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2004.08.28

スーダン・ダルフール虐殺問題と日本、そして日本のブロガー

 微妙な問題なのでうまく書く自信がないが、書いておく責任のようなものを少し感じている。Googleでダルフール問題を検索する結果として極東ブログが上位にヒットするからだ。理由は、おそらくこの問題を日本語でした初期メディアの一つだからだろう。
 これまで極東ブログでは次の2つの記事を書いた。


  1. スーダン・ダルフール州の民族浄化(参照
  2. スーダン虐殺は人道優先で。石油利権の話はやめとけ(参照

 どちらも英文の参照を除けば、ダルフール状勢について日本語では十分な情報は提供していない。
 その後、誰の手によるものか、Wikipediaに「ダルフール紛争」(参照)が掲載された。掲載は遅きに失する感もあるものの、概ね正しく、政治的な偏向はほとんどない。
 極東ブログが当初問題のきっかけとした国境なき医師団にもその後スーダン内戦について特殊ページができている(参照)。アムネスティジャパンも、やはり遅きに失する感もあり背景説明も不十分だが、日本語の情報を掲載しはじめた(参照)。
 ダルフール紛争がどういうものであるかは、これらのページを参照するといいだろう。
 脇道に逸れるようだが、極東ブログでは、JANJAN「アフリカのスーダン 米国が制裁!?」(参照)を批判したが、その後、JANJANではこの問題について反米的な主張は控えてきており、8月以降の記事は概ね正しい。特に、「英国外相 人道危機のダルフール視察」(参照)での次の指摘は重要だ。

 スーダン政府の取り締まりは表(国連)向きのポーズに過ぎない。現地を視察した国連のプロンクス特使は23日、「殺戮は続いている」と明らかにした。

 端的に言うのだが、スーダン政府は全然信用できない。この点を重視するのは、来月スーダン政府が日本政府に経済援助でコンタクトを取ろうとしているからだ。
 話を端折って意見が粗くなるが、日本政府は人道支援とかぬかしてスーダン政府支援をやりかねない。そんなことをすれば、この信頼できないスーダン政府によってダルフールの人々はどのようになるのか、火を見るよりも明らか、と古くさい表現で言いたい。
 スーダン政府の裏には中国がいることは、極東ブログ「スーダン虐殺は人道優先で。石油利権の話はやめとけ」(参照)で触れた。日本外交のチャイナスクールがこれに迎合しかねない怖さを感じる。
 なにより人道支援が最優先だが、この問題には、米国、中国、アラブ世界、アフリカ世界を巻き込んでいる複雑な政治背景もある。ロシア非合法組織などは、スーダン政府に武器販売を行っている。
 人道支援の邪魔になる政治要素をどのように排除したらいいのかも、問われなくてはならない。恐らくこの関連で、日本の最近の報道では、大衆興行オリンピックの陰でダルフール問題の報道はかなり抑えられている。
 活発に活動しているかに見えるイギリスもある意味でやっかいだ。端的に言ってイラク問題で失政したブレアがダルフール問題で挽回しようとしている気配がある。対フランスでの顕示もあるのかもしれない。それでも結果さえよければいいのだが、どうもバランスがおかしい印象はある。米国と国連は、これも端的に言えば、ワシントンポストがいきり立つほど、手ぬるい。
 こうした中、ブログやネット・ピープルは、ダルフール問題に活発に動き出している。そのようすは、幸いにか、極東ブログでも見ることができる。先日の8月25日は「ダルフール良心の日」への呼びかけがあった。"Sudan: Day of Conscience August 25, 2004"(参照)がそれだ。
 また昨日、"International Sudanese Peace Meetup Day"(参照)の呼びかけを受けた。イギリスのIngridさんのコメント(参照)を転載する。

Hello finalvent, I found your blog in the sidebar at Passion of the Present. Thought you might like to see a copy, here below, of a report in the Sudan Tribune today. Also, someone just emailed me to say Meetup.com is reporting September 6 is International Sudanese Peace Meetup day... I don't know if it's coordinated by another group or this is just a monthly, smaller event. I'll treat Sept 6 as a global "virtual" meetup day and aim to do a post that links to you in Japan from England and to Passion of the Present in the USA and other blogs I know of in Canada, Australia, Malaysia. What about China and Russia -- do you know of any bloggers writing about the Sudan there? If I link to you, will you know via Technorati? Seems the bloggers in Malaysia don't get the pings when I link to them. Best wishes from England, UK.

【試訳】
finalventさん、こんにちは。"Passion of the Present"のサイドバーであなたのブログのことを知りました。下にコピーしておいたのを読んでもらえると思うけど、これは今日のスーダン・トリビューンのリポートです。私にメールしてくれた人の話だと、Meetup.comが9月6日のスーダン平和の対話デーをレポートするとのこと。これが別グループとの協賛なのか月例なのかわからないけど、とりあえず9月6日を、グローバル・バーチュアル・ミートアップ・デー(世界中の人がこの件で対話する日)としたいと思います。目的は英国からあなたの国日本にメッセージを送ってリンクをつなげること。アメリカのPassion of the Presentや、私が知っているカナダ、オーストラリア、マレーシアといった国のブログにも送ります。そこで相談だけど、日本中国とロシアでスーダンについて書いているブロガーはいますか? 私があなたのブログにリンクしたら、Technorati経由でわかるでしょうか? マレーシアのブロガーは、私がリンクしてもピン(ping)が打てないらしい。ということで、イギリスからよろしく。


 参照されている記事はこうだ。
 オリジナル:http://www.sudantribune.com/article.php3?id_article=5028


TOKYO, Aug 27, 2004 (Kyodo) -- Sudanese Foreign Minister Mustafa Osman Ismail will visit Japan Sept 5-9 for talks on the conflict in the African nation's Darfur region, ministry sources said Friday.

Ismail is expected to meet with Japanese Foreign Minister Yoriko Kawaguchi on what the United Nations says is the world's worst humanitarian crisis.

The Japanese government has suspended economic assistance to Sudan since 1992 on the grounds of human rights violations by the military junta and still does not believe that circumstances warrant a resumption of such assistance, the sources said.

But Japanese officials are willing to consider emergency or other humanitarian assistance if the Sudanese government makes some progress in resolving the conflict such as disarming militias, the sources said.

There has long been tension in Darfur between Arabs and black Africans.

Tens of thousands of people have been killed and more than 1 million have been displaced since February 2003, when African rebels rose against the government, which they say is persecuting them. Arab militias also started assaulting Africans indiscriminately. [end]

【試訳】
2004年8月27日共同 --  官邸筋によると、スーダンのムスタファ・オスマン・イズメイル外相は、来る9月5日から9日にかけて、アフリカの国であるダルフール地域の紛争について対談すべく、来日するとのこと。
 イズメイル外相は、国連が言うところの世界で最も陰惨な人道危機について、日本の川口外相と対談する意向だ。
 日本政府は、スーダン軍事政権による人権侵害を理由に1992年以降経済支援を中断しており、現状でもなお支援再開の状況が整っていないと見ているとのこと。
 しかし、日本側の政府担当者たちは、スーダン政府が武装解除など紛争解決への意欲を見せれば、緊急事態として人道支援を行うことも検討しているとのこと。
 現在ダルフール地区ではアラブ人と黒人アフリカ人との間に長期にわたり緊迫した状況が続いている。
 2003年2月以来、数万人に上る人々が殺害され、100万人が避難民となっている。2003年2月とは、アフリカ人勢力がスーダン政府に対して反乱を起こした時だ。アフリカ人勢力は、政府がアフリカ人勢力を迫害していると主張している。時を同じくして、アラブ人武装勢力もアフリカ人勢力に対して無差別的な迫害をはじめた。この段落はsilvervineさんの訳を借りました。


 誤訳、つまり、私の理解が違っている点があったら指摘して欲しい。つまり、私を助けて欲しい。
 さて、ダルフール問題にどう日本のブロガーは取り組むべきだろうか。私には単純な答えはない。大筋では、日本は人道支援を優先しなくてはいけないが、現状のスーダン政府を日本は受け入れてはいけないと考える。
 日本も国連下で活動すべきだろうとは思うが、現実問題として突き詰めれば、米軍に動いてもらうしかないのではないか。

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2004.08.27

性犯罪者につける薬?

 標題は別のブログのテーマみたいだが、久しぶりにお薬系の話。ロイター・ヘルス"Anti-Addiction Drug Treats Teen Sex Offenders"(参照例)を読んでへぇと思った。標題を試訳すると「抗中毒薬が十代の性犯罪者に有効」となるだろうか。これからの社会は、性犯罪者をお薬で対処しようとする傾向が出てくるかもしれない。なお、典拠は"Journal of Clinical Psychiatry, July 2004."の"982 Naltrexone in the Treatment of Adolescent Sexual Offenders. Ralph S. Ryback "(参照)だ。
 余談めくが、"Sex Offender"に定訳語があるのかとgooの三省堂提供「EXCEED 英和辞典」や英辞郎をひくと「性犯罪者」とある。英辞郎の用例には"teen sex offender"まであったのはちょっと驚いた。翻訳の世界では定訳語化している感じがする。ついでに、日本特有の「痴漢」は英語でなんと言うのかと見ると、molesterあたりがよく出てくる。しかし、痴漢も"sex offender"だがなと思ってぐぐると「彩の国高校生英語質問箱第158号」(参照)がよかった。英作文のMLらしい。お題は、「チカンを見たら110番!」だ。そこで痴漢をこう説明している。


痴漢は、性的いたずらをする男を意味しますが、英語では男女の区別をする必要はありません。英語では“sexual offender”が適当です。なお、動詞“offend”の意味は次のようになっています。
 ・to make somebody feel upset because of something you say or do that is rude or embarrassing
この言葉を使って、次のように表現します。
 ・Call 110 to report (a) sexual offender.
看板では、不定冠詞を省略して、短くすることも可能です。複数形にしても構いません。

 ま、そういうことだ。
 話を戻して、「抗中毒薬が十代の性犯罪者に有効」だが、こうある。

Naltrexone, a drug that has been used to treat various addictions, safely controls sexual impulses and arousal in adolescent sexual offenders, new research shows.
【試訳】
各種の依存症に処方されるナルトレキソンだが、最新の研究で、青少年期の性犯罪者の性衝動や性興奮を安全に制御するのに役立つことがわかった。


Ryback states that use of naltrexone "provides a safe first step in treating adolescent sexual offenders. It is possible that the benefits observed here will generalize to the large population of non-socially deviant hypersexual patients."
【試訳】
研究者リバックによれば、ナルトレキソンの処方は、青少年期の性犯罪者に対して、安全でかつ最初に試みられる対処になるとのこと。また、同研究員は、今回の結果から、多数の反社会的な変質者に対しても効果を持つだろうと推測している。

 これを読んで私は、え?という感じがした。性犯罪者までお薬で対処、で終わりという社会になるのかと思ったからだ。
 しかし、しばし考えてみると、それが実際的ではあるのだろう。現実日本でもアメリカでも精神疾患者への対処は薬物による治療がメインだ。また、日本ではなんだかんだと実現されていないが、米国では性犯罪者については社会的に徹底的にマークすることで社会の安全を実現する方向に向かっている。このようすは、先の用語でちょっとふれた"sex offender"で検索するとわかっていただけるだろう。上位にsex offenderの検索サイトがぞろぞろ出てくる。
 それにしても、ナルトレキソン(Naltrexone:Revia)か、というのが次に私が思ったことだ。ナルトレキソンは、アヘン受容体拮抗薬としてアルコール依存症の治療薬として米国食品医薬品局に承認されている。日本での扱いはどうかとネットを見ると、意外にも、「プラセボ以上の有効性を示す証拠は認められない」とする見解が目立つ(参照)。このあたりは、どうも日本の精神医学会になにか事情がありそうだ。というのは、スタンダードな医療事典であるメルクマニュアル「第7節 精神疾患 薬物依存と嗜癖」(参照)にはこう記載されている。

もう一つの薬物、ナルトレキソンは、人々がもしそれをカウンセリングを含む包括的な治療計画の一部として用いるなら、アルコールへの依存を減らすのに役に立てる。ナルトレキソンは、脳内の特定のエンドルフィンに対するアルコールの効果を変化させることで、アルコールへの渇望と消費に関連する。ジスルフィラムと比較して大きい利点はナルトレキソンが人々の気分を悪くしないということである。しかし不利な点は、ナルトレキソン服用者は(アルコールを)飲み続けることができることである。ナルトレキソンは肝炎あるいは肝臓病がある人が服用すべきではない。

 メルクマニュアルの解説は今回の""Journal of Clinical Psychiatry"の結果を理解する上での補助にもなるだろう。つまり、性犯罪は、脳内の特定のエンドルフィンに対する効果、という可能性があるわけだ。
 もちろん、そんなことは嗜癖という点からすればあたりまえのことじゃないかとも言えるかもしれないのだが、私は嗜癖という概念はそうむやみに拡張すべきではないと考えている。逆に言えば、嗜癖についてもう少し丁寧な研究も必要だろうとは思う。というあたりで、たまたま「東京都精神医学総合研究所 - 薬物依存研究部門 - 部門業績」(参照)を見つけた。

性的障害(sexual disorder)の分類やその治療については、すでにいくつかの論文や成書が公表されており、これらの知見をもとに、議論を一歩進め、「嗜癖」の概念や視点から、様々な性障害の成因や治療について、再度捉え直しを試みた。特に、従来別個に論じられてきた、小児性愛やレイプなど「性犯罪」に類型化される逸脱行動と、「セックス嗜癖」あるいは「恋愛嗜癖」と称される逸脱行動を、統一的に理解することは可能であろうか。本論は、こうした問題意識に基づいて、様々な性障害への治療的アプローチについて、最近の動向をまとめた。その結果、Marlattらに代表される物質依存の認知療法理論や自助グループによるアプローチが、治療の現場に積極的に取り入れられ、めざましく発展している動向が判明した。

 専門家でもそういう模索が進められているのだろう。
 さて、私はこうした問題をどう考えるのか?
 もったいぶるわけではないが、ちょっと言いにくい。特に「十代の性犯罪者」というのは実はすでに日本社会にとって深刻な問題ではあるのだが、そこが踏み込みづらい。
 なんとか言える部分としては、こうした議論を社会が受け取るとき、すでに「性犯罪者」として処理済みになっているので、彼らを社会から疎外しているのだなということが気になる。そのあたりの問題意識はたぶん日本の識者にもあり、それがこの分野での薬物療法をためらわせているようにも思える。また、余談として言及した「痴漢」だが、それを結果的に許容する日本社会は、こうした性犯罪者問題の社会システム的な制御を内包していたのかもしれない。しかし、もはやそういう社会ではないことは確かだ。

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2004.08.26

中国がハイチにPKO派遣

 たぶん些細なニュースなのだろう。日本ではベタ記事も見かけない。しかし、スーダン虐殺のように、日本ではベタ記事でも海外主要紙はきちんと扱うこともある。だが、この件はそうでもない。考えようによってはニュースですらないのだろう。中国が国連PKO参加としてハイチに警察部隊を派遣した、という話だ。
 日本語版の新華社には掲載されていないが、チャイナデイリーの新華社記事"Peacekeeping riot police to leave for Haiti"(参照)には手短に掲載されている。


China's first batch of peacekeeping riot police forces is scheduled to leave for Haiti in September to carry out the United Nations peacekeeping missions, sources with the Ministry of Public Security said.

The forces consist of 125 Chinese policemen who have undergone a three-month-long special training and passed exams held by the United Nations, the ministry said.


 実際の派遣は9月になるようだ。最初の派遣とあるが、警察部隊として最初ということかもしれない。規模は小さく125名。当然、警察部隊なので治安維持が目的になる。
 ハイチになぜ治安維持が必要になるかについては、今年2月のハイチ政変が関係している。この話題は事件当時極東ブログに書こうかどうか迷って結局書かなかった。宗主国だったフランスと不法移民やアメリカの関係でいろいろと複雑な背景があるが、ここでは政変自体について簡単に言及しておこう。
 今年2月ハイチの反政府勢力が当時のアリスティド大統領退陣を求める運動を開始。これが暴動となりハイチ全土に拡大した。2月29日、武装勢力は首都に侵攻し、アリスティド大統領は国外逃亡した。なお、彼は米軍に拉致されたと証言している。この事態を受けて、国連安全保障理事会は多国籍軍派遣を決議。アメリカと元宗主国フランスからなる部隊が派遣された。結果的にこれがイラク戦争による米仏の険悪な両国関係の改善にもなっていたようだ。3月8日にはアレクサンドル暫定大統領が就任。6月2日、治安維持軍は国連部隊「国連ハイチ安定化派遣団に引き継がれた。なお、この5月に洪水があり、1000人以上の死者を出している。
 現在の維持軍の主体は南米諸国だが、これに中国も参加する運びとなったのが今回の派遣である。
 中国は今回の派遣について、内心小躍りという感じなのだろう。チャイナデイリーの先の新華社の記事ではこうある。

According to Zhou, it is an important diplomatic move to sending peacekeeping policemen for UN peacekeeping missions as it reflects the role and influence of China, a permanent member of the UN Security Council, in the international affairs.

 the role and influence of Chinaがちゃんちゃら可笑しいとは日本のサヨクさんたちとその愉快な仲間たちは思わないだろう。例えば、こんなニュースもばっちりOKなのだろう。人民網「中国民間企業、ハイチPKO部隊の装甲車を受注」(参照)より。

中国が派遣するPKO部隊や警官に最良の防弾車輌を提供するため、国連は中国で特別に公募入札を実施した。入札の結果、陝西宝鶏専用汽車公司の防弾使用装甲車「新星2002」が選ばれた。今年55歳になる陝西宝鶏専用汽車の王宝和総経理(社長)は「入札した国内企業5社のうち、4社が大企業で、当社だけが民間企業だった」と経緯を振り返る。

 そして、「今回ハイチに出発した装甲車は、海外からも約20両の注文を受けている」と誇らしげだ。でも、それってもう少しで死の商人なんだってば。
 というくだらない話はどうでもいいのだが、当然、今回の中国のPKOは台湾がらみがある。外務省の「台湾」(参照)にも「台湾と国交を有するが、中国との開係にも配慮」と指摘されているのが暗示的だ。台湾側も気が気ではない。台湾ニューズ・COM"Taiwan's Haiti embassy to monitor PRC mission"(参照)では、状況を注視している。

Taiwan's embassy in Haiti will closely monitor the actions of China's 125 riot police for a United Nations peacekeeping mission, ensuring the Chinese "do not become involved in any activities other than those they are supposed to," spokesman of the Ministry of Foreign Affairs said yesterday.

 しかし、ものは考えようで、こうして中国を国連に軍事的に貢献させ、日本もそれに巻き込んでいけば、新しい時代になるのかもしれない。
 そう思う? 私はあまりそんな気がしない。北京オリンピックを本当に見ることができるのだろうかすら、疑わしい気持ちがする。

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2004.08.25

中絶船、ポルトガルへ

 中絶関連の問題について極東ブログはぼそぼそと言及してきた。あまり関心はもたれていない。もちろん、このブログ自体もそれほど社会的な発言力を持つわけでもないし、私に明確な主張があるわけでもない。問題自体も非常にタッチーなので、最近は書くことに気後れしている。しかし、日本での情報があまりに少ないというか無視されているのかもしれないとも思うので、今回の"Women on Waves"の通称中絶船についても簡単に言及しておく。
 日本語の記事としては、CNN JAPAN「オランダの「中絶船」、ポルトガルに向け出航」(参照)が読みやすいだろう。


 オランダ・ヘルダー 中絶が厳しく制限されている国の女性達に、公海上で中絶処置を施すための船が23日、オランダの港からポルトガルに向け、出航した。ポルトガル沖の公海上に到着後、約2週間停泊し、望まない妊娠をしたポルトガル女性に対して、中絶薬の処方などを行う。
 船を派遣したのは、女性の権利向上と危険な中絶の根絶を目指す非営利組織(NPO)「ウィメン・オン・ウェーブズ」。これまでにも同様の船を、2001年にアイルランドへ、2003年にポーランドへ送り出している。

 ロイター系なのだが、対応するCNNの記事がよくわからない。ざっと見るとCNN"Abortion clinic sails to Portugal"(参照)かなという感じはする。こちらの英文記事もそれほど情報はない。
 BBC"Abortion ship sails for Portugal"(参照)もそれほど深くこの問題を扱っているわけでもない。というか、CNNもBBCも恐る恐る扱っているなという感じがする。
 日本人の感覚からすると中絶は中絶手術なのではないだろうか。日本の現場が率直なところ私にはわからない。が、CNNでもBBCでも中絶薬と書かれている。英語では"an abortion-inducing pill"だ。BBCの先のニュースではなんらかの配慮があるのだろうと思うが、掲載されている反対派の写真にきっちりRU-486(RU-666については洒落か)と書かれている。つまり、この問題はRU-486の問題でもある。この点、カトリック系の報道"Dutch abortion boat sails for Portugal"(参照)には明記されている。
 もっとも、RU-486だけの問題でもない。端的に言うのだが、こうした表立ったラディカルな行動がなくても中絶船が向かう国では事実上、国内法で禁じていても国外で中絶を実際に行っているのであり、その意味で、中絶輸出国でもある。また、当然、そうした闇の中絶によって命を落とす女性が少なくない。
cover
ピル
 RU-468もまたモーニングアフターも問題にならないかに見える日本にとって、この中絶船のニュースはやはり問題にならないのだろうとは思う。そして、この無関心は恐らく低容量ピルの問題でもあるのだろう。世界の先進国のなかでたぶん日本が突出してピルの問題が隠蔽されている。少し間違った発言かもしれないが、日本のフェミニズムにはイデオロギー的な偏向があり、この問題を正面から見据えていないようだ。それどころか結果的に政府側の協力となっている。
 なにが問題か。北村邦夫医師著「ピル」には、日本が低容量ピルを抑制している状況が対外的にどう見えるかという事例ともいることが描かれている。

 一方、人工妊娠中絶数は、ピルの使用者が減少しているときは増加し、ピルの使用が増加してときは減少を示しています。
 こうしたデータをみると、欧米における避妊にはピルが役割を確実に果たしていることがうかがえますし、日本においても、ピルの承認により若年層の人工妊娠中絶の減少が期待できます。
 そうした期待の高まる中、「産婦人科が承認を遅らせている噂がある。彼らは、確な避妊法の登場によって、中絶手術に伴う収入減を恐れているのではないか」といった質問が、外国のメディアから私に向けらることがありました。

 北村邦夫医師はその噂に否定的だが、対外的に日本がそのように見えることは確かだろう。なお、同書に指摘されていることだが、日本は先進国のなかでは中絶数が高く、しかも見えない部分も多いようだ。いずれ国際的な問題になるのだろう。見える部分だけだが、先の「ピル」にはこうある。

 世界と比較しても、わが国の全妊娠数(出生数+人工妊娠中絶数)に対する人工妊娠中絶数の割合は、九四年には二二・七%と二二・三%のスウェーデンを上回り、きわめて高い水準となっています(男女共同参画白書 平成一一年反)。

 こうした高い中絶率について、同書ではアラン・ローゼン・フィールド元コロンビア大学公衆衛生学教授は次のように言及している。

日本は政策が的を得ていないため、中絶率の最も高い国となってしまった。政治の役割は、薬剤の安全性と有効性を審査し、各個々人がそれによって自ら判断できるような情報を提供することです

 北村邦夫医師はこうした海外からの指摘を、日本では「中絶が非常に安易に選択できる国」と見えるためだとしている。確かにそうなのだろう。そしてそれゆえにRU-486も問題にはならない。
 話が逸れるが、ピル問題の背景にはさらにコンドームの問題がある。国際的にはコンドームは性病の予防具というのが常識化し避妊具でなくなりつつある。しかし、そうした国際的な常識は日本には浸透していないし、浸透する気配もない。この件について、具体的にコンドームについて思うこともあるのだが、自分自身が男性でもあり言いづらい面もある。

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2004.08.24

中国はもはや食料輸入国

 22日付のフィナンシャルタイムズに"China fears food crisis as imports hit $14bn"(参照)の記事が掲載されていて少し驚いた。話は標題からも推察がつく。試訳すると「中国は食料輸入が140億ドルに及び食料危機を恐れる」となるだろうか。従来食料輸出国と見られていた中国がついに輸入国に転じたことで、またぞろ食料危機だというのである。


China has become a net importer of farm produce, raising concerns at the highest levels of government about the security of the food supply for 1.3bn people as land and water shortages put pressure on domestic grain production.

 驚いたのは、もちろんと言うべきだと思うが、食料危機云々ではない。フィナンシャルタイムズまでそんな話を書くのかということだ。読み進むとレスターブラウンまで出てくる。呆れた。

Lester Brown, president of the Earth Policy Institute and an authority on Chinese agriculture, said recently that as well as importing wheat, Chinese would start buying foreign rice and corn in years to come. A year or two from now, he said, China might be importing “30m, 40m, 50m tonnes” of grain, more than any other country.

 レスターブラウンのこの話については、3月22日の極東ブログ「世界市場の穀物価格は急騰するか?」(参照)に書いた。現状私の考えに変わりはない。
 今回のフィナンシャルタイムズの話の元は、先日の中国の発表によるものだが、ジャーナリズム的にはチャイナデイリー"Crop trade deficit recorded for 1st time"(参照)が注目された。この記事はなかなか含蓄があるのだが、産経ビジネスiなどは浅薄に受け止めていた。ここでもレスターブラウンが出てくるのはお笑いだなと思った矢先にフィナンシャルタイムズも似たようなものだったので、驚いたという次第だ。
 統計的な状況は、産経ビジネスiの記事が邦文でもあり読みやすい。

 中国農業省によると、中国の上期の食糧輸出額は前年同期に比べ10.7%増の106億2000万ドル(約1兆1700億円)。一方、輸入額は143億5000万ドル(約1兆5800億円)で同62.5%増の大幅増となり、輸入額が輸出額を37億3000万ドル(約4100億円)上回った。
 同省統計では、昨年上期の中国の食糧貿易額は7億6000万ドル(約836億円)の黒字。通年でも95年から03年までの9年間の食糧貿易では、年平均で43億ドル(約4730億円)の黒字を記録してきた。
 今年は、上期だけでも食糧貿易額は初の赤字で、このままいけば、通年でも初めて赤字になると予想されている。

 以上は事実としていいのだが、ここから次のオチを導くのは、まいったなである。

米環境問題専門家のレスター・ブラウン氏は約10年前、中国の人口増と食糧生産の停滞から、2030年には2億トンから3億7000万トンの穀物輸入国になり、発展途上国に供給される穀物が不足し、大規模な飢餓状態が起こるなどとの予測を発表し、国際的に大きな論議を呼んだ。中国が食糧輸入国に転じれば、ブラウン氏の予測が現実になる可能性もあり、世界の食糧需給に大きな影響を与えることは必至だ。

 こんなネタから、日本の食料自給が問題なんていうトンデモ話が出てきそうな気もする。石油だの食料だのというのは、ユダヤネタにつぐばかばかしさがある。と、笑い飛ばすものの、それが笑話に過ぎないことをきちんと説明することは難しいかもしれない。
 大雑把にいえば、地球全体の農業生産力が適切に発揮されれば飢餓状態はないだろうということと、飢餓はありうるとしても、局地的に政治の不在で起こるだろうということ。なにより、中国の穀物輸入超過はたんなる経済上の問題、比較優位の問題だということだ。外貨があれば穀物を買うのは当たり前のことだ。
 が、チャイナデイリーにもあるように中国国内での穀物の絶対量の不足もある。このあたりが私の上の世代など食えない貧しさのトラウマ(心的外傷)をもっている人にはきつい。実際、政治上のへまがあれば飢餓がありえないわけでもない。
 楽観論的に言っておきながら詰めが甘くて申し訳ないのだが、まず、この「食料」の正体というか大半は「穀物」である。これは、飼料と油など加工原料だろう。そのまま食うという意味での食料ではない。そして、チャイナデイリーも指摘しているのだが、食物には畜産物も含まれている。

What Cheng reckoned as "unexpected" was the part of the deficit contributed to by trade in animal products.

China's animal products have been long regarded as advantageous in terms of export, Cheng said.

But between January and June, China exported US$1.37 billion worth of animal products and imported US$2 billion, creating a deficit of US$630 million, the customs statistics indicated.


 端的に言えば、中国人が米国などの肉を食うようになったということだ。近代化につれ、食の構造が変化したということだ。それだけのことだとも言える。
 私が気になるのは、米国風の農業、つまり遺伝子改良作物やホルモン漬け畜産といった農業が中国市場を覆うことでもない。これらはある程度しかたがない。そうではなく、自立など所詮不可能な日本の農産物に対して、日本の食文化をどう位置づけるかを模索すべき点だ。曖昧だが、日本の食文化(単にうまいものと言ってもいいだろう)それを維持するにはどうしたらいいか。当然、エコとは関係ない。むしろ文化の問題だ。
 もう一点、気になるのは、中国の農民の問題だ。米国から穀物や畜産物を輸入しなくても、その気になれば中国内で受給可能になる潜在力はあるだろう。そういかないのは農政の問題だ。稼いだ外貨でなにを買っても自由だが、中国という国は実際にはマクロ経済のモデルとなるような国家ではないのではないか。なんだか私のほうがトンデモ説のようだが、マクロ経済的に目に見える部分以外の中国が人口面では巨大であり、それはかなり決定的な社会不安の構造になっているのではないか、という懸念だ。昨今の反日運動などもそうした表出でなければいいのだが。

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2004.08.23

美浜原発事故について、今さらだが

 9日の美浜原発事故について、私は、それが原発特有の事故ではなく、火力発電所などでも起こりうる事故だと知って、まず関心を失った。近年、大工場で事故が多発しているという日本の状況に一つ事例を加えるという程度のものであり、原子力発電だからという問題ではないように思えた。その後、関西電力とその天下り先会社である日本アームのすったもんだについて、これもよくある醜い日本社会の構造だと考えた。しかし、なにか無意識にひっかかる。ので、私が常にそうするようにわかる範囲での初期報道の洗い出しをしてみたのだが、その無意識的なひっかかりはより大きくなってきている。思いと考えがまとまっていないし、この事件になにか隠された真相があると主張したいわけではない。しかし、とりあえず書いておきたい。
 無意識のひっかかりのコアは非常に単純なもので、その事故は偶然なのか、人為的なのか、ということだ。中川昭一経済産業相は12日の記者会見で事故を人災と見ている。この災害は起こるべくして起きた人災という意味で人為的ということには落ち着きそうだ。しかし、私がここで疑問に思っているのはそういう意味ではない。端的に言って、作業員がそこにいたのは偶然なのか、それとも作業員が事故の誘発になんらかの関わりがあるのか。もちろん、私は作業員にミスがあると主張したいのではない。その点は誤解無きよう。事件の大枠は明らかに人災だからである。
 毎度のことながら初動のニュースを追ってみる。事件当時の様子を記者たちはどう想像して描いているのか。読売新聞大阪「美浜原発事故 高熱蒸気、突然襲う 作業着姿で全身やけど 氷で応急処置/福井」(2004.8.10)にはこうある。


福井県美浜町の関西電力美浜原発3号機のタービン建屋内で、九日午後、二次冷却水の蒸気が噴出し、作業員四人が死亡、二人が重体、五人が重軽傷を負った事故。突然、復水配管の穴から流れ出した約140度の熱湯が蒸気となって下にいた作業員に容赦なく降り注いだ。

 蒸気が降り注いだという表現がよくわからない。熱湯が降り注いだというのなら了解しやすい。もちろん、噴出したのは常識的に考えれば蒸気ではあるのだろう。単純なところ、作業員情報から熱湯を浴びたようにも読めるが、よくわからない。同記事には次の描写もある。

 水蒸気は建屋内に充満し、火災報知機が作動。十一人のうち七人は自力で出口まで逃げたが、四人は配管近くで倒れ、耐熱服を着用した関電社員らが担架で外に運び出す。
 二階天井付近の配管に大きな穴が開いていた。配管を包む石こうボードの破片が床に飛び散り、床には熱湯がくるぶしまでたまっていたという。建屋二階は消防隊員が突入するのを躊躇(ちゅうちょ)するほどのすさまじい熱気だった。

 ここではすでに蒸気ではなく熱湯として表現されている。当然といえば当然だが、実際の被害は熱湯ではないのだろうか。
 破裂は二階天井付近ということで、たまたま被害にあったように受け止められる。しかし、勘ぐり過ぎるかもしれないが、検査作業の足組みなども設置していたのではないか。状況は単純にはわからない。
 作業員がなにをしていたかについては、大枠では次のように、検査準備であったとされている。

 作業員が所属する大阪市天王寺区の木内計測が関西電力の関連会社から請け負っているのは、タービンに付いている圧力計や温度計など計測器具の検査で、年に一度のタービンの定期検査に合わせて実施。タービンの温度が下がる今月二十日ごろから、約一か月かけて検査する予定だった。
 同社の曽我唯志・技術本部開発課長は「うちの社員は事故現場に居合わせただけと考えている。想定外の事故で筆舌につくしがたい。若狭支社(福井県小浜市)に対策本部を設け、状況把握に努める」と沈痛な面もちで語った。

 ここでもまた失礼な勘ぐりのようだが、「うちの社員は事故現場に居合わせただけと考えている。」という言明は、作業員の関わりを極力排除したいという意志が当初から明確になっていることがわかる。
 私はこの事件になにかひっかかりがあると感じた、その感覚のコアをもう一度見つめ直すのだが、そこに「絵」が見えないということがある。そして、ふと、従来の原発事故は絵(映像)として報道されていたことに気が付く。今回、事故後に撮影されたビデオが存在しているのだが、それは人道的な配慮から報道の対象にはなっていないようだ。なにより、それは事故後のビデオだ。と思いを進めるととき、なぜ事前の映像が存在しないのかと思い至る。私は無茶なことを言ってはいないと思う。関連資料をざっと見ていて、「美浜発電所だより」の「第4回アトムカップゲートボール大会を開催」(参照)にこういう記事がある。

11月9日(日)21時37分、美浜発電所2号機の調整運転中における加圧器スプレ配管ベントライン閉止栓からの水漏れに伴い点検のため原子炉を手動停止しました。
[発生状況]
 7時頃     監視カメラにてほう酸の析出を確認
 7時頃~9時頃 約4分に1滴程度の水漏れを確認
 13時     加圧器スプレ配管ベント弁のシート漏れと判断プラント停止をして点検を行うことを決定
 14時     出力降下開始
 21時37分  原子炉手動停止

 監視カメラが異常を捕らえ、それにより点検のため原子炉を手動停止したのだ。私の疑問は単純である。今回の事故現場には監視カメラはなかったのか? なかったのかもしれない。しかし、その言及は報道にはない。
 作業員はなにをしていたのだろうか。先の記事中、「タービンの温度が下がる今月二十日ごろから、約一か月かけて検査する予定だった。」とあることから、本来なら検査は、さらに10日後ではなかったのか。
 毎日新聞「美浜原発事故:配管破損、腐食が原因か」(参照)では、検査日を14日ごろとして識者から次のコメントを掲載している。

 死傷した作業員は14日から始まる予定だった定期検査の準備中だった。NPO(非営利組織)「原子力資料情報室」の伴英幸・共同代表は「検査期間を短縮し、原発の稼働率を上げるため、通常運転中に、あらかじめ準備できる作業をさせていたのだろう。安全性より経済性に軸足を置く電力会社の姿勢の表れで、原発のあり方が問われる」と指摘する。

 原子力資料情報室伴英幸共同代表の指摘は、故人平井憲夫原発被曝労働者救済センター代表の指摘を連想させる。平井憲夫は原発の点検工事をコミカルにこう描いている。

 稼動中の原発で、機械に付いている大きなネジが一本緩んだことがありました。動いている原発は放射能の量が物凄いですから、その一本のネジを締めるのに働く人三十人を用意しました。一列に並んで、ヨーイドンで七メートルくらい先にあるネジまで走って行きます。行って、一、二、三と数えるくらいで、もうアラームメーターがビーッと鳴る。中には走って行って、ネジを締めるスパナはどこにあるんだ?といったら、もう終わりの人もいる。ネジをたった一山、二山、三山締めるだけで百六十人分、金額で四百万円くらいかかりました。
 なぜ、原発を止めて修理しないのかと疑問に思われるかもしれませんが、原発を一日止めると、何億円もの損になりますから、電力会社は出来るだけ止めないのです。放射能というのは非常に危険なものですが、企業というものは、人の命よりもお金なのです。

 たしかに、原発をできるだけ止めないで点検しようとすることが問題の背景にはあったのだろう。
 しかし、それだけなのだろうか。

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2004.08.22

対馬丸メモリアルデー

 1944年の8月22日、那覇港から出た学童疎開船「対馬丸」が、鹿児島県悪石島付近で米海軍潜水艦ボーフィン号の魚雷により撃沈された。氏名判明者に限定すれば、学童775人を含む1418人の民間人がこの攻撃で殺された。僅かに59人の学童は救出された。この殺戮については日本では当時機密ということになったが、県民の多くは戦中この惨劇を知っていたようだ。
 それから60年を経た今日、この惨事を追悼すべく、那覇市若狭の遭難学童慰霊「小桜の塔」近くに「対馬丸記念館」(参照)が開館されることになった。
 なぜこれほどの惨事になったのか、なぜ米軍は民間人を大量殺戮したのか。しかし、冷徹に歴史を見ればそれほど不思議はない。当時187隻の疎開船により約8万人にもが安全に疎開できていた。また、米軍はすでに商船も攻撃対象としていた。対馬丸は商船と見られていた。
 当時、潜水艦ボーフィン号で魚雷発射任務に就いていた米海軍下士官アーサー・カーター元二等兵曹(現在84歳)は、琉球新報のインタビュー「子供乗船『知らなかった』 対馬丸攻撃の米潜水艦乗員が証言」でこう答えている(参照)。


―どのような命令を受けていたのか。
 「日本の艦船を沈めるのが私たちの任務だった。商船のように見せ掛けて軍艦かもしれないし、(商船が)燃料など軍事物資を積んでいることもある。真珠湾攻撃の後、米海軍の総司令官は米大統領と米議会の同意の下、日本、ドイツ、イタリアに対し、潜水艦による無制限の戦いを命じた。太平洋や大西洋、そのほかの指定された戦闘地域を航海しているこれら3カ国の船であれば、種類を問わず撃沈させるという意味だ。軍需物資や原料の輸送を防ぐためだった」


―対馬丸に子どもたちが乗船していたことを知っていたか。
 「戦後35年ほどたってから、誰かが書いた本で知った。罪のない子どもたちが巻き込まれたことは、かわいそうなことだと思う」
 ―知っていたらどうしたか。
 「答えるのがとても難しい質問だ。潜水艦の命令を出せるのは、たった1人の人間(艦長)で、彼の責任は重大かつストレスが重くのしかかっている。普通の人間であれば、戦争中であれ、無実の人々を殺そうと思う人はいない。私には何とも言い難い。もし、私が知っていたなら、(魚雷を)撃たなかったと思う」

 この問いかけは虚しい。戦時下で軍規に背くことはできないからだ。
 だが、カーター元二等兵曹の証言は正しいのだろうか。「ボーフィン号航海日誌」は米国立公文書館で公開されている。調査を行った保坂広志琉大法文学部教授は琉球新報「対馬丸出港前から攻撃目標に」(参照)でこう発表している。

 1944年8月18日 鳥島南西海上で哨戒。
 8月19日 粟国島北東海上を哨戒。
 午前6時 煙発見。
 午前6時38分 三隻の船団発見。2隻に接近。中型輸送船2隻、小型輸送船1隻。駆逐艦3隻。
 午前7時7分 潜望鏡で見る。目標は4000ヤード。船団は那覇港へ向け基本航路を進み続けている。追跡を続ける。しかし接近に失敗。本艦は進行角度を変更し1時間ほど作戦を続行。予想航路を計算し損ねたようだ。引き続き追跡。スクリーンには船団の存在が確認されている。再び本艦が進行角度を変更。深度のコントロールを誤る。目標の船団が進路変更。魚雷発射が不可能になる。一時は目標を撃沈する位置につけていながら、絶好の機会を逃してしまった。残念極まりない失敗。
 8月20日 伊江島西方海上を哨戒。
 8月21日 久米島北西を哨戒。
 8月22日 鳥島南海上を哨戒。
 午前4時10分 船団発見。
 (中略)
 午後8時21分 悪石島を攻撃場所と決める。
 午後9時15分 アグニ丸(対馬丸)を目標に定める。
 午後10時11分 対馬丸に魚雷命中。
 午後10時21分 対馬丸が姿を消す。ボイラーが爆発したようなこもった激しい爆発音が三度聞こえる。火災が消え、レーダーにも映らない。

 別途戦時遭難船舶遺族会が入手した米軍の無線傍受記録によれば、対馬丸含む輸送船団が中国を出発して那覇に向かっていることを米軍は事前に知っていた。那覇で民間人の大量乗船が行われたことは知り得なかっただろうか。また、記録中、対馬丸がアグニ丸とされているが、米側のコード名なのか不明だ。
 私は、歴史好きの一人としてだが、この事態にはなにか不明な点がありそうに思える。ハーグ条約の海戦法規では交戦国の非武装商船に対しては、乗員の安全を確保した上でのみ、拿捕や沈没処分が認められているが、対馬丸の攻撃では米軍はあっさりと無視している。
 近年、対馬丸が特に話題になったは、1997年12月4日のことだ。深海探査機「ドルフィン3K」が、鹿児島県悪石島北西沖約10キロの海底870mの深海に眠る対馬丸の船名の撮影に成功した。船首部に描かれた「丸馬對」の文字を示す写真は、沖縄県民に強いインパクトを与えた。そこにはっきりと幼い子供が今なおいることがわかったからだ。
 沖縄では、その後、海底に眠る約1000柱の引き揚げができないものかと政府に陳情した。が、翌年12月24日、対馬丸船体引き揚げ可能性調査検討専門家会議(座長・藤田譲東大名誉教授)は総理府で記者会見し、現在の技術水準では、引き揚げは極めて困難とする最終調査結果を発表した。
 本当だろうか。タイタニック号の沈没地点は深さ約4000mだ。一部ではあるが船体は引き揚げられた。「対馬丸引き揚げ9億円 私が見たロシア海洋研究所の実力」(参照)など引き揚げ可能とする提言もある。いずれにせよ、いつの日かこの引き揚げて沖縄の地に迎えて眠らせてあげなくてはならない。対馬丸の惨事は終わった物語ではない。
 もう一つ、残された課題があると私は思っていた。真珠湾の復讐者と渾名される潜水艦ボーフィンについてだ。
 潜水艦ボーフィンは、現在、戦艦アリゾナ、戦艦ミズーリとともに真珠湾の観光用の記念館になっている。1997年12月13日の琉球新報社説「海底の対馬丸が語る」によれば、そこでは潜水艦ボーフィンの戦果として、商船40隻と帝国海軍船籍4隻を沈没させたと説明していらしい。ばかな。学童775人の殺戮が商船というだけで終わりなのか。その愚かさかを知らしめずに、なにが反戦だと私は当時沖縄で暮らしていて思った。
 しかし、今日、ネット上の潜水艦ボーフィンのサイト(参照)を見ると、対馬丸への配慮がある。"Tsushima Maru Sinking"(参照)には学童の死者についても説明されている。沖縄の人たちの説得によるものだろうか。いずれにせよ、米国側のこうした態度は公平であり、立派だと思う。真珠湾の復讐者潜水艦ボーフィンは栄誉に浴するのではなく、罪に穢れていることを米人も知らなくてはならない。

【追記 2004.8.28】
対馬丸撃沈について重要な仮説が出された。琉球新報「対馬丸撃沈の状況検証 當間栄安さん『遭難の真相』発刊」(参照)である。正確な書籍名は対馬丸遭難の真相』(琉球新報社)。


當間さんは「ボーフィン号の乗組員は『学童がいるとは知らなかった』と話すが、約1キロの距離まで対馬丸に接近し、潜望鏡で監視している。学童の乗船を知らなかったはずがない」と話し、「戦争になれば、無差別殺りくを禁止する国際法は完全に無視されてしまう。今、米国がやっていることも60年前と同じだ。

 つまり、故意に非戦闘員、しかも、未成年を米軍は虐殺したのである。

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