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2004.09.25

鼻がスっとして健康によさそうだからワサビを食べるアメリカ人

 いやあきれた、などと言っては異文化理解などできないのだが、アメリカ人は、鼻がスっとして健康によさそうだからワサビを食べるらしい。20日付ロイターヘルス"Think Wasabi Clears Your Sinuses? Think Again(ワサビで鼻がスッとすると思っているなら、考えなおせ)"(参照)を読んで、ぶっと吹いてしまった。


Many people believe the sushi-seasoner wasabi clears their sinuses, but new research presented this week suggests that the spicy green paste may do the opposite.
【試訳】
寿司の調味料であるワサビは鼻の通りを良くすると思っている人が多い。だが、今週発表された最新の調査によると、このスパイシーな緑色のペーストはその反対の効果を持つようだ(つまり、鼻が鬱血する)。

 なんだ、それ。それってシャレか。鼻がスッとするからワサビを食う、なんてこと思っているやつなんかいねーぞ…、って、これはアメリカ人の話だな。
 それにしてもあきれたなと思ったら、その先がある。あれだ、健康のためなら死んでもいい系のノリだ。

While wasabi may not work as a decongestant, previous research has suggested that it is not without other health benefits. For instance, lab research shows that wasabi may inhibit the growth of cancer cells in test tubes, prevent platelets from forming blood clots, and may even fight asthma or cavities. And, appropriately for a condiment used to season raw fish, wasabi has antimicrobial properties.
【試訳】
ワサビが鼻の鬱血解消にならないとしても、健康に悪いわけではないと示唆する研究もある。実際に人間に適用した研究結果ではないが、ワサビにはガン細胞の成長を抑制する効果や、血液サラサラ効果もあるらしい。さらに、喘息や虫歯を抑えるはたらきもありそうだ。ワサビは生魚の調味料として適切に利用さえすれば、抗菌作用もあるだ。

 おいおい。間違ってないけど、すごい違うぞ、とか言いたい。これじゃ、そのうち、ワサビのサプリメントでもできてしまいそうだ。
 それもあながち冗談でもないかもしれない。すでにインド料理のスパイスからはサプリメントができているし、ワサビというのはブロッコリやキャベツなどと近縁な植物でもあり、ファイトケミカルズ(有用植物由来化学物質)が豊富だろうというのは理解しやすい。
 ちょっと悪のりがてらに、この調査のやりかたも説明しよう。笑えるんだよ。

During the current study, Cameron and his colleagues from Kaiser Permanente Medical Center in Oakland, California asked 22 people to dissolve a lentil-sized amount of wasabi on their tongues multiple times at one-minute intervals, and then report whether the spice affected their sinuses.
【試訳】
今回の研究では、キャメロン研究員とその同僚は、レンズ豆大のすりおろしたワサビを、1分間隔で交換しては、被験者22名の舌に乗せることで、鼻腔の状態を調べた。

 想像すると、なんか喜劇のようだ。
 アメリカ人のワサビ利用には困ったもんだなというのは、現代アメリカの食をリポートした「食べるアメリカ人」でも描かれている。

 また、アメリカには独自の寿司マナーがまかりとおっており、それを高級店のカウンターでやられた日には、それこそいたたまれなくなってしまう。割り箸を割ったらまずシャッシャッとこすり合わせる、小皿にしょう油をなみなみと注ぎいれ、ワサビ(アメリカではガリと一緒に必ず山盛りで添えられてくる)をドロドロに溶く。彼らはその「ワサビ・ソイ・ソース」とも言うべき代物に寿司をどっぷりつけて食べるのだ。

 うぁぁぁ、やめてくれぇぇ。絶叫しそうだ。
 著者加藤裕子も見かねて指導したようだが、結果は、奉行ならぬ、「ワサビ・ナチ」の称号を得てしまったそうだ。そこで、これじゃだめだということで、彼女は、なぜダメなのかを合理的に説得するようになったらしい。

 そんな彼らに対抗するには、理論武装でいくしかない。「それが日本の伝統」などといった曖昧な根拠ではダメなのである。

 とは言ったものの、それはそれでいいのかもしれない。
cover
食べるアメリカ人
 カレーだって日本料理だし、アメリカの寿司がアメリカ料理であってもおかしくはない。むしろ、日本の寿司やワサビのほうが怪しいくなっているかもしれない。市販されているチューブワサビの原料の大半はホースラディッシュなのだ。だから、あれ、鴨のローストとかローストビーフにも合う。
 日本の寿司も怪しくなりつつある。シャリの握りとネタのバランスがあれ?と思うことが多い。私だけがそう思っているのかと思ったら、友里征耶ご意見番も言っていた(参照)。

 かくして、私の経験ですが、最近の若い主人の鮨屋では、「疑問な握り」に出くわす結果が多くなるのです。小ぶりなシャリを、覆い隠すようにネタで巻き囲み、ネタ毎、箸や手で摘ませる、つまり直接箸や指がシャリに触れないようにして、シャリの崩れ、つまり握りの技術のなさを隠す手法が結構とられているのではないでしょうか。

 そう思うな。
 ま、しかし、私の場合、懐具合もあって、小洒落た寿司屋にはあまり行かない。こうしたこともマーケットのニーズで各様のままでいいのかもしれない。

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2004.09.24

在外米軍の売春利用規制

 ぼんやりsalonのAPニュースを見ていると、22日付だが"Troops may be tried for using prostitutes"という物々しい見出しが気になった。ふぬけた試訳だが「米軍は売春利用で裁判を受けることになるかもしれない」ということだ。なんかまたやらかしたかとも思ったが、"may be"ということは事件でもあるまいというわけで、記事を読んでみた。ようするに、今後米兵や従軍関係者の売春利用の規制が厳しくなるから、不埒者が裁かれるかもよ、ということだ。
 同記事はワシントンポストにも"Anti-Prostitution Rule Drafted for U.S. Forces"(参照)として掲載された。こちらは「米軍向けに売春防止の規制が起案された」とわかりやすい。記事自体のアクセスは、salonと同じ標題のABC"Troops May Be Tried for Using Prostitutes"(参照)が容易だろう。冒頭はちょっと抽象的に書かれている。


U.S. troops stationed overseas could face courts-martial for patronizing prostitutes under a new regulation drafted by the Pentagon.

The move is part of a Defense Department effort to lessen the possibility that troops will contribute to human trafficking in areas near their overseas bases by seeking the services of women forced into prostitution.


 海外に派兵されている米軍兵士が現地の売春に手を出さないように規制するというのだ。そんなの当然じゃないか、今まで不十分だったのがおかしいというのが一応常識でもあるだろう。ただ、内情を少し知っている人間にしてみると、ちょっと複雑な印象も受ける。私もそのクチなので、なんで今さらという感じがした。
 記事を読み進めるとさらに違和感は深まる。

In recent years, "women and girls are being forced into prostitution for a clientele consisting largely of military services members, government contractors and international peacekeepers" in such places as South Korea and the Balkans, Rep. Christopher H. Smith (R-N.J.) said yesterday at a Capitol Hill forum on Pentagon anti-trafficking efforts.

 規制の対象者なのだが、米兵以外に軍関係者や和平監視部隊も含まれている。たしかにそこまで規制しないとザル法になる。気になるのは、"in such places as South Korea and the Balkans"、つまり、韓国とバルカン半島諸国と例が挙げられている点だ。バルカン半島諸国といえば、旧ユーゴが含まれていることからもわかるように戦地だったので想像しやすい。問題は、なぜまたここで韓国に言及されているのかということだ。記事はさらに韓国に注目して書かれている。

All new arrivals to duty in South Korea are instructed against prostitution and human trafficking, and the military is working with South Korean law enforcement agencies, he said.

 これでは、韓国で米軍相手に売春が頻繁に行われているようではないか。と、ここで失笑しない欲しい。私は本当に知らなかったのだ。それどころか、朝鮮ネタは、日本の隣国なのでどうしても話題は多くなるのだが、もう書くのはうんざりというのが正直なところだ。無意味な誤解を膨らましたくもない。
 と言いつつ、なぜ韓国?と思い、Koreaとprostitution(売春)でちょいと検索しただけでわかった。韓国では昨日から性売買特別法が施行されたのだ。先のAPニュースはこれとの関連があるのだろう。
 できるだけ邦文のほうがわかりやすいので、そうした記事として朝鮮日報「在韓米軍、基地周辺の性売買根絶へ」(参照)を引用する。

性売買女性の人権保護と性売買強要に対する処罰などを強化した性売買特別法が今月23日施行されることから、在韓米軍も基地周辺の性売買根絶に乗り出したと、星条旗新聞が21日報じた。

 米軍と韓国での売春については不要な誤解を招きかねないのでこれ以上は言及しない。
 米軍関連とは別にこの性売買特別法についてだが、かなり大規模で徹底したものになりそうだ。私の率直な印象を言えば、規制が成功すればいいだろうとは思う。
 私は、気取るわけではないが、売春には関心がない。あるとすれば、それが意外なほど経済効果を持つという点だ。そんなわけで、韓国の売春と経済の関連を少し調べたところ、中央日報「買春売春市場の規模、年間26兆ウォン」(参照)という記事があった。昨年の2月の記事なので最新ではないが、規制法以前の実態としてはそれほど違いはないだろう。

 政府が行った調査のまとめによると、韓国の買春売春産業は年間26兆ウォン(約2兆6000億円)台の規模であり、買春売買産業の専業女性がおよそ26万人にのぼる。 今回の調査は、政府が行った初の買春売春産業調査報告であり、民間団体まで含ませたケースとしても全国規模で行われた初の実態調査となる。
 26兆ウォンにのぼる買春売買産業の規模は、2001年の国内総生産(GDP)545兆ウォン(約55兆円)に比べるとき、その5%にあたる。また、専業女性数およそ26万人は、満20歳から34歳までの女性(2002年、統計庁)人口の4%にのぼる。

 ちょっと信じられない統計だなというが率直な印象だ。
 いつもながら他山の石として日本を考えるに、買春売買産業の専業女性は恐らく少ないのだろうとは思う。だが、日本はこうした問題からフリーかというと、現代日本の生活者の実感としてそうでもないようにも思う。あるいは、日本の場合、不倫がバランスしているのかもしれない。
 いずれにせよ、米軍と売春の関係については、日本の場合、過去のことしてしまうか、あるいは現在のそうした側面は十分に隠蔽できるだけの経済面での余力はあるのだろう。

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2004.09.23

ケリー陣営支援のために韓国は米国でスパイ活動をしていた

 問題がタッチーなので、エキサイトのブログニュースの一覧ですぐ釣れるような標題はできるだけ避けようとも思うが、一応事実を示す標題にはしておく。韓国政府はケリー陣営支援のために米国でスパイ活動をしていたようだ。
 それ自体の問題もだが、こうした情報がこの時期にリークされることも同等に重要な問題でもある。
 ニュースはAP系なのでブログなどの噂ではない。ざっと見た限り、私が議論の水準の目安とするニューヨークタイムズやワシントンポストでの言及はない。が、ロサンゼルスタイムズや昔から好きなサンノゼ・マーキュリーニューズ(参照)、さらにABC(参照)やNBC(参照)のニュースなどでも報道されている。英国ガーディアンではAPを引いていた。こうしたニュースのシェア状態から見て重要なニュースと言ってもいいだろう。
 真相については、APニュース以上のことはわかっていない。
 韓国側の報道は、日本語と英語で読めるものについては、朝鮮日報の英文版を除いてないようだし(参照)、この報道もAPニュースに言及し驚きの含みを持たせているという印象を出ない。韓国内での情報は今のところないようだ。
 21日付のニュースだが、ざっと見た限り、その後日本国内では報道されていない。朝鮮ワッチャーたちがどう考えているのか知りたいところだが、私は率直に言ってそこまで継続的に朝鮮問題に注視しているわけでもない。たぶん、朝鮮ワッチャーにしてみると、そんなことは旧知のこととなるかもしれない。
 私はこのニュースをsalon.comで知ったのだが、すでに述べたようにsalonの執筆ではなくAPを引いただけで、しかもsalon側での言及はない。salonは民主党寄りだが、ジャーナリズムの基本は外していない。当のAPニュース"AP: Kerry Fund-Raisers, S. Korean Spy Met"(参照)はガーディアが見やすいだろう。


AP: Kerry Fund-Raisers, S. Korean Spy Met
Tuesday September 21, 2004 7:46 PM
AP Photo NYLL106
By JOHN SOLOMON and SHARON THEIMER
Associated Press Writers
WASHINGTON (AP) - A South Korean embassy official who met with John Kerry fund-raisers to talk about creating a political group for Korean-Americans was in fact a spy for his country, raising concerns among U.S. officials that he or Seoul may have tried to influence the fall presidential election.
【試訳】
韓国・朝鮮系米人の政治団体を創立すべく、ケリー候補の選挙資金関係者と会合していた韓国大使館員の正体は自国韓国のスパイであり、その目的は、ソウルの意向として大統領選に一定の影響力を与えようと、米国政府当局内で関心を高めることだった。

 率直に言うと、私のニュースを最初に読んだとき、これを韓国の陰謀というより、ありがちなロビー活動ではないかと思った。また、当然、これはケリー陣営へのネガティブキャンペーンの一環だろうとも思った。私自身はその最初の印象をその後打ち消しているものでもない。
 この問題は、スパイ(Chung)が帰国しており、さらに真相が解明されるふうでもない。

The FBI has not begun a formal counterintelligence investigation because Chung left the United States in May, the officials said.

 また、韓国政府側としてもスパイ活動をしたことを認めてはいない。が、それはスパイ活動にとって当たり前のことなのでどうという意味もないだろう。
 APニュースは背景について次のように推測しているが、おそらくその推測は現状から見て妥当なものだろう。

South Korea has been frustrated over the deadlock in talks on North Korea's nuclear activities, while at the same facing the Bush administration's planned withdrawal of thousands of U.S. troops from the tense region. One expert said Chung's actions were consistent with Seoul's concerns with the Bush administration even if he didn't get a direct order.

 つまり、APでは、韓国は北朝鮮との核を巡る六カ国会議の行き詰まりや、在韓米軍の縮小に苛立っていることを背景として見ている。また、米側の担当者の見解として、ブッシュがこの問題に絡んでいるのではないとしても、韓国側はブッシュ政権に強い関心を寄せていることを示唆している。
 また、アメリカン・エンタプライズ研究所員ニコラス・イーバスタッド(Nicholas Eberstadt, a researcher at the American Enterprise Institute)の次の見解を掲載している。

"But, nonetheless, this sort of intervention certainly provides a faithful reflection of the general attitude of Roh Moo-hyun's administration toward the presidential race," Eberstadt said. "There's an awful lot of people in this (South Korean) government who can't stand the Bush administration and would love to see Bush lose."

 彼は、このスパイ活動は盧武鉉政権の外交を反映していると見ている。また、盧武鉉政権内にブッシュ政権を忌避し、その継続を好まない勢力があるとしている。
 私は、そうした見解があることについては、それほど驚くべきことでもないとも思う。が同時に、一国の外交がまさかそこまで画策するのだろうとは信じがたい。
 少しこの当の問題から離れたい。誤解されたくないのだが、こうしたニュースを極東ブログに書くことで、韓国を非難したり、また、ケリー陣営を貶めたいとはまるで思わない。なにより、私にはこのニュースは奇怪であり、極東情勢を知るうえでの重要性を感じることだ。そして、それが日本国内で報道されていなさそうなのも気になる。
 話は一般論的になるのだが、このニュースを聞いて、奇妙な違和感を持つのは、韓国・朝鮮系米人の国家忠誠のあり方の問題だ。この問題はさらに広義にイスラエルと在米ユダヤ人との関係でもあるのかもしれない。私の基本的な認識は、どの系統の背景をもっても所属するその現在の国家に忠誠を持つのが当然だということだ。日系二世が日本と戦ったことは日本民族の文化と倫理の誇りであると私は思う。
 韓国でもそうなのだろうと思う。が、朝鮮日報「『移民しても祖国は守る』志願入隊した海外同胞たち」(参照)は両義的なものを感じる。

 最近、プロ野球選手と芸能人の兵役逃れが巷の怒りを買っている中、幼い頃、外国に移民した海外同胞の若者が志願入隊して軍に服務していることが分かり、注目を浴びている。

 移民していても父祖の国に戻り再帰化すればその国に忠誠を誓うのは当然だ。だが、この記事のトーンは移民者にも父祖国への忠誠を説くような印象を受ける。
 この問題は難しい。だからといって見ないことにするというわけにもいかないと思う。

【追記同日】
23日付で、産経新聞「韓国 盧政権が米大統領選、干渉? ケリー陣営に要因 会談バレ、帰国」(参照)に該当ニュースがあった。

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2004.09.22

インドネシア大統領選の隠れた主役は国軍

 長期にわたったインドネシア大統領選挙だが、退役軍人のユドヨノ前調整相が、メガワティ現職を破って当確となった。今朝の主要紙社説では読売新聞「政権交代を政情安定の契機に」(参照)、日本経済新聞「民主化進展示すインドネシア大統領選」(参照)がそれぞれ特に論点もなく扱っていた。米国大統領選とは異なりそれほど日本国内では注目された選挙でもないのだろう。私自身も深く関心を持っていたわけではない。ただ、こうした日本のある種、インドネシアへの無関心はインドネシアに対する無知もあるのかもしれない。例えば「インドネシアの人口をご存じですか?」「インドネシアの宗教の人口比をご存じですか?」と問われてすっと答えられるだろうか。日経社説はそのあたりに配慮した跡が見られる。


同国は1万3000余の島々に約2億2000万人が住む世界最大のイスラム国家であり、今回は直接選挙による初めての大統領選であった。スハルト体制下の強権政治が終わりを告げてから6年、インドネシアの民主化が大きな成果をあげたと高く評価したい。

 インドネシアは人口比で見ると日本の倍ある。アメリカに匹敵する大きな国でもあり、人口では世界第四位。宗教的にはイスラム国家だが、キリスト教徒が約一割いる。ヒンズー教徒が2%弱だがこれは主に日本でも人気の高いバリ島を指しているかと思われる。だが、バリ島のヒンズー教はインドのそれとはかなり異なるので一概にヒンズー教としていいのかわからない。また印僑の人口も含まれているのかもしれない。と、外務省の資料(参照)で記憶を確かめてみて華僑が見えないことに気が付く。この問題は今日は扱わない。
 インドネシアがイスラム教国であり、昨今イスラム原理主義と見られるテロも起きているので、アラブ・イスラムと同じように誤解されるむきもあるかもしれないが、実際はかなり違う。それでも世界で最大のイスラム教国はインドネシアなのであり、日本人のイスラム教のイメージには偏向があるようにも思われる。
 今回の選挙では、会員四千万人を擁するインドネシア最大のイスラム団体ナフダトゥール・ウラマの法学者が「女性候補への投票はイスラムの教えに反するので禁止行為とする」と定めたファトワ(イスラム法見解)を出したが、さして効果があったふうもない。むしろ、ナフダトゥール・ウラマに関わる政治的な動向のほうが宗教に優先したようだ。
 またクローズアップ現代「高まるイスラム主義」(参照)でもイスラム主義として、プサントレン(イスラム寄宿学校)のキアイ(イスラム導師)の動向に焦点を当てていたが、これも大筋では失当でもあった。

 今月5日に史上初の直接選挙が行われたインドネシアの大統領選挙。その行方を左右するキーワードとして注目を集めたのが「イスラム教」。直前にメッカへの巡礼を行って敬虔なイスラム教徒としてのイメージを強調したり、副大統領候補に有力イスラム団体の幹部を抜擢し組織票を取り込もうと各候補がしのぎを削ったのである。
 背景にはこれまで穏健とされてきたインドネシアのイスラム教徒が中東情勢の影響を受け、自分達の声を政治に反映させようとしている事実がある。国民の期待を一身に担って登場したメガワティ大統領が結局暮らしを豊かにしてくれなかった失望が、より政治的なイスラムへの支持へとつながっていったのだ。
 これまでインドネシアにはなかったイスラム原理主義的な綱領を掲げる政党も登場、反米デモを繰り広げるなど急速に支持を集め始めている。変わり始めたインドネシアのイスラムの姿を、大統領選をとおして描く。

 番組は面白かったがインドネシア状勢を見る上ではずっこけていた。
 イスラム原理主義には、日本や欧米が着目するワハブ派的なもの以外に、トルコに顕著なのだが素朴な下層民の互助会的なものがある。インドネシアの構造は後に触れる軍政ともあいまって基本的に類似の構造があるのだろう。むしろ、日本はこうした素朴なイスラム教に欧米風の民主主義の接点・妥協点を見いだす先行例になればいいと思うのだが、あまりそういう見解を見かけない。ちょっとフライングだが、イラクやイランなども大衆の実態はかなりセキュラー(secular)なものなので、そうした面こそ注目すべきかもしれない。その意味で、インドネシアの動向は日本に近く経済的にも関係が深い点でより関与を深めるべきなのだろう。
 インドネシア大統領選について、欧米紙の反応の一例としては、ワシントンポスト"President Heads For Defeat in Indonesia Vote"(参照)がある。彼ららしく民主化に主眼を置くのだがあまり論点は見あたらないように思う。ユドヨノについてこう書いている点は興味深い。

Susilo Bambang Yudhoyono, 55, a retired army general with U.S. military training who portrays himself as a cautious reformer, was on track to capture about 61 percent of the vote, according to the projection.

 つまり、ユドヨノは米軍の訓練を受けていたよということで、この人は親米だろうという臭いを出している。
 ユドヨノの主要な経歴は99年に軍を退役後ワヒド政権の閣僚となり国政に関わったことだが、国際的によく非難されるインドネシア国軍の残虐的な行為には関与していない。別の言い方をすれば、国軍の権力中枢からは離れていた。その分、国民からは清廉な元軍人とも映るし、旧勢力からは危険な分子とも見られうる。
 新聞社説など日本の報道に顕著だが、今回のインドネシア大統領選について、経済と治安が焦点だったとする見解が多い。日経社説ではこうである。

 今回の大統領選挙で争点になったのは失業の増加をはじめとする経済問題とテロ対策など治安問題だった。今回の選挙結果はこうした問題に手をこまぬいてきたメガワティ大統領への批判の強さを示している。特に投票を前にして起きたオーストラリア大使館前爆破テロは、人々の不安をかき立て、同大統領の「無策」を浮き彫りにする結果となった。

 確かにそうだとも言える。インドネシア大衆の意識もそうだったのだろ。だが、おそらく最大の問題はインドネシア国軍だ。
 インドネシアの国軍というと、つい脊髄反射的に非民主化的な批判を投げかけたくなるが、私はその側面はあまり関心がない(このあたり、極東ブログのスタンスが誤解されているようだが)。むしろ、国軍が事実上の第二の国家基盤になっている点が重要だ(これはインドネシア国民には当たり前過ぎるのだろう)。
 国軍は今回の大統領選挙では驚くほど中立を守った。対外的に見る限り、国政に不干渉という印象すら与える。国軍としてはどの候補が大統領になろうがあまり関係ないと考えていたのか、本気でその分を守ろうとしていたのかわからない。後者である可能性も低くくないのは急速に進む国軍の改革でもわかる。悪名高き国会の国軍任命議席も廃止された。警察組織も分離してきている。
 だが、反面、国軍は地域ごとの軍管区を強化し、その主要ポストに軍人を配備し、さらに、このネットワークを使い、独自の収益を上げるビジネスを展開している。これが事実上、いわゆる国政側からアンタッチャブルな領域となってきている。酷い言い方をすれば、インドネシアの本体には、現状の政府が転覆してもまるで問題ないメート系のように国軍が存在している。この構造はなにもインドネシアに限ったことではないのだが、今日はそこまでは触れない。
 欧米的な考えからすればとんでもない軍政だということになるだろう。日本では反米テロのからみでチョムスキーの言及が重宝されるが、彼は私の見る限り、インドネシアの問題に同等のエネルギーを裂き、その問題に対する日本人知識人の怠慢に呆れている。
 話が存外に長くなってしまったが、今回のインドネシア大統領選はインドネシアの民主化にとって重要な一歩となるだろうし、端的に言えば、より親米的な政権となるだろうと予想される。しかし、国軍という第二のインドネシア国体の構造はより近代化を進めつつも強化される。
 それが良いことなのか悪いことなのか。私は端的にわからない。おい、オメーさんは単純な民主主義推進派じゃないのか?と問われれば、それは誤解なんですけどねとしか言えない。しかし、誤解は誤解で、多事争論の良い面でもある。少なくとも、日本人はもっとインドネシアに目を向けなくてはいけないのだから。

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2004.09.21

米国ブログが既存ジャーナリズムを叩き潰した

 おまえはなぜ極東ブログを書く?と自問。答えは、ブログがジャーナリズムを越えていくようすをいち早く見たいからだ。もうちょっと恥ずかしく書くと、米国のブロガーに負けてられねーよ、あいつらに負けたくねーよ、と。劣等感? そうかもなである。そして今、やつら(米国ブロガーズ)はやってくれたよ。既存ジャーナリズムをついにぶっ飛ばした。どこかでブログが既存ジャーナリズムを越えていく分水嶺(Watershed)を見せてくれる日が来るかと思ったが、いよいよかもしえない。ロイター"Is 'Rathergate' a Watershed Moment for U.S. Media?"(参照)を読んで嬉しいやらくそぉと思うやらである。標題を試訳すると「ラザーゲート疑惑の解決が米国メディアの流れを大きく変える分水嶺となるか」だ。


Internet bloggers have drawn blood and American journalism may never be the same.
【試訳】
インターネット・ブロガーは本気怒った。そして、アメリカのジャーナリズムはもう以前のままではいられない。

 ブロガーたちの怒りが、アメリカのジャーナリズムをもう引き戻すことができないほど、変容させたというのだ。きっかけはフジテレビではない。ラザーゲート疑惑だ。
 ラザーゲート疑惑については日本ではあまり報道されなかったようなので、簡単に予備知識をまとめておく。
 米国時間の9月9日CBSテレビの報道番組「60ミニッツ2」(れいのアブグレイブ収容所の拷問映像写真を流した番組だ)が、ブッシュ大統領の兵役に疑問を投げかけた。番組では、ブッシュ大統領はベトナム戦争徴兵を逃れるために、父親の縁故でテキサス州空軍に入隊し、さらに州兵としての兵役義務も十分に果たしていなかったのではないかとの軍歴疑惑を報道した。その際、疑惑を立証する新資料と称するメモが提示された。メモの内容は、ブッシュが州兵時代だったときの上官キリアン中佐によるものとされ、ブッシュの訓練や健康診断を免除したり、評価に手心を加えるよう上層部から圧力がかかったことを記していた。
 が、このメモがどうも胡散臭いシロモノで、ブロガーたちは即座にこの検証に取りかかり、偽物であることを証明した。
 CBS報道番組「60ミニッツ2」は、著名なダン・ラザー(72)を看板キャスターとしているのだが、今回の事件はラザーの報道姿勢への疑問も深まり、辞任問題まで巻き込んで大騒動に発展していた。ちなみに、日本でお年寄りという点でも類似の看板キャスターといったら、あ、言うまでもないですね。
 文書偽造という点からのこの話については、WIRED日本語版「ハイテクで文書偽造が容易に――『ブッシュ文書』で話題」(参照)が詳しい。

最近公開されたジョージ・W・ブッシュ米大統領に関する32年前の米州軍の覚書が、専門家がにらんでいるように『Microsoft Word』(マイクロソフト・ワード)を使って書かれたものだとすれば、それは近年の偽造の歴史上、とりわけ低いレベルの文書として際立っているということになる。複数の文書鑑定家は今週、『タイムズ・ニュー・ローマン』のフォントから上付き文字まで、時代に合っていないと思われる証拠を次々と指摘しはじめた。

 とくに、この上付文字が怪しいことから、Rathergateとも皮肉られた。

 いくつか疑問点があるなか、懐疑派はまず、この文書に上付き文字が使用されている点を指摘した。たとえば、「111th Fighter Interceptor Squadron」(第111要撃戦闘機部隊)のように、thが上付きになっている部分が2ヵ所ある。Wordのような最近のパソコン用ソフトウェアでは自動的にこのように表記するよう書式を設定できるが、伝えられるところでは、30年以上前のごく普通のタイプライターではこういう処理はできなかったという。もう1つの怪しい点は、使用されているフォントがタイムズ・ニュー・ローマン(あるいは『タイムズ・ローマン』――この2つのフォントをめぐる複雑な歴史を知っているかどうかで呼び方が異なる――になっていることと、プロポーショナル・スペーシングが行なわれていることだ(それぞれの文字の大きさによって印字幅が変わる方式で、iよりwの方が印字幅が広くなる)。
 一部のアマチュアとプロの文書鑑定家によると、フォントもプロポーショナル・スペーシングも、司令官がこの覚書を書いたとされる時代には一般に利用されていなかったものだという。

 結果はCBSダン・ラザー側の負け。余談だが、れいの人質事件のときのCD-ROMについてエンコーディングの状態がわかれば2ちゃんがもっと徹底的に解析してくれたのになともふと思った。その意味で、現状、こうした対向ジャーナリズムは日本では2ちゃんが担っている面が大きい。で、日本の場合ブロガーではなく2ちゃんがこうした役割をもつように成長するかなのだが、端的に言って、よくわからん。個人的には、私なんぞは、2ちゃんに書く気力はない。というか、掲示板だと「んだ、んだ、そーだべ」という合意になるが、今ひとつ深い切り込みができないように思う。と、2ちゃん批判じゃなーねーのでウンコ書かないでね。
 話をロイターに戻そう。

Schell and former New Republic editor Andrew Sullivan, among others, say there is a media revolution under way.

Writing in this week's Time magazine, Sullivan said, "The Web has done one revolutionary thing to journalism. It has made the price of entry into the media market minimal. In days gone by, you needed a small fortune to start up a simple magazine or newspaper. Now you need a laptop and a modem."
【試訳】
シェルとニューパブリック誌の前編集者アンドルー・サリバンなどは、こうした事態に対して、現在メディア革命が進行中だと言っている。

今週のタイム誌に寄稿したサリバンは、「ウェッブはジャーナリズムに革命をもたらした。メディアの市場において、記事も最安値となり、小雑誌や新聞を立ち上げるにごく少額の資金で済むようになった。市民が必要とするのはノートパソコンとネットの環境だけとなった」と言う。


 意訳なので、米国ではまだモデムが主流なんだよというのは省略した。

Steven Miller, who teaches broadcast journalism at New Jersey's Rutgers University, said CBS fell victim to the economics and cut throat competition in television news.
【試訳】
ニュージャージー州ラトガー大学で放送ジャーナリズムを教えているスティーブン・ミラーは、CBSはこうしたネットの経済効果のテレビニュース生存競争の犠牲となったと言う。

 ロイターとしては、ネットやジャーナリズムの経済性を基底に見ている。また、記事ではこの先、そうでもないかもぉ的な話も載せている。
 私としては、ジャーナリズム対ブログと見たいせいもあり、ちょっとフライングして書いたが、ある種の報道はブログが既存ジャーナリズムを凌駕していくことは間違いない。問題は、むしろブログの限界はなんだろうということになるようにも思える。むしろ、そのあたりが、今後の先行した課題だろう。ちょっと飛躍した言い方だが、2ちゃんねるにもけっこう欧米ニュースを読み砕く猛者がいるが、それがまだ十分に文殊の知恵に噛み合っていないようだ。日本の場合、ブログと2ちゃん的な世界がどう連携するかも今後の課題だろう。
 あと、少し言いづらいのだが、今回のラザー叩きは、ネットの世界の右傾化にも多少関係しているようにも思う。それと、右傾化とも違うのだが、ある種全体的なフレームワークというより徹底的なディテールの追及の意志がネットに感じられる。日本ではムーアの「華氏911」がさも陰謀暴きのような印象で受け止めれているようだが、米ブロガーではこれはディテールで粗悪なシロモノという評価がすでに定まっているようだ。
 ブッシュの軍歴疑惑と大統領選という文脈で、今回のCBS沈没を見るとどうなるか。
 私の印象としては、依然、ブッシュには軍歴疑惑が付きまとっているように思える。しかし、その事実性は、今回のCBS沈没のように、どうメディアやブログが受け止めるかに依存している印象を受ける。事実と報道がブログなどネットを介することで奇妙な様相になったきたようだ。なお、ブッシュの軍歴問題という点では、むなぐるま「ブッシュ大統領の軍歴疑惑(1)簡単にまとめ」(参照)がわかりやすい。
 大統領選の文脈では、テレグラフ"Blow to Kerry as CBS apologises for report on president's war record"(参照)がわかりやすい。標題を意訳すると「ブッシュ大統領へのCBSテレビの謝罪はケリー候補へのボディブローになる」といった感じか。

For supporters of Mr Bush's re-election campaign it was a glorious double triumph. Rather, 72, is a hate figure for many on the Right, where he is seen as personifying an elitist liberal bias in America's old establishment media. Also, the scandal over the CBS report has all but destroyed any chance of the Democrats exploiting the difference between Mr Bush's record on the home front and the medal-winning heroics in Vietnam of the Democratic candidate, Senator John Kerry.
【試訳】
ブッシュ陣営の再選キャンペーンにとっては、今回の事態は二重の勝利となった。右派にとっては、ラザー(72)は、嫌悪の対象であり、アメリカの保守メディアに偏見を持っていると見られている。また、このCBSの失態によって、民主党陣営は、ブッシュ軍歴疑惑と戦時勲章を持つケリー候補の差異を強調することができなくなった。

 今回の疑惑がケリー側の仕掛けだとするような話が出てくれば、民主党沈没というオクトーバーサプライズになるかもしれないが、それはないだろう。これでケリーの目は消えたかというと、これからの大統領論戦にかかっている。お楽しみは続く。引っ捕まえておいたビンラーディンが出すはまだ先のことである(これはウソ)。

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2004.09.20

イラク戦争はするべきではなかった、と、それで?

 当初Salon.comのAPニュース"Report: Blair warned of Iraq chaos in '02"(参照)で読んだのだが、英国ブレア首相はイラク戦争の開戦前に、その戦後の混乱を懸念していたようだ。


The government was accused Saturday of misleading the British public over plans for postwar Iraq after a newspaper reported that Prime Minister Tony Blair was warned a year before the invasion that postwar stability would be difficult.

 AP系以外にワシントンポスト"Paper: Blair Was Warned About Chaos in Iraq"(参照)も同じ話がある。
 元になったのはテレグラフ紙の"'Failure is not an option, but it doesn't mean they will avoid it'"(参照)だが、二次情報とは違い、なかなか含蓄が深い。

The Prime Minister knew the US President was determined to complete what one senior British official had already described as the unfinished business from his father's war against Saddam Hussein.

There was no way of stopping the Americans invading Iraq and they would expect Britain, their most loyal ally, to join them. If they didn't, the transatlantic relationship would be in tatters. But there were serious problems.


 ブレアとしてはイラク戦争後の統治の混乱を知りながら、それでも結局追米してイラク戦争に踏み出すことになった。それが以外の選択がなかったのか、あるいはブレアになにか他にできることはなかったのか。今の時点で考えればいろいろあるのかもしれない。しかし、歴史というのは、彼のような強い決断で動くものであり、動いた歴史というのは戻らないものだ。
 現状、ブレア首相は家庭的な理由や財務相との確執も噂されて、辞任するかもしれないという状況になってきた。これまで難局を間一髪で越えたブレアである。どうなるのか私には想像もつかない。が、ブレアはすごいヤツだと私は思う。ジョンブルっていうのは強いものだとも思う。
 彼の心中もよくわからない。米国は彼に名誉勲章を与えたいようだが、彼は固持している(参照)。政治の思惑もあるのだろうが、彼の栄誉は、もしそれがあるのなら、歴史が与えるものだろう。
 現在(19日)。ブレアは、来英したイラク暫定政権のアラウィ首相とロンドンで会談し、来年1月に予定されている総選挙へむけて期待を述べている。「イラク首相『選挙実施はテロに打撃』・1月実施言明」(参照)より。

会談後の記者会見でアラウィ首相は来年1月に総選挙を予定通り実施すると言明したうえで、「民主選挙が行われれば、テロリストにとって大きな打撃になる」と強調した。ブレア首相も「イラク、アフガニスタンで民主政権が樹立されることが重要」と同調した。

 国連はこの選挙の予定通りの実施に否定的だ。しかし、アフガニスタンの総選挙がうまくいけば、イラクの民主化にも弾みがつくのではないかと私は思う。そう、アフガニスタンにしてもイラクにしてもこれから、しだいに混乱は収拾して新しい民主国家になっていくのではないかと私はぼんやりと思う。それはあまりに楽観的に過ぎるかもしれないのだが。
 先日(15日)アナン国連事務総長はBBCのインタビューでイラク戦争は違法だったと述べた。よく言うよとも思う。パウエル米国務長官は、「この時点での発言としては、あまり有効とは言えない」「(この発言が)誰に利益をもたらすだろうか。我々はイラクの人々を助けるという考えの下に集うべきで、このような周辺的な問題に煩わされるべきではない」と反論した(参照)。まったくその通りだ。
 イラク状勢についてニュース報道を見ていると、日々死者の数が報告され、より混迷を深めているように見える。米兵の死者も千人を超えた。イラク人の死者は三万人くらいだろうか。酷い状態だとも言えるし、過去の戦争と比べるなら別の見解もあるかもしれない。
 朝日新聞のイラク状勢についてのサイトには米兵の死者数のグラフがある(参照)。これを見ると、主権委譲の前後に米兵の死者が多いことがわかる。米国内で主権委譲後にイラクは内乱になる可能性も見ていたのはわからないでもない。その後の経緯を見ると、報道の印象とは別に米兵の死者数の推移には突出した変化はなさそうだ。
 イラク状勢でなにかが変わっているのかもしれないという思いでいるとき、テレグラフ紙"All the good things they never tell you about today's Iraq"(参照)という皮肉の効いたコラムを読んだ。標題曰く、「現在のイラク状勢について彼らが語らない良い話」である。まず、国連を軽くいなしている。

As for Iraq, the UN system designed to constrain Saddam was instead enriching him, through the Oil-for-Food programme, and enabling him to subsidise terrorism. Given that the Oil-for-Fraud programme was run directly out of Kofi Annan's office, the Secretary-General ought to have the decency to recognise that he had his chance with Iraq, he blew it, and a period of silence from him would now be welcome.

 国連の手は汚れていたのは間違いない。

In Sudan, the civilised world is (so far) doing everything to conform with the UN charter, which means waiting till everyone's been killed and then issuing a strong statement expressing grave concern.

 スーダンについてこのブラックジョークが実現しては困る。つまり、国連憲章に則るということは…、全員が殺害された後、強い遺憾の意を表して終わり…、そうなっては本当に困る。
 本題はイラク状勢だ。

There is a problem in the Sunni Triangle and in certain Baghdad suburbs. If you look at the figures for August, over half the 71 US fatalities that month died in one province - al-Anbar, which covers much of the Sunni Triangle.

Most of the remainder were killed dispatching young Sadr's goons in Najaf or in operations against other Sunni Triangulators in Samarra, with a couple of isolated incidents in Mosul and Kirkuk. In 11 of Iraq's 18 provinces, not a single US soldier died.


 なるほど、ひどい状況もある。が、それはスンニ・トライアングルやナジャフに局限されていて、イラク全土の半数の州では米兵の死者はない。つまり、深刻な戦闘はもうないといえそうだ。

That's the way it is in Iraq. In two-thirds of the country, municipal government has been rebuilt, business is good, restaurants are open, life is as jolly as it has been in living memory. This summer the Shia province of Dhi Qar, south-east of Baghdad, held the first free elections in its history, electing secular independents and non-religious parties to its town councils.

 イラク国土の三分の二で地方選自治が回復しつつある。ビジネスも順調、レストランだって開いている。イラクにはそういう現実もある。
 戦争というのはそういう面がある。そのことは戦後の日本も知っている。
 イラク戦争は間違った戦争だったのかもしれない。でも、世界がするべきことは、パウエルが言うように、イラクが民主化の道を辿ることを支援するという以外にはない。

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2004.09.19

[書評]日本人とユダヤ人(イザヤ・ベンダサン/山本七平) Part 1

 いまさら話題にするような本でもないと思うが、先日書店を見ていたら、「日本人とユダヤ人 角川oneテーマ21」(山本七平)というのがあって驚いた。「日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条」の売れに気をよくしての企画なのだろうが、驚いたのは、著者名だ。山本七平となっていたことだ。まさかと思ってコピーライト表記を探したのだが見あたらなかった。いずれ世間的には、この本の著者は山本七平ということできまりなのだから、それでもいいのだろうし、山本七平著作についておそらく全権を持つれい子夫人もかねてよりこの主張をしていたから、そうした承認も取れているに違いない。私はというと、ミンシャ・ホーレンスキー氏かジョン・ジョセフ・ローラー氏が亡くなったのかとも思った。この話は後で触れる。

cover
日本人とユダヤ人
 「日本人とユダヤ人」はある一定以上の年代の人なら誰でも読んでいるだろう。私もなんどもなんども読み返し、先日もふと読み返したが、概ね今さら感がある。面白く読みやすい本だが今の若い人は読まないのではないか。あるいは、重要な点を読み落としてしまうのではないかとも思った。この話もあとで触れたい。
 イザヤ・ベンダサンは、これに続く著作「日本教について」で、当時の左派ライターのヒーローとも言える本多勝一の「中国の旅」が再提起した「百人切り」問題を木っ端みじんに論駁した…と私などは思った、が、左派はまったく逆の印象をもっていた。また、彼らはイザヤ・ベンダサンは山本七平であり、こいつは軍国主義者の右派だ、と決めつけて、執拗に攻撃をした。ほぉ、ここまでやるかと私は感心した。私が山本七平のファンであり「日本人とユダヤ人」を繰り返し読んでいることに対して、「あれは偽物、ウソだよ」ということで、「にせユダヤ人と日本人」(浅見定雄)を勧める人が何人かいた。ので、これも読んだ。「とんでも本」とまでは言わないし、ユダヤ教の知識はそれなりにあるのだろうと思う。だが、イザヤ・ベンダサンはラビでもなければユダヤ教研究者でもない。むしろ、マービン・トケイヤーなど、ユダヤ人は「日本人とユダヤ人」を日本人の手が入っているとは理解しつつ、ここに正確にユダヤ的な感性が含まれていることを理解しているようだ。私もフィリップ・ロスの初期短編集を読みながら、この感性は「日本人とユダヤ人」だなと思った。また、浅見定雄については桜田淳子などの統一教会騒ぎやオウム事件の一連のコメントを聞いて私はまるで関心を失った。
 私の書架には、山本七平ライブラリーの「日本人とユダヤ人」(参照)がある。また読み返してみた。私も、これを書いた山本に近い歳になったなと思った。この本を実際に執筆担当したのは山本七平だ。記述の稚拙さが微笑ましい。この本は彼が49歳のときの作品で結果的にデビュー作になったものだ。彼の出版業は三十代後半でこの歳には天職の思いがあっただろう。彼があれだけ精力的に著作を出しながら、実は著述は余暇くらいにしか思ってなかったのだろうなというのが実感としてわかる。例外はたぶん、「洪思翊中将の処刑」(参照)と「現人神の創作者たち」(参照)の二著だけだろう。
 イザヤ・ベンダサンとは誰か。執筆者は間違いなく山本七平だ。だが、彼は生前執拗なほど「私には著作権がありません」と繰り返していた。だから、著者ではない、というのだ。執筆者であることは否定しなかった。
 平成四年三月月刊誌Voice「山本七平追悼記念号」にこの裏話として山本の談話をまとめた記事がある。彼はこの本を書くころ、帝国ホテルのロビーで校正をよくやっていたらしい。彼は建築家ライトのマニアでもあった。そのころ、帝国ホテルに住み込むほどのライトマニアのジョン・ジョセフ・ローラー氏とその友人ユダヤ人ミンシャ・ホーレンスキー氏と山本の三名はライト愛好の点で意気投合したらしい。山本はこう明かしている。

 当時、帝国ホテルにはオペラ歌手の藤原義江をはじめ五、六人の住人がいた。たまに寄るホテル内のコーヒーハウスで出会ったのが、ホテルの住人ジョン・ジョセフ・ローラーと、彼の友人ミンシャ・ホーレンスキーだった。二人とも私と同様ライトマニアで、ライトマニアが三人集まっていろいろ話をしたのが『日本人とユダヤ人』のそもそもの始まりである。
 ローラーはアメリカのメリーランド大学の教授で、元来は中世英語の専門家らしいが、当時は進駐しているアメリカ人の海外大学教育のために日本に来ていた。写真は本職はだしで、座間に宿舎があるのに、帝国ホテルのあらゆる細部を写真に撮ろうとホテルに泊まり込んでいたのである。ホーレンスキーはウィーン生まれのユダヤ人で、特許かなにかの仕事をしているようだった。奥さんは日本人だった。

 ローラー教授は「日本人とユダヤ人」に大宅壮一賞が受賞されたときの代理人でもあった。この山本の打ち明け話によれば、この授賞式にホーレンスキー氏も出席していたらしい。
 その後のイザヤ・ベンダサン著作についてはこう触れている。

 イザヤ・ベンダサンの名前で四冊本を出したが、ローラーは任地が変わってからはあまり関与しなくなり、あとはホーレンスキーと私の合作という形になった。

 つまり、イザヤ・ベンダサンはブルバギ将軍のように共同執筆のペンネームであり、そのアイデアに対するオリジナリティや山本七平一人に帰するものではない。おそらく、著作権もそのような三人の合意に則っているのだろうと推測されるが、山本の死後、随分時間も経ち、なんらかの著作権整理があったのではないか。この間、山本書店の歴史書の一部が別出版社に移されていたり、息子良樹の愛着もあるからだろうと思うが、「父と息子の往復書簡―東京‐ニューヨーク」(参照)も日本経済新聞社から山本書店に移されている。この本こそは、山本七平の人生を、神が存在するなら、アブラハムを祝福したように、祝福したものである。山本はこの刷り上がりを抱いて死んだに等しい。
 「イザヤ・ベンダサン」名は端的に言って「ガルガンチュアとパンタグリュエル」のようなお下品な駄洒落であるが、発案はホーレンスキー氏であったようだ。日本語の当時の聖書風に言えばイザヤ・ベン・ダダンである。英語なら、アイザック・ベンダサンであろう。
 イザヤ・ベンダサンの主要四作が終わりかける頃だったが、山本はその当時イザヤ・ベンダサンはイギリスにいるとらしいと言っていた。これはホーレンスキー氏の所在を指していたのだろう。意外に山本七平はイザヤ・ベンサン名で書くにあたって、そのアイディアのオリジナリティに律儀にルールを持っていたようにも思われる。というのも、先のVoice「山本七平追悼記念号」収録のコンプリートかと思える著作リストから落ちているが、たしか当時の週刊誌「サンデー毎日」だったかと記憶するが、イザヤ・ベンサン名による参議院についてのエッセイがあった。その前段部分になぜこの原稿依頼を受けたのか困惑しているふうが描かれていた。そこから、山本とのやり取りでホーレンスキー氏がなにか誤解しているようすも伺える。
 と、書いていて存外に長くなってしまったので、一旦、ここで筆を置こう。この先、「日本人とユダヤ人」に隠されているもう一人のメンバーの推測と、「日本人とユダヤ人」の今日的な意味について書きたいと思っている。近日中に書かないと失念しそうだな。

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