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2004.11.13

紅茶の話

 紅茶が好きで一日に二回は飲む。イギリス人みたいなものだなと自分でも思う。朝食に飲むし、それとアフタヌーンティー。でも、スコーンのようなタフなお菓子を一緒にとるわけでもない。完全にイギリス人の真似というわけでもない。
 紅茶はアメリカのショップから買うことが多い。よく使うのがSpecialTeas(参照)とUptonTea(参照)。別に海外通販が好きなわけではなく、欲しい手頃なお茶が以前は国内で購入できなかったせいだ。ちょっと調べると、現在では楽天などでもいろいろ購入できるようになっているみたいだが(「セレクトショップ」)・「レクティー」など)、なんとなく今でも先のアメリカのショップから買うことが多い。
 朝はこのところ、SpecialTeasのHajua TGFBOP Assam(参照)が定番。ずばぬけて美味しいアッサムではないが、ミルクと合うし、毎朝飲んで飽きない。グレードはTGFBOP、つまりブロークンリーフだが、朝のお茶にはこのほうがいい。クラッシュしたCTCでもいいのだが、ちょっと品が落ちる気がする。以前は、UptonTeaのC.T.C. Irish Breakfast Blend(参照)も飲んでいた。これだと待ち時間は1分程度。他に、UptonTeaのBond Street English Breakfast Blend(参照)もよく飲んでいた。これはセイロン茶がブレンドされている。名前からわかるようにとってもイギリス的だ。そういえば、Bond Streetというパイプタバコも一時期吸っていたが、タバコはやめた。
 昼は基本的にダージリンを飲む。ダージリンの嗜好はだいぶ変わってきた。最近は、SpecialTeasの"Gopaldhara WT-8 "Wonder Tea" Darjeeling"(参照)に入れ込んでいた。名前が"Wonder Tea"、つまり「驚異の紅茶」というのも大げさだと思ったのだが、それがそうでもない。最初これを飲んだときはびっくりした。自分の嗜好はファーストフラッシュからダージリン・ウーロンのように、淡く香水のような香りを求めるようになってきたのが、これはまさにずばりという感じだった。高級中国茶に近い感じもする。というのも飲み終えたカップの香りすら楽しめる。ただ、いれかたがちょっと難しいかもしれない。"WT-8"というのはロット名らしい。このロットはもう手に入らないかもしれないが、それでも飽きるほど飲んだ。さすがにちと飽きてきたので、最近は同じくSpecialTeasのMakaibari FTGFOP Silver Tips, 1st. Flush (Organic) Darjeeling(参照)も飲む。ちょっとサイトを覗いたらもう売り切れになっていた。誰か買い占めたかなとも思う。わかる気がする。こちらは、シルバーティップス系なので淡く、先のWonder Teaほどの華やぐ感じはないのだが、なんというか、ほんとシルバーティップスが活きていて、喉の奥のほうで果実のような香水のような感じがある。気のせいか、中国茶のような茶酔い感もある。シルバーティップスや中国茶の銀針もよく飲んだが、たいていはこけおどしだし、こういうとなんだがセイロン茶のシルバーティップスやゴールデンティップスはいまいちだった(主観だけどね)。
 自分のダージリンの嗜好はちょっとひねくれているので、普通だったら、やはり、キャッスルトンやジュンパナ、サングマ、マカイバリ、プッタボン、グムティとかそのあたりのがいいと思う。SpecialTeasのほうではこうしたスタンダードの揃えはまばらだがUptonTeaのほうはそれなりにきちんとしている。
 いかにもダージリンというのがUptonTeaのCastleton Estate Second Flush FTGFOP1(参照)とかSpecialTeasのJungpana FTGFOP-1 Darjeeling(参照)あたり。日本人が好きなマスカット・フレーバーなら"Margaret's Hope Estate FTGFOP1 MUSC 2nd Flush"(参照)がずばりという感じ。ただ、こうした紅茶は飲んでいくとわかるけど、古いタイプの紅茶だと思う。
 たぶん最近の傾向は一種の香水のようなタイプだろう。UptonTeasのNamring Upper Estate First Flush FTGFOP1(参照)やPuttabong Estate First Flush SFTGFOP1 Supreme(参照)などを飲むと、ああ、こういう感じというのがわかってもらえると思うが、ご覧の通りお値段通りだ。さすがに世界中にダージリンのマニアがいるせいか掘り出し物みたいのはない。それでもワインを買うと思えば高級紅茶なんか安いもの、と割り切るほうがいいと思うが、この手の嗜好はちょっとはまる。
 秋が深まってからちょっとキーマンが飲みたくなって、先日二つ注文した。一つは"China Keemun Mao Feng"(参照)。これは初めてだったのだが、そう悪くない。キーマン臭さが抑えられていて淡いがその分複雑な印象もある。もう一つは"Organic China Keemun Dao Ming"(参照)。これはキーマンというよりユンナン(雲南)らしいトーンがあった。このタイプは嫌いではないが、慣れないとわかりづらいかもしれないので、あまりお薦めはできない。
 キーマンでお薦めなのは定番だがUptonTeaにもSpecialTeasにもある"Hao-Ya 'A' Superfine Keemun"(参照)だ。実にスタンダードな味と香りがする。それだけつまらないといえばつまらない。正確にはキーマンではないのだが"China Congou Ning Hong Jing Hao"(参照)もよく飲んだ。これはかなりいい。でも、ちょっと飽きた。基本的にキーマンはミルクを入れてもいいのだが、上質なものほどデリケートなのでミルクは向かない。
 なんかうんちくみたいになってしまったが、紅茶は私のように酒をやめた人間のわずかな道楽である。あ、中国茶もあるのだけど、また。

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2004.11.12

非配偶者間人工授精(AID)にまつわる英国の状況

 英国不妊治療専門誌「ヒューマンリプロダクション」の記事"Adolescents with open-identity sperm donors: reports from 12-17 year olds"(参照)が英国系のニュースで多少話題になっていた。標題を意訳すると「12~17歳の青少年期に精子提供者情報を開示すること」となるだろうか。第三者の精子提供によって生まれた子供が青少年期になった時、自分自身を形成するきっかけとなった遺伝子的な親についての情報をどう扱うべきかという問題だ。日本国内では非配偶者間人工授精(AID)の問題として扱われている。
 このニュースについて、BBCでは"Sperm donor ID fears 'unfounded'"(参照)として、精子提供者のいわれない恐れの感覚には根拠がないという点に焦点を当てていた。ロイター系の見出しはいろいろあるがヤフーでは"Identifying Sperm Donors Doesn't Cause Problems"(参照)というようにもっと直接的に、精子提供者情報を開示しても問題はないだろうとしている。
 原論文は医学誌でもあり教育心理学的な立場に立っているようだ。結論はある意味でシンプルになった。


CONCLUSIONS: The majority of the youths felt comfortable with their origins and planned to obtain their donor's identity, although not necessarily at age 18.
【意訳】
第三者の精子提供によって生まれた大半の子供は、青年期になって自分たちの起源やその提供者の情報を知っても不安を持たない。とはいえ、18歳までそうする必要もないとは言える。

 今回のニュースは特に目新しいものではなく、類似の調査はすでに近年「ヒューマンリプロダクション」に掲載されてもいる。むしろ、英国ではこの情報開示が権利の問題として扱われているといった英国ならでは背景もあるようだ。
 私の知識が古い可能性はあるが、英米圏、つまり、英国、米国、カナダ、オーストラリア(州によって違う)では、法律の特性もあるのかもしれないが、生物的な意味での父親を知る権利を法制化していない。当然、記録もないという。が、ニュージーランドは開示に改正された。フランスや南米などカトリック教徒の多い地域を含めた各国の状況について、私はわからないのだが、基本的には開示の方向には向かっているようだ。
 日本では昨年の春に、厚生労働省の生殖補助医療部会で「遺伝上の親(出自)を知る権利」を全面的に認めている。背景には、1994年に日本が批准した国連「子どもの権利条約」に、子供には「出自を知る権利」があると解釈できる条項があることだ。が、率直に言って、人権の問題や日本社会の問題を考えてというより、密室で専門家が決めているという印象はある。実際のところDNA鑑定が進めば遺伝子上の親かどうかはかなり明白になるので、そうなった際に完全開示を原則にしておけば、厚生労働省や関係医は関わらなくていいことになる。なにより、この問題が法制化とは関係ないところで進められているのが日本らしい。
 そもそも日本では非配偶者間人工授精(AID)の始まりも法律や人権の問題としては提起されてこなかった。1949年と終戦からそう遠くない時代に第一例の子供が誕生している。この子は現在55歳になるはずだ。その後、非配偶者間人工授精(AID)で誕生する子供の数なのだが、奇妙なことにとも言えるのだが、概算すらできない状況にある。1~3万人とも言われているのがブレが大きすぎる。この問題には日本特有の問題も絡んでいるようだが、ここではあまり立ち入らない。
 今回の関連ニュースで気になることが二点あった。一つは、ロイター系"Sperm donation children want to learn about donor"(参照)の解説にこうあったことだ。

Thirty-eight percent of them had single mothers, just over 40 percent had lesbian parents and 21 percent had heterosexual parents.
【試訳】
非配偶者間人工授精の実態の38%はシングルマザー。40%は女性同性愛者、21%は異性の親である。

 欧米では非配偶者間人工授精の問題は女性同性愛者のライフスタイルにかなり大きく関係しているようだ。
 もう一点は、同時期のニュースというだけで直接の関係はないのだが、BBC"Egg and sperm donor cash proposal"(参照)で取り上げられているが、英国では、精子および卵子提供を有償にしたらほうがよいという問題が起きている。背景には提供者の低下があるらしい。あえて先のニュースに関係付けるなら、精子及び卵子提供への対価というより、提供者情報の開示のリスク対価のようにも受け取れる。
 余談めくが以前、ES細胞研究関連で韓国の状況を見たとき、意外に人工授精が盛んだと知った。日本の場合も、視点によるのだろうが、盛んだと言えるようにも思う。どちらの国もこうした問題を法から切り離し、社会から隔絶するという文化の傾向を持っているようだが、こうした問題をどう考えていったらいいのか。また、少子化の日本社会でどういう位置づけになっていくのか、気にはなる。

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2004.11.11

中国原子力潜水艦による日本領海侵犯事件について

 たいした話にはならないが、中国の原子力潜水艦が先島諸島周辺の日本領海に潜航したまま侵犯した事件についてなんとなく思ったことを書いておきたい。率直に言って、私はこの事件はそれほど重要な事件だとは思っていなかった。今でも思っていない。ニュースとしてピックアップされたのは10日だろうか。ニュースの例としては朝日新聞系「領海内に国籍不明の潜水艦、P3Cが追尾 先島諸島周辺」(参照)などがある。


 政府は10日早朝、沖縄県の先島諸島の石垣島や宮古島周辺の日本領海内に、国籍不明の潜水艦が潜航しているのを確認し、大野防衛庁長官が同日午前8時45分、小泉首相の承認を得て、海上自衛隊に海上警備行動を発令した。潜水艦は発令前に領海外に出たが、その後も領海周辺で潜航を続けた。政府は、潜航能力やスクリュー音などから、中国海軍所属の「漢(ハン)級」原子力潜水艦とみている。

 こうしたニュースが出たとき、ちょっと気になって事前のニュースをサーチすると8日に読売新聞系「中国海軍の救難艦など太平洋上で確認…海上自衛隊」(参照)がある。

種子島(鹿児島県)の南東の太平洋上を中国海軍の潜水艦救難艦「861」(11975トン)と曳船(えいせん)「トゥーヂョン830」(3600トン)が航行しているのが、今月5日から、海上自衛隊の護衛艦「あけぼの」などにより確認されている。

 そしてこの航行の目的は不明とされていた。当然だが、この時点で自衛隊とおそらく米軍はその近海に遭難の可能性のある原潜の存在を想定するだろう。この8日の潜水艦救難艦のニュースと10日の原潜のニュースに関連がないと見るのは不自然すぎる。
 遭難が連想されるのは、昨年5月に原潜潜水艦の遭難事件があったばかりだからだ。読売新聞(2003.5.3)「中国海軍、潜水艦事故70人死亡 黄海で訓練中 異例の公表」より。

 新華社通信によると海軍当局はすでにこの潜水艦を国内の港までえい航した。事故が起きた場所は山東半島の煙台沖の中国領海内とされている。同通信は「沈没」としておらず、北京の軍事筋は〈1〉潜航中に浮上できなくなった〈2〉艦内に火災などでガスが充満した――可能性を指摘している。
 中国は六十九隻の潜水艦を持っており、このうち原子力潜水艦は六隻。事故に遭った潜水艦361号は、「明」級でディーゼル発電機を用いる通常型。中国で、軍関係の事故が公表されるのは異例だが、情報は極めて限定的。中国政府は新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)問題でも「情報操作」との国際的批判を浴びたばかり。重大な軍事事故を時間が経過した後にほんのわずかだけ公表した手法は、日本など周辺諸国に新たな懸念を生みそうだ。

 今回の中国原子力潜水艦が日本領海を侵犯した事件の背景には、この原潜にも類似の何らかの異変があったのではないかと推測できるる。
 だがその後、この原潜は救助されたわけもなく、また国内報道は日本領海を侵犯に関心が当てられていくようになる。最初に何があったのかは問題が残る。
 その後日本のメディアではヒステリックとも思える反応を示していた。背景には中国脅威論なりがあるのだろう。だが、私はこのとき、この問題は大騒ぎせず事実上の秘密にしてしまえばいいのではないかと思っていた。というのも、この事件の背景には中国海軍のドジというか失態があるので恩着せの外交カードにしたほうが得策だろうと。
 おそらく内閣サイドもそう考えていたのではないだろうか。先の朝日新聞系のニュースでは次のように政府の曖昧さを伝えている。

 海上警備行動の発令については、細田官房長官が同日午前11時過ぎからの記者会見で発表した。しかし、政府は「すべて発表すべきかどうかは安全保障上の問題がある」(細田長官)として、潜水艦の行動の詳細などについて明らかにしていない。

 しかし結局、日本で大騒ぎになった。政府内に、こいつを騒ぎ立ててやれという派があったのではないだろうか。
 現状この事件は、朝日新聞系「潜水艦、中国方向へ 『大胆、意図的、計画的な行動』 」(参照)のように、中国側の意図的かつ計画的な行動というストーリーが覆い始めている。

 潜水艦が追尾を受けながらも日本周辺をなかなか離れないことなどから、政府内には「行動はかなり大胆で、意図的、計画的に入ってきたものだ。こうした行動に日本がどの程度反応するかや、こちらの技量を探る意図があるのだろう」(防衛庁幹部)との見方が出ている。

 これは、防衛庁幹部はそう見たいという要求の表現のようにも思える。
 とはいえ、真相はわからないし、のうのうと領海侵犯をする様子は、実質自国防衛力を持たない日本からすると、中国側の意図的な行動に見えてもしかたがない。
 この事件で、もう一つ気になったのは、漢級・原子力潜水艦だ。ポンコツとまでは言えないのかもしれないがたいした原潜ではない。威嚇なのでボロを使ったのかもしれないとも言えるが、中国はマジな威嚇のときはマジなものを使っている。1997年沖縄県の与那国に近い海域で台湾を威嚇するために行われた演習について、当時の共同がこう伝えている。

 中国は数隻保有している原潜のうち一隻は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載している。出動したのがこの型かどうかについて同誌は触れていないが、その他の出動艦艇が「新型通常潜水艦」「新型ミサイル駆逐艦」などと、新型であることを強調しており、SLBM搭載原潜の可能性もある。
 同誌によると原潜が出動したのは、台湾で初めて実施された総統直接選挙直前の昨年三月十二日から同二十日まで広東、福建両省近くの台湾海峡南部で行った海空合同実弾演習。

 台湾をからめた軍事的な脅威となるのは、SLBM搭載原潜だ。SLBM(Submarine-Launched Ballistic Missile:潜水艦発射弾道ミサイル)は、ICBM(InterContinental Ballistic Missile:大陸間弾道ミサイル)とならんで、毛沢東政権以来中国が悲願とするもので、これがあれば、米国を直接核攻撃に晒すことさえ可能になる。以前のソ連のような軍事大国となることができるわけだ。とはいえ、旧ソ連のような軍事大国に成りたいとしてもそれがまだ無理なことくらいは中国もわかっているはずだ。いずれにせよ、同じ原子力潜水艦といっても、漢級・原潜はそれほど脅威ではない。
 今回の事件が意図的なら、中国は台湾海峡を含めて不用意な緊張を日本をからめて高めたかったことになるが、中国がそんな利益にならないことをするとは思えない。先の軍事演習も早々に引き揚げている。
 それでも、意図的に行なったというのなら、この地域に緊張を高めて儲かるやつらが背景にいるはずだし、それは端的に米仏に関係しているはずだ。あるいは意図的でないなら、中国内部に軍部を含めての混乱があるのだろう。
 私としては、後者ではないかと思う。だとすると、日本は今回の件で中国に厳重に抗議をしても、そうした抗議をきちんと受ける体制が中国内部で崩壊している可能性がある。
 一般論として言えば、中国人が本当に関心を持っているのは、中国人同士の闘争なのである。その闘争が日本の国益にとってどのように有利になるかを考えるのが知恵というものだ。

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2004.11.10

スーハ・アラファト(Suha Arafat)

 スーハ・アラファト(Suha Arafat)、41歳(参照)。パレスチナ自治政府議長ヤセル・アラファト(Yasir Arafat)の妻。夫のヤセル・アラファトは75歳だから、歳の差は34歳。ちなみに私は47歳なので同差の女性を娶るとすれば13歳。ヨセフが娶ったマリアが15歳だったともいうから中近東的には無理がないかもしれないが、日本に住んでいるとそれは無理。いや、もう10年くらいは無理というべきか。日本でも加山雄三の父上原謙は73歳のときに37歳年下の大林雅美と結婚している。このとき大林は36歳。ちょっと歳食い過ぎて悪知恵付き過ぎかなと世間が予想していた展開にその後なった。スーハ・アラファトもスケールが違うが似たような展開になりつつある。
 ヤセル・アラファト(以下アラファト)とスーハが結婚したのは1990年。当時、妻スーハは28歳になったばかり。アラファトは62歳。ちなみに私の父は62歳で死んだので私もそのくらい生きたらいいやと思っているのだが、アラファトの元気さにはちょっと考えさせられる。60歳過ぎて20歳代の奥さんをもらうというと普通ありがちなストーリーを想像したくなるが、いえいえ、アラファトはそれまで独身だった。某若手投資家のように純潔な男だった。
 スーハ夫人の結婚前の名前はスーハ・タヴィル(Suha Tawil)。エルサレムで生まれたがユダヤ人ではない。カトリック教徒だ。家庭も裕福だった。ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ナブルスで育ち、後同じくヨルダン川西岸ラマラに移る。カトリック修道院の学校で初等教育を受けたのちフランスのソルボンヌ大学に留学。つまり母語はフランス語であり、なによりその金髪の相貌からは、この人フランス人なんだと思われてもしかたがない。
 父親はオックスフォード大学卒の銀行家とのことだが一応影は薄い。母親ルエモンダ・タヴィル(Reemonda Tawil)はパレスチナ問題で知名度の高いジャーナリストである。っていうかすげーパレチナよりの過激なおっかさんである。今回アラフォトをパリに移した際にもこんなことを言っている。"Arafat Undergoes Treatment In Paris For Mystery Illness "(参照)より。


In Ramallah, Arafat's mother-in-law Reemonda Tawil said the Palestinian leader was in good spirits but people were fearful. "We all hope that he will come back safe to us," she said. "It's very moving, everybody is crying. He is more than a spiritual leader - he is a father, he is everything to us."
【意訳】
ヨルダン川西岸ラマラで、アラフォトの義母ルエモンダ・タヴィルは、「パレスチナのリーダーは良い精神を持っているが、大衆は恐れを感じている。ここに残る私たちはアラファトが安全に帰還できることを望んでいる。私たちはみなアラファトの容態に心を揺さぶられ悲しんでいる。彼は精神的なリーダー以上の存在だ。私たちの父なのである」と言った。

 アラファトの義母に恥じぬほど、このおっかさん、すっかりイっている。
 スーハがアラファトと知り合うきっかけもこの過激な母の紹介による。というか、娘を押し付けた感もある。アラファトがイスラエルによるレバノン侵攻によってチュニジアに亡命中、スーハは母を真似てかジャーナリストを自称しアラフォトに接近。61歳生涯独身のはずのアラファトは即ぞっこんとなっり、娘さんをパレスチナ解放機構(PLO)のスタッフとして雇い入れた。よくある公私混同である。
 結婚は極秘だった。そりゃねである。結婚にあたり、スーハはキリスト教徒(カトリック教徒)からイスラム教徒に改宗した。イスラム教に改宗する際、女性はそれほど痛くないのだが、男性の場合は割礼が待っている。先日テロリストシンパ扱いされたキャット・スチーブンスことイスファ・イスラムも痛かったのではないだろうか。もっとも、スーハの改宗は形式的にすぎず、パリでの生活では教会のミサにも通っている。BBCがイギリス人らしい皮肉を"Profile: Suha Arafat "(参照)で言っている。

One report said her apartment is decorated with images of the Pope and Jesus Christ, as well as one of a young Mr Arafat with a gun.
【試訳】
ある調査によると、スーハの住んでいる高級マンションは、ローマ教皇とイエス・キリスト、そして銃を手にした若きアラファトの肖像画で飾られているという。

 アラファトは若い女と結婚したというだけではなかった。結婚当時62歳とはいえ、さすがに純潔の生涯、貯めに貯めていたのか、濃いというべきか、5年後の1995年、娘が生まれた。このとき、妻32歳、夫66歳。出産はパリの病院だった。というのも、スーハは「ガザみたいに衛生状態が悪いところで子供を産むのはいやぁ」とかましてくれたのだった。なかなかの女王様ぶりというか、現在を想像させる材料になるというか、それでどうしてパレスチナ民衆に向き合っていくのか、どうでもいいかなどなどである。もちろん、スーハは政治的には「イスラエルはパレスチナ人に対して毒ガスを使用している」といった反イスラエルの言動を繰り返している。余談だが、1999年11月ヒラリー・クリントンがスーハと仲良く会談したとき、スーハに反論しないヒラリーに対して、ユダヤ人はヘタレとこき下ろした。
 パリで生まれたアラファトの娘の名前はザフワ(Zahwa)、アラビア語で「喜び」という意味らしい。なるほど「喜び」かである。誕生の際、娘はカトリックの秘蹟を授かっている。
 その後しばらく母子は故郷のガザで暮らしていたが、インティファーダの激化にともない、アラファトと別居し(っていうかアラファトは幽閉されていたのでしかたがない)、2000年以降パリで優雅に暮らしている。
 これがすごい優雅な生活だ。だって、不正な金がたんまりあるんだもの。Gardian"Ramallah shows little sympathy for the woman who would not stand by her man"(参照)によることこうだ。

Last year, the French authorities revealed they were investigating Mrs Arafat over the transfer of about £6m into her bank accounts in 2002 and 2003. The exact nature of the investigation was not revealed officially, but it was reported to involve tax evasion and the receipt of monies stolen from the Palestinian Authority.
【意訳】
昨年フランス当局は、スーハ夫人の口座に2002年から2003年にかけて6百万ポンドが入金されたことを調査していると発表した。正確な額は公式になっていないものの、この入金に脱税とパレスチナ当局からの横領が含まれているとしている。

 Gardianは英国紙なので"£6m"は6億ポンドかな(追記:そんなわけありません)。いずれにせよ、スーハが不正に関わっていそうだ。この不正の要にいるのがムハンマド・ラシッド(Mohammed Rashid)で、彼女はこいつとグルらしい。Telegraph"Arafat doctors 'told to delay' brain death tests"(参照)より、ちと長いし、訳なしだけど。

Abdul Jawwad Saleh, a leading independent member of the Palestinian Legislative Council, wants Mr Rashid to be questioned at the organisation's Ramallah headquarters. His demand reflects concern that very few people will know the whereabouts of more than £2 billion of PLO funds if Mr Arafat dies. Mr Rashid left Ramallah some months ago, and is currently in Paris. Hassan Khreishe, another legislative council member, said Mr Rashid would be held to account. "We will follow him, don't worry," he said.

Mr Saleh is also calling for Mr Arafat's wife, Suha, who is said to be a business partner of Mr Rashid, to be questioned. "Mr Arafat's situation has presented a chance for us to question Mohammed Rashid," he said. "He knows better than anyone else the whereabouts of all the money, all the secret accounts. This is the people's money."


 言うまでもないが、この金蔓はアラファトの汚職が根になっている。読売新聞(1997.05.28 )「パレスチナ政府予算の40%、370億円乱用 閣僚数人が外国からの援助を流用」より。

アラファト議長がイスラエルの銀行に、「秘密口座」を持ち、イスラエルが徴収した関税や消費税などの自治政府への還付金計五億シェケル(約百七十五億円)が、自治政府財務当局とは無関係のこの秘密口座に振り込まれてきたことも明らかになっている。
 ただ、会計検査機関は、アラファト議長の指示で設立されており、議長自身の問題については触れていないと見られている。

 さらに引用もうざいので、この件に興味のある人はBBC"The mystery of Arafat's money"(参照)を読んどくれ。
 イスラエルのパレスチナ政策は責められるべきだ。だが、アラファトの晩年も責められるべきだろう。スーハ夫人が悪玉だと言いたいわけではないが、問題を複雑するだけの役割しかしていない。
 アラファトの私腹には日本人の支援金も流れ込んでいる。結果、アラファトが牛耳る自治政府からパレスチナ人民の心は離れ、困窮した住民に具体的な援助を続けるハマスに期待が高まるのはしかたがない面がある。

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2004.11.09

コートジボワールへフランスが軍事介入

 コートジボワールの動乱が国際ニュースにクローズアップされてきた。発端は、6日コートジボワール政府軍が、反政府勢力の支配している北部地域を空爆したとき、停戦監視の駐留フランス軍兵士に数十名の死傷者が出たことだ。コートジボワール政府としては「誤爆だった」と主張しているようだ。
 攻撃を受けたと認識したフランス軍は、停戦監視の平和維持軍であるものの、コートジボワール政府軍に対して報復攻撃を開始。さらに、元宗主国フランスのシラク大統領はコートジボワール政府が停戦合意を破棄したことを理由にフランス軍を増派し、首都ヤムスクロの政府軍基地に報復の空爆をしかけた。国連もフランス軍の反撃を支持する声明を出した。これでフランスは正義となった。国連なんてそんなものでもある。
 実質上のコートジボワールの首都アビジャン市では、フランス軍の軍事行動に怒った群衆が暴徒化。同市には1万5千人ほどのフランス人がいるので、この安全のためということでフランス軍は鎮圧にかかった。民衆蜂起くらいなら、天安門事件でもわかるが、正規軍で簡単にひねり潰せる。民衆に被害も出ているようだ。読売系「政府軍が仏軍空爆、仏軍も報復…コートジボワール」(参照)によると「コートジボワールの国会議長は7日、仏軍が一連の衝突で国民30人以上を殺害したと主張。仏国防省報道官はこれを否定した」とのこと。そりゃ否定するしかない。さらにフランス軍はその他の都市の鎮圧にもかかった。
 死者が出たので惨事といえば惨事でもあるのだろうが、死者推定30万人に及ぶダルフール危機が進行中なのに比べて、なぜこの程度の小競り合いがすぐに注目されるほどの国際的な問題なのか。コートジボワールの内戦の根は深くこの数年継続的に関心が持たれていた問題でもあるのだろうが、この問題が別の問題の火種になりそうな点が重要なのだろう。
 コートジボワール政府軍によるフランス軍空爆の真相はわかっていない。大枠としては、昨年まで内乱にあったコートジボワールの政府と反政府勢力が和解した際、この10月15日までに反政府側の武装解除を合意したはずだが、反政府側は武装解除を拒否。そこで政府側は制裁ということで11月4日反政府側が掌握する北部を空爆した。この空爆をフランス軍が阻止しようとして惨事となったという話もある。そうだろうか。他に、来年10月の大統領選まで内戦状態に戻して北部を排除しようとバグボ大統領が意図的に行なったとする話もある。特に、フランスの息のかかりやすいアラサン・ワタラ元首相が大統領選挙に出てくることを現政権は恐れている。
 が、なにより今回の事件の発端が反政府側への空爆ではなく、フランス軍への空爆だという点が重要だ。なぜなのか? コートジボワール政府の言うように誤爆なのかもしれない。と、疑問に思うのは、コートジボワール政府側にフランス軍を刺激するメリットがあるのだろうか、ということだ。そんなことをすればフランス軍の介入を招くだけで、実際そうなった。出来レースっぽい印象は避けがたい。
 気になるのは今年1月のBBC"French fears in Ivory Coast"(参照)だ。


The morbid dislike of foreigners, or xenophobia, lies at the heart of politics in Ivory Coast today - that, at least, is the view of a sizable minority here.
【試訳】
今日のコートジボワール(象牙海岸)の政治の核心には、病的ともいえる外国人嫌い(クセノフォビア)がある。現地の少なからぬマイノリティ・グループはそう見ている。

 こうした背景を考えると、かつての宗主国フランスとしては、自国民の安全のために、来年の大統領選挙に向けて高まる外国人排斥の動向に、明確な軍事的プレザンスを示したかったのではないだろうか。というか、この事態にいたってもフランスはコートジボワールの自国人に退避命令を出す気配はない。まるで安定した植民地であることの維持に努めているかのようだ。
 蛇足ながら、というには長いが、コートジボワールについて手短に地理・歴史をおさらいしておく。コートジボワール(フランス語で「象牙海岸」)は、1960年にフランスから独立。現在人口は1,660万人。首都はヤムスクロ(Yamoussoukro)だがその人口約20万人と少なく、実質的な首都はアビジャンで、この人口は約315万人。宗教は、イスラム教30%、キリスト教10%、伝統宗教60%(参照)。
 99年のクーデターで元宗主国の息のかかった政府から、反仏的なロベール・ゲイ元参謀長の軍事政権が誕生したものの、翌年の大統領選挙に対するデモによって彼は国外逃亡した。続いて、ローラン・バグボ(Laurent Gbagbo)大統領(社会主義政党イボワール人民党:FPI)が政権を掌握し、現在に至る。バグボ大統領はゲイ元参謀長と対立していたわけでもなく、同様に親仏とは言い難い。
 2002年9月に、バグボ大統領が南部キリスト教徒を優遇する政策を行ったとして、イスラム教徒が多い北部の軍の一部(コートジボワール愛国運動:MPCI)が反乱を起こした。これが現在につながる内乱となる。この過程で数千人が死亡。内乱に乗じて、西の隣国リベリアが支援する反政府勢力(正義・平和運動:MJP、大西部国民運動:MPIGO)も政府軍と衝突した。
 昨年5月、政府軍と反政府勢力は停戦に合意し、フランス軍部隊約4千人と国連部隊約6千人が停戦監視などのため駐留していた。

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2004.11.08

フランス人も英語を勉強しなくちゃね

 先月のことだが米国大領選挙の前ということもあって「アメリカナイゼーション ――静かに進行するアメリカの文化支配」(参照)という本をときおり雑誌でも読むようにぱらぱらと読んでいた。執筆者も多く統一性のある本ではないが面白いには面白い。実体験や、やや強引な個人見解などについては、ブログを読んでいるような印象を受ける。この本を読んで今回の米国選挙を理解する上でヒントになったことがあるかといえば、ほとんどない。韓国の英語熱やフランスの英語忌避感の話のほうが面白かった。どうでもいいことだが、フランスで昔から人気のアニメ「アステリックス」(参照)についての余談なども面白かった。

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アメリカナイゼーション
 この本でもなんどかふれれているが「英語教育というのは文化帝国主義だ」というネタはけっこう昔からある。日本人の場合、英語が日本語と文法的に遠すぎることや、英語を読まなくても日常困らないことなどから、いつまでたっても初等教育において英語習得の未達成者が多いというのが問題になりがちだ。その擁護に文化帝国主義とかいった理屈が出てくる。が、いつになってもその議論はさえない。実用英語と米文化がごちゃごちゃになるせいだろうか。
 実用英語と米国なり英国の言語文化の英語とはクリアに区分されるものではないが、両者を同一に扱うべきではないし、現実問題として、実用英語のニーズは高まっている。現実的にはなにが効果的な実用英語の手段かと問いを出したほうがましだ。
 英語が問題になるという事態はフランスでも似たようなものらしい。この手の話もよく見かけるものだが、特に教育でも自国語のフランス語重視について一定の基準が設けられている。前述書ではこうある。

 学校教育でも小学校では国語(フランス語)の教育を全体の60%以上にするように配慮しており、内容的にもビクトル・ユゴーなどの模範的なフランス語を徹底的に暗記する教育が施されている。

 この先の話もごく一般的な見解だが、よくまとまっているので引用しておく。

 フランスはなぜこれほどまでに英語やアメリカ文化に対して警戒と排除の姿勢をもつのであろうか?
 それは、まずそうせざるをえなほど、英語やアメリカ文化の侵入が広範囲にあるからである。フランス人にとって英語やアメリカ文化はアジア人が感じるほどには異質ではないだろうから、それだけ浸透しやすいのだろう。だから、意識的に警戒、あるいは排除しないと文化の中枢にまで居座ってしまうからである。
 また、フランス国内の多言語多文化の存在も影響しているのであろう。フランス国内の多様な地域言語と文化の存在により、フランス国家の統一は意識的に形づくられる必要があるのだ。そのためにフランス語、フランス文化を強調せざるをえないのである。

 この見解に両手を挙げて賛成というものでもないが、概ねそんなところかなと思う。フランス文化なるものも、歴史的に見れば近代の虚構という性質を持ち(歴史的な単一性はない)、またEU統合によって欧州内のナショナルな国家のありかたが薄められるにつれ、フランス内などのリージョナルな文化が強まるという逆説的な傾向も見られるようになった。
 話を少し戻すのだが、フランスで英語教育をより積極的に進めようとする動きがあり、当然その反発があるようだ。話は、英国紙テレグラフ"'Compulsory' English lessons spark anger in France(英語教育の強制がフランスで怒りを引き起こす)"(参照)で読んだ。英国の右派的なテレグラフなせいか、ちょっとフランスをからかうような趣もある。

An official report suggesting that French children should be forced to learn English in school from the age of eight has provoked an outcry among nationalists, teachers and unions.
【試訳】
フランスの子供は8歳くらいから学校で英語を強制的に学ばせるべきだとする政府調査書が、フランスの国粋主義者や先生などの団体で抗議の声を浴びている。

 この主張はジャン・ピエール・ラファラン首相を初め、フランソワ・フィロン教育省も支持しているものだ。が、シラク大統領は当然賛成はしない。

The move comes just two weeks after the French president, Jacques Chirac, described the spread of English as a "disaster".
【試訳】
この動向はジャック・シラク大統領が「英語の普及なんて災害である」と言った2週間後に起きた。

 ちょっと気になって本家フランス、例えばル・モンドとかで何か言っているか調べてみると、Googleの自動翻訳のおかげで面白い話題が見つかった。元は"Faut-il rendre l'apprentissage de l'anglais obligatoire des le CE2?"(参照)だが、Googleがフランス語を英語に翻訳してくれたのが、"Is it necessary to return the training of obligatory English as of the CE2?"(参照)だ。全体のトーンとしては英語教育に否定的にも読めるのだが、フランス人にももっと実用的な英語教育が必要だという点はすでに確立した事実のようだ。

Not only, today, 97 % of the pupils learned voluntarily English during their schooling. But moreover, they learn it badly: their level is poor and does not cease degrading itself.
【意訳】
現状フランスの97%もの学生は自主的に英語を勉強しているのだが、その学習法がよくない。結果、英語の習得としては劣るし、より向上させることもできていない。

 ル・モンドでは教育の機会の公平さについても触れているようだが、英語に堪能かどうかは教育の質に関わり、つまり、貧富差にも関係してくるのかもしれない。
 日本のマスメディアに浸っていると、アメリカという国は単独行動主義であり独善的な文化を押し付けるので世界各国で嫌われているかのようだが、実際のところ、好きか嫌いかなどいくら議論しようが、英語を実用面で国際語として習得しなければならないというのは、フランスですらどうしようもない現実になっている。

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2004.11.07

野菜や果物を食べても癌の予防にはならない

 日本で報道されていたのかよくわからないのだが、米国国立がん研究所(NCI)が出しているがん公式機関誌"Journal of the National Cancer Institute(JNCI)"(参照)の最新号に、野菜や果物を食べても癌の予防にはならないよ、という研究成果が発表された。洒落ではないよ。ほんと。
 記事は"Fruit and Vegetable Intake and Risk of Major Chronic Disease(主要な慢性病に対する果実と野菜の摂取とリスク)"(Journal of the National Cancer Institute, Vol. 96, No. 21, 1577-1584, November 3, 2004)(参照)だ。標題を見るとわかるように、癌予防に特定された研究ではない。果実と野菜の摂取は、肯定的な側面としては、心臓病の予防には有効という結果は出た。しかし、癌には効果がないことがわかった。
 この数年、この分野の研究者たちは、うすうすそうなんじゃないかと予期していたこともあり、それほどのインパクトはないだろうとも思う。
 しかし、米国でも日本でも、表向きは、癌の予防のためには意識して果物や野菜を摂りましょうと推進してきたのだが、その医学的な根拠は失われることになる。とはいえ、果実や野菜の包装に「きちんと食べてもがんの予防にはなりません」と書く必要はない。タバコのパッケージに「喫煙はあなたにとって肺がんの原因の一つになります」と書くのとはわけが違う。
 詳細が気になるかたは、先のリンク先の概要ページからさらに有償の本文を読まれるといい。結論は非常に単純だ。


Conclusions: Increased fruit and vegetable consumption was associated with a modest although not statistically significant reduction in the development of major chronic disease. The benefits appeared to be primarily for cardiovascular disease and not for cancer.
【試訳】
結論:果実と野菜の消費が増加しても、主な生活習慣病や慢性疾患を減少させる効果があるとはいえない。メリットは心臓疾患に表れるが、癌には有効ではない。

 さて、米国や日本の健康指導はこれからどうなるのだろうか?
 もしかすると、シカトこくかもしれないなという感じはする。この結果って、ちょっと困るじゃないですか。
 私の印象としては、今回の調査はかなり徹底して行われたので大筋で覆ることはないだろう。
 が、それっとちょっとまずいっすよねという感じなので、早々に批判も出てきつつはある。例えば、"Cancer Experts: New JNCI Diet-Cancer Study Not Conclusive"(参照)などだ。が、そのあたりの弁護論でとりあえず一般の人が納得されるのだろうか。あるいは、今回のJNCIの発表は暫定的だから、今までどおり野菜や果物を豊富に取りなさいよ、ということになるのだろうか。
 くどいけど、野菜や果物の意図的な摂取はそれほどがん予防に重要な要素とはならないだろうと私は思うので、考え方を変えたほうがいいと思う。
 この話、あまり一般受けはしないのかと思ってたら、意外にも、経済紙フィナンシャルタイムズに"The end of broccoli(ブロッコリはお終い)"(参照)として今回の発表がネタになっていた。

The study found that although fruit and vegetables lowered the risk of heart disease, they did nothing to reduce the incidence of cancer, contrary to the advice of health authorities the world over.
【試訳】
今回の研究で、果物と野菜は心疾患のリスクを下げるけれど、癌発病を減らす効果はまるでなしということがわかった。つまり、世界中の健康指導者がアドバイスしてきたことの逆の結果になった。

 フィナンシャルタイムズでは、食物繊維が大腸癌リスクを下げないことや、酒でも赤ワインをほどほどに飲むのは健康的とか、チョコレートも健康にいいぞ(イギリス人はチョコ食べ過ぎ!)、といったありがちな展開で話を締めている。ちょっと浮かれた感じがする。
 日本でも、健康は生活習慣で改善されるという建前だし、運動と食事の改善が大きな二つの柱となっている。しかし、人間の生き様を決める要素というのは、そう杓子定規にわりきれるというものでもないなと思う。オチに非科学的なことを言うのもなんだが、健康を目指しても、そううまくいかない運命っていうのがあるじゃないか。

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