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2004.12.03

欧州連合(EU)の軍隊が始動する

 昨日2日、ボスニア・ヘルツェゴビナの治安維持活動が、北大西洋条約機構(NATO)の平和安定化部隊(SFOR:Stabilisation Force)から、新設の欧州連合(EU)の和平維持軍(EUFOR:EU Force)へ移譲された。つまり、EUの軍隊が本格的に稼働を始めた。予定されていたことなので、驚きということはないのだが、実際にEUの旗のもとに軍事力が行使されるのは感慨深い。というより、私は大事件なのだと思う。
 正確に言えば、EUは昨年マケドニアやコンゴに部隊派遣をしているので今回が初めての軍事活動というわけではない。なお、EU軍という呼称は従来欧州のNATO軍や米軍を指していることもあり、EUFORとしたほうがいいのかもしれない。
 例によってこの話は日本国内ではベタ記事扱いなのだが、そんなことぼやくのはもはや無駄だろう。この問題には、恐らく現在のウクライナ騒動も関連している根の深いものもありそうだが、今日は自分の実時間をそれほどにはブログに裂けないこともあり、雑駁に思うことを記しておきたい。というか、私の間違いなり、補足なりについて、トラックバックやりコメントをいただけたらと思う。
 日本語で読める記事としてはCNNジャパン"サラエボの和平維持活動、EUが指揮権引き継ぐ"(参照)がある。


 今年、加盟25カ国に拡大したEUは、米軍とは一定の距離を置いた、域内の軍事協力態勢の強化を図っているが、今回の指揮権しょう握もその一環となっている。EUには、ボスニア内戦を初期段階で終息させることが出来なかった苦い経験もある。
 AP通信によると、指揮権の委譲で、現在駐とんする米軍兵士1000人以上が、英軍少将が指揮官のEU和平維持軍と交代する。ただ、NATO軍は全面撤退せず、一部が残留しボスニア政府の戦犯追跡作戦などを側面支援する。米兵約150人もとどまる。

 他の英文のニュースをざっと見てもEU側の軍事力については明示的には書かれていないが、交代ということなので現状の千人規模とみてよさそうだ。この規模が今後のEU軍の活動単位になるのだろう。読売新聞"EU戦闘部隊創設へ 20か国参加、紛争地域に緊急展開"(2004.11.23)にはこうある。

欧州連合(EU)は二十二日、外相・国防相合同会議をブリュッセルで開き、英仏独三か国が提唱した、緊急介入のための千五百人規模の「EU戦闘部隊(バトルグループ)」創設に、加盟二十五か国中、二十か国が参加することで合意した。当初は英仏独を中心とする数か国の参加と見られたが、結局、大勢が参加することになった。

 ここで正確に見ていく必要があるのだが、今回のボスニア・ヘルツェゴビナの治安維持活動はピースキーピングであるのに対して、この報道はバトルグループと性格が違う。だから、同等に議論してはいけないのだろう。が、それでも、千人から千五百人の規模がユニットなって構成されるとはいえるだろう。後に触れたいと思うのだが、日本の自衛隊の場合、大枠ではペースキーピングとはいえEUFORとかかなり性格が異なるうえ、バトルグループは存在しえない。また、イラクの場合は、600人規模であり、端的に言えば、軍事的には「使えねー」、というのが国際的な評価だろう。
 先の記事の続きではEU戦闘部隊の構想が言及されているが、ようは、この部隊はEUの行政部から指示があれば10日以内に該当地域に展開し、そのまま30日間の作戦能力を持つとされている。スケジュール的には2005年までに英仏伊が初期作戦用にそれぞれ1500人の部隊をもち、2007年には完全な作戦の遂行ができるようにということになる。
 話を端折るが、EUつまり事実上フランスの指揮下で現在の米軍規模の軍事活動が展開できるというのだ。余談だが12月2日はフランスではボナパルト祭になっているのだが、その盛り上がりは私などにはフランスは醜悪な幻想を持っているような印象をうける(偏見だろうとは思う)。
 当然、疑問が浮かぶ。米国がそれを許すのか? また、英国はNATOなのかEUFORなのか?
 ここれは大きな問題で考察を要するのだが、後の課題としたい。いずれ米国の対応の動きはある、としか思えない。
 EUFORでの英国軍の役割もだが、この軍に参加しているのはEUだけではない。なぜ?とつぶやきたくなるのだが。ロイター"EU force takes over Bosnia role"(参照)では端的に以下の事実を示唆している。

EUFOR's troops come from 22 EU member states and 11 other countries, including Canada, Chile and Morocco.

 つまり、カナダ、チリ、モロッコがEUFORに参加している。日本では意外と知らない人がいるのだが、カナダは米国の隣国なのだが米国主導の有志連合によるイラク戦争に荷担していない。このことでカナダと米国はある意味かなり険悪になっている。また、チリでは先日の米大統領訪問に関連してこれも日本ではあまり報道されなかったが、些細とはいえ反米騒動があった。米大統領が暗殺されても不思議でもないような状況とも言えた。と、明らかにこの枠組みは反米的に出来ている。
 日本は追米だから問題外、としてのんきでいていいのかもしれないが、端的に言って、日本の昨今の自衛隊イラク派遣延期問題の新聞社レベルの議論はかなりピンボケしている。話を端折るとまずい面もあるのだが、オランダの撤退を英米で埋め合わせるというのは具体的な状況における戦略の問題(軍事的な問題)なので政治と混同すべきではないが、オランダとしては、単純に言えば、今回の撤退は米国への義理を果たしたしEUとのつき合いもあるし、なにより、仏独への皮肉でもある。なんだかんだといってもイラクは復興せざるをえないし、それには国連なりが主導するということになる。となると、実際にはこれに仏独が関わらざるをえない。米国の始めた戦争でしょとはさすがにここに来て言えるわけもない。
 アフガニスタンの場合はNATOが機能したが、これにEUFORが当たるのか、というと、そういう話は私は聞かない。どうなるのだろうか?
 話が散漫だが、こうした動向に、また、こうした新しい世界の枠組みのなかで、日本はただ追米でいいのかも当然議論されなくてはならない。余談めく話ではあるが、今回のEUFORの派遣にあたり、ノルウェーでは憲法議論が起きている。EUFORへの参加が憲法違反ではないかというのだ。"Controversy over Norwegian EU force"(参照)をひく。

There is a majority in Parliament in favour of sending a Norwegian contingent to the new EU security force.

However, the move may not be compatible with the Norwegian Constitution, according to legal experts.


 国内法によって対外的な軍事活動を忌避する国があってもいいとは思うし、まさに日本は現行憲法下では、その先頭でなくてはならない。それで国内的にはイラク派遣にすったもんだしてきたわけだが、現在、EUが独自の軍隊をもって活動し、その規模がEUの枠を越えるにあたり、日本は従来のような古い世界観だけではいられないだろう。
 端的なところ、国連を介在した平和への貢献はもう不可能なのか。そして、有志連合というのが、対EU軍という性格を帯びてきたとき、日本はどうするというのだろうか。

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コメント

初めまして。いつも興味深く拝読させていただいています。

薄々感じてはいたんですが、やはり今後の世界の覇権争いは米国対欧州という構図に変わって行くのでしょうか。
そうなるとロシアと中国の動向が注目されますが、そのあたりの枠組みがどうなるにせよ、日本は近い将来渦中に置かれることになりそうな気がしてなりません。北朝鮮、イラク、中露との領土問題etcといった外交問題も、大局を見据えた判断を日本政府にはお願いしたいものです・・・

なんていうのはちと想像が先走りしすぎかもしれませんが。

投稿: mayumayupuu | 2004.12.03 17:40

ねこ仏老人です、どもです。ひとことだけ書きます。

>余談だが12月2日はフランスではボナパルト祭になっているのだが、その盛り上がりは私などにはフランスは醜悪な幻想を持っているような印象をうける(偏見だろうとは思う)。

12月2日は確かにボナパルトが自己戴冠式なるものを行った日なんですけれども、“ボナパルト祭”なるものは長年こっちにすんでる私でも今年初めてTVで紹介されてて始めて知りました。正確に言うと老年者のナポレオンヲタが何人か集まってそれらしい格好で戴冠式を真似るという、きわめてほほえましいというかアナクロな集いであったようです。ちなみに何日か前には多数イギリス人がワーテルローに集まってかの決戦を再現してみると言うのもTVで紹介されていました(もちろんこの場合、ナポに扮するのもイギリスのヲタ氏)。

バスティーユ陥落の日(日本ではパリ祭)は国家挙げての祭日ですが、それとは意味合いはまったく違うと思います。
ナポレオンに対する評価はフランスでも五分五分でしょう。(私は嫌いですがね)

まあ、“偏見”があったとすればfinalvent氏に届いたニュースソース製作者に“責”はあるんじゃあないでしょうか。たとえばそれがイギリス発信であれば仏英愛憎関係の(犬も食わない夫婦喧嘩的)お笑い度が分らないとヤバイ場合があります。

ネットだけ見ていても自分には実際の日本での空気は嗅ぎ取れないように、報道なり本なり論文なり読んだだけでは(その作成者の視点・意図のせいばかりではなく)実際の情況は分りにくいと思います。あとこれ、自分に言いかせる台詞なんですが《ヒトは対象に自分の見たいものしか見ないんだよ》ということもあります。

投稿: ねこ仏少年 | 2004.12.04 02:40

ものすごくピンポイントな話なのですが、ねこ仏少年さんに触発されて書くことにしました。

確かにUSA・カナダ間は仲が良いとは言えない関係で、先日ブッシュ大統領がカナダを訪れた際には、CNNなんかは時間的にはかなりの長さで延々デモの様子を中継し、レポーターやらキャスターもわりと辛気臭い顔をして伝えていました。
「USA・カナダ間ってそんなに緊張してんのかな?(orこれからそうなるの?)」
と落ち着かない気分でいたところ、カナダ在住の方のブログで、訪問時、ブッシュ大統領もマーチン首相も、手堅く、余裕を持ってお仕事をしていたらしいとのこと。

(ただ、デモの人数はUSAのテレビ映像を観る限りでは「数百人くらいしかいないんじゃないの?」という感じでしたが、実際は1000人とも5000人とも言われ、そのブログの方は「万単位かも」と書かれていました。CNNの報道は微妙に気を使った結果なのか・・・・・・?)

お隣関係の国同士ですから、反発する気分があったり、「いやいや仲良くやらねば」という気分があったり、抱える感情とその振れ幅(緊張の高低)のデフォルトみたいなものがあるのかと。海を隔てた日本ですらも、中国や韓国(この際北朝鮮は外しておきますが)に対して、複雑な感情が渦巻いていることですし。
今回は振れ方向は「高」の方で、デフォルトの範囲内では最大限に高まった(でも高まったのは主にUSA側)ようですが、今のところは大丈夫そうです。
(その後のテレビニュースを見る限り。)

あ、でも確かにブッシュ大統領の暗殺計画はあったそうです。が、企図していたとのはコロンビアの組織でした。(これはFOXのニュースより)

参考までに・・・・・・。

投稿: 西方の人 | 2004.12.04 07:14

 EU軍に対して米国は静観すると考えます。その理由にシラク仏大統領が提唱した時、クリントン政権は、反対の意向をしめしましたが、現政権はどうぞご自由にという態度をとっているからで、その裏には、本当にまともに活動できるのかという考えがあるからです。
 それともう一つ、米軍はEUと一緒に行動は嫌がっています。その理由としては、コソボ紛争の時、米軍は介入していますが、その時に、進みすぎた米軍の兵器とEU軍との近代化の差があり、面倒であった事、EU自身が官僚主義で動きが遅い事等であります。米国は、米軍がなくしてまともに國際紛争が解決出来るのかと考えているのでしょう。

投稿: 恩田 | 2004.12.05 01:52

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