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2004.12.22

米国は台湾への軍事支援を強化してきている

 昨日VOAのニュースを見ていたら、アメリカ政府は現在台湾の台北に派遣している防衛エキスパートのシビリアン(非軍属)を、今後現役将校に据え換える、とあり、ぎょっとした。単純に考えると、台湾への軍事支援を明白に強化するように思えたからだ。VOAのニュースは"US Reported Ready to Station Military Officers in Taipei"(参照)である。
 この手のニュースは日本国内では報道されないだろうかと気になったが、その後、ロイター系で報道され、おそらくそれを引いた共同系の"米、現役将校を台湾派遣か 断交後初と英軍事誌"(参照)でベタ記事に近い扱いで報道された。主要紙では毎日新聞が台北特派員の記事として、"米が将校配属か 英誌報道、断交後初めて"(参照)の記事を出したが、内容を読むに、「台湾当地の新聞では」と切り出すものの、その文面はロイター系の報道とほぼ同じなので、現地取材の利点は活かせてないようだ。これに対して、冒頭のVOAは北京特派員による取材情報が含まれている。
 事態の概要を知るべく共同系のニュースから引用する。


 20日付の台湾各紙は22日発売の英軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリー最新号の報道として、米国の現役将校が来年、米国の台湾代表部に当たる米国在台協会台北事務所に配属されると報じた。

 また、その意味として、共同系はこうまとめている。

ここ数年来の中国の軍事的脅威拡大を懸念している米当局が台湾との軍事関係強化に向け、政策転換したとみられるとしている。

 さらっと書いているがここ、つまり「米当局が台湾との軍事関係強化に向け、政策転換した」がこのニュースのキモでもある。
 同記事では、さらに、現在台湾が対中防衛力強化に向け、米国から約2兆円もの武器購入決めているため、その調達を担当するとしている。VOAもそのスジでの解説もしているのだが、それだけなら、シビリアンでも問題はないだろう。むしろ、武器の技術的な調整などは製造に関わるシビリアンでも詳しいはずだ。
 今回のニュースの元ネタは英誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリー」だがこのサイトから該当記事はオンラインでは読めないようだった。また、この事実関係について他のソースからは裏は取れていない。追記同日:ATIからアナウンスがあり確認された。
 Google Newsを使って、このニュースの国際的な反響を見たのだが、日本国内とは違いベタ記事扱いとはいかなようだ。AsiaNews"US military staff to be stationed in Taipei after 25 years"(参照)ではVOAよりも政治面に踏み込んでいた。

According to the magazine, the change reflects “growing concern in Washington over China's military ambitions in the region” and should become effective by mid-2005 when military officers are expected to take up their posts at the American Institute in Taiwan, the de facto US diplomatic mission in Taipei.

 中台の軍事バランスが数年以内に転換するため、それを機に中国が突発的な軍事行動に出ないようにという米国の思惑があるらしい。

 US Congress in 2002 passed a bill allowing for the posting of military staff in Taiwan if it was deemed to be “in the national interest of the United States.”

 米国下院では今回の件はすでに承認済みとのことだ。ここで米国の国益とやらが出てくるのが、難しい。この点、先のVOAでは台湾法について簡単に補足している。

The United States remains one of Taiwan's key allies and the leading source of its military hardware. It is also obliged by law to come to Taiwan's defense if it is attacked.

 台湾が攻撃を受ければ米国が乗り出すのは同盟に関わることなのだが、このあたりは日本人で知らない人がまれにいる。
 ニュースとしては以上なのだが、「ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリー」の記事を書いたWendell Minnickについては、Asia Pacific Media Servicesというサイトで近年のエッセイをまとめて読むことができるので、今回の報道との関連あるかとざっと見渡した。うかつにも驚くべきものがあった。
 なかでも、今年の4月の記事だが"The year to fear for Taiwan: 2006"(参照)では、中国軍がどのように台湾を軍事侵略をするかについてのシナリオが掲載されていた。あくまで軍事的な意味しかないのだろうが、読んでいて私などには空恐ろしいものであった。
 軍事シナリオに加え、軍事的な政策面で、ある意味では当たり前なのだが、興味深い指摘もあった。特にハワイのPACOM(US Pacific Command)の意義だ。

PACOM argues that the move is in response to North Korea, but others are suggesting that Taiwan is the basis of much of the move. This is a common theme in US military planning in Asia: the overt reason used is North Korea, but the covert one is Taiwan. Guam is now being considered for possible placement of an aircraft-carrier strike group to be moved from Hawaii.

 つまり、表向きには対北朝鮮シフトということにしているが、実際には台湾問題のためにある。"the overt reason used is North Korea, but the covert one is Taiwan"という表現に含蓄があるのだが、このあたり、私の印象ではどうも日本のマスメディアや一部の大衆感情は北朝鮮という餌に踊らされているようにも思える。
 それにしても、そこまでして台湾に米国が入れ込むメリットはなにかがやはり問われうるだろう。この点についても同エッセイは踏み込んでいる。

Why is Taiwan worth fighting for?
To anyone who looks at a map of the region, the reasons are obvious. Taiwan's strategic location makes it extremely valuable. The Taiwan Strait is a critical sea lane, and taking Taiwan would allow China to choke off international commercial shipping, especially oil, to Japan and South Korea, should it ever decide to do so. In addition, Taiwan serves as a vital window for US intelligence collection. Taiwan's National Security Bureau and the US National Security Agency jointly run a Signal Intelligence facility on Yangmingshan Mountain just north of Taipei (see Spook Mountain: How US spies on China, March 6, 2003). Taiwan's inclusion into China's military power structure would be unthinkable for Japan.

 「理由は明白でしょう("the reasons are obvious")」というところに、私など沖縄にいたころ米人と話したことを思い出す。彼らは在沖米軍基地についてよくそう答えた。
 ここでは、台湾海峡が封鎖されれば、日本と韓国が封鎖されますよ、特に、石油が断たれますよ("choke off international commercial shipping, especially oil")と触れている。日本には単純にぞっとする話が、冷静に考えれば、そのことがどれだけ米国にとって重要性を持つことなのだろうかとも疑問に思う。米国にとってみれば、日韓が事実上滅んでも、中国がその代替となるというシナリオだってありうるかもしれない。
 考えてみれば、イラク戦争も大儀なき戦争と言われ、確かに理想の国連を中核に据えた国際秩序を考えればそのとおりなのだが、現実の国連は理想とはほど遠いうえに、自由経済の重要な象徴ともなっている石油取引を保護するという理由はあった。
 日本は国際的な自由経済が保証されなければ存続できない。そして、台湾問題は日本の存続が米国にどのような意義を持つのかとい問いにも関連しているようだ。

【追記同日】
その後、北京政府側から米国への公式な非難コメントがあった。また、AIT側も今回のシフトは、台湾への米国の軍事政策変更ではないとの旨ものアナウンスもあった。ので、逆にこのニュースは公式に事実と確認もできた。

China Opposes US Military Presence in Taiwan参照

The Chinese Foreign Ministry says the U.S. policy threatens to destabilize cross-strait relations.

Foreign Ministry spokesman Liu Jianchao criticized Washington's plans in a news briefing Tuesday.

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「時事」カテゴリの記事

コメント

「沖縄米軍基地問題解決へのシナリオ」(小川和久氏)の6ページ目にあるような、
日本にある米海軍燃料貯蔵施設のためということはないでしょうか?
www.tokai.ac.jp/spirit/shuppan/HS01/01_03.pdf
(アメリカ国内を除くと?)かなり大規模なものが
いくつか日本にあるようですし。

投稿: ひが | 2004.12.22 09:52

ひがさん、こんにちは。その件については私もわかりません。ただ、大筋で、補給というより、米軍が日本に求めているのは知的な能力、特に、メンテナンスやパーツ製造の能力のようには思われます。つまり、日本の技術力を米軍の下部ユニットに組み込みたいのでは、と。

投稿: finalvent | 2004.12.22 10:23

>台湾海峡が封鎖されれば、日本と韓国が封鎖されますよ、特に、石油が断たれますよ>
これはかなり前から在日台湾人が言っていたことて゛すね。別に新しいことではないです。

投稿: (anonymous) | 2004.12.22 13:15

JDWの抄訳はこちらで読めますよ。
http://www.kojii.net/jdw/index.html
現在、12/8の週の分まで掲載されています。

>メンテナンスやパーツ製造の能力のようには思われます。つまり、日本の技術力を米軍の下部ユニットに組み込みたいのでは、と。

この点は江畑謙介氏も「日本の安全保障」(講談社現代新書)の中で指摘していましたね。

投稿: だい | 2004.12.22 18:36

>メンテナンスやパーツ製造の能力のようには思われます。つまり、日本の技術力を米軍の下部ユニットに組み込みたいのでは、と。

それは以前からの流れですが、他にも自衛隊の能力が高い対潜能力などを利用したいのではないでしょうか。潜水艦対策は米国が最重視する内容ですし。イージス艦もそうですが、抑止に資する能力は積極的に協力していきたいというシンプルな要求にも思えます。そして長期で見るなら、米英同盟への接近は日米双方で意図しているのでは。

そして台湾ですが、日本が少子化による経済の沈滞を緩和する策として数少ない有効な方法は、台湾とのFTAではないでしょうか。少なからぬ日本の政治勢力は台湾独立を画策しているようにも思えます。

投稿: カワセミ | 2004.12.23 00:53

>日本が少子化による経済の沈滞を緩和する策として
>数少ない有効な方法は、台湾とのFTA

 う~ん。どうなんでしょうか?人口ピラミッド的には日本と大差ないような気がするのですが。。

 どういった観点から有効とお考えなのでしょうか、お教え願えませんか?

投稿: ひろ | 2004.12.23 01:35

オーストラリアを守る為ではないですか?
日本、台湾を中国側へと走らせる訳にはいかない理由は。
フィリピン、インドネシア、マレーシアは何れも華僑が経済の実権を握っている国で、彼らと中国が結びついたら太平洋のパワーバランスはひっくりかえります。
中国は今でもオーストラリア、カナダへ大量の移民を送り込んでいますね。

投稿: (anonymous) | 2004.12.23 04:08

台湾の起業家は中国本土に巨大な投資をしているから、表立って中国を刺激したくはないはずです。
逆に現在海外交渉用カードに乏しい米政府は中国/台湾を極力対立させたいんじゃないですか。
地域内カウンターバランス駆使ってのは米国のお家芸でしょう。ただその時の短期読みで行動するから後始末がやっかいですがね。

あと、
>現実の国連は理想とはほど遠い

国連理想主義=日本の外交だったですが(これは冗談)、
拒否権乱用、支払い拒否等々で国連を現在の形にした張本人は誰か?と問いたい気分です。

投稿: ねこ仏少年 | 2004.12.23 07:26

将棋と同じでとられたら相手の手駒になりますから・・・。
台湾を失うことは、人民共和国の戦略原潜が安全・自由に太平洋へ出て行く出撃口を与えることですし、対米戦争用の軍事力の量と質の向上には属国化した日・台・韓の旧三カ国をしゃぶれば殆ど無尽蔵の拡大が可能でしょう。
こうなればアメリカの国防の最前線は西海岸になります。(ハワイは無力な孤立した拠点)
玉の廻りが真っ赤な成金や桂馬で固められて、身動きとれないのですから終わりですね、このゲーム。
三カ国を売っての中国との取引、という戦略をとれば、格下のパートナーを育てたつもりが、自分が従僕に格下げされた愚かな男の物語になる、と保守派米国人が考えているのではないでしょうか。

投稿: uo | 2004.12.23 08:04

地政学的には、海洋国家と大陸国家は対立するのが当然。

日台比ラインが崩壊すると、中国が太平洋に簡単に出てくる。そうするとアメリカは、太平洋上で中国海軍と対峙ってことになって、日本との太平洋戦争の悪夢が甦る。日本には物資の欠如で勝てたものの、中国は物資が豊富で、人海戦術が可能なわけで、アメリカとしては回避したい。

それに日本にしたって、輸送に関して言えば海上輸送が90%を超えるわけで、日台比ラインの崩壊は、中国海軍による日本封鎖を意味する。潜水艦で輸送船を狙い撃ちすれば良いだけだし、日本にしてみれば護衛艦を付けるとなるとコスト高で悲鳴をあげざるを得ない。

中古の護衛艦の輸出って話が出てくるのも、防衛費の削減対策だけでなく、おそらくは購入国に護衛艦の運用を指導するという名目で、日本との軍事同盟を前提とした何かがあると考えるのが正しいと思ったり。

>日本の技術力を米軍の下部ユニットに組み込みたい

これはクリントン政権時代に、日本再占領が検討された。結論は、アメリカの軍事技術には日本の技術が不可欠なので、日本再占領は困難であり事実上不可能であるというもの。これをベースに考えれば、当然の帰結でしょう。

ちなみにこの検討では、北朝鮮が暴発した場合、以上の理由と国力から、韓国は見捨てるが、日本は復興させるというものだった。

これは在日米軍が週刊誌にリークした話だったかと。

投稿: chi | 2004.12.23 08:50

>The year to fear for Taiwan: 2006"

何度も読み返しましたが、言ってしまえば「中国にとってベストのシナリオ」。
1、何度も読み返したが、どうしたら対岸に集結させた中国の上陸部隊をアメリカの諜報網に引っ掛からないようにできるのか記述していない。アメリカはここまで入れ込んでいる以上、電子偵察機から攻撃型潜水艦、偵察衛星にいたるまで諜報活動の最重要地点の一つのはずである。その目をかいくぐれるとは思えない。

2、上陸作戦において最大のアキレス腱になりうるのが補給である。もしアメリカ海軍が台湾海峡の逆封鎖に成功してしまえば、上陸した最精鋭部隊といえどもガダルカナルの再現でしかない。この部分についてもこの識者は全く論及が無い。

投稿: F.Nakajima | 2004.12.23 13:34

工業国として日本は孤立性が高いのですが、先進国として様々な産業をフルセットで維持するのは人口一億人が必要という説があります。そして近年の競争の激しさはそのボーダーを上げたのではないかという意見があります。アメリカの有利さや、EUの統合の強化、近年の日本の沈滞を考えればこの説が符合している可能性があります。

台湾とのFTAは他国とのFTAとは違い、統合度が比較的高いものになるでしょう。EUのように擬似的に国内市場を拡大する要素があります。そして現在日本国内に有効な投資先は少ないですが、台湾の場合まだ成長余地があります。とにかく必要なのは雇用であり、経済成長率そのものですので。

ただこれが適切な政策かというと議論の余地はあるでしょう。しかし、意図している人々は存在していると思います。大声では言わないことですが。

投稿: カワセミ | 2004.12.23 21:31

台湾の成長余地ですか。。

う~む。対岸に工場一杯建ててる国ですが。。

似たもの同士くっついてもなぁと思ってしまうわけです。現状認識甘いかなぁ。

投稿: ひろ | 2004.12.23 23:49

件の元記事を見てみました。台湾との関係強化がどうとかいうのとは別の問題があったようですね。
従来、台湾で軍事関連の仕事を担当しているオフィスには、契約した民間人を派遣していたそうで、軍人や政府職員の場合は、いったん退職して民間人にしてから派遣したそうです。ただ、仕事の担当分野をめぐってもめたり、他の仕事の高給につられて契約期間を満了せずに辞めちゃう奴が結構いた、という事情があった模様。

「現役軍人を派遣することで、民間人よりコストダウンになって云々」とあったのには苦笑しましたけど、それは結果で、動機ではないでしょう。

投稿: 井上 | 2004.12.25 20:08

どうも、中国にとっての台湾は、戦前の日本にとっての満州と同じような位置づけにあるのではないかと思ってしまいます。
そうでも考えないと、中国があれほどまでに台湾問題に固執する気持ちが理解できません。
この思いが外れてるといいんだけどなあ。

投稿: Baatarism | 2004.12.26 00:33

この手の議論を読んでて、いつも不思議に思うんですけど、もし米中間で戦争になって通常兵器のみの戦いでどっちが勝つとかいってても結局核兵器を使用したらそういう議論って無意味なんじゃないですかね。まぁそうなるまでには外交の駆け引きとか、経済問題とか、局地的な紛争とかいろいろあるんでしょうけど。

投稿: 加藤 | 2004.12.26 19:07

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