シラク大統領の次はサルコジ大統領
正式な発表は来週に待つことになるが、昨日予想通り、現在経済財務産業相のニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)がフランス与党国民運動連合(UMP)の党首に決まった。当然、2007年の大統領選にも出馬することになる。関心の的は、サルコジが次期フランス大統領となるか、なのだが、現状の流れではそうなる可能性が高い。そして、その意味は、現在のシラク(Jacques Chirac)大統領のアンチクライマックスだ。同じ党であるとはいえ、シラクとサルコジは対立している。
日本では、実際の国政・経済は米国べったりなのだが、イラク戦がらみもあって、マスメディアやジャーナリズムには反米気運が高く、その対極として親フランス的な言動者が目立つことがある。なので、フランスも帝国主義剥き出しじゃないかというコートジボワール問題についても日本ではそれほど話題にもならない。そう言えば、在沖だった池澤夏樹もパリ郊外に転居した。沖縄という文脈をいまだ課題としているなら、現在のタヒチの植民地政策についてなにか言及して欲しいものだが、どうなのだろう。
サルコジが大統領選挙候補と言われるまでにならなくても、シラク大統領にはもう後はない。政治家として最後を飾りたいところだ。といえば、ドゴールだのナポレオンだのを連想するようなフランスの栄光ってやつだ。もちろん、ボナパルト再来というわけにはいかないから看板はEUとする。そしてその主導権を握り、トルコやイスラエルなど中近東に威光を示す。かつての植民地だったアフリカ諸国は自国文化に染め上げる。トレビアン。米国なんか世界の田舎者だ。遠方の大国は味方に引きつける。まず、中国。日本も中国の末席に置いてやろう。そうだな国連で日本に無意味な名誉を与えよう。何か悪い?
何も悪くない。国際政治に善悪なんてない。ただ、そんな夢のような話はうまく行かないだろう。内政での右傾化と外交面でのトルコのEU加盟問題からも推測がつく。
2002年の大統領選では、シラクは決選投票では極右候補の国民戦線ジャンマリ・ルペンの台頭を許した。いくらエスプリの効いたフランス国民でもこれには泡を吹いてシラク支持の国民運動になった。それでも極右の支持者の層は社会的な影響力を持つほど厚くなっている。
本音はトルコのEU加盟なんて冗談ですらないのに、EUのトルコ加盟問題もシラクはエレガントにこなした。しかたない。フランスなりEUなりが現在社会の資本主義世界で伍していくにはドイツというエンジンが不可欠。ということはその内部に必然的に組み込まれているトルコ人を排除できるわけもない。それでも、トルコ人を含め反イスラム色を濃くしつつあるフランスの内政に不満は高まっている。
それでもなんとかやってのけるのが大政治家というもの。幸い、シラクはどこかの国の権力者とは違って、後継者もちゃんと用意していた、はずだった。ドビルパン(Dominique de Villepin)だ。サルコジではない。
サルコジは90年代前半はシラクの右腕的な存在だった。が、95年の大統領選挙でシラクを裏切った。この時点で政治理念が違っていたのだろう。シラクは当選後、相応にサルコジに冷や飯を、いや冷やパンを食わせた。よいパン? ドビルパンだ。彼が取りなしてサルコジを内務・治安・地方分権相に据えた。警察の最高責任者でもある。サルコジは辣腕を振るい犯罪率を下げた。交通事故なども劇的に減ったと聞く。
シラクとしてはちょっとスジが違うぞと思った。ので、内務・治安・地方分権相をドビルパンにすげ替えて、代わりに国民の非難が向きやすい経済・財務・産業相にサルコジを置いた。たまりませんね、このおフランス趣味。ところがここでもサルコジは辣腕を振るい、働けフランス人とやり出した。もともとサルコジはがんばるっきゃないハンガリー系の移民の子孫だ。エリートの保証ともいえる国立行政院(ENA)も出ていない。
でも、インテリはインテリだ。どのくらいインテリかというと、日本の国技を見て、「相撲は肥満体同士の取っ組み合いで、インテリのスポーツとは思えない」とのたまうほど。東京はいかが? 「魅力的な香港に比べ、東京は息苦しい。京都もどこが刺激的なのか理解できない」と。ロランバルトが絶賛した宮廷はいかが? 「皇居の庭園だって陰気なだけ」 いや、おみごと。ところで本気? いや公式には否定するだけの知性もある。
歯に衣を着せぬサルコジの人気はフランスで高まった。もともとサルコジはシラクなんか恐くないから野心も剥き出しにした。まずは党首から、と。シラクとしては、党首をするなら役職は降りてくれとなった。かくしてサルコジは党首となったものの、事実上、閑職。この間、サルコジ人気が冷めればシラクにとって好都合だ。
さて、そうなるか。ならないだろうと思う。ドビルパンなどサルコジが大統領となる日を見越しているに違いない。
現段階で予測するのはお笑いのうちだが、フランスの次期大統領選を待たず、いずれ英国はEU憲法を国民投票にかけるだろう。そして、それは、転ける。そして、それが、フランスにも伝搬して、EU憲法はおじゃんになる。そのあと、サルコジ大統領が勤勉なフランス国家を造りあげるようになるのだろう。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
コメント
こんにちは、
サルコジの相撲などへのコメントは中国での発言で、大の相撲ファンで親日家として知られるシラクへの当てこすりと思われるので、そこを割り引いて受け止める必要がありそうです。
投稿: 龍蛇蟄 | 2004.11.23 11:11
最近のfinalventさん、すごく面白いです。
楽しんで読んでます。本文と関係なくてごめんなさい。
投稿: むぎ | 2004.11.23 12:09
ちょうど2chでフランス外交について議論してたのでタイムリーな記事でした。大変参考になりました。筆が乗っていて文章も面白かったですし(笑)
投稿: だい | 2004.11.23 13:17
すごい。ノリノリですね。
投稿: スープ | 2004.11.23 13:39
面白くないね。何を言いたいのかわからない。
投稿: 眠たい | 2005.06.12 15:00
サルコジ、ENAでてるってwikiの方には書いてあったのですが。。。
投稿: | 2007.05.07 08:27
失礼、やっぱり出てないみたいです。。。
投稿: | 2007.05.07 08:32