スーハ・アラファト(Suha Arafat)
スーハ・アラファト(Suha Arafat)、41歳(参照)。パレスチナ自治政府議長ヤセル・アラファト(Yasir Arafat)の妻。夫のヤセル・アラファトは75歳だから、歳の差は34歳。ちなみに私は47歳なので同差の女性を娶るとすれば13歳。ヨセフが娶ったマリアが15歳だったともいうから中近東的には無理がないかもしれないが、日本に住んでいるとそれは無理。いや、もう10年くらいは無理というべきか。日本でも加山雄三の父上原謙は73歳のときに37歳年下の大林雅美と結婚している。このとき大林は36歳。ちょっと歳食い過ぎて悪知恵付き過ぎかなと世間が予想していた展開にその後なった。スーハ・アラファトもスケールが違うが似たような展開になりつつある。
ヤセル・アラファト(以下アラファト)とスーハが結婚したのは1990年。当時、妻スーハは28歳になったばかり。アラファトは62歳。ちなみに私の父は62歳で死んだので私もそのくらい生きたらいいやと思っているのだが、アラファトの元気さにはちょっと考えさせられる。60歳過ぎて20歳代の奥さんをもらうというと普通ありがちなストーリーを想像したくなるが、いえいえ、アラファトはそれまで独身だった。某若手投資家のように純潔な男だった。
スーハ夫人の結婚前の名前はスーハ・タヴィル(Suha Tawil)。エルサレムで生まれたがユダヤ人ではない。カトリック教徒だ。家庭も裕福だった。ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ナブルスで育ち、後同じくヨルダン川西岸ラマラに移る。カトリック修道院の学校で初等教育を受けたのちフランスのソルボンヌ大学に留学。つまり母語はフランス語であり、なによりその金髪の相貌からは、この人フランス人なんだと思われてもしかたがない。
父親はオックスフォード大学卒の銀行家とのことだが一応影は薄い。母親ルエモンダ・タヴィル(Reemonda Tawil)はパレスチナ問題で知名度の高いジャーナリストである。っていうかすげーパレチナよりの過激なおっかさんである。今回アラフォトをパリに移した際にもこんなことを言っている。"Arafat Undergoes Treatment In Paris For Mystery Illness "(参照)より。
In Ramallah, Arafat's mother-in-law Reemonda Tawil said the Palestinian leader was in good spirits but people were fearful. "We all hope that he will come back safe to us," she said. "It's very moving, everybody is crying. He is more than a spiritual leader - he is a father, he is everything to us."
【意訳】
ヨルダン川西岸ラマラで、アラフォトの義母ルエモンダ・タヴィルは、「パレスチナのリーダーは良い精神を持っているが、大衆は恐れを感じている。ここに残る私たちはアラファトが安全に帰還できることを望んでいる。私たちはみなアラファトの容態に心を揺さぶられ悲しんでいる。彼は精神的なリーダー以上の存在だ。私たちの父なのである」と言った。
アラファトの義母に恥じぬほど、このおっかさん、すっかりイっている。
スーハがアラファトと知り合うきっかけもこの過激な母の紹介による。というか、娘を押し付けた感もある。アラファトがイスラエルによるレバノン侵攻によってチュニジアに亡命中、スーハは母を真似てかジャーナリストを自称しアラフォトに接近。61歳生涯独身のはずのアラファトは即ぞっこんとなっり、娘さんをパレスチナ解放機構(PLO)のスタッフとして雇い入れた。よくある公私混同である。
結婚は極秘だった。そりゃねである。結婚にあたり、スーハはキリスト教徒(カトリック教徒)からイスラム教徒に改宗した。イスラム教に改宗する際、女性はそれほど痛くないのだが、男性の場合は割礼が待っている。先日テロリストシンパ扱いされたキャット・スチーブンスことイスファ・イスラムも痛かったのではないだろうか。もっとも、スーハの改宗は形式的にすぎず、パリでの生活では教会のミサにも通っている。BBCがイギリス人らしい皮肉を"Profile: Suha Arafat "(参照)で言っている。
One report said her apartment is decorated with images of the Pope and Jesus Christ, as well as one of a young Mr Arafat with a gun.
【試訳】
ある調査によると、スーハの住んでいる高級マンションは、ローマ教皇とイエス・キリスト、そして銃を手にした若きアラファトの肖像画で飾られているという。
アラファトは若い女と結婚したというだけではなかった。結婚当時62歳とはいえ、さすがに純潔の生涯、貯めに貯めていたのか、濃いというべきか、5年後の1995年、娘が生まれた。このとき、妻32歳、夫66歳。出産はパリの病院だった。というのも、スーハは「ガザみたいに衛生状態が悪いところで子供を産むのはいやぁ」とかましてくれたのだった。なかなかの女王様ぶりというか、現在を想像させる材料になるというか、それでどうしてパレスチナ民衆に向き合っていくのか、どうでもいいかなどなどである。もちろん、スーハは政治的には「イスラエルはパレスチナ人に対して毒ガスを使用している」といった反イスラエルの言動を繰り返している。余談だが、1999年11月ヒラリー・クリントンがスーハと仲良く会談したとき、スーハに反論しないヒラリーに対して、ユダヤ人はヘタレとこき下ろした。
パリで生まれたアラファトの娘の名前はザフワ(Zahwa)、アラビア語で「喜び」という意味らしい。なるほど「喜び」かである。誕生の際、娘はカトリックの秘蹟を授かっている。
その後しばらく母子は故郷のガザで暮らしていたが、インティファーダの激化にともない、アラファトと別居し(っていうかアラファトは幽閉されていたのでしかたがない)、2000年以降パリで優雅に暮らしている。
これがすごい優雅な生活だ。だって、不正な金がたんまりあるんだもの。Gardian"Ramallah shows little sympathy for the woman who would not stand by her man"(参照)によることこうだ。
Last year, the French authorities revealed they were investigating Mrs Arafat over the transfer of about £6m into her bank accounts in 2002 and 2003. The exact nature of the investigation was not revealed officially, but it was reported to involve tax evasion and the receipt of monies stolen from the Palestinian Authority.
【意訳】
昨年フランス当局は、スーハ夫人の口座に2002年から2003年にかけて6百万ポンドが入金されたことを調査していると発表した。正確な額は公式になっていないものの、この入金に脱税とパレスチナ当局からの横領が含まれているとしている。
Gardianは英国紙なので"£6m"は6億ポンドかな(追記:そんなわけありません)。いずれにせよ、スーハが不正に関わっていそうだ。この不正の要にいるのがムハンマド・ラシッド(Mohammed Rashid)で、彼女はこいつとグルらしい。Telegraph"Arafat doctors 'told to delay' brain death tests"(参照)より、ちと長いし、訳なしだけど。
Abdul Jawwad Saleh, a leading independent member of the Palestinian Legislative Council, wants Mr Rashid to be questioned at the organisation's Ramallah headquarters. His demand reflects concern that very few people will know the whereabouts of more than £2 billion of PLO funds if Mr Arafat dies. Mr Rashid left Ramallah some months ago, and is currently in Paris. Hassan Khreishe, another legislative council member, said Mr Rashid would be held to account. "We will follow him, don't worry," he said.Mr Saleh is also calling for Mr Arafat's wife, Suha, who is said to be a business partner of Mr Rashid, to be questioned. "Mr Arafat's situation has presented a chance for us to question Mohammed Rashid," he said. "He knows better than anyone else the whereabouts of all the money, all the secret accounts. This is the people's money."
言うまでもないが、この金蔓はアラファトの汚職が根になっている。読売新聞(1997.05.28 )「パレスチナ政府予算の40%、370億円乱用 閣僚数人が外国からの援助を流用」より。
アラファト議長がイスラエルの銀行に、「秘密口座」を持ち、イスラエルが徴収した関税や消費税などの自治政府への還付金計五億シェケル(約百七十五億円)が、自治政府財務当局とは無関係のこの秘密口座に振り込まれてきたことも明らかになっている。
ただ、会計検査機関は、アラファト議長の指示で設立されており、議長自身の問題については触れていないと見られている。
さらに引用もうざいので、この件に興味のある人はBBC"The mystery of Arafat's money"(参照)を読んどくれ。
イスラエルのパレスチナ政策は責められるべきだ。だが、アラファトの晩年も責められるべきだろう。スーハ夫人が悪玉だと言いたいわけではないが、問題を複雑するだけの役割しかしていない。
アラファトの私腹には日本人の支援金も流れ込んでいる。結果、アラファトが牛耳る自治政府からパレスチナ人民の心は離れ、困窮した住民に具体的な援助を続けるハマスに期待が高まるのはしかたがない面がある。
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コメント
アラファトは同性愛者で、今はAIDSにかかっているという話が出てますね。
結婚が遅かったのはそのためかも。
イスラム教では同性愛は罪なので、ずっと隠されていたとしてもおかしくはないです。
http://www5.big.or.jp/~hellcat/news/0411/09c.html
投稿: Baatarism | 2004.11.10 11:47
あの~。
エイズではそうそう急速には亡くなりませんよ……。
他の疾患と併発して、ということになるはずでず。
あと、エイズ=同性愛者の病気、というのも政治プロパガンダの一種です。
アラファトさんのことは知りませんが。
投稿: 紅玉石 | 2004.11.10 14:29
イスラエルのパレスチナ政策って、そんなに責められるべきなのでしょうか?
http://mideastreality.com/japanese/index.html
ここのサイトを見ると、イスラレルの政策にもそれなりの正しさがあるように思います。
投稿: むにゅう | 2004.11.10 15:29
£6m の m は million で600万ポンドだと思います。6億ポンドだと国家予算並みだしw
投稿: 欣 | 2004.11.10 16:54
欣さん、ご指摘ありがとうございます。そうですね。テクニカルな間違いなので修正しました。
投稿: finalvent | 2004.11.10 17:15
茶々ですが
>某若手投資家のように純潔な男だった。
ここでこういう形容がでてくるのはちょっと面白かったです。
投稿: 猿小玉 | 2004.11.10 18:53
>某若手投資家のように純潔な男だった。
童貞という言葉を比喩したものなのだろうけど、アラファトの宗教的な童貞と、山本の生き様としての童貞は意味合いが違うと思うけどね。
ここでは深くは語らないけどさ。
あと、エイズ=同性愛 という1は氏ね。
投稿: m | 2004.11.10 23:54
>あと、エイズ=同性愛 という1は氏ね。
コメントした人じゃないけど、別にエイズ=同性愛とは書いてないじゃん。
「アラファトは同性愛者でAIDS患者である」というのと、
「アラファトは同性愛者だからAIDS患者である」というのとは違う。
後者ならその批判は当たってるだろうけど。
投稿: aa | 2004.11.11 00:31
更新お疲れさまです。
なんだかあまりに、日本のワイドショーネタみたいなゴタゴタなので、暗澹たる気持ちを通り越して、笑ってしまいました。
どこかがゴシップに嵌め込もうとしているかもしれませんが、ホントに内情が、こんなくだらない状況であるのなら、強面な原理主義とかいっても、実際は宗教を単なる方便に使っている、政治的な利権組合にすぎないわけで、たかが知れますね。それがイスラム側の一部の人間だけでなく、対立する某教会側の一部の人も似たような状況ですから、始末におえませんw。
まぁ、気まぐれな女性に男どもが右往左往するのは、プトレマイオス朝の興廃も日本の戦国時代も同じようなものですから、歴史とはそんなものなのかもしれませんが・・・(汗
投稿: uiui | 2004.11.11 04:22
アラファト議長の財産4000億円が真実なら、
パレスチナ人一人一人に分配しても50万円以上……
彼等の平均年収は7万円だとか。
財産分配するだけでパレスチナ問題解決してしまうんじゃないですかね。
アラブ諸国からの支援金が積もり積もってこの額と。
投稿: (anonymous) | 2004.11.11 09:02
アラファト議長に関して思ったことです。
バングラデシュの元大統領エルシャドは独裁政治・汚職などでダーティなイメージのある人ですが、不思議なことに今でも一部の人には根強い人気があります。
これはエルシャド好き(?)の或る日本人が現地の人から聞いたことですが
「(賄賂取らないけど仕事できない人より)賄賂は取るけど仕事もきっちりやるエルシャドの方がいい。(まあ賄賂取らないで仕事もできる人が一番いいのは言うまでもないけどさ。)」
とのこと。
(バングラデシュはエルシャドに限らず賄賂大国ですが。国立の職業訓練校で教師が就職した際は、自分の給料を滞りなくもらうために、上に賄賂を払うのがお約束でした。少なくとも2年前までは。)
アラファト議長も、ひょっとしてパレスチナの人たちからそういうイメージで見られてませんか?
「横領してるけど、結構いい仕事してくれたからいいや」
みたいな。
投稿: 西方の人 | 2004.11.11 14:31
パレスチナ人が初めて選んだ大統領ですからね。
それなりに敬意を表するべきでしょう。
パレスチナが苦しんでいるのは彼が汚職したからではなく、大部分がイスラエルの信仰などの占領政策のため。
ゴシップ記事で本質をごまかすのはイスラエルのお得意の手口で、日本の基督教右派がそのプロパガンダの先兵になっていますが(笑
投稿: kiki | 2004.11.11 17:24
>パレスチナが苦しんでいるのは彼が汚職したからではなく、大>部分がイスラエルの信仰などの占領政策のため。
彼が他国にテロを仕掛けたのが悪いと思います。
北朝鮮の人民が苦しんでいるのは金正日の責任であるように、
パレスチナのアラブ人の苦しみはアラファト議長の責任。
投稿: むにゅう」 | 2004.11.11 20:50
>彼が他国にテロを仕掛けたのが悪いと思います。北朝鮮の人民が苦しんでいるのは金正日の責任であるように、パレスチナのアラブ人の苦しみはアラファト議長の責任。
イスラエルがパレスチナのアラブ人を無理やり追い出して作った国だというのをわかった上でそういうことを書いているのですか?
インディアンが苦しんでいることにアメリカ合衆国の責任はないのでしょうか?
インディアンが入植してきた白人と戦ったことが悪いということなのか?
投稿: 黄色人 | 2004.11.12 13:10
今回の一件で気になったのですが、アラファトとフランスの関係が気になります。
イスラエルと英米との関係のカウンターのようなものなんでしょうか?
それにしても、我々の税金がパレスチナ高官の遊行費と化したのが悔やまれてなりません。
日本のメディアでは、そういう事は殆ど伝えられて来なかったのは何故なんだろう?
投稿: ( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェー | 2004.11.12 16:47