照・PDF、なお、ダウンロードできないかもしれない)だが、これがかなり弾道ミサイル原子力潜水艦を過小評価しているように見受けられる。

同様に、東風31号の派生型である潜水艦発射ミサイル巨浪2号(JL-2)も問題をかかえている。すなわち、これを16基搭載する新型ミサイル原潜(タイプ094)の開発である。すでに述べたように、中国は夏級ミサイル原潜の開発に事実上失敗している。タイプ094は、ロシアの技術を導入し、夏級と比べて格段に進歩したミサイル原潜となるはずであるといわれるが、現時点においても、その建造にかかわる信頼すべき情報はない。かりに今年から建造を開始したとしても、建造・儀装に3~4年を要し、訓練航海さらには巨浪2型ミサイルの水中発射実験を行わなければならず、配備できるのは早くても2008年以降のこととなろう。まして戦力として運用するとなれば、最低でも2隻、できれば4~8隻を保有する必要がある。それが可能になるとしても、実現するのは2010年でも早すぎる。

 今回のリーク報道をベースにすれば、この見積もりがくるう。この見解について財務省と防衛庁になんらかの駆け引きがあるのだろうか。
 話を戻し、今回の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)だが、弾道ミサイルとしては射程距離8000kmのJL-2(巨浪-2)が搭載されることになりそうだ。米本土を狙うなら当たり前のようだが、現実問題としてそんな軍事力で中国が米国と対峙するとも思えない。
 話を端折って乱暴に書くことになるのだが、こうした軍事力は米国本土を攻撃するという用途ではなく、台湾を米国が保護するのを断念させるための示威なのではないか。
 非核兵器による台湾海峡を挟んでの戦闘はまだ十分に台湾に余力があり、中国の追い上げもなんとか台湾はかわせるだろう。とすれば、そこに中国の勝ち目はない。だったら米国という脚立を外してやれというのが中国の思惑なのではないか。そう思える。
 ストーリーとしては、米国対中国という対立の枠組みが唯一の可能性ではない。台湾を両国で潰してそれからデタントに持ち込んでもいい。米仏のような関係が米中に築けないわけもない。その場合、日本は蚊帳の外でいいし、米軍の手足となっていればいいだろう…それも平和ってやつか。
 私の本心ではそんなストーリーでいいわけがないと思う。ただ、この話はあまりに不確定な要素が多いのであまりマジに頭を突っ込みたいとは思わない。が、しばしこの関連は注視しておく必要はあるだろう。

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