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2004.12.31

奈良小1女児殺害事件、容疑者逮捕雑感

 奈良小1女児殺害事件の容疑者として男36歳が逮捕された。共犯の可能性についてはわからないものの、公開されている情報から普通に判断してこの男が犯人だろうと確信させるものがある。昨日のこのブログでこの事件について書いているときに、事情聴取が始まったものの、書き出したときはこの事件の解決も年を越してしまうかもしれないと懸念した。まずはよかったとは言える。今後、事件の全容が明らかになるのだろうが、現時点で残る奇妙な後味のようなものを記しておきたい。
 逮捕報道は一定の時間を取りながら昨日じわじわと進行した。当初は犯人の名前が出てこないようであったり、報道機関によっては名前の公開に時間差があることから、なにか裏があるのではとも思ったが、最終的には犯人名は公開された。報道機関にある種の逡巡があったようには思う。私が思ったのは、犯人が毎日新聞の配達員ということで多少なりとも報道機関に関わっていること、また、後でふれるつもりだがミーガン法への世論の配慮があったのではないだろうか。
 逮捕報道に併行して、2ちゃんねるなどでもちょっとした「祭」が進行した。こういう事件では現地ならではの空気というものがあり、そのタレコミでもないかとざっと見回した。気になったのは、二階堂コムというサイトの記事、"貴様ら!俺の言うことを聞いてみませんか?"(参照)というコーナーの【12/6(月) 3:30】という日付入りの項目だ。そこにタレコミ投稿の情報と思われるものがあり、犯人の住所として「奈良県生駒郡三郷町城山台」という記載があった。旧地名であることに奇妙な印象があるし、結果として、三郷町はまではあたりとしても、総じて言えば、このタレコミは外していた。
 後から考えると、容疑者には前歴があり、この手の犯罪は再犯を繰り返すということから、警察では早々に目ぼしを付けていたと思われるし、昨日の逮捕劇も年内決着を図るという政治面があっただろうと思う。それにしても、タレコミ的な空気は漏れていなかったのだろうか。このことに私がこだわるのも後でふれるつもりだがミーガン法との関連だ。
 当事者と言ってもいいと思うが今回の事件に関連する毎日新聞の対応は面白かった。21日付けの記事"奈良・女児誘拐殺人 事件受け、配達中に防犯パト--新聞販売店の代表ら /奈良"(参照)では、今回の事件について新聞配達員に防犯パトロールを指示しているということが誇らしげなトーンで書かれている。


 この日は県支部幹事の福井隆輝・毎日新聞二上販売店主ら5人が出席。不審者を見かけたら積極的に警察に通報することなどを約束した後、プレートの見本を山崎勝洋・県警生活安全部長に手渡した。
 山崎部長は「夕刊の配達は、児童の下校時間と重なることもあり、大いに期待している」と語った。

 おそらく毎日新聞内部ではタレコミなり予想は立っていなかったのだろう。警察のこのときの心境は、昨今の流行語でいえばビミョ~だ。
 2ちゃんねるなどでは毎日新聞へのツッコミ的な発言もいくつか見られたが、今朝の毎日新聞の記事"奈良女児誘拐殺害:「携帯画像入手」と自慢 小林容疑者"(参照)はなかなか含蓄がある。すでに容疑者と毎日新聞記者とは面識があった。記事では記者としての限界を率直に吐露している。

県警が絞り込んだ地域をよく知る販売所従業員として、直接取材した本紙記者もその弁舌にだまされた。


 翌14日夜。もしかしたら携帯の履歴に例の画像の発信元が残っているかもしれない。記者がそう思い電話で問い合わせたところ、小林容疑者は「履歴は消した」と返答。むきになったような答え方に不自然さも感じた。
 ただ、質問にはっきりと答える小林容疑者に、後ろめたさは感じ取れなかった。「ごめんな、情報小出しで」。むしろ取材に協力する姿勢すら見せた。だが今から考えると、こうした口のうまさが子どもまでをだまし、誘拐できた理由なのかもしれない。

 記者に刑事コロンボ並の優れた勘があれば、こいつはおかしいと思ったに違いない。それこそが記者の能力だからだ。だが、率直に言ってそれを新聞記者に求めるのは現代では無理なようにも思う。また、この記事を公開した毎日新聞の姿勢は好意的に受け止めていい。
 ここでちょっとしきりのまとめだが、ようするにタレコミ的な空気はなかったのではないだろうか、ということだ。
 新聞配達員という点に視点を移す。
 今回の事件で、市井の人なら新聞配達員ということがかなりひっかると思う。端的にいえば、かなり多くの人が新聞配達員・新聞勧誘員に嫌な思いをした経験があるだろう。ひどい言い方だが端的に言えば、「ああいう人たちならやりかねない」といった感じだろうか。恐らく新聞社の側もそのことを理解していると思われる。新聞は表向きでは正義をたれているがそのエリートの裏のゼニの収拾部分には事実上日本の闇に隣接するようなシステムを基礎としている。
 今回の容疑者は、逮捕時には毎日新聞の配達をしていたが、この業界はそれほど新聞社のカラーが強くあるというものでもない。彼は他紙も配達していた経歴があるらしい。朝日新聞"奈良の容疑者、新聞販売所転々 ASA解雇、再雇用断る"(参照)にはこうある。

 小林薫容疑者(36)は高校卒業後、新聞各社の販売所などを転々とした。00年には朝日新聞の販売所(ASA)に勤めたことがあったが、5カ月後に解雇されていた。
 小林容疑者は00年3月、奈良市にある朝日新聞の販売所に採用されたが、同7月、「勤務態度が悪い」(朝日新聞大阪本社広報部)として解雇された。今年春ごろにも、同じ販売所の関係者に「雇ってくれないか」と電話があったが、店側は過去の経緯から断った。

 私は新聞の宅配制度は不要だとは思うが、反面、新聞配達員が日本社会において、ある意味でセイフティーネットの役割をしていることは重要な意味があると考えている。今回の事件で、新聞配達員が社会的に敵視されないような環境を整備していくことは新聞社の急務だろうし、その手は進められているのだろうが、これらは今後も報道面では見られないだろう。
 話が存外に長くなり、ミーガン法について触れる気力がなくなってきたが、こうした性犯罪者は統計的に見て再犯の可能性が高い。今回の容疑者も再犯だった。なので、社会を守るという点から、米国ではこうした犯罪者を社会に公開するというミーガン法がある。解説記事としては"ミーガン法 - マルチメディア/インターネット事典"(参照)がいいだろう。
 日本でもこの事件をきっかけにミーガン法的な規制を求める声は高くなっていくだろうと思われる。そうした声をすでに先読みして、今朝の朝日新聞社説"女児誘拐犯――性犯罪から子供を守れ"(参照)では防戦的な修辞を繰り出している。

 英国では、子どもを狙った性犯罪の前歴を持つ者は、地元の警察署に住所を登録するよう法律で義務づけている。再犯の恐れのある前歴者に無線標識をつけて監視する対策まで検討された。
 人権に絡む問題だけに慎重さは必要だが、子どもの人権もまた十分に擁護されなければならないのだ。

 米国に触れず、また、人権を説いて現状では深入りしないというのは北朝鮮をテーマにするときも同じ朝日新聞らしい筆法である。だが、朝日新聞だけではなく、対極と見られることが多い産経新聞も社説"奈良女児殺害 凶悪犯逮捕が最大の防犯"(参照)で類似の見解を出している。

 米国や英国では、地域により再犯の恐れが強い性的異常者については、顔写真や住所を公表している所もある。わが国も犯罪防止の観点から、このような制度を取り入れるかどうか、その是非を真剣に論議したい。

 産経新聞では人権云々といった対応はないものの、トーンとしては曖昧だし、ミーガン法というキーワードもなければそれによって引き起こされた問題への配慮もない。確かに社説のなかで扱い切れない問題ではあるのだろうが、いずれそこに踏み込まなければならなくなるだろう。
 ところで、今日は大晦日である。日本もカウントダウンには花火でも上げるようになったのかな。いずれ、一つの年の区切りのように思える。しかし、こういう問題が来年の日本社会に、貫く棒の如きものとして続いていくのだろう。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

天漢日乗の以前の記事で、ロリ犯罪者が新聞配達・集金員の立場を悪用してターゲットとなる子供を物色しているという書き込みが掲示板にあったという話が、紹介されていました。
http://d.hatena.ne.jp/iori3/20041123

この犯人が被害者の家の集金や配達をしたことがあったのか、もししていた場合マスコミはそれを報じるのかが気になりますね。

投稿: Baatarism | 2004.12.31 10:20

産経新聞の報道によると、犯人は被害者の自宅近くの新聞販売店に勤務したことがあったそうです。
http://www.sankei.co.jp/news/morning/31iti002.htm

犯罪者に新聞宅配制度を悪用させないため、新聞社は少なくとも集金人による集金はやめて、他の公共料金のように銀行やカード、コンビニなどの振り込みによる集金に移行すべきだと思います。

投稿: Baatarism | 2004.12.31 10:46

たしか今年の司法試験の憲法論文問題ではミーガン法まで立ち入らないものの、こういう処置は合憲か違憲かを問うたものでした。ですので、それなりに法曹関係者の内では、導入についてもかなりつっこんだ議論が行われていると思います。

投稿: ペペロンチーノ | 2004.12.31 12:20

平成16年司法試験論文【憲 法】第1問
13歳未満の子供の親権者が請求した場合には,国は,子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者で,請求者の居住する市町村内に住むものの氏名,住所及び顔写真を,請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定されたとする。この法律に含まれる憲法上の問題点を論ぜよ。
(出題趣旨)
 前科に関する情報を公表されない個人の利益と子供の安全のためにその情報を得る利益が対抗関係に立つような法律が成立したと仮定して,当該法律の憲法上の問題点につき,それぞれの利益の性質やその重要性等を踏まえながら,その立法目的や具体的な利益調整手段の在り方を論理的に思考する能力を問うものである。

投稿: (anonymous) | 2004.12.31 12:34

>新聞社は少なくとも集金人による集金はやめて、他の公共料金のように銀行やカード、コンビニなどの振り込みによる集金に移行すべきだと思います。
個人的には全くその通りだと思いますが、fainalventさんのいう通り、社会底辺の受け皿的要素を持っている部分でもあるので、何らかの受け皿を他に用意し、徐々に切り替えていくというところが必要かと思います。おそらく以前の日本社会であれば、地域社会の監視の目が今回のような犯罪を防ぐ装置として機能していたと思いますが、そういった装置がほぼ失われてしまった現在においては米国社会のようにミーガン法が必要となる時期が来たのかも知れません。それにしても、報道内容が真実を必ずしも伝えているとは限りませんが、容疑者は最近まで捜査線上にあがっていなかったという記事がありました。これが本当ならば彼は過去の犯罪歴からマークされなかったということになるので、こういった犯罪歴のデータベースの運用自体に問題点を感じます。

投稿: kh0705 | 2004.12.31 15:35

>県警が絞り込んだ地域をよく知る販売所従業員として、直接取材した本紙記者もその弁舌にだまされた。

これ、ウソじゃないかと思うんですが。
例の男は同様の前科2つ持ってる男だし、当然当初から警察の最重要マーク対象になっていたはず。何週間か前の週刊文春に既にそれとなく載っていたくらいだから、新聞記者が知らない訳がない。

この男について掴めないようなら、毎日は、一課担から現場担当に至るまでマヌケ揃いということになってしまう。そもそも、県警キャップが県警幹部ときちんとした関係を作れていれば、逮捕前にそれとなく耳打ちはしてもらえるはず(キャップってのは、そういう関係を作るのが一番重要な仕事です)。毎日は、逮捕状請求をいち早く事前に知っていたと考えるのが妥当ではないでしょうか。

結局、トボケて見せることで、降りかかってくる批判を避けたかったんじゃないですかね?

かつて事件記者だった1リーマンより。

投稿: 何かなぁ・・・。 | 2004.12.31 20:30

私個人が知人から見聞きした所、地域の方では薄々情報が流れていたらしく、それをネットが拾い上げられるかどうかという機能の問題なのかなと思います。
この業界の方で携帯電話を使った個人記者構想でより既存メディアよりも早い情報性をもったメディアをネット上に構築できるのではと発送し実行しようとしている人が少なからずいるけど、自分で情報を捏造している構ってちゃんでヤクザのパシリの二階堂は論外として、2ちゃんねるやそれに類する情報集積基地が意図した通りの情報が集積される機能を持ちえているかと言うと、そんな事は無いわけで。
既存メディアとネットへのタレコミにおいて、その情報がどの経路で集積され、情報を必要としている人間に配分されるかということと、タレコミの空気が無いということは一概にはリンクしないのではと。
タレコミを有益な情報源と位置づけた場合の、その伝播に関わる構造的欠陥が未だ残っているだけということもあり、必ずしも一定の配慮やブレーキがだけが作用したとは言いがたいなぁと。

投稿: (anonymous) | 2005.01.01 20:47

日本では犯罪者は過去を隠して生活しており、性犯罪者住所の住民への通告が日本で導入されれば仕事や住居の確保が極めて困難になり性犯罪者にとって「生き地獄」になる可能性が高いと思います。人権という考えは経験の積み重ねの上で成り立っており、その中には過酷な状況の中の人間は何をするか判らないというものもあります。住民への通告を求めている人は、そのことの性犯罪者への影響を本当に考えているのでしょうか?彼らが過酷な状況に耐えられず暴発してもそれを止める術は親には無いのです。抑止効果なら警察への住所登録で十分だと思います。

投稿: うし | 2005.01.02 11:04

↑の暴発というのは、追い詰められて結局再犯、
という解釈でよろしいでしょうか?

しかし「生き地獄」を見るのは被害者も同じで、
自殺が2割という数字を聞くと、何ともやりきれないものを感じます。

投稿: (anonymous) | 2005.01.04 21:26

でも、その再犯は創られた再犯ですがね。

まあ、犯罪を犯す役割の者を固定化するのは、
一種の抑止力にもなりますが。

投稿: (anonymous) | 2005.01.05 17:11

日本でもミーガン法必要です。
日本は子供の保護がアメリカほど法的に守られていない。アメリカでは小学生以下の子供を保護者なしに留守番させるだけで親が逮捕される。日本はインターネットでもロリコンネットや裏ビデオなど子供でも見放題で野放し状態の国。教育もジェンダーフリーとやらでフリーセックスを勧めている。そんな危ない国にはせめてインターネットで危険人物の所在を知らせるネットワークを作って親へ警鐘を鳴らして欲しい。

投稿: (anonymous) | 2005.01.06 14:28

この事件がきっかけでミーガン法が急に取り上げられるようになりましたが、その割にミーガン法自体に関する議論が行われていないような気がします(感情論が選考している感じ)。
議論のたたき台として結構よくまとまっているサイトを見つけたのでこちらでも紹介しておきます。
http://macska.org/meg/index.html

投稿: エフ | 2005.01.09 00:02

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