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2004.10.16

中国で肥満が増えている

 中国で肥満が増えているという話は以前からたまに聞く。社会が裕福になるにつれ肥満者が出てくるのは当然のことだろうと思っていたが、2億人だよという話を聞いて、ちょっというか、いやいや大変驚いた。毎日新聞「『肥満人口』2億人突破、都市の肥満深刻」(参照)によるとこうだ。


中国衛生部の王隴徳(※旁部分は「心」の上に「一」)・副部長は12日、中国全土における成人の肥満率が7.1%、大都市では12.3%となったことを発表した。さらに、2002年末時点で、中国全土における「肥満人口」が2億6000万人に膨れ上がったとも説明した。なお「肥満人口」とは標準体重の超過者と肥満患者を含む。

 同種の話は、Forbes"Fat In China"(参照)にもある。

The new statistic derives from China's first comprehensive national survey on diet, nutrition and diseases, which was conducted by the Ministry of Health. It found that 7.1% of Chinese adults were obese and 22.8% were overweight, Wang Longde, China's vice minister of health, told a news conference. He added that an estimated 200 million of China's population of around 1.3 billion were overweight.
【試訳】
最新統計は、中国衛生部が実施した中国初の全国家レベルの「食事・栄養・疾病調査」によるもの。同部副部長王隴德は、中国人成人の7.1%が肥満、22.8%は標準体重超過と語った。彼は13億人の全人口中、2億人が標準体重を越えていると推定している。

 2億人の肥満人口というのはすごいなと思うが、これは、国際基準での「肥満:BMI 30以上」ではなく「標準体重超過:BMI 25-30」を指しているので("Statistics Related to Overweight and Obesity"・参照)、その肥満人口の大半は、外見的にはちょっと小太りくらいのものだろう。
 米国と比較すると、こちらは肥満が30.5%、標準体重超過が65%なので、中国は、比率としてはまだまだ余裕がある。が、増加のテンポも速いらしい。北京に限定すると、ほんとかなという感じだが、肥満人口は60%にもなるという。
 肥満人口増加に伴い、栄養バランスや生活習慣病も問題になりつつある。人民網「太った北京っ子 市民健康栄養白書を発表」(参照)によると、北京市民は栄養過剰な一方で、微量栄養素の摂取が不足、コレステロールと塩分は摂取過多、ビタミンAとカルシウムの摂取が不足ということらしい。豆乳飲んでないで(北京では塩味の豆乳をよく飲む)牛乳にしたら、という感じもするが、日本人同様、中国人も乳糖不耐性の人が多い。
 同じく人民網「中国、高血圧など慢性病の発病率を抑える措置を講じる」(参照)では、「高血圧などの慢性病にかかっている患者が18%を超えており、10年前と比べて、糖尿病、肥満など慢性病の患者も明らかに増えてきた」とのこと。これも文明病として普通のことだ。
 こうした面でいち早く対応が進んでいる日本としては、健康産業ということで中国にビジネスチャンスを見ている人もいるかもしれないな。

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2004.10.15

[書評]あなたは生きているだけで意味がある(クリストファー・リーヴ )

 クリストファー・リーヴ(Christopher Reeve)の遺書のようにこの本を読んだ。日本では昨年末の出版だったが、私は、出版社はPHP研究所かぁ、このタイトルかぁ、とひいてしまっていた。帯に「心がふるえる。感動がとまらない」というのも苦手だなと思っていた。でも、この帯は私のような冷笑家には誤解を招くが、正確な表現だった。もっと早く読むべきだった。

cover
あなたは
生きているだけで
意味がある
 リーヴは映画「スーパーマン」の主演俳優として有名だ。1952年9月25日の生まれ。先日52歳になったばかりだった。1995年の落馬事故で脊髄を損傷し、肩から下が麻痺するようになり、ほとんど全身の自由を失った。この重度な障害からの回復は当時の医学的常識では不可能ということだったが、彼は奇跡的なリハビリテーションで通説を覆し、車椅子での生活が可能となった。その後、同じく脊髄損傷に苦しむ人々を支援するために「クリストファー・リーブ麻痺財団」(参照)で精力的に活動した。議論の多い胚性幹細胞(ES細胞)の医療活動への啓蒙活動で最前線にも立った。
 さらなる活動が期待されていたが、9日、ニューヨーク州パウンドリッジの自宅で心停止状態から昏睡状態に陥り、翌日10日に病院で家族に囲まれて亡くなった("Christopher Reeve, 'Superman' and Crusader for Stem Cells, Dies"・参照)。子供は三名いる。前妻との間に長子マシュー25歳、長女アレクサンドラ21歳。最期を看取った後妻のデイナとの次男ウィル12歳。
 1995年の事故の直後、リーブは死にたいと願った。しかし、それを妻ディナの愛情が押し止めた。

 私が自らの命に終止符を打ちたいと思ったことに対して、デイナは「少なくとも二年待ちましょう」と言った。そして、「もしその時点でまだあなたの気持ちが変わっていなかったら、そのときはあなたの思い通りにする手段を見つけましょう」と。

 これ続くリーブの文章は、この本のユーモラスな特徴をよく示している。

 ある意味で、彼女は古い営業テクニックのマニュアルを使ったとも言えるだろう。消費者に無料お試し期間と無料サンプルを与え、なんの義務も料金も発生させずに、上手に彼らを追い込むやり方だ。一方で、もっと深い意味もあった。そこには私たちの互いの愛と尊敬が常に息づいており、彼女は、この悲劇に直面した私がまだ結論を急ぎすぎているだけだと思っていたのである。「待ちましょう」は完璧な指針の言葉だった。デイナは私に猶予と選択の自由を与えようとした。しかしそのときすでに彼女は、後に私が何を選択するかを知っていたのだ。

 この本は、こうしたユーモアとそれが暗示する強く率直な精神に溢れていて、いわゆるお涙的な表現は極力抑えられている。だからこそ、この本をたんたんと読み進めると、私のような人間は不意の号泣に襲われることにもなる。
 リーブのこの本は、現在病に苦しむ人やその身近にいる人にとって無理のない勇気を与えるものにもなっている。それまでの医療の常識を覆してリーブが回復していくようすなど、人間の可能性について強い希望を暗示する。
 私自身としては、この本を読みながら、自分も無縁ではない障害という問題よりも、一人の男の人生に深く考えさせられた。うまく言えないのだが、男性学、あるいは男性成人の心理的な危機という点で、静かな深い考察を促す指摘も多い。父親との関係、青春をついだ形の恋愛・結婚の破局、子供を持つこと…。
 それと多分に私という読者特有のことかもしれないのだが、世代・文化的に共感することも多かった。リーブは1952年生まれ。私は1957年生まれなので5歳下になる。この歳の差は自分にとってはそう少なくもないのだが、サイエントロジーや各種の、日本では「人格改造セミナー」と呼ばれていた活動について、いろいろ心当たりすることがある。
 そうしたムーブメント以外に、リーブの語りは信仰という点でも興味深いものだった。宗教への希求・探求は特定の形を取らずに、日々の精神性というもの深化という形で了解されていた。

 私は徐々に、精神性というのは、日々の生活を送っていく過程で見つかるものなのだと信じるようになった。他者を思いやりながら時間を過ごせばいい。何らかの高尚なパワーが存在すると想像するのは、それほどむずかしくはない。それがどのような形で、どこに存在するかを知る必要はない。ただそれを崇めて、それを支えに生きていけば十分である。なぜなら、私たちは人間であり、しばしば失敗もするが、少なくとも罰を受けることはないとわかっているからだ。その認識が私たちを守り、改めてトライしようという気持ちにさせてくれるのである。

 こうした考えは日本人の近代の神道感にも近いので、ある意味、素直に共感しやすいかもしれない。それはそれで悪いとか間違っているとか言いたいのではない。が、このくだりは実はアメリカ人にとってもうちょっと難しい含みがある。あまりこうした点に踏み込むべきではないのだが、これも私という読者の人生にも関係する手間、ちょっと脱線になるが加えておきたい。この先、リーブこう続ける。

 こうした考えが新たな人生を歩むプロセスの中で見えてきた一方で、私は自分が一神教信者になりつつあるとは考えもしなかった。四十代後半になって、信仰と組織的宗教にいつのまにか心が向かっていたのだ。デイナ、ウィル、そして私は、その当日担当の看護士も連れて、定期的にミサに通った。

 「ミサ」とあるのでカトリックのようにも思える。「その教会の司祭」ともあるので、日本人ならやはりカトリックかなとという印象を持っても不思議ではない。もう一点関連して、こうある。妻デイナとの話の一部だ。

 一神教・普遍救済主義の何がいいかというと、その扉を開いた人々が罪を犯したと仮定されていないからだ、と私は話した。そこでは司祭に懺悔しろとも言われないし、10の天使祝詞と五つの主の祈りによって少なくともあと一週間は神に対して正直であるようになどと言われることもない。

 翻訳者に十分な知識がないとも思えないし、なにより訳が間違っているというわけではないのだが、そして原文を私は持っていないのだが、この「一神教・普遍救済主義」とは、ユニテリアン・ユニバーサリズム(Unitarian Universalism)のことだろう(参照)。
 そういえばと思って、Unitarian Universalist Associationのサイトを覗いてみたら、ずばりリーブの話が掲載されていた。"In Memoriam: Christopher Reeve, Unitarian Universalist"(参照)である。ユニテリアンとユニバーサリストは米国では融合している。この話をここで突っ込むと混乱するので一つだけ避けるが、ユニテリアン・ユニバーサリズムのもつ宗教的情熱という点で現代日本人にわかりやすいのが、WWW(World Wide Web)を創始したティム・バーナーズリー(Tim Berners-Lee)の思想だ。関心がある人は"The World Wide Web and the 'Web of Life'"(参照)を読まれるといいだろう。Webの宗教的な情熱は多分にユニテリアン・ユニバーサリズム的である。
 リーブがユニテリアン・ユニバーサリストとして語っているのは、その背景に、プロテスタントの主流ともいえるカルヴィニズムへの緩和な形での反発がある。神学的あるは社会学的には予定調和説のエートスへの反発だとも言える。そして、それには広義にカトリックへの反発も含まれているだろう。
 話をリーブが残した思いに戻したい。彼は、この本のなかでも、強く、胚性幹細胞(ES細胞)の医療活動を呼びかけている。これには深く心を動かされた。私にとってはちょっとしたオクトーバーサプライズにもなった。この研究推進については、現在の米国大統領選挙でも重要な争点となっている。ケリー候補は8日の第2のテレビ討論会でリーブについて言及していた。ケリーが大統領となるなら、リーブが残したこの思いは、米国社会に少し具体的な形を取るようになるのだろう。

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2004.10.14

外国語を学ぶと脳がパワーアップするだとよ

 東ドイツの極右勢力の話なんかするより、これだよね。外国語を学ぶと脳がパワーアップするだとよ。洒落? いやいや、ネイチャー誌の最新号に掲載されている"Neurolinguistics: Structural plasticity in the bilingual brain"(冒頭・参照)の話。


Humans have a unique ability to learn more than one language -- a skill that is thought to be mediated by functional (rather than structural) plastic changes in the brain. Here we show that learning a second language increases the density of grey matter in the left inferior parietal cortex and that the degree of structural reorganization in this region is modulated by the proficiency attained and the age at acquisition. This relation between grey-matter density and performance may represent a general principle of brain organization.
【試訳】
人間にはその固有の能力として複数言語を学ぶ能力がある。この学習能力は従来、脳の物質的な構造によるのではなく、その機能の可塑性によって達成されると見なされてきた。だが、私たちは、外国語学習によって下頭頂葉皮質の灰白質の密度が増加することを見いだした。つまり、この部分の脳の物質的な構造は、外国語習得によって達成された能力のレベルに見合った状態で再編成されている。この灰白質の密度と外国語能力の関係は、脳の一般的な原理をも表しているのだろう。

 な、なるほど、外国語がぺらべらできるやって脳自体が違うんだな、と納得していただけましたでしょうか。
 っていうか、日本のメディアでの情報だとそういうのってすでに当たり前みたいに言われてるが、脳の学問では、機能と構造というのをかなり厳密に分けていて、いわゆるところのゲーム脳とかメール脳とかいうお笑いは機能の話にすぎない。脳の構造、つまり、物質的な意味での脳ミソが、まるで筋肉みたいにもりもりするっていうのは、それはそれなりにネイチャーが取り上げるに足る研究ではある。
 「筋肉みたいに」というのは悪い冗談止めろかと思いきや、これをニュース扱いしたBBC"Learning languages 'boosts brain'"(参照)も使っている。

They found learning other languages altered grey matter - the area of the brain which processes information - in the same way exercise builds muscles.
【試訳】
研究者たちは、多国語を学ぶことで灰白質(情報を処理する脳の領域)が、筋トレで筋肉が付くのと同じように変化することを発見した。

 脳学者にしてみると今回の研究の意義は、むしろ、「a general principle of brain organization」にあると思われるが、一般的には、外国語を学ぶと脳がパワーアップするみたいに受け止められるだろう。面白そうなネタだし、このネタだと広告もちゃんと付きそうだし。
 BBCのニュースを読むと今回の発表では、よく言われる言語習得の臨界期についてもある程度意識されていることがわかる。というのも、こうした外国語の習得による脳構造変化は幼い時点でバイリンガルになった子供に顕著らしい。この手の話もまた日本では外国語の幼児教育の必要性とかに化けるのだろう。研究者に次のようにコメントさせている。

"It means that older learners won't be as fluent as people who learned earlier in life.

"They won't be as good as early bilinguals who learned, for example, before the age of five or before the age of ten."
【試訳】
 今回の結果から、ある程度の年齢に達したら、幼いころに外国語を習得した人ほどぺらぺらになるというわけにはいかないことがわかるでしょう。
 五歳前とか十歳前にバイリンガルになっている人と比べると、それ以上の歳の学習者が同等に上手になることはないでしょう。


 それじゃあんまり、というわけで、CBS"Being Bilingual Boosts Brain"(参照)では、お慰みのコメントも加えてくる。

Of course, while it might seem easier to pick up a second language as a child, it's still possible to do so as an adult.
【試訳】
もちろん、子供のほうが外国語を習得しやいようだとは言えますが、成人だって可能なんですよ。

 ま、がんばってくれ。私もかんばる…ってなんのこっちゃ。
cover
100 Words
Almost Everyone
Confuses & Misuses
 BBCのニュースでは話のオチに、外国語が話せるイギリス人労働者は十人に一人。そして、2010年には小学校で外国語教育を導入するということを加えている。EUでは多国語が重視されるという含みなのだろう。
 さて、外国語の幼児教育について、おまえさんはどう考えるのかと問われるなら、実は関心ない。デーモン小暮は幼児期に英語の環境にいたためバイリンガルなのだが、彼は、たしか、余の話す英語はお子ちゃまの英語なのである、とか言っていた。そうだろうと思う。知的な意味を担わせた英語なりを使いこなすのは、アメリカ人の英語ネイティブでも語彙を増やす必要があり、これにけっこう苦労しているものだ。英語ネイティブでも英語は難しいのは、"100 Words Almost Everyone Confuses & Misuses (The 100 Words)"とかでもわかる。
 それと今回の研究は印欧語内の言語なので、日本語と英語のように離れた言語で一般的に成り立つのかかなり疑問かな。

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2004.10.13

ゴードン・ブラウン、その救世主的な情熱

 これはニュースではなくてネタだなと苦笑したまま、凍り付いてしまった。ゴードン・ブラウン(Gordon Brown)英財務相は、私のような冷笑家ではないからだ。彼は本気だ。彼は、重債務貧困国に対する債務返済免除に、IMFが保有している金(きん)を使え、というのだ。
 私は稚拙ながらもおそらく日本のブログとしては最初にスーダン・ダルフール危機に言及したのだろうと思うこともあり、その関連からその後、軽くではあるが「スーダン・ダルフール危機情報wiki」(参照)に関わり、ついでにアフリカ関連のニュースを意図的に読むようになったのだが、先日(9月27日)、この話を、AllAfrica.comインタープレス系"Seize Golden Opportunity On Debt, Groups Urge IMF"(参照)というニュースで見かけた。


Global anti-debt activists are rallying around a call issued by Britain on Sunday that urges the International Monetary Fund (IMF) to cancel debts owed by the world's poorest nations and finance the forgiveness through sales of its own gold.

UK Chancellor of the Exchequer Gordon Brown called for full debt cancellation for the highly indebted nations, adding that his government would put up 10 percent of the cost of the move. He challenged other governments to help finance debt forgiveness.
【試訳】
 英国の呼びかけで債務帳消し国際活動家が奮起した。その主張は、IMF(国際通貨基金)は自らが所有する金(きん)を売却した利益で世界の最貧国の債務を帳消しにせよというものだ。
 ゴードン・ブラウン英財務相は、重債務の完全な債務帳消しを訴え、加えて、英国はそのために10%の支出を行うとした。彼は他国にも債務帳消しを熱心に呼びかけている。


 IMFは、10万オンス、2.8トンの金塊を保有しているが、これが現状、80億ドルと低く見積もられているとのこと。実際に市場に回せば、その6倍にもなるらしい。ほぉという感じだが、この金塊は、米国とドイツが積んだものらしく、その思惑も絡んではくるのだろう。
 この話が気になったのは、日本での関連報道でちょっとひっかかる感じがしていたからだ。私の見落としかもしれないのだが、そして先のニュースを読んでからの印象なのだが、日本国内では、IMF保有の金(きん)については意図的に報道されていなかったのではないだろうか。例えば、日本経済新聞に掲載されたAP・共同系「英、重債務貧困国の債務返済を免除」(参照)がおそらくこの話題を扱っているのだろうと思われるのだが、そしてここに全文掲載はできないものの、IMF保有の金(きん)についての言及はまるでない。

【ロンドン26日AP=共同】英国政府は26日、世界の重債務貧困国に対する一層の債務返済免除を実施すると発表、他国にも同様の債権放棄を呼び掛けた。
 英国は債務国が世界銀行や他の開発銀行に対して負う債務の約10%、重債務貧困国の全債務の7%について債権を持つ。英財務省は、2015年まで毎年各1億ポンド(約200億円)の返済を免除するとしている。

 私の単なる勘違いかもしれないが、なにか意図的な情報操作の感じもする。ま、陰謀論とかは考えないが。
 この金(きん)交換の話は、その後、同じくAllAfrica.com"Finance: Groups Defend Plan to Swap IMF Gold for Third World Debt"(参照)に続く。

Objections by Canada, a major gold producer, may have played a part in the failure of the world's richest countries to adopt a British proposal to use the proceeds from a revaluing of the gold reserves of the International Monetary Fund (IMF) to relieve the debts of the poorest countries.
【試訳】
IMF保有の金塊を重債務貧困国の債務帳消しに充てるという英国提案は、カナダ、及びその他の金産出国の反対によって、富裕国に対する訴えとしては失敗してるようだ。

 これは日本人の常識から言ってもそんなものではないかとは思う。
 ふと気になってこの手の話は左翼的なガーディアンにあるだろうと思ったら、あった。"IMF must learn the golden rule"(参照)である。とすると、当然、右派のテレグラフでもおちょくっているに違いなと思ってみると、やはりある。"Do all these consultants really benefit the Third World? "(参照)だ。保守派の結論は読むまでもないのだが、そのトーンはわずかだが自分の予想に反していた。

For once, Gordon Brown shares his messianic zeal, never missing an opportunity to make an announcement about support for the developing world. Ever more ingenious ways are concocted to raise money - most recently using the value of IMF gold to wipe out debt. The Prime Minister and the Chancellor are, according to Bono, the Lennon and McCartney of international aid.

 訳すほどのことはないのだが、気になったのは、"his messianic zeal"(救世主的な情熱)という表現だ。そうだ、これだなと思ったのだ。冒頭、苦笑したまま凍り付いたのは、ゴードン・ブラウンの、まさに救世主的な情熱だ。こいつ、本気でマジなんじゃないか。なんだか、クロムウェル(Oliver Cromwell)をふと連想してしまう。
 重債務帳消し運動は、9.11以前には坂本龍一などもわいわいやっていたように、けっこうわかりやすいお話だった。これがまさに坂本的わかりやすさで、9.11後に「非戦」とかに流れて、あれ、以前何してたっけ的軽さに消えてしまったみたいだが、この問題は、そうした表層的な国際政治のポーズを抜きにしても、大筋の方向としては、債務帳消し以外の選択などない、と私は考えている。つまり、問題は、どうするかの次元であるわけだが、どうしろと言ってもねぇ、ぷは、みたいにお茶を濁していたのだが、ゴードン・ブラウンはそういう方法論を問うという点では、正攻法で、ずどーんと打ち込んできたわけだ。
 もっとも、言うまでもないことだが、重債務帳消し運動も、単に「救世主的な情熱」で動いているわけはなく、IMFを巡った各種の政治団体の思惑というのがある。そのあたりは、すでにこってり語られてもいるわけなので、私が言及するまでもない。
 私としては、この問題は、日本の国策として、中国のアフリカ攻勢への骨抜きのように推進すればよかろうなとも思う。という点で多分に特定のイデオロギーのもとにはあり、善意とはほど遠い。それでも、世の中、本気マジなやつっているよなと思う。感動するというか、あきれる。

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2004.10.12

交通手段と環境についての雑感

 パリのポルト・ド・ベルサイユにある国際見本市会場で第83回パリ・オートサロン(Mondial de l'automobil)が9月24日から昨日まで開催されていた。といって、私は車に関心があるわけではない。沖縄で暮らしていたときは他に交通手段がなく、しかたなく車を使っていた程度である。
 パリ・オートサロンについては、車好きにはさまざまな視点があるだろうが、全体的な傾向として見れば、環境に優しい「クリーンカー」が注目されていたようだ。これには原油価格の高騰といった背景もある。ちょっと驚いたのだが、シトロエンは天然ガスを使う一般向けの自動車を今後開発するとのアナウンスもあった。購入した場合、フランス政府は、自宅用のコンプレッサー設置の経済支援をするらしい。この傾向が普及すれば、フランスでの脱ガソリン化がいっそう進むだろう。
 フランスでは、すでにバスやゴミ収集車など公共の自動車の場合、燃料にエタノールを利用していることが多い。日本でも、京都議定書に定められた温室効果ガス削減目標を達成するためにエタノール混合ガソリン(3%)の使用が昨年8月解禁され、その普及を進めてはいる。先日小泉総理がブラジルに訪問した際も、ブラジルのサトウキビからできるエタノールの輸入の期待を表明している。とはいえ、身近でエタノール混合ガソリンの利用の話は聞かない。エタノールを燃やしてもCO2は出るが、京都議定書の枠組みでは、CO2を吸収して育つ植物が原料ということで排出量はゼロと見なしている。
 京都議定書といえば、これを批准しないアメリカが環境に配慮しないというイメージで見られることもある。が、エタノールの利用の面では米国は先進国だ。「ガソホール」という名称で1970年代から利用され、現状全米のガソリンの約10%がすでにこれに相当している。日本が今後の導入を検討しているエタノール10%混合ガソリン(E10)も米国ではすでに流通している。日本も公共交通や市街の宅配便車などにエタノール燃料を義務づけたらいいようにも思うが、どうなのだろうか。
 パリ・オートサロンでは、電気自動車にも人気が集まった。この分野の技術はご存じのとおり日本が先行している。とはいえ、この技術の適用が日本に向いているのか私にはよくわからない。日本の場合、このタイプの車が快適に走る道路になってないようにも思う。
 米国は電気自動車普及の点でも進んだ面がある。ハイブリッド車利用をアファーマティブに支援するための施策が進められているのだ。有名なところでは、カリフォルニア州のカープールレーンだ。シュワルツェネッガーが知事となるや、45マイル/ガロン(19.0km/l)以上の燃費の車種なら、一人だけの運転でもカープールレーンの走行が可能となった(参照)。
 カープールレーンは、交通の混雑を減らすために、相乗り車を優先するための特設レーンである。2人以上の乗車がないのにこのレーンを走行するとかなりの罰金が取られる。今回のカリフォルニア州の決定は、燃費のいい車なら、半人前という換算なのだろう。
 45マイル/ガロンの燃費をクリアできるのは、現状、プリウス、シビックなど日本車に限定されるので、その点から米国内でブーイングもあるようだが、アメリカというのはこういうのに頓着しない(イチローも優れた選手だから評価する)。こうした米国の動向は、環境重視と交通渋滞解消の施策として十分評価できる。
 カープールレーンでふと思い出したのだが、沖縄にはバスレーンというのがある(参照)。沖縄でレンタカーを運転する前にはバスレーン規制について知っておくといい。知らないとちょっと困ることにもなる。
 沖縄は戦後米軍が鉄道を撤去したため、かなりひどい自動車社会になった。うちなーんちゅは「歩くのなんぎー」とか言って、通勤・通学に一台一人で乗るが一般的。交通渋滞も烈しい。このため、時間制限ではあるがバス専用のバスレーンを設けないとバスの運行ができない。
 沖縄では新設のモノレールも交通渋滞解消というのが建前だがあまり効果は出ていない。沖縄のような土地ではモノレールよりも新型の路面電車LRT(Light Rail Transit)の導入が好ましくその推進団体もあるだが、まったく進展していない。現行の江ノ電並み二両編成のモノレールは開発当初から赤字となることがわかっていたのに、建築は中断できず、代替のLRT推進もできなかった。しかも沖縄では赤字続きのバス会社統合問題でもめ続けている。なんとかしてほしいとも思うが、なんくるないさ、なのだ。おっと、沖縄の話がつい長くなった。
 欧州や米国の交通機関におけるガソリン・セーブの傾向を見ながら、日本でもこうした施策を何か進められないかと思うが、よくわからない。鉄道がこれだけ普及しているからそれでいいのだろうか。
 そういえば、ギリシアでは伝統的にタクシーも相乗りする。しかも、これが、すでに客が乗っているタクシーでも道の途中で停めて、別の客が相乗りでずかずか乗り込んでくる。最初私もびっくりしたのだが、これも慣れるとどってことはない。日本でもできるところからタクシー相乗りを推進すればいいのにとも思う。
 と、特に焦点のある話でもないのでこのあたりで終わりとするのだが、最後にちょっとディーゼル車について。
 欧州ではディーゼル車はクリーンな交通機関と見られている。ガソリン車に比べて燃費が良く、CO2排出量が少ないからだ。日本だと、東京都で規制されたように、ディーゼル車は粒子状物質(PM)の排出のため、環境に悪いというイメージが強い。だが、欧州では、ディーゼル・エンジンの燃焼室内で燃料を完全燃焼させるため、粒子状物質を排出しない技術開発が進んでいるようだ。

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2004.10.11

イラク大量破壊兵器調査の余波

 この手の話はまた感情な反発を引き起こすことになるのかもしれないが、どうも日本での報道は偏向があるように思えるので、簡単に触れておきたい。話は、6日に発表されたイラク大量破壊兵器捜索についての米調査団(ISG: Iraq Survey Group)発表の余波についてである。が、前段の話が長くなるだろう。
 調査団の団長であるドルファー中央情報局(CIA)特別顧問は米国上院軍事委員会で、昨年のイラク戦争開始前にイラク国内に軍事的に有用な量の大量破壊兵器の備蓄はなかったと証言した。同時にイラクは大量破壊兵器を再開発する意図の存在も指摘した。
 これを受けて日本では、イラク戦争の大義は失われたとの線での主張が目立った。典型的なのは、8日の朝日新聞社説「大量破壊兵器――なかったからには」(参照)である。


 戦争前のイラクに、結局、大量破壊兵器はなかった。米政府の調査団がそう結論づけた。戦争の大義をめぐる長い論争に決着がついた。
 生物・化学兵器の備蓄はいっさいなく、核兵器の開発計画も湾岸戦争後の91年以降は頓挫していた。フセイン政権からテロ組織への兵器や情報の供与を示す証拠もなかった。要するに、ブッシュ米大統領がイラク侵攻に踏み切った最も重要な根拠が見当違いだったのだ。
 フセイン政権を排除しなければ、再び大量破壊兵器の開発に手を染める危険があった。米英両政府は、そうした理由で戦争をなお正当化する。調査団もイラクには大量破壊兵器開発に戻ろうとする「意図」はあったと指摘している。

 この主張は誤りではないが、先の調査では「フセイン政権を排除しなければ、再び大量破壊兵器の開発に手を染める危険」の背景にも触れていた。日本では、朝日新聞を初めこの背景部分については、十分には報道されていない印象を受ける。
 国際的に公開されている情報なので、日本のジャーナリズムも全く触れていないわけでもない。国内では産経新聞系の報道「大量破壊兵器なかった 米イラク調査団 最終報告書、脅威の存在は認める」(参照)が比較的詳しい。

ただ、報告書は、その一方で、フセイン政権の大量破壊兵器保有に向けた開発の意図は昨年三月のイラク戦争開戦まで保持され、湾岸戦争(一九九一年)以降の国連制裁下でも、フセイン政権が石油密輸などで得た莫大(ばくだい)な資金でロシアや北朝鮮からの技術供与を受けて長距離ミサイルの開発を続けていた-との脅威の実態を報告した。

 すでに極東ブログ「サダム・フセイン統治下の核兵器疑惑の暴露手記によせて」(参照)で核開発について、開発当事者マハディ・オバイディ(MAHDI OBEIDI)氏による手記について紹介したが、ここでも核兵器開発の再開は短期に可能だっただろうと主張されている。
 しかし、問題は、重大ではあれ、潜在的な危機についてではない。今回の発表で米英のジャーナリズムで問題視されていたのは「フセイン政権が石油密輸などで得た莫大な資金」の構造についてだ。この点を補足するために先の報告書の内容に戻る。

 報告書は、千ページに及び、(1)フセイン政権の大量破壊兵器開発に向けた戦略的意図(2)国連制裁下のフセイン政権の石油密輸や、国連の「石油・食料交換プログラム」の不正利用などで莫大な不正資金を取得した構造(3)ミサイル開発(4)核兵器開発(5)化学兵器開発(6)生物兵器開発の六章で構成されている。

cover
サダム
その秘められた人生
 章立てからもわかるように、「国連制裁下のフセイン政権の石油密輸や、国連の『石油・食料交換プログラム』の不正利用などで莫大な不正資金を取得した構造」が重視されている。
 この記事の補足にもあるように、制裁下のイラク石油からフセインが不正に得た資金については、(1)抜け道的に続けられたシリア、イエメン、ヨルダンなどの企業との貿易取引で75億ドル以上、(2)国連管理下で行われた「石油・食料交換プログラム」の石油会社選定での見返り金で20億ドル以上、(3)石油密輸で9億9千万ドル、がある。
 別の言い方をすれば、国連制裁によってはこの構造を断つことができなかった。この点について、「サダム―その秘められた人生」の著者コン・コクリン(Con Coughlin)はテレグラフに昨日、辛辣な内容の"The sordid truth about the oil-for-food scandal"(参照)という記事を寄稿している。コクリンの視点には日本では異論も多く、この寄稿は詳しく紹介するにはあまり穏当でもないので、引用は控えておきたい。
 「石油・食糧交換プログラム」不正について、今回の発表ではこのプログラム管理の欧州企業代表が、この事業に構造的な欠陥があったとの証言が含まれている。また、石油・食糧交換プログラムの不正防止策をとることにフランスやロシアが反対したことを明らかにしている。国内の報道では、同じく産経新聞「石油・食糧交換プログラム 欧州企業代表が証言『構造的な欠陥あった』」(参照)に指摘がある。

 米国の国連代表パトリック・ケネディ氏も証言して、サイボルト、コテクナ両社の検査が危険な環境、不十分な機材、フセイン政権の妨害などによって満足のいく水準には達せず、不正の温床となったことを認めた。
 ケネディ氏はまた石油・食糧交換プログラムの進行中の九八年ごろ米国側は不正な資金の流れに気づき、監督や検査を強化する措置をとることを求めたが、「委員会の他の諸国に抵抗されて、その措置がとれなかった」と証言した。同プログラムを運営する国連の特別委員会には米国以外には仏、露、中国、シリアが主要メンバーとして加わっていた。

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 国内報道ではこの先の食い込みがあまり見られないが、7日のワシントンポスト"Hussein Used Oil to Dilute Sanctions"(参照)では、報告書をベースに、国連制裁下のイラク石油から甘い汁を吸っていた国を明らかにしている。重要なのでここは英文だが簡単に引用しておく。

The report, written by chief U.S. weapons inspector Charles A. Duelfer, indicated that some of the oil vouchers were used legitimately by the recipients. Not all were fully cashed in, and some were not used at all. Companies or individuals from at least 44 countries received vouchers, the report said.


Russia, France and China -- all permanent members of the U.N. Security Council -- were the top three countries in which individuals, companies or entities received the lucrative vouchers. Hussein's goal, the report said, was to provide financial incentives so that these nations would use their influence to help undermine what Duelfer called an "economic stranglehold" imposed after Iraq's 1990 invasion of Kuwait.

 名指しされているロシア、フランス、中国だが、国家のレベルで関与したというわけでもないし、その後の調査で米国企業もこの不正に連なっていることが明らかになっている。
 だが、特にフランスについては、米英のジャーナリズムの追及が厳しいように思える。これはむしろ保守系のジャーナリズムに限ったことではない。ブッシュ政権に厳しいニューヨークタイムズも"French Play Down Report of Bribes in Iraq Scandal"(参照)で、この不正にフランス高官の関与について触れている。類似の視点は英国オザーバー紙の"France's Saddam deals revealed "(参照)にも見られる。
 さて、問題はこの余波についてである。フランス政府は早々にこの発表に不快を表し、不正関与を否定しているようだが、この問題は米仏間の外交問題に発展していきそうな気配がある。
 気になるのは、フランスのジャーナリズムでの扱いだ。私はフランス語が読めないので、直接フランスのジャーナリズムの状況はわからないが、フランスジャーナリズムにとっては、この問題は済んだこととして、その検証にかかっていないようだ。国益と一体化してしまっているのか、ジャーナリズム自体に問題があるのかよくわからない。
 この指摘は保守系のテレグラフ" 'Old story' is cut by French press"(参照)に詳しいが、今後の動向を含めて検証が必要だろう。
 私の印象としては、ロシア、フランス、中国の、要人を含めた不正取引がまったくの無根拠だとは思えない。また、そうであるためにはより詳細なジャーナリズムの追及を必要とするだろうと考える。
 先の朝日新聞の社説に戻る。

 日本政府は来週、イラク復興支援国会合を東京で開く。イラクの再建を大いに助けたいが、そのためにも国際協調の下でイラクに安定を取り戻させることが先決だ。「でも戦争は正しかった」の一点張りでは、それもできにくい。

 戦争の是非については難しい。しかし、制裁が十分に機能していなかったこと、しかも、その不正に国連に拒否権を持つ大国の要人レベルが関与していた可能性があることを考えると、この問題の追及なしに、国際協調が可能なのだろうか疑問に思う。
 この問題は時期米大統領が誰であるかに関わらず、イラク統治と合わせて、依然、残る問題だろう。

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2004.10.10

オーストラリア総選挙はイラク派兵支持の保守連合の勝ち

 昨日オーストラリア総選挙があり、ハワード首相ひきいる与党・保守連合が野党労働党に勝利し、継続して四期目となる政権を担うことになった。事前の予想では、接戦とも伝えられていたが、蓋を開けると意外なほどあっけなく決まった。保守層は今朝も安心してパンにベジマイトを塗ることができただろう。

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ベジマイト
 オーストラリアは日本同様追米的にイラク戦争に荷担していることもあり、今回の選挙は国際的にはイラク戦争との関連で注目されていた。が、今朝の日本の新聞各紙では社説で扱っているものはなかった。
 選挙前のテロの危険性も注視されていた。労働党はイラクからの撤兵を公約としており、ちょうどスペインでの大規模テロの前夜と似た状況とも見られていたからである。テロについては、先日ジャカルタではオーストラリア大使館を狙ったと見られる爆弾事件は発生したものの、オーストラリア本土では現在のところテロはない。イラク派兵の部隊でも死傷者は出ていない。この事実は、ある意味で不思議なほどとも言えるのだが、日本も似た状況である。
 ハワード政権続投により、イラク派兵850人の駐留は継続される。当然ながら、今回のハワード陣営の勝利は、米国大統領選挙でもブッシュ陣営に好材料となる。一昨日の大統領選挙討論会でもケリー候補は米国は国際的に孤立したと主張していたが、これでオーストラリアと日本からは強い支持が得られたことになるからだ。また、健康に不安な点もあるものの、イギリスのブレア首相へも来年の総選挙について続投支援になった。日本ではあまり報道されていないが、ブレア首相はスーダン・ダルフール危機に対して、大国としては初めての要人としてスーダンを訪問しその政府に公式に圧力をかけているが、こうした活動も英国内では政局の関連と見られている。
 イラク政策以外では、ハワード政権続投により、米国としてはアジア・オセアニア地域の安全保障の政策がやりやすくなった。日本とオーストラリアという大きな拠点が維持できたからだ。すでにシンガポールには米軍を置いているように基本的に親米であり、先のインドネシア選挙でも親米的なユドヨノ政権となったことも米国には有利となる。むしろ、問題なのはマレーシアかもしれない。石油がらみでどうも奇妙な動きをしているようでもある。
 対外的には重要な意味を持つオーストラリア総選挙だったが、オーストラリア国内ではイラク問題はあまり論点とはなっていなかった。もともと英国連邦の構成員であり、最近では米国映画界でオーストラリア人の活躍が目立つように米国との関係が深い。イラク派兵だけを単独の問題としてとらえるという視点は立てづらい。
 言い方は悪いが、今回の選挙結果は保守層の最後のあがきとなる可能性もある。当初接戦も伝えられていたように、ハワード首相ひきいる与党・保守連合への批判は大きい。世代交代へ声もある。ハワード首相が65歳であるのに、労働党のレイサム党首は43歳というのは世代交代のアピールもある。さらに、オーストラリアの世代の問題には、英国連邦というオーストラリアのありかたに対する反発も強い。現状、オーストラリア国民の若い世代を中心に七割もが英国連邦からの離脱を支持している。
 現状、オーストラリアは国旗を見てもわかるが、英国連邦の構成員であり、エリザベス英女王を元首とする立憲君主制である。その意味あいは象徴的なものでしかないとはいえ、レイサム党首率いる労働党は、この体制への反発を見込んで、今回の選挙では、共和制移行の是非を問う国民投票を公約していた。
 共和制移行については、1995年の労働党政権時代、キーティング前首相が2001年までの実施を目指し、1999年に憲法改正案が国民投票にかけられたが、賛成45%、反対55%の小差で否決された経緯がある。もっとも、これは共和制のシンボルとも言える大統領選出方式を、現状に近い形で議会の3分の2の賛成で選ぶ間接選挙にしたためでもある。
 今回立憲君主制支持派で趣味はクリケットというべたな英国志向のハワード首相が続投ということで、表面的には共和国移行問題は据え置きになったかにも見えるが、10年スパンで見れば、共和国移行は避けられない。保守党側もすでにその動向は織り込んでいるが、ヘタを打つ可能性もあるだろう。
 次回以降の選挙については、オーストラリアの選挙制度が労働党に有利に作用する可能性もある。オーストラリアでは、選挙区の全候補者に有権者がお好みの順位を付けるアンケートみたいな方式になっており、第一位得点を過半数を取った候補者が当選する。過半数が得られなければ、支持されていない候補の票が対立票として二位の候補に配分される。なぜ?といった感じでもあるが、それを言うなら米国大統領選挙もけっこう奇妙なものだ。
 この選挙方式は、対立票が重要になる。そこで第三政党が注目される。オーストラリアではドイツほどではないが、緑の党の支持者も少なくないので(少なくとも米国大統領選挙でラルフネーダーを支持する人よりははるかに多い)、この傾向が今後のオーストラリアの動向の鍵を握るかもしれない。英国でもそうだが、今後、世界は二大政党化というより、キャスティング ボート(casting vote)を握る第三政党が重要になる可能性があるのだが、自らのその可能性を窒息させている某国の第三政党もある。
 経済的な不安材料もある。比較的好調な国内経済がハワード首相を支持していたともいえるが、これは世界的な低金利で行き場を失った資金がオーストラリアに流入していたとも見られる。日本は事実上のゼロ金利、米国はついこないだまで実質マイナス金利、ユーロ圏は2%程度、というなかで、豪州準備銀行(RBA)の政策金利は5.25%だった。世界経済が回復すれば金の流れが変わるだろう。

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