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2004.11.12

非配偶者間人工授精(AID)にまつわる英国の状況

 英国不妊治療専門誌「ヒューマンリプロダクション」の記事"Adolescents with open-identity sperm donors: reports from 12-17 year olds"(参照)が英国系のニュースで多少話題になっていた。標題を意訳すると「12~17歳の青少年期に精子提供者情報を開示すること」となるだろうか。第三者の精子提供によって生まれた子供が青少年期になった時、自分自身を形成するきっかけとなった遺伝子的な親についての情報をどう扱うべきかという問題だ。日本国内では非配偶者間人工授精(AID)の問題として扱われている。
 このニュースについて、BBCでは"Sperm donor ID fears 'unfounded'"(参照)として、精子提供者のいわれない恐れの感覚には根拠がないという点に焦点を当てていた。ロイター系の見出しはいろいろあるがヤフーでは"Identifying Sperm Donors Doesn't Cause Problems"(参照)というようにもっと直接的に、精子提供者情報を開示しても問題はないだろうとしている。
 原論文は医学誌でもあり教育心理学的な立場に立っているようだ。結論はある意味でシンプルになった。


CONCLUSIONS: The majority of the youths felt comfortable with their origins and planned to obtain their donor's identity, although not necessarily at age 18.
【意訳】
第三者の精子提供によって生まれた大半の子供は、青年期になって自分たちの起源やその提供者の情報を知っても不安を持たない。とはいえ、18歳までそうする必要もないとは言える。

 今回のニュースは特に目新しいものではなく、類似の調査はすでに近年「ヒューマンリプロダクション」に掲載されてもいる。むしろ、英国ではこの情報開示が権利の問題として扱われているといった英国ならでは背景もあるようだ。
 私の知識が古い可能性はあるが、英米圏、つまり、英国、米国、カナダ、オーストラリア(州によって違う)では、法律の特性もあるのかもしれないが、生物的な意味での父親を知る権利を法制化していない。当然、記録もないという。が、ニュージーランドは開示に改正された。フランスや南米などカトリック教徒の多い地域を含めた各国の状況について、私はわからないのだが、基本的には開示の方向には向かっているようだ。
 日本では昨年の春に、厚生労働省の生殖補助医療部会で「遺伝上の親(出自)を知る権利」を全面的に認めている。背景には、1994年に日本が批准した国連「子どもの権利条約」に、子供には「出自を知る権利」があると解釈できる条項があることだ。が、率直に言って、人権の問題や日本社会の問題を考えてというより、密室で専門家が決めているという印象はある。実際のところDNA鑑定が進めば遺伝子上の親かどうかはかなり明白になるので、そうなった際に完全開示を原則にしておけば、厚生労働省や関係医は関わらなくていいことになる。なにより、この問題が法制化とは関係ないところで進められているのが日本らしい。
 そもそも日本では非配偶者間人工授精(AID)の始まりも法律や人権の問題としては提起されてこなかった。1949年と終戦からそう遠くない時代に第一例の子供が誕生している。この子は現在55歳になるはずだ。その後、非配偶者間人工授精(AID)で誕生する子供の数なのだが、奇妙なことにとも言えるのだが、概算すらできない状況にある。1~3万人とも言われているのがブレが大きすぎる。この問題には日本特有の問題も絡んでいるようだが、ここではあまり立ち入らない。
 今回の関連ニュースで気になることが二点あった。一つは、ロイター系"Sperm donation children want to learn about donor"(参照)の解説にこうあったことだ。

Thirty-eight percent of them had single mothers, just over 40 percent had lesbian parents and 21 percent had heterosexual parents.
【試訳】
非配偶者間人工授精の実態の38%はシングルマザー。40%は女性同性愛者、21%は異性の親である。

 欧米では非配偶者間人工授精の問題は女性同性愛者のライフスタイルにかなり大きく関係しているようだ。
 もう一点は、同時期のニュースというだけで直接の関係はないのだが、BBC"Egg and sperm donor cash proposal"(参照)で取り上げられているが、英国では、精子および卵子提供を有償にしたらほうがよいという問題が起きている。背景には提供者の低下があるらしい。あえて先のニュースに関係付けるなら、精子及び卵子提供への対価というより、提供者情報の開示のリスク対価のようにも受け取れる。
 余談めくが以前、ES細胞研究関連で韓国の状況を見たとき、意外に人工授精が盛んだと知った。日本の場合も、視点によるのだろうが、盛んだと言えるようにも思う。どちらの国もこうした問題を法から切り離し、社会から隔絶するという文化の傾向を持っているようだが、こうした問題をどう考えていったらいいのか。また、少子化の日本社会でどういう位置づけになっていくのか、気にはなる。

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コメント

>非配偶者間人工授精の実態の38%はシングルマザー。40%は女性>同性愛者、21%は異性の親である。

異性の親、ってどういう意味ですか?

投稿: (きこり) | 2004.11.12 14:55

上の質問者は自分です。失礼致しました。

投稿: きこり | 2004.11.12 14:57

>異性の親、ってどういう意味ですか?

一般的なカップルの事ではないですか?
足していくと計99%ですから、端数は丸めてるという事で。

投稿: 横から失礼 | 2004.11.12 15:51

>異性の親
異性の親で、不妊症で子供ができなかったご夫婦の事だと思いますよ

投稿: 智栄(ともえ) | 2006.09.21 08:54

生物学的な父親を知る権利を認めてしまうと、英国のように精子提供者の活動がしぼんでしまいます。赤ちゃんが欲しい英国の女性は、オランダで精子提供を受けたり、スポーツの試合などで英国にやってきたオーストラリア人から精子提供を受けたりと、大変な苦労をされているようです。

精子提供者が減ることは、生まれてくるはずだった子の未来そのものを奪うことにつながります。ですので、生物学的な父親は知らせないほうがよいと思います。それと同時に幼い頃から子に事実をきちんと話しておくことが、怒りや不信などの否定的な感情を軽減させ、両親との信頼関係を築いておくために重要と思います。

投稿: ゆめ | 2009.12.27 16:27

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» 授精と受精 [鳥新聞]
非配偶者間人工授精という日本語は、母親となる女性に、父親でない男の精子を注入する... [続きを読む]

受信: 2004.11.15 22:34

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