ブレア首相曰く「ヘリコプター買いまへんかぁ」
30日朝のNHKラジオで大統領専用ヘリコプター選定の話をワシントン油井秀樹記者(ワシントン)が伝えていた。話を聞きながら、半年くらい前だったか、いくらブレアが熱心にブッシュにヘリコプターを売り込んでも必ずしもブッシュ再選とはならんかもよ、とかちょっと思っていたことを思い出した。そして、そうかぁブッシュは再選したのだよな、と奇妙に物思いにふけった。
この話、他のソースではどうかなとざっとネットを見渡してみた。NHKの話は大筋でTampa Bay Business Jounarnal"Helicopter decision up in the air -- again"(参照)などにもある。これがそのままネタ元というわけでもないのだろうが、なるほど話題にはなっていたようだ。他にも、この話題は米国内の地元産業のありかたにも関連しているらしく、地域的な観点でも語られているようだ。
日本国内ではどうかなと思ったら、「突撃隊員休憩所」というブログの"大統領専用ヘリで相手を落としあい?"(参照)というエントリにあった。ネタ元は書いてないが、内容とスジがNHKラジオとほとんど同じだったので、書き起こしてまとめたのだろうかとも思った。いずれにせよ、そういう話だ。
NHKでの話を簡単にまとめるとこうなる。米国海兵隊が運用している大統領専用ヘリコプター、通称「マリーンワン」(参照)が老朽化し機種変更ということになっているのだが、選定に当たっては、従来から利用されているシコルスキー(参照)に加え、ロッキードマーチン、ベル、アグスタ・ウェストランド三社共同による別機種US101が候補となっている。危機感を覚えたシコルスキーは、自社がオールアメリカンの製品だと愛国心に呼びかけているのだが、社の所在がケリー陣営の強いコネチカット州だったことから、ブッシュ陣営が嫌うのではないかという噂もあるらしい。他方、US101のグループは受注が決まれば製造拠点の大半を米国に移すとしている。現在、選定は紛糾し、結論は1か月後に伸ばされるとのことだ。
NHKでの話にはないがシコルスキー社創設のシコルスキーについてはWikipediaの該当項目が詳しい(参照)。
イゴール・シコルスキー(Igor Ivanovich Sikorsky, 1889年5月25日 - 1972年10月26日)はロシアのキエフ生まれで、後にアメリカに亡命した、航空のパイオニアの1人で、4発の大型機の開発、近代的なヘリコプターの開発をおこなった。
ロシアのキエフでいいのかよというツッコミをちょっと入れておくにしても、なかなか興味深い現代アメリカ史の一面である。この時代の亡命ロシア人というと私の好きなラフマニノフ(1873-1943)を思い出すが、米国で活躍した時代はかなり違うということになる。
余談めくが、Wikipedeiaは軍事情報が充実してきており、自衛隊の兵器一覧(参照)も非常に参考になる。ここのヘリコプターの項目からもリンクのあるUH-60 ブラックホーク(参照)はシコルスキー社製で関連情報を読んでいただければ、日本とシコルスキー社の関係の深さも理解しやすい。また、これらには記載されていないが、シコルスキー社が今回オールアメリカン(純米国製)を標榜しているわりに、部品の一部は日本で製造されているので、ようはアメリカで組み立てているというに過ぎない。当たり前といえば当たり前なのだが、そうした点で見ればUS101と大差はないということにもなるだろう。経済活動とはそういうものだ。
今回の選定はその単に米国の地場産業に影響するという以上に、国際的なヘリコプター産業全体にも影響があるらしい。英国側の報道なので話半分ということかもしれないが、11月21日タイムス紙"PM wants British helicopters on White House lawn"(参照)では、その意義を強調している。
Some industry analysts believe the Pentagon deal is big enough to decide the future of the world helicopter industry. “Whichever company loses it will find it very difficult to compete in this medium-to-large military helicopter market,” said one analyst. George David, the no-nonsense chief executive of United Technologies, Sikorsky’s parent, has no doubt about its importance: “It’s win or drop dead,” he said.
さて、どういう選定になるのか。純粋に軍事的な観点から選択されるのか(恐らく軍人はシコルスキーを好むだろうと思うが)、政治がらみがあるのか。そのあたりをいろいろ考えてみるのだが、政治がらみというスジではないかと思う。
関連して先のタイムス紙はこう締めていた。
Whitehall officials have also written to the Bush administration putting forward the case for Westland. Both the White House and Downing Street refused to comment on the bid last week, because it was “a commercial matter”.
英国ブレア必死の要請にブッシュが応えるという構図になるのではないだろうか。
なお、US101は三社開発とはいえ、実際はアグスタ・ウェストランド社(参照)のEH101をちょこっと変更したものだ。日本では丸紅エアロスペースが扱っている(参照)。
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コメント
実は、この Marine One を選定する VXX 計画の結果が、空軍が計画している救難ヘリの機種選定なんかにも影響すると見られているのです。VXX だけなら大した機数じゃないんですが、他の米軍向けヘリ調達計画にも波及する可能性が大なので、そこんところでメーカーの力の入り方が違ってきているんですね。
すでに積み上げられた実績ということになると、US101 に目があるんじゃないかと私は睨んでいるのですが。
ちなみに、ベースになった EH101 は、日本でもシコルスキー製 MH-53E の代替機として海自が入れることになってますね。
投稿: 井上 | 2004.12.02 15:11