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2004.12.05

中国は弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)を完成していた

 率直に言うとあまり気乗りしない話題だし、読みのスジを大きく外しているようにも思う。だが重要な問題かもしれないという印象も強い。簡単に事実関係から書いてみる。
 話は標題通り「中国は弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)を完成していた」ということだが、これは米国防総省のリークであり、しかもリーク先がワシントンタイムズなので、端的な事実とは言い難い。こういう話が米国防総省から統一教会系資本のメディアであるワシントンタイムズに流れたということがプライマリーな事実になる。
 話は、中国海軍はこの七月末までに弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)を完成していたということで、これには弾道ミサイルが搭載可能だ。実現すれば、中国は米国本土に核弾頭を落とすことができるようになり、以前のソ連に近いパワーになる。とはいえ、こうした核の軍事力は、国連の元になる連合軍だったフランスやイギリスもすでに持っているものなので、その意味では中国が持っても特段におかしいというものでもない。中国もそのつもりでいるのだろう。だが米国がそれを許すだろうか。
 ニュースのソースとしてはまずガーディアンなどに掲載されたAP系"China Launches New Class of Nuclear Sub"(参照)を先に読むといいだろう。


WASHINGTON (AP) - China has launched the first submarine in a new class of nuclear subs designed to fire intercontinental ballistic missiles, U.S. defense officials said Friday.

 元になったワシントンタイムズの記事"China tests ballistic missile submarine"(参照)はさすがに詳しい。

The new 094-class submarine was launched in late July and when fully operational in the next year or two will be the first submarine to carry the underwater-launched version of China's new DF-31 missile, according to defense officials.

 現状ではこの情報はガセの可能性もある。
 私はこれはガセではないと思う。いくつかの話がこれに集約されてくるように思えるからだ。
 話は少し迂回するが、先日の極東ブログ「中国原子力潜水艦による日本領海侵犯事件について」(参照)で私はこう書いた。

台湾をからめた軍事的な脅威となるのは、SLBM搭載原潜だ。SLBM(Submarine-Launched Ballistic Missile:潜水艦発射弾道ミサイル)は、ICBM(InterContinental Ballistic Missile:大陸間弾道ミサイル)とならんで、毛沢東政権以来中国が悲願とするもので、これがあれば、米国を直接核攻撃に晒すことさえ可能になる。以前のソ連のような軍事大国となることができるわけだ。とはいえ、旧ソ連のような軍事大国に成りたいとしてもそれがまだ無理なことくらいは中国もわかっているはずだ。いずれにせよ、同じ原子力潜水艦といっても、漢級・原潜はそれほど脅威ではない。
 今回の事件が意図的なら、中国は台湾海峡を含めて不用意な緊張を日本をからめて高めたかったことになるが、中国がそんな利益にならないことをするとは思えない。先の軍事演習も早々に引き揚げている。

 この脅威がいよいよ実現になってきた。中国は旧ソ連のような軍事大国と成る野望を持っているとみてよさそうだ。
 今回の原潜開発の話には純粋に軍事的な考察を必要とする部分があり、その部分については私は十分な知識を持っていない。だが、国際政治に反映される部分については、いくつか思うことがある。なにより、先日の中国原子力潜水艦による日本領海侵犯事件との関連があるように思える。
 先日の中国原子力潜水艦による日本領海侵犯は、沖縄で長く暮らしていた私にしてみると、現地である程度噂に聞く話でもあり、そう珍しくもない。なので、なぜ防衛庁は今回に限ってフカシているのか、と思った。ミサイル防衛(MD)を名目に防衛庁の予算が削減されるのがむかついているのだろうとも推測がつくし、それ自体は国防を担う者として当然のアクションかもしれない。極東ブログ「ミサイル防衛という白痴同盟」(参照)で触れたように、このシステムは非科学的だという理由で実用にはならない。おまけにMDにご執心のラムズフェルドはまだブッシュ政権に居座ることが決定的になった。
 このあたりから読みが陰謀論のスジに迷い込んでいるのかもしれないのだが、防衛庁のフカシは、そうした内部からの動きというわけでもなかったようだ。これもネタ元はワシントンタイムズなのでへろへろになりそうだが、中国原子力潜水艦による日本領海侵犯は完全に米軍の監視下にあった。琉球新報"中国原潜の航路、米政府が地図に"(参照)ではこうまとめている。

中国海軍所属の原子力原潜が11月初旬、石垣島と多良間島の間の日本領海を侵犯した事件について、米保守系紙「ワシントン・タイムズ」は3日、同原潜が10月下旬に浙江省寧波(ニンポー)を出港してから米側が航行を把握しており、米情報当局が地図上に航路をおとした文書をまとめたと報じた。

 中国のとんまな原潜の動向は米軍からお見通しだったのだが、それを日本の防衛庁にチクったのはそれなりの意味があったのだろう。
 というあたりで、その意味というのが、今回の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)だったのではないだろうか?
 チクったのは反ラムズフェルド派なのか? どうも陰謀論に踏み込んだ印象もあるのだが、米軍側はこれらの情報を全て持っていて、一部が特定の観点から情報を操作しているのだろう。
 脇道にそれるのかもしれないが、ミサイル防衛をめぐる防衛庁と財務省の確執と今回の新原潜の関連で、ちょっと気になることがある。財務省のサイトにある"中国の軍事力と日本の ODA"(参照・PDF、なお、ダウンロードできないかもしれない)だが、これがかなり弾道ミサイル原子力潜水艦を過小評価しているように見受けられる。

同様に、東風31号の派生型である潜水艦発射ミサイル巨浪2号(JL-2)も問題をかかえている。すなわち、これを16基搭載する新型ミサイル原潜(タイプ094)の開発である。すでに述べたように、中国は夏級ミサイル原潜の開発に事実上失敗している。タイプ094は、ロシアの技術を導入し、夏級と比べて格段に進歩したミサイル原潜となるはずであるといわれるが、現時点においても、その建造にかかわる信頼すべき情報はない。かりに今年から建造を開始したとしても、建造・儀装に3~4年を要し、訓練航海さらには巨浪2型ミサイルの水中発射実験を行わなければならず、配備できるのは早くても2008年以降のこととなろう。まして戦力として運用するとなれば、最低でも2隻、できれば4~8隻を保有する必要がある。それが可能になるとしても、実現するのは2010年でも早すぎる。

 今回のリーク報道をベースにすれば、この見積もりがくるう。この見解について財務省と防衛庁になんらかの駆け引きがあるのだろうか。
 話を戻し、今回の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN-Type094)だが、弾道ミサイルとしては射程距離8000kmのJL-2(巨浪-2)が搭載されることになりそうだ。米本土を狙うなら当たり前のようだが、現実問題としてそんな軍事力で中国が米国と対峙するとも思えない。
 話を端折って乱暴に書くことになるのだが、こうした軍事力は米国本土を攻撃するという用途ではなく、台湾を米国が保護するのを断念させるための示威なのではないか。
 非核兵器による台湾海峡を挟んでの戦闘はまだ十分に台湾に余力があり、中国の追い上げもなんとか台湾はかわせるだろう。とすれば、そこに中国の勝ち目はない。だったら米国という脚立を外してやれというのが中国の思惑なのではないか。そう思える。
 ストーリーとしては、米国対中国という対立の枠組みが唯一の可能性ではない。台湾を両国で潰してそれからデタントに持ち込んでもいい。米仏のような関係が米中に築けないわけもない。その場合、日本は蚊帳の外でいいし、米軍の手足となっていればいいだろう…それも平和ってやつか。
 私の本心ではそんなストーリーでいいわけがないと思う。ただ、この話はあまりに不確定な要素が多いのであまりマジに頭を突っ込みたいとは思わない。が、しばしこの関連は注視しておく必要はあるだろう。

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コメント

最近ネットで話題の財務省主計官片山さつき女史の「潜水艦なんて時代遅れなものは必要ないわ」発言も、この確執に絡んでるんでしょうねえ。
このZAKZAKの記事もリークっぽいし。
http://www.zakzak.co.jp/top/2004_12/t2004120323.html

投稿: Baatarism | 2004.12.05 14:05

はじめまして。いつも読ませていただいてます。
冷戦時代、ソ連のSSBNには出港時からアメリカ海軍の原潜の尾行がついていたといわれています。新型とはいえ少数のSSBNで、長年培ってきたASW能力を持つアメリカの外交の態度を変えることができるのでしょうか?ソ連にとっての北極海なりバルト海なりといったSSBNの聖域が、中国のSSBNにあるのか分からないし、いまいち中国のSSBNのプレゼンスって不明確だと個人的には思うんですよね。

投稿: ウイングバック | 2004.12.05 20:09

こんなのがありました。ちょっとデムパ系かも知れませんが。
http://melma.com/mag/56/m00000256/a00000924.html
http://melma.com/mag/56/m00000256/a00000927.html

投稿: 通りすが(ry | 2004.12.05 23:33

"launched" だから、進水したという話ですね。実際に竣工してオペレーショナルになるには、まだ時間がかかるでしょう。
それに、実働態勢に入っても、1 隻だけでは常時オン・ステーションはできなくて、せめて同型艦が 4-5 隻は要ります。おまけに、聖域になるような海域もなく、米海軍の SSN につけ回されるのは必至。

だから、戦力としての有効性には疑問符が付くのですが、SSBN 戦力の充実を図るという "意思" は、甘く見ることはできないでしょう。それはすなわち、中国が世界の大国として君臨していくのだという意思表示でもあるわけですから。

投稿: 井上 | 2004.12.06 00:07

通りすがりさん、
おもしろいものを読ませていただきました。ご案内の論考がデンパというより、「東アジア共同体」なるものが強力にデンパじゃないかと思いました。デンパってまさにこういうのに使うんだなと妙に感心します。

投稿: Soreda | 2004.12.06 13:16

>>soreda様

結構強烈な表現がありましたが「国際派日本人養成講座」さんを
デンパと言ってしまったのは失礼だったかな、と思い直しました。
こないだテレビでも塩爺さんが「東アジア共同体」を推進しておられましたが
その評議会の会長が中曽根さんですから、またなんとも、、
と言った感じでしょうか。
本当に共栄圏構想を引きずってるんでしょうかね。

あと、女性天皇容認論への疑問というのも興味深かったです。
http://melma.com/mag/56/m00000256/a00000929.html

投稿: 通りすがり | 2004.12.07 23:31

保守派の中でも、戦前の大陸ロマンを引きずっている旧世代と、
中韓の反日主義や覇権志向を危険視する新世代では、考え方が
かなり違いますね。
今後は左右対立ではなく、左派、旧保守派、新保守派の鼎立状況
になるのかもしれませんね。

投稿: Baatarism | 2004.12.08 09:03

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