コートジボワールへフランスが軍事介入
コートジボワールの動乱が国際ニュースにクローズアップされてきた。発端は、6日コートジボワール政府軍が、反政府勢力の支配している北部地域を空爆したとき、停戦監視の駐留フランス軍兵士に数十名の死傷者が出たことだ。コートジボワール政府としては「誤爆だった」と主張しているようだ。
攻撃を受けたと認識したフランス軍は、停戦監視の平和維持軍であるものの、コートジボワール政府軍に対して報復攻撃を開始。さらに、元宗主国フランスのシラク大統領はコートジボワール政府が停戦合意を破棄したことを理由にフランス軍を増派し、首都ヤムスクロの政府軍基地に報復の空爆をしかけた。国連もフランス軍の反撃を支持する声明を出した。これでフランスは正義となった。国連なんてそんなものでもある。
実質上のコートジボワールの首都アビジャン市では、フランス軍の軍事行動に怒った群衆が暴徒化。同市には1万5千人ほどのフランス人がいるので、この安全のためということでフランス軍は鎮圧にかかった。民衆蜂起くらいなら、天安門事件でもわかるが、正規軍で簡単にひねり潰せる。民衆に被害も出ているようだ。読売系「政府軍が仏軍空爆、仏軍も報復…コートジボワール」(参照)によると「コートジボワールの国会議長は7日、仏軍が一連の衝突で国民30人以上を殺害したと主張。仏国防省報道官はこれを否定した」とのこと。そりゃ否定するしかない。さらにフランス軍はその他の都市の鎮圧にもかかった。
死者が出たので惨事といえば惨事でもあるのだろうが、死者推定30万人に及ぶダルフール危機が進行中なのに比べて、なぜこの程度の小競り合いがすぐに注目されるほどの国際的な問題なのか。コートジボワールの内戦の根は深くこの数年継続的に関心が持たれていた問題でもあるのだろうが、この問題が別の問題の火種になりそうな点が重要なのだろう。
コートジボワール政府軍によるフランス軍空爆の真相はわかっていない。大枠としては、昨年まで内乱にあったコートジボワールの政府と反政府勢力が和解した際、この10月15日までに反政府側の武装解除を合意したはずだが、反政府側は武装解除を拒否。そこで政府側は制裁ということで11月4日反政府側が掌握する北部を空爆した。この空爆をフランス軍が阻止しようとして惨事となったという話もある。そうだろうか。他に、来年10月の大統領選まで内戦状態に戻して北部を排除しようとバグボ大統領が意図的に行なったとする話もある。特に、フランスの息のかかりやすいアラサン・ワタラ元首相が大統領選挙に出てくることを現政権は恐れている。
が、なにより今回の事件の発端が反政府側への空爆ではなく、フランス軍への空爆だという点が重要だ。なぜなのか? コートジボワール政府の言うように誤爆なのかもしれない。と、疑問に思うのは、コートジボワール政府側にフランス軍を刺激するメリットがあるのだろうか、ということだ。そんなことをすればフランス軍の介入を招くだけで、実際そうなった。出来レースっぽい印象は避けがたい。
気になるのは今年1月のBBC"French fears in Ivory Coast"(参照)だ。
The morbid dislike of foreigners, or xenophobia, lies at the heart of politics in Ivory Coast today - that, at least, is the view of a sizable minority here.
【試訳】
今日のコートジボワール(象牙海岸)の政治の核心には、病的ともいえる外国人嫌い(クセノフォビア)がある。現地の少なからぬマイノリティ・グループはそう見ている。
こうした背景を考えると、かつての宗主国フランスとしては、自国民の安全のために、来年の大統領選挙に向けて高まる外国人排斥の動向に、明確な軍事的プレザンスを示したかったのではないだろうか。というか、この事態にいたってもフランスはコートジボワールの自国人に退避命令を出す気配はない。まるで安定した植民地であることの維持に努めているかのようだ。
蛇足ながら、というには長いが、コートジボワールについて手短に地理・歴史をおさらいしておく。コートジボワール(フランス語で「象牙海岸」)は、1960年にフランスから独立。現在人口は1,660万人。首都はヤムスクロ(Yamoussoukro)だがその人口約20万人と少なく、実質的な首都はアビジャンで、この人口は約315万人。宗教は、イスラム教30%、キリスト教10%、伝統宗教60%(参照)。
99年のクーデターで元宗主国の息のかかった政府から、反仏的なロベール・ゲイ元参謀長の軍事政権が誕生したものの、翌年の大統領選挙に対するデモによって彼は国外逃亡した。続いて、ローラン・バグボ(Laurent Gbagbo)大統領(社会主義政党イボワール人民党:FPI)が政権を掌握し、現在に至る。バグボ大統領はゲイ元参謀長と対立していたわけでもなく、同様に親仏とは言い難い。
2002年9月に、バグボ大統領が南部キリスト教徒を優遇する政策を行ったとして、イスラム教徒が多い北部の軍の一部(コートジボワール愛国運動:MPCI)が反乱を起こした。これが現在につながる内乱となる。この過程で数千人が死亡。内乱に乗じて、西の隣国リベリアが支援する反政府勢力(正義・平和運動:MJP、大西部国民運動:MPIGO)も政府軍と衝突した。
昨年5月、政府軍と反政府勢力は停戦に合意し、フランス軍部隊約4千人と国連部隊約6千人が停戦監視などのため駐留していた。
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コメント
フランストピが続くので、でも簡単に何点か書きます。
こっちでの報道は今のところバイアスがかかってるはずだからあまり信用してないんだけど、もちっと広い視野で言えばアフリカの疲弊度、日本では見えにくいだろうがもう絶望的である、が一点。
ジンバブエで白人追放やったときと似てないこともないんだが、白人さえ追い払えばうまくいくってなプロパガンダを地元メディアが流すんですよね。実際は政府vs反政府でもめてるのに収拾が付かなくなって、ありゃ外人のせいだと、、。で、略奪・殺人・破壊行為まで行く。でも実は壊されるのは国にとっても貴重なインフラ設備だし、技術を持ってる白人が出て行ったらますます国家運営は難しくなる。
現在は仏軍とUN兵士とコートジボワール兵士が一緒にパトロールやってるようだよ。落ち着いてくれるといいが。
まあ、日本企業も入ってるはずだしね。
それと今回の騒動とブッシュ再選はつながってるでしょう。パクボはブッシュの熱烈なファンらしい。
投稿: (ねこ仏少年) | 2004.11.09 23:08
確認したらハンドルが消えてしまったです。で前のカキコはあたしです。
投稿: ねこ仏少年 | 2004.11.09 23:10
トラックバックすみません……2重しました、まだ構造理解してなくてorz
重複分消していただくというのも手間だよな、とほほほ。
ねこ仏少年さんのコメント、すとんと腑に落ちました。
>実際は政府vs反政府でもめてるのに収拾が付かなくなって、ありゃ外人のせいだと、、。
ホントにいろんな面があるんだなぁ。
ついつい仏/反仏だけで見てしまったんですが、このタイミングならそういう別の側面があっておかしくないわけですわね。
もちっと時間掛けて、いろいろ見れると良いですわ。
投稿: 紅玉石 | 2004.11.09 23:55
どもです。フォローサンクスコ。
仏TVはバイアスかかってるんで用心してんですが、興味あるならル・モンドネット版http://www.lemonde.fr/の該当記事を仏→英の翻訳エンジンにかけてみるといいと思うよ。
これは、田中某氏もまだやってないんじゃないかと思う。
ル・モンドは反体制というか体制批判というか、少なくとも反シラクなんで。ただル・モンドディポロマティックはいい新聞だけど本誌ル・モンドはまったく別編集、アタック系ですので御配慮を。
投稿: ねこ仏少年 | 2004.11.10 05:12
しかし治安維持軍ってのは反撃で戦争開始しても良いんですね。
これアメリカがやったらみんな飛びつくんじゃないの?と不思議に思いました。まぁ国連なんてこんなものか。とは同意。
投稿: 不思議 | 2004.11.10 08:55
シエラレオネ、リベリア、コートジボアールと、あのあたりでは最近内戦が多いですね。
ダイヤモンドの利権争いが広がってるんでしょうか?
あと、このへんのダイヤがイスラム過激派のマネーロンダリングや資金源に使われたという話もあるようです。
投稿: Baatarism | 2004.11.10 12:29
何故かここんとこ通ってます、ねこですorz
・ジボアール祭組みに7人(推定)の死者が出ました。こりゃもめる。いつものパターンで責任はラファラン首相に押し付けシラクはエアバスのプロモーションとかアラファト葬儀とかで外国回りで逃げまくりそう。
・仏人退避命令を仏政府が出さないのは、推定だが三世代にわたって現地に住んでる連中が離国(財産・職業の放棄)を当初は嫌がったせいか。日本のプラントのように単身赴任じゃないからねえ。
・仏軍人が9人空爆によって殺害されたとき、米人1人
(ヒュマニタリアン)もやられてる。自分はララ・クラフトと同様に国連支持なんで言ってみるけど、国連軍の問題はほぼ反撃権がない、それで国連軍を補佐するタイトルで外国人保護のため仏軍介入が可決された。介入の仕方には問題ありだが。
嘘ついて攻撃も受けてない国を潰しにかかってシパーイするのとはちと違うかと、、、、
投稿: ねこ仏少年 | 2004.11.10 17:03
?先制攻撃されたなら(被害をもたらされたなら)OKということですね?全く。そんなだから批難されるんだアメリカ。
投稿: 不思議 | 2004.11.10 20:10
物知らずにはありがたやねこさん。
りょかいです( ´∀`)
まあ褒められはしないけれど、ルールの範囲内、感心はしないけれど非難できるとも言いかねるライン辺りですかね。
フランス語はさっぱり読めません……すみません。
英語も怪しいなあ、意味取るだけで時間が掛かる。
投稿: 紅玉石 | 2004.11.10 20:50
今んとこ自分が理解した前後関係をむちゃ単純化して書いてみます。
(BBCなりガーディアンなりの記事を読めばもっと正確なところが分ると思いますが)
間違ってるところがあったら御指摘のほど、よろしく。
コートジヴォワールでは海岸サイドに位置するパクボ政府と内陸地に位置する反政府勢力とのあいだに軍事対立が続いていた。
他のアフリカ各国と同様、海岸地域には経済基点があり比較的裕福でカトリック教徒も多いが、内陸部は開発が遅れており、イスラム教徒が多い。また独裁政治に近い政治スタイルの下、国家は他のインフラに比べてダントツに軍備費支出が多い(パキスタンなんかと同様)
外国人保護という名目でのフランス軍の介入と国連立会いのもと、2度にわたって停戦協定が結ばれたが、政府はこれを2度にわたって無視。内陸部の反政府勢力に対して空爆を行うが(パクボによれば)誤爆のため兵舎にいた仏軍兵士(たしか)8人と米人ヒュマニタリアン1人が犠牲となる。
これを受けてシラク仏首相は政府軍基地を爆撃命令。多くのヘリコプター、爆撃機が破壊される。
現地のTVラジオはナショナリスト的『フランス人は国益の盗人』といったメッセージを繰り返し流し、パクボに従う民兵<若い愛国者>の先導で駐留仏軍に対してのデモンストレーション(仏軍の威嚇発射でデモ参加者20名死亡という説がある)、8000人にわたる居留外国人(その多くが仏国籍だが現地で生まれた人間も多い)に対する家屋の破壊また暴行・略奪行為がなされる。婦女を中心として外国人の多くは国外退去するが、家屋・資産を守りたい意志で残っている仏人もいる(報告された強姦3件、行方不明2名)。
国連でコートジヴォワールに対する軍備輸入制裁を満場一致で可決。
シラク仏大統領は内戦を防ぐために仏軍の撤退は考えられない、と発言。
パクボ大統領は現地TVで「フランス人は国の宝、帰ってまたもとの仕事に戻ってくれ。」また「国連での武器輸入制裁大賛成」と発言。
(これって財布の中身がカラに気付いたからか?)
投稿: ねこ仏少年 | 2004.11.20 07:45
重箱の隅で申し訳ありませんが、
>【試訳】
>今日のコートジボワール(象牙海岸)の政治の革新には
は、「政治の核心」ではないでしょうか。
投稿: ume-y | 2007.03.14 13:51
ume-yさん、ご指摘ありがとうございました。
投稿: finalvent | 2007.03.14 16:35