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2004.11.08

フランス人も英語を勉強しなくちゃね

 先月のことだが米国大領選挙の前ということもあって「アメリカナイゼーション ――静かに進行するアメリカの文化支配」(参照)という本をときおり雑誌でも読むようにぱらぱらと読んでいた。執筆者も多く統一性のある本ではないが面白いには面白い。実体験や、やや強引な個人見解などについては、ブログを読んでいるような印象を受ける。この本を読んで今回の米国選挙を理解する上でヒントになったことがあるかといえば、ほとんどない。韓国の英語熱やフランスの英語忌避感の話のほうが面白かった。どうでもいいことだが、フランスで昔から人気のアニメ「アステリックス」(参照)についての余談なども面白かった。

cover
アメリカナイゼーション
 この本でもなんどかふれれているが「英語教育というのは文化帝国主義だ」というネタはけっこう昔からある。日本人の場合、英語が日本語と文法的に遠すぎることや、英語を読まなくても日常困らないことなどから、いつまでたっても初等教育において英語習得の未達成者が多いというのが問題になりがちだ。その擁護に文化帝国主義とかいった理屈が出てくる。が、いつになってもその議論はさえない。実用英語と米文化がごちゃごちゃになるせいだろうか。
 実用英語と米国なり英国の言語文化の英語とはクリアに区分されるものではないが、両者を同一に扱うべきではないし、現実問題として、実用英語のニーズは高まっている。現実的にはなにが効果的な実用英語の手段かと問いを出したほうがましだ。
 英語が問題になるという事態はフランスでも似たようなものらしい。この手の話もよく見かけるものだが、特に教育でも自国語のフランス語重視について一定の基準が設けられている。前述書ではこうある。

 学校教育でも小学校では国語(フランス語)の教育を全体の60%以上にするように配慮しており、内容的にもビクトル・ユゴーなどの模範的なフランス語を徹底的に暗記する教育が施されている。

 この先の話もごく一般的な見解だが、よくまとまっているので引用しておく。

 フランスはなぜこれほどまでに英語やアメリカ文化に対して警戒と排除の姿勢をもつのであろうか?
 それは、まずそうせざるをえなほど、英語やアメリカ文化の侵入が広範囲にあるからである。フランス人にとって英語やアメリカ文化はアジア人が感じるほどには異質ではないだろうから、それだけ浸透しやすいのだろう。だから、意識的に警戒、あるいは排除しないと文化の中枢にまで居座ってしまうからである。
 また、フランス国内の多言語多文化の存在も影響しているのであろう。フランス国内の多様な地域言語と文化の存在により、フランス国家の統一は意識的に形づくられる必要があるのだ。そのためにフランス語、フランス文化を強調せざるをえないのである。

 この見解に両手を挙げて賛成というものでもないが、概ねそんなところかなと思う。フランス文化なるものも、歴史的に見れば近代の虚構という性質を持ち(歴史的な単一性はない)、またEU統合によって欧州内のナショナルな国家のありかたが薄められるにつれ、フランス内などのリージョナルな文化が強まるという逆説的な傾向も見られるようになった。
 話を少し戻すのだが、フランスで英語教育をより積極的に進めようとする動きがあり、当然その反発があるようだ。話は、英国紙テレグラフ"'Compulsory' English lessons spark anger in France(英語教育の強制がフランスで怒りを引き起こす)"(参照)で読んだ。英国の右派的なテレグラフなせいか、ちょっとフランスをからかうような趣もある。

An official report suggesting that French children should be forced to learn English in school from the age of eight has provoked an outcry among nationalists, teachers and unions.
【試訳】
フランスの子供は8歳くらいから学校で英語を強制的に学ばせるべきだとする政府調査書が、フランスの国粋主義者や先生などの団体で抗議の声を浴びている。

 この主張はジャン・ピエール・ラファラン首相を初め、フランソワ・フィロン教育省も支持しているものだ。が、シラク大統領は当然賛成はしない。

The move comes just two weeks after the French president, Jacques Chirac, described the spread of English as a "disaster".
【試訳】
この動向はジャック・シラク大統領が「英語の普及なんて災害である」と言った2週間後に起きた。

 ちょっと気になって本家フランス、例えばル・モンドとかで何か言っているか調べてみると、Googleの自動翻訳のおかげで面白い話題が見つかった。元は"Faut-il rendre l'apprentissage de l'anglais obligatoire des le CE2?"(参照)だが、Googleがフランス語を英語に翻訳してくれたのが、"Is it necessary to return the training of obligatory English as of the CE2?"(参照)だ。全体のトーンとしては英語教育に否定的にも読めるのだが、フランス人にももっと実用的な英語教育が必要だという点はすでに確立した事実のようだ。

Not only, today, 97 % of the pupils learned voluntarily English during their schooling. But moreover, they learn it badly: their level is poor and does not cease degrading itself.
【意訳】
現状フランスの97%もの学生は自主的に英語を勉強しているのだが、その学習法がよくない。結果、英語の習得としては劣るし、より向上させることもできていない。

 ル・モンドでは教育の機会の公平さについても触れているようだが、英語に堪能かどうかは教育の質に関わり、つまり、貧富差にも関係してくるのかもしれない。
 日本のマスメディアに浸っていると、アメリカという国は単独行動主義であり独善的な文化を押し付けるので世界各国で嫌われているかのようだが、実際のところ、好きか嫌いかなどいくら議論しようが、英語を実用面で国際語として習得しなければならないというのは、フランスですらどうしようもない現実になっている。

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コメント

数ヶ月前にシラク大統領が米国TVノインタヴューに通訳なしで答えたのはなかなか愉快でした。ちゃんとセクシーな仏アクセントつきでしたし。

冗談はさておき、世界中の傾向は悲しいかなおんなじ様なもんです。仏籍企業でも多数国語使用者が一堂に会する場合は英語が使われたり、書類も英語でかかれていたりします。経費が少なくてすむからです。

まあ英語必須、これはエリートには当然のことですが、この頃のパリのキャフェやスーパーのガードマンなんかもだいぶ英語が上手くなっています。

投稿: ねこ仏少年 | 2004.11.08 09:51

こういう話にはいろんな見解があるでしょうけれど、ウチのフランス人の夫とその友人達を見ていると、フランス人は英語を勉強するのが嫌いなのでも苦手なのでもなく、ただ昨今のある意味「アメリカ一番!」みたいな風潮に徹底的に嫌気がしているように見えます。

フランスには、皆が同じ行動をしたり同じ感情をもつというのがあまりないってことになってるし、そういうことを認めたがりません(本音をいえば、フランス人は同様にフランス大好きですものね)。

そういうわけで英語文化的なもの、アメリカ至上主義、みたいなものを嫌っているようです。というわけである意味逆説的なフランス至上主義になっているのかと思っています。内輪の視点だからフランス寄りになってるかも、だけど勘弁してくださいね。

ただ、今日本にいるフランス人なんかはかなりの割合で、英語べらべらです。ほとんどはイギリスに遊びにいって習得しているようですけれどね。学校の授業で60%ほどのフランス語授業があったのは昔の話。今はずいぶんと減っているようにもきいていますが、さて真実はどうでしょう?

投稿: oeuf | 2004.11.08 19:54

finalventさん、こんにちわ、

アステリックスって、たしか昔のローマ人と戦っていたころのガリア人の話ですよね?ベルチンジェントリックスとかいうガリアの英雄とカエサルの戦いのころなのかなと想像していました。

ある意味、フランス人がローマ以来のヨーロッパの伝統をちゃらにしてまで追求するものというのは、いったいなんなんだろうかと思っていますます。日本にしてみれば、漢字も米作もないころの日本にもどるという感じなのでしょうか?

と、ここまで書いてから日本でいえばもしかすると手塚治虫の「火の鳥」が追求していたものと似た心理がフランス人にもあるということかなと、思いました。

まとまらないコメントですみません。

投稿: ひでき | 2004.11.09 15:34

ひできさん、こんにちは。「フランス人がローマ以来のヨーロッパの伝統をちゃらにしてまで追求するものというのは、いったいなんなんだろうかと思っています。」という指摘は興味深いものがあります。詩人のアルチュール・ランボーにも、確か、自分たちフランス人の存在というのはゴート人ではないか、という奇妙な嘆きのような自嘲のような詩がありました。フランス人もなにか、ナショナルな民族の起源を考えたいという近代の欲望はあるのだろうなと思います。

投稿: finalvent | 2004.11.11 17:17

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